帰りなん、いざ (新潮文庫 し 35-12)

著者 :
  • 新潮社
3.18
  • (0)
  • (6)
  • (15)
  • (0)
  • (1)
本棚登録 : 70
感想 : 4
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (361ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101345222

作品紹介・あらすじ

トンネルを抜けると緑濃い山を背景に美しい里が現れた。浅茅が原だ。わたしは民家を借り、しばらくここで暮らすことにしたのだった。よそ者への警戒か、多くの視線を肌で感じる。その日、有力者たる氏家礼次郎、そして娘の紀美子と出会ったことで、眼前に新たな道が開いた。歳月を黒々と宿す廃鉱。木々を吹き抜ける滅びの風。わたしは、静かに胸を焦がす恋があることを知った-。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • いなか暮らしに憧れて田舎にやってきた男が、その村の老人たちや慣習といったものと格闘しながら、唯一の若い女性との恋心を育み、そしてその村で起こる事件に取り組む物語のような出だし。朝茅という山間の村の様子を、異邦人である主人公の目を通して執拗なまでに描いている前半。
    中頃から急展開をみせ、主人公は単なる厭世から田舎にきたわけではなく、ある意図をもってやってきたのだとわかる。そこからの緊張感のある展開は、流石の一言。
    事件の決着は凄惨な悲劇でおわったが、ラストのぼたもちのシーンやヒロインの「行ってらっしゃい」の言葉で、きちんと物語を締めくくるところまでが秀逸。
    一気に読めるハードボイルドというか、シミタツ節。好きな人には好き、好きじゃない人は全く面白くないとおもわれる。

  • 何だかんだ出来すぎの感はあるが、楽しく読んだ。

  • 露骨な暴力描写も性描写もないのにどんな本より
    ハードボイルドを感じる。冊数重ねる毎に志水節
    にハマってくのはなんかもう気持ち良くすらある。

  • 帰りなん、いざ―。
    陶淵明ですね、昔、漢文の時間に習った。
    陶淵明は続いて「田園将ニ蕪レナントス」と嘆じながら、しかし、そこには官を辞して家に帰る決意の中に田園で暮らす喜びが溢れていた。そして自然の恵みに対比して人の命の儚いことの無常さも。
    この小説、翻訳家の稲葉が、山梨と長野の県境にほど近い浅茅に越して来たところから始まる。緑濃い山を背景にした美しい山里。そこに民家を借り、しばらくここで暮らすことになっている。
    序章はそうした田園風景の中で、よそ者と土地の人々との、とりわけ土地の有力者との間のぎこちなさ、有力者の娘・紀美子との交流、土地の名物の蕎麦栽培と村人皆で経営する蕎麦店の風景などが描かれて、まさに陶淵明の世界。
    しかし、ここからがシミタツ、一筋縄になる筈もなく、生活物資を仕込みに出た韮崎で稲葉が東京に電話したところから話はキナ臭くなって…。
    相変わらず短く流麗で香気溢れる文章で綴られる田舎の景色と冒険譚。
    ただ、陶淵明の印象が勝ち過ぎて、そうした帯とか背表紙の惹句が狙った世界からすると、秘密が明らかになっていく過程のお話がちょっと違和感あって残念。

全4件中 1 - 4件を表示

著者プロフィール

1936年、高知県生まれ。雑誌のライターなどを経て、81年『飢えて狼』で小説家デビュー。86年『背いて故郷』で日本推理作家協会賞、91年『行きずりの街』で日本冒険小説協会大賞、2001年『きのうの空』で柴田錬三郎賞を受賞。2007年、初の時代小説『青に候』刊行、以降、『みのたけの春』(2008年 集英社)『つばくろ越え』(2009年 新潮社)『引かれ者でござい蓬莱屋帳外控』(2010年 新潮社)『夜去り川』(2011年 文藝春秋)『待ち伏せ街道 蓬莱屋帳外控』(2011年新潮社)と時代小説の刊行が続く。

「2019年 『疾れ、新蔵』 で使われていた紹介文から引用しています。」

志水辰夫の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
宮部みゆき
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×