レディ・ジョーカー 下 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
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レビュー : 163
  • Amazon.co.jp ・本 (449ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101347189

作品紹介・あらすじ

消エルコトニシタ…。レディ・ジョーカーからの手紙が新聞社に届く。しかし、平穏は訪れなかった。新たなターゲットへの攻撃が始まり、血色に染められた麦酒が再び出現する。苦悩に耐えかねた日之出ビール取締役、禁忌に触れた記者らが、我々の世界から姿を消してゆく。事件は、人びとの運命を様々な色彩に塗り替えた。激浪の果て、刑事・合田雄一郎と男たちが流れ着いた、最終地点。

感想・レビュー・書評

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  • R1.12.18 読了。

    ・3巻とおして、濃い内容、登場人物の多さなどから、面白いのになかなか読み進められない作品だった。
     未解決の誘拐事件や政治家や総会屋などの贈収賄事件、新聞記者やフリーの記者の失踪事件など、一見モヤモヤした後味の悪そうな終わり方だが、犯人側の物井、ヨウちゃん、車椅子の障害児のレディと雑種犬のチビが、青森の物井の生家で穏やかな暮らしをしている光景は、細やかな幸せで穏やかな日々を連想させる。犯人なのに聖域としてそっとしておいてあげたいようなラストが良かった。

    ・「企業を恐喝するという大それた犯罪も、孫の事故死と同じように、起こるときには起こる人生の1ページだったかのようで、何事かをなし遂げたという達成感はなく、自分という人間の本質が変わったということもない。否、何億かの現金の手応えはあるが、それによって満たされたわけではないという自分という人間のありようが、いまはざわざわ、もぞもぞするだけだった。」
    ・「『辛いなあ…。』物井は自分自身と、レディと布川夫婦と、自分たちが生きているこの時代の全部の人間に向かって、そう呟いてみた。孫の孝之が亡くなった時と同じように、自分でどうにか出来ることではない辛さだった。…(中略)そういえば、生家の貧窮、隻眼、駒子との別れ、戦争、空腹、奉公先の倒産等々、辛かったことはみんな、自分の力ではどうにもならなかったことだったと思うと、自分の代わりに、腹のなかの悪鬼が声にならない声をあげて慟哭した。七十まで生きてきてたどり着いたところが、ここか。俺は何を受け入れたわけではない、何も納得したわけではない、と。」

  • 長い、長かった。濃くて重い社会派ミステリー。

    犯人グループ、日之出、合田それぞれの話が交わりながら進む。
    資本主義社会の中で落ちこぼれてしまったような犯人グループと、組織の論理で生きてきた城山社長の対比、そして「組織とは何か」というのが裏テーマで語られる。
    それぞれの人生のやるせなさから事件を起こした犯人グループと、組織人としての勝ちを重視するあまり、後々大きな問題の芽となる出来事に対して思慮を欠いた対応をしてしまう城山。
    当初は淡々と任務に就き犯人を追っていた合田も、組織と個人との関係において悩み始め、遂には暴走してしまう。

    庶民の暮らしの慎ましさ、報われなさ。
    大会社を率いる社長の多忙さ、決断の重み、巻き込まれ時に犠牲になる家族。
    警察や検察の綺麗事では済まない複雑さ、正義を貫くことの難しさ。
    多くの人が何がしかの組織や団体に属しており、それに守られても縛られてもいる。個人の感情とは別に組織の正義、論理といったものもある。
    犯行グループはそういった組織からはみ出した人達で、自由ではあるが守られてもいない。
    それぞれの内面が詳細に語られ、その人となりや行動背景を理解すれば、納得とまでは言わないが頷けるところ共感を覚えるところはあり、確かに犯罪は悪いが、彼らを責めきれない自分がいる。また城山や合田の心情も理解できるところは多い。

