木の一族 (新潮文庫)

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  • 新潮社
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レビュー : 10
  • Amazon.co.jp ・本 (186ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101342139

感想・レビュー・書評

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  • 手に取る機会があって、標題作だけ読んだ。

    「彼」、佐伯一麦の私小説。

    さえきかずみ、と読むことだけ知っていた。
    こういう作風なんだ。
    一「と」月という表記が目につく。
    私小説だから暗いというのではないんだろうなぁ。
    そして、人生の切り売り、というのともまた違う感じ。
    客観的に淡々と語られるので、現実感がないのだけれど、人生ってこうなのかも。
    救いがないような、でもあると信じたいような。
    私小説の捉え方は、佐伯さんが作中で書いている通りだと思う。
    突然回想に入ったり戻ったりしているのも、読みづらいけれど実際の思考の飛び方と同じか、と妙に感心した。

  • 短編集かと思ったけど、少しずつ違う時期の、同じ家族の出来事を綴った連作集でした。ごくありふれた、でも少しだけ不幸が重なったかな、くらいの一家に起こるあれこれを、淡々とした文章で物語られている。現実の世界では結構な大事件だけど、小説の世界と考えると、それほど大きなイベントは起こらない。でも何故か惹きこまれてしまう、不思議な魅力を持った作品でした。

  • 私小説作家の佐伯一麦。
    都会で仕事を行ない、週末には田舎に引っ越した妻や子供たちや愛犬の居る家族の元へ帰り、共と生きる。
    そんなちょっとした平凡な生き方も、難しさを秘めていて、そこまでの経緯にも問題があって、そういう日々が休む暇を与えずピンと張られた糸を感じさせられた。
    妻の主人公に対する感情は、長年の積み重ねからか、酷く苦く、ギスギスしている。反面子供たちは週末の休みだけ帰ってくる父親を笑顔で迎える。そんな時々だけ、少しの間だが緊張の糸が解れる。
    この連作の短編は、「行人塚」「古河」「ある帰宅」「木の一族」の4篇で構成されている。
    読み始めて、「行人塚」は娘の態度に虚しさを感じ、「古河」と「ある帰宅」ではどこか川端康成の「雪国」を思わされる風景描写(窓ガラスを鏡に見る、火事)があった。

  • 私小説。

    お願いだからもう少しうまく生きてくれないか、と終始思うほどに、簡単な肯定やドラマを使わず、あくまでも日常の中で、主人公の鬱屈した姿がそのままに描かれてる。

    決してドラマは必要ないけれど、私には小さくても自己を肯定してくれる何かが必要であることを、すっかり忘れていました。思い出しました。

  • 92点。この現代にあって稀有な私小説作家である。家庭内の出来事を小説にしたことで、奥さんから「これ以上小説にするなら離婚するからね」と迫られる。で、迫られたことまで小説に書いちゃう。
    筆者と近代の私小説作家との大きな違いは、日常の出来事をさも劇的な「ネタ」にしないとこだと思う。救いがたい「私」のドラマチックな話をきいてくれ、みたいな感じじゃない。私小説って、ともすれば小説のネタにするために実生活で大それたことをしてんじゃないかよ、と感じることがあったりするんだけどそんな感じはしない。

    巻末の解説にも〈筆者はどんな事件も劇的に扱わない。むしろ当たり前の人間が、自分のどうしようもない分を抱えて生きていく時に当然起こることとして受け止める。
    誰もがいいあらわしようもない、他愛ないけれど相当に深刻な屈託を抱えて生きている。その鬱屈した姿を、屈託を屈託としてそのまま受け止める過程の感触を綿密に書いていくのだ。〉とあって、強い共感を覚えた。
    柳美里と比較するとわかりやすいってあったけど確かにそうかも。ああいう劇的なのは若い時はハマる。
    結婚してもしてなくとも、子供がいてもいなくとも、すべての男性にすすめたい。

  • 父親とふたりで川縁を散歩するというたわいもない話と云ってしまえばそうかも知れぬ。しかし、ふたりが川面で見る光景が心にしみるんだな。これが。やっぱり好きだ佐伯一麦。

  • 特に大きな出来事が展開されるのではなく、若い夫婦が3人の子供を育てていくなかで、少しずつふたりの間に齟齬が招じていく様を丁寧に描いている。離婚の決定的な理由など無いのだろうが、この作品では夫の病や遠距離通勤・単身赴任による家族の団欒があまり無かったこと、夫が家族のことを赤裸々に小説に書いて世に出したことなどが積み重なったからなのだろう。 妻の夫へのことばの中にはとても冷ややかなものがあったので、いつかふたりは別れるだろうという予感を抱きながら読んでいた。さみしいけれど悲しくはなかった。

  • 天は人の上に人をつくらず、人の下に人をつくらず
    とすりゃあ、人間に貴賎をつけるのは人間のエゴだ
    だけど、社会情勢を無視して人間に貴賎はないと決め付けるのも、
    やはりエゴにちがいない
    エゴの強い人たちがなぜかくっついて夫婦になり
    綱渡りのような家庭生活のなかで子供を産み育て
    しかし最終的には別れてしまう
    平成ひとケタそのものがそういう一面を持つ時代であった
    と言えば、そんなような気もするけれど
    なんかもう実にやるせない気持ちにさせられる

  • 2009/11/24購入
    2009/12/26読了

  • 青年は若すぎる年齢で夫となり、父となった。電気工として、小説家として、妻と幼児三人を懸命に支える日々。
    都会を離れ、北関東での心細い借家探しを通して生きることの危うさを捉えた「古河」。父と子の幸せな瞬間とその隣合わせで待ち構える崩壊の兆しを描いた、傑作「木の一族」等、普遍的な家族の原風景と命の手ざわりを美しく切実な言葉で綴る珠玉の中短編4編。

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著者プロフィール

佐伯一麦(さえき・かずみ)
1959年、宮城県仙台市生まれ。仙台第一高等学校卒業。上京して雑誌記者、電気工などさまざまな職に就きながら、1984年「木を接ぐ」で「海燕」新人文学賞を受賞する。1990年『ショート・サーキット』で野間文芸新人賞、翌年『ア・ルース・ボーイ』で三島由紀夫賞。その後、帰郷して作家活動に専念する。1997年『遠き山に日は落ちて』で木山捷平賞、2004年『鉄塔家族』で大佛次郎賞、2007年『ノルゲNorge』で野間文芸賞、2014年『還れぬ家』で毎日芸術賞、『渡良瀬』で伊藤整賞をそれぞれ受賞。


「2019年 『山海記』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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