レディ・ジョーカー〈上〉 (新潮文庫)

著者 : 高村薫
  • 新潮社 (2010年3月29日発売)
3.82
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  • 2009人登録
  • 160レビュー
  • Amazon.co.jp ・本 (512ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101347165

作品紹介

空虚な日常、目を凝らせど見えぬ未来。五人の男は競馬場へと吹き寄せられた。未曾有の犯罪の前奏曲が響く-。その夜、合田警部補は日之出ビール社長・城山の誘拐を知る。彼の一報により、警視庁という名の冷たい機械が動き始めた。事件に昏い興奮を覚えた新聞記者たち。巨大企業は闇に浸食されているのだ。ジャンルを超え屹立する、唯一無二の長篇小説。毎日出版文化賞受賞作。

レディ・ジョーカー〈上〉 (新潮文庫)の感想・レビュー・書評

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  •  日本有数のビール会社”日之出ビール”の社長、城山恭介が誘拐される。犯人グループは城山とある取引を結び彼を解放、事件は日之出ビールに警察、マスコミを巻き込み、裏社会の人間たちも暗躍する様子を見せ、静かに波紋を広げていく。

     高村さんの作品を読んでいて圧倒されるのが、文章に込められた力です。その力というものは他の作家さんの作品と比べても突出していると思います。

     その力の根底にあるものは作者の高村さんの一種の情念にあるように思います。この本で描かれる問題は自身の闇を隠し通そうとする企業の姿に、被差別部落、政治と権力のつながりとどれも複雑なものばかり。しかしそれでもそうした問題を組み伏せ、話を作り上げる情念が感じられるからこそそう感じるのではないか、と思います。

     そして、この本を読んでいてもう一つ感じるのは犯人グループが感じる閉塞感。犯人グループのメンバーはそれぞれ自らの人生に対し、何らかの言葉にできない感情を抱えています。それがこの誘拐につながっていくわけですが、その閉塞感の描き方がとにかく巧い!

    この本の単行本版が出版されたのは1997年だそうです。現代の日本も”希望のない社会”や”格差社会”と言われるように一種の閉塞感があるように思います。そうした閉塞感の芽生えをいち早く察知し、個人の言い知れない感情すらも描き切ったからこそ、この本の厚みはさらに増したように思います。

     まだ上巻ですが今後の事件をめぐりどのような人間模様が繰り広げられるのか、非常に楽しみです。

    第52回毎日出版文化賞
    1999年版このミステリーがすごい!1位
    このミステリーがすごい!ベストオブベスト9位

  • 言わずと知れた高村薫の長編小説。
    上巻ではレディー・ジョーカーの生まれる経緯から、巨大ビール会社社長の城山恭介の誘拐劇、新聞記者の奮闘など最初から盛りだくさんの内容。

    久しぶりの合田との対面に、思わず内臓が震えまくった。
    それから、「ああこれだこれ、合田のこの刑事にしてはあまりにも繊細で壊れやすいギリギリさと、それに絡み合うようにして彼を支える加納の、こちらもまた張り詰めんばかりの緊張感が高村薫なんだよ…!」と一人興奮しているうちに上巻を一気に読み終えてしまった。


    本当に久々の高村作品で、訛っていた脳が彼女の独特の筆致の難解さによじれねじれしたが、それも一瞬で、グリコ・森永事件を髣髴とさせる不気味さと、とても一個人では敵わない大きなものの存在に翻弄されていく合田たち個人たちの息遣いに、すぐに引き込まれていった。

    個人的には、物井のおっちゃんの中に潜む鬼の部分が、殆ど記憶さえない兄の清二という人間一人が怪文書の中に籠めた心情と呼応するようにして、フッと物井を突き動かすあたりが好き。

  • 社会派小説、テーマは企業テロ。
    じっくりと腰を据えて読みたい一冊。
    ストーリーに出てくる住所近辺を実際歩いてみると、著者の観察力や緻密な構想力に感心します。

  • [上中下巻あわせて]
    グリコ・森永事件をモチーフとした文庫本3冊の長編小説。
    最近はノンフィクションばかり読んでいたので久しぶりに小説を読んだ。
    グリコ・森永事件は自分が幼少の頃にリアルタイムに体験した事件でもあり、当時の自分の微かで断片的な記憶も思い出しながらで、大変面白く読めた。

    読み終わって幾分モヤモヤしたものが残るけれど、最近の自分は「小説は読んでいる時間そのものが面白ければいいのだ」と思う。

  • 終わりが見事で拍手です。一番好き

  • さすが高村薫という出来。
    上巻は事件がようやく始まったばかり。事件が始まるまでの背景が重厚に描かれている。
    被差別部落の問題、裏社会の問題、警察の問題等々、すべてがこれから先落とし込まれていくのだろう。
    楽しみだ。
    時代が時代だけに、普通預金の金利が2%とか4%とか出てくる。そんな時代があったんだね。

  • すごい筆力。圧倒される。

  • 長い、面白い、でも長い、でも面白い(笑)
    そんな感想。

    この本を読む前にリヴィエラを撃てを読んだのだが、個人的にはレディ・ジョーカーの方が頭に入ってきやすかった(リヴィエラは、アイルランドの歴史的背景等を含むので)

    競馬場で繋がった5人、日之出ビールの社長とその周囲を取り巻く人間関係と後ろめたい過去、警視庁の合田刑事のジレンマ、そしてマスコミ関係者。。。
    高村 薫さんならではの骨太な文章、重厚な物語の内容は健在。時間かかりそうだけれど、気になるので中巻、下巻も引き続き読み進めていく予定。

  • 評価は読了後に。
    何で今まで読んでなかったのかな?多分高村薫ってある程度構えて読まないとその濃厚な世界についていけないからだろう。
    まだ上巻だけだがご多分に漏れずです、そして面白い。
    不公正を社会の絶対的構成要素として捉えて人間関係の闇深さを抉り出す、この人ならではの仕事っぷり。
    それにしても高村薫って「男」の作家だなぁ、冷徹に男社会を眺めてるんだろうな。

  • 読み終えたあと、得体のしれない後味の悪さが襲ってくる。

    それはこの話で誰も救われないからだ。
    色々な要素が絡みあって、バタフライ・エフェクトのように
    大きな波として物語が出来上がっていく。

    淡々とだが着実に蝕んでいくウイルスの如く
    腹の下にうごめく黒い感情を押し込めて物語の役者は彼らの役割を演じていく。

    それは一種戯曲のような滑稽さ、空虚さをはらみながら
    ある種の皮肉を読者に投げかける。

    決して多くのことを語らない作者の文章だが、その下に潜む
    彼らの想いが最後まで交差することのないまま、終りを迎える。
    虚構が最後に見せる現実が、綺羅星のごとく明るく最後までまぶたに残る。

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