    誘拐事件から派生するように生じた経済事件も描かれるが、こちらの黒さも相当なもので、政治とカネの問題の根深さに嫌気がさす。
    こういった事件はひとつ潰したからといって無くなるものではなく、今も似たような話がどこかであるのだろうと思うと暗い穴を覗いているような気持ちになる。

    そして最後の最後に持ってきた、溢れ出るような合田の心情の吐露。終始冷静に語られるこの話の中で高い熱を持った場面であり、人が人を想うことの貴さを改めて思うような、胸を打つ描写だった。


    次作は「太陽を曳く馬」だが、別シリーズとの融合作とのことなのでそちらを先に読もうか迷っている。



  • 内容(「BOOK」データベースより)
    消エルコトニシタ…。レディ・ジョーカーからの手紙が新聞社に届く。しかし、平穏は訪れなかった。新たなターゲットへの攻撃が始まり、血色に染められた麦酒が再び出現する。苦悩に耐えかねた日之出ビール取締役、禁忌に触れた記者らが、我々の世界から姿を消してゆく。事件は、人びとの運命を様々な色彩に塗り替えた。激浪の果て、刑事・合田雄一郎と男たちが流れ着いた、最終地点。



    とても読み応えがありました。
    でも、WOWOWのドラマを観ていなかったら 登場人物が多くて混乱していたと思います。
    上中下巻と長く 間を空けて読んでしまったせいもあるかもしれません。
    20年以上前の作品ですが 世の中あまり良い方には変わっていないなぁ...と思っています。

  • [上中下巻あわせて]
    グリコ・森永事件をモチーフとした文庫本3冊の長編小説。
    最近はノンフィクションばかり読んでいたので久しぶりに小説を読んだ。
    グリコ・森永事件は自分が幼少の頃にリアルタイムに体験した事件でもあり、当時の自分の微かで断片的な記憶も思い出しながらで、大変面白く読めた。

    読み終わって幾分モヤモヤしたものが残るけれど、最近の自分は「小説は読んでいる時間そのものが面白ければいいのだ」と思う。

  • 実際の事件をモチーフにしているだけあって、やはり犯人捕まらずか…

    重厚な物語の結末としては、不完全燃焼。

  • 合田とレディ・ジョーカーチームの中心、半田がいよいよ直接対決。と、その前にレディ・ジョーカーから事件の幕引き宣言。そして、チームが分裂して、別のビール会社への攻撃がはじまる。社長誘拐、同業他社へ目標変更、青酸カリ混入と、当時のグリコ・森永事件の流れを忠実に再現している。

    小説の方は新聞記者の失踪あり、株屋の活躍あり、刑事の自殺ありと、事件の解明どころか、盛りだくさんの内容で混沌は深まるばかり。が、合田のワンマンプレーでなんとなく、ぼんやりと決着する。これは合田刑事シリーズの定番だ。

    20億円も奪った犯人の追及が甘い気もするが、グリコ・森永事件も未解決なのだから、こんなものか。

    それにしても、社会で取り残された人間が大事件を犯すという設定。この小説は現在の「格差」がクローズアップされる時代にマッチしている。

  •  目的を達したレディ・ジョーカーは闇に消えたはずだった。しかし新たな脅迫状が別のビール会社に送られ、事件は犯人グループの思惑を越え新たな展開を見せ、そして終焉を迎えていく。

     ようやく読み終えた…、と読後にまず思いました。完全犯罪が達成されたというカタルシスもなければ事件が解決された、という爽快感もこの小説にはありません。読めば読むほどに登場人物たちの葛藤、疲労、閉塞感、暴力衝動は深まっていき、それに姿が見えない政治や裏社会の闇が読むほどに深くまとわりつき、それが完全に晴れることはありません。

     合田然り城山然り、マスコミ然りそして犯人グループでさえも、”レディ・ジョーカー”が生み出した闇の流れにゆっくりと飲み込まれていったかのように読んでいて思いました。

