- Amazon.co.jp ・本 (522ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101341538
作品紹介・あらすじ
昭和9年春、函館の潜水夫・泊(とまり)敬介は、時化(しけ)る海と吹き荒れる風に妙な胸騒ぎを感じていた。予感は的中し、猛火が街を襲う。妻子と母を探し歩く敬介だったが。そして、昭和20年の函館空襲、昭和29年の洞爺丸沈没。立ち直ろうともがく敬介に、運命は非情な仕打ちを繰り返す。震災から半年後、仙台在住の著者が悩み迷いながら筆をとった、再生と希望の長編小説。『烈風のレクイエム』改題。
感想・レビュー・書評
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海で生きていく主人公がさまざま形で海に向き合っていく。函館の大火と荒れる海、戦争の海の特高隊、青函連絡船洞爺丸事故、その中、子供たちがつながっていく。後半、若干駆け足に感じたが、読み応えのある作品でした。
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函館大火、戦争、そして洞爺丸の沈没と続く不運のなか、様々な糸が絡み合い出会いがあった。悲惨な状況の中でも常に何らかの救いが見え、熊谷達也さんの小説は好きだ。解説が谷村志穂さんで、それも上手に描かれていてこの小説の良さを語っている。
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東日本大震災後の小説。
「脊梁山脈」もそうですが東日本大震災は作家の方々に特別なモチベーションをもたらしたように思えます。
災害に生活が翻弄される、または災害によってもたらされる虚無にどう立ち向かうか。
この本を読んでいる今も地震が熊本を襲っている。いずれ自分自身が当事者になることを覚悟しなければならない。 -
昭和の函館を舞台に、函館大火、大空襲、洞爺丸沈没と3つの大災害を生き延びた夫婦を主人公にした物語。
やはり熊谷さんは、平穏な世界を舞台にしたものより、こうした緊迫感を描くのがお得意なように思います。
もっとも次から次に起こる危機は面白いんですけどね、少々やり過ぎという気もします。特に最後の息子と娘の話はちょっと強引すぎます。その分現実感に欠け、物語として安易な感じが残ってしまうのです。 -
著者の作品は好きだが、どちらかというと地味で抑えた表現というイメージがある。それはそれで良いと思うのだけれど、本作は少し作風が変わっていて、とても荒々しい表現だ。プロットだけ考えるとかなり非現実的な話ではあるけれど、それはそれでよいのではないかと感じさせるくらい迫力があり、かつ感動できる内容だと思う。それは何といっても、描いている職業への敬意ではないかと思う。これまでの作品にも一貫している。マタギ、蓑売り、そして今回の潜水夫。更に、3.11から5年目の今日読了するにふさわしい内容だったと思う。
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昭和の初めの函館を舞台にした海の男の物語。
昭和9年の函館の大火、昭和16年の空襲、昭和29年の洞爺丸台風と過酷な運命に翻弄されながらも、自らの力で未来を切り開いた泊敬介の生きざまを描く。
東日本大震災後に書かれた小説だけに著者の哀しみや苦悩が行間に垣間見ることが出来る。もしかしたら、救うことの出来なかった多くの命への鎮魂のための小説なのかも知れない。