     誘拐劇に企業への恐喝、そしてそれに立ち向かう警察というミステリー的な構図でありながら、この本の終着点はミステリー的な解決ではありません。この誘拐を通して浮かび上がったのは何者にも説明できない個人の感情や衝動、そしてそれと相克せざるを得ない企業や社会の論理、それに勝てないと分かっていながらも向かっていかなければならない人々の叫びと戸惑いだったように思います。

     そしてそうした叫びや戸惑いは、現代の社会にも残り続けているのだと思います。自分もそうしたものを漠然と感じていたからこそ、この小説に嫌気がさしながらも、登場人物たちがどこにたどり着くのか知りたくてページをめくり続けたのだと思います。

     合田の加納への最後の唐突な告白はちょっと違和感があったものの、それを差し引いてもこの作品の価値というものは揺るがないと思います。ラストの青森の描写も、この作品の終着点としてこれ以上ないくらいふさわしいものだったように思います。

     人は小説にこれほどまで情念というものを載せることができるのだな、と強く思わされた小説でした。


    第52回毎日出版文化賞
    1999年版このミステリーがすごい!1位
    このミステリーがすごい!ベストオブベスト9位

  • 下巻の中盤からぐっと引き寄せられたものの、まとまり方は好きじゃない。

    レディジョーカーの本当の正体はなんなのか、問われているような終わり方であった。

  • 読み終わりました。
    結局この長編は、合田の魂の再生と、物井の守りたいものの発見が救いなのかなと。
    前者は、破滅願望の半田との対決を経て加納と向き合う大切さに気づくところ、後者は最後の久保が物井の故郷を訪ねるところで、特に強く感じました。
    社会への言葉にできない怒りや不満からレディ・ジョーカーは現れ、でもそれぞれの帰結は対照的です。
    壊したい願望と守りたい願望。
    事件から先に進めた人間と、さらに破滅を求めた人間。
    相反するところが個々の中にあって、けれどそれが個々の選択に違った形で表れる。
    最後の物井の故郷は、彼の求めていた生きる意味を実感できる場所なのか、久保の詮索を拒絶するような心証描写が秀逸でした。
    まず満足できた3巻です。

  • レディー・ジョーカーによる日之出社長誘拐事件。
    犯人を追う刑事。
    スクープを狙う新聞記者。
    表面的な事件の裏で蠢くものたち。
    一つの事件が人々の運命を様々な方向に変えていく。

    緻密な描写に圧倒的な情報量。
    「すごい!」以外、私のボキャブラリーでは表現できない。

    それにしても、これほど面白いとは!
    高村薫作品は以前にも読んだことがある。
    しかし、 良いも悪いも「社会派な作家さん」ぐらいで特別な印象が残っていない。
    今やっと、私自身に高村薫を読む準備が整ったということか。

    作家との出会い(もちろん作品を通して)は、タイミングが重要なのだとつくづく感じた。
    出会いがうまくいけば、長い付き合いになる。
    新作が気にいらなくても、また次作に期待する。
    しかし最初の出会いに失敗すると、もう一度手に取るのはなかなか難しい。
    名作といわれていても、ピンとこない作品もあったりする。
    もちろん好みの問題は重要だが、読む側の精神状態や、理解力、経験値など何かたりないものがあるのかもしれない。

    ずいぶん遅くなってはしまったが、嬉しい出会いができた。

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著者プロフィール

高村 薫(たかむら かおる)
1953年大阪市東住吉区生まれ、現在大阪府吹田市在住。国際基督教大学教養学部人文学科(フランス文学専攻)卒業。外資系商社の勤務を経て、作家活動に入る。
1990年『黄金を抱いて翔べ』で日本推理サスペンス大賞、1993年『マークスの山』で直木三十五賞、1998年『レディ・ジョーカー』で毎日出版文化賞、2016年刊行の『土の記』では大佛次郎賞、野間文芸賞、毎日芸術賞をそれぞれ受賞し、新たな代表作となった。
『レディ・ジョーカー』を境として、重厚な社会派ミステリーから純文学に転向。織田作之助賞選考委員を務める。

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