ひらがなでよめばわかる日本語 (新潮文庫)

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (223ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101348513

作品紹介・あらすじ

"目・鼻・歯"も"芽・花・葉"も、"め・はな・は"。文字を"書く"のも頭を"掻く"のも"かく"。太陽も焚き火も"ひ"…日本語はひらがなで考えると俄然面白くなる。漢字の影響を外すと日本語本来の形が見えてくる。言葉がわかれば人間がわかる。日本人の心はこんなに豊かだったのかと驚く。稀代の万葉学者が語る日本人の原点。『ひらがなでよめばわかる日本語のふしぎ』改題。

感想・レビュー・書評

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  • 漢字伝来以前からのやまとことばについて考察した刺激的な本。同音異義語というのがあるが、そうではなくてそういうことばや似たことばは皆同じ働きをしていて仲間の言葉という。上代日本語の甲類と乙類の違いも同類のことばだと著者は考えているようだ。古代の人々が人間の生命と植物の生命を同じものとして捉えていたというのも目を開かされる思いだった。日本人のもともとの心の働きへの示唆を与えてくれる。素晴らしい本だと思う。

  • goya626さんのレビューで出会うことができた本です。ありがとうございます。
    日本語という言葉の豊かさについて短歌を通して再認識しているところ、レビューで気になってお取り寄せ。万葉学者の著者が基本の日本語で考える「やまとことば」について展開される。「漢字は中国からの借り物」、日本語には外来語由来のものが多いという。「同じ立場や役割をもつものを一つの単語でよび、ものとして、形態が違っていても区別しない」という考え方で進み、最初は戸惑ったが読み進めるにつれて言葉の共通項やこころと自然とのつながりの発見となった。   
    『柳田国男は「どんな字病」ほど恐ろしい病気はない』という文言に、どきっとする。「漢字は漢字の素晴らしさがある」一方、「漢字依存が日本語の持つ本来の意味を失われていくことになる」という警告がなされている。
    古代の日本人は、「芽(目)を出したり花(鼻)を咲かせたりしながら実(耳)をつけていくかおを、体とは別物として考えていた」。幸福を「心の中に、いっぱい花が咲きあふれるように感じること」と答え、「心は頭の中にあるのではなく内臓の中にあると思っていた」。「歌とは人間と神様が会話を交わすチャンネル」だった。
    万葉集などからの美しい歌の引用があり、その韻律に浸れる。
    直に逢ひてみて場のみこそたまきはる命に向ふわが恋止まめ(万葉集、中臣女郎が大友家持に贈った相聞歌)
    覚書
    「み」果実の実 精神的で象徴的な存在 努力して経験を積んだ成果
    「さみだれ」「みだれ」に「さ」がついたものらしい もの思いの道具
    「いろ」 敬愛や恋愛といった心の自然な働きを表現したことば
    「かく」 指を使って何かを示す動作 書く 描く 掻く 欠く 掛く

  • 大和ことば、ひらがなを勉強すれば、短歌に役立つんではないかと読みだした本。結論から言えば、さらに深みに入っていって一層むつかしくなる。いきる、いのち、たましい、こころ、いきのお、たまのお、かみ、ほとけ、いわう、ねがう、のろう、まつり、あそび、くる、くるう、まわる、まう、おどる、つみ、とが、あやしい、うつくしい、みにくい、かしこい、さとい、やさしい、みんあ言葉はつながっているような、となりにいるような・・・・。

    短歌詠みとしては、ことば、とくに、ひらがなはこれからもたいせつにしたいですな。

  • 令和年号で一躍注目された万葉集研究第一人者が、日本語の意味をひらがなでじっくり考えようと語る。
    漢字依存が、日本語の持つ本来の意味を失わせていると、「め」「みみ」「はな」などの体のパーツから説き始める。
    次々と引用されるひらがなことばが面白く、知的好奇心を刺激される。
    同じ立場や役割をもつものをひとつの単語でよぶ日本語は、包容力があり、創造性豊かな沃野をもつ、との指摘には大いに納得させられる。

  • やっと読みおわったー!長かった。おもしろすぎて、いろんなヒントがたくさんあって、時間がかかった。
    ひらがなに直して古代の人の気持ちや認識を学ぶ。物語の創作のヒントになるような概念もたっくさんあって、ものすごく参考になった。

    物語に興味がない人にでも、単なる雑学ではなく、役に立つところがたくさんあると思う。古代のあいまいな考え方と、現代のするどい分岐した長ったらしい新しいカタカナ語がはびこる世の中である。やたらそういうのを使いたがる人にかぎって、頭からっぽなんじゃないの、っていうこともある。

    概念が誕生していくのを、発展と捉えるのはそうなのだけども、原点のことばに立ち返るというのは、ちょっと漢字を間違えたくらいで騒ぎ立てる世の中というのは住みにくいと思うから、だから立ち返る古代にロマンを感じるのです。いいなあ。

    面白かった、さいわい、の由来がいちばんよかったな。またあらためてじっくり読みたい。

  • 言葉について考えます。その一文字について。
    日本語という呪術、言霊、神話に畏れ入ります。

    日本人にとって幸福とは何か。
    現代において幸福とは、哲学的な難題であるように思います。
    答えなんて出ないでしょう。言葉につまるでしょう。
    ですが、ひらがなで「さいわい」と考えれば、解ってきます。

    さいわいは「さきわい」である。「さき」は咲く。「はい」は気配や味わいなどが長く続くこと。つまり、幸いとは、花盛りが長く続き、花あふれ咲きみちることです。幸福とはかくも具体的なものであったのです!

    祝うとはなんでしょう。
    「い」は言う。「はう」は何度もする、継続すること。
    つまり祝うとは、神様に、大切にする心を何度も言うことです。
    では「願う」とはなんでしょう。
    ね=ねぎらう。そして「はう」。つまり、神様に何度もねぎらい、心おだやかにしてもらうことです。

    「ち」というひらがなは、不思議な力のあるものを言います。
    血、乳、父、力のち、いかづちのち。

    「あめ」とはなんでしょうか。
    天、雨、海。みな、濃密な水域をさします。
    空の青色を水とイメージしていたのかもしれません。天地に水がある。とても良い世界観です。

    「ひつぎ」は、霊魂=「ひ」を継ぐこと。
    「しぬ」は、しなゆ、つまり萎えることであり、植物と同じように人間が捉えられています。
    花は鼻。葉は歯。実と耳。芽と目。木と気。茎と首。
    枯るは、離れるを意味します。離は、「か」とも呼べるそうです。
    しんで、かれて、その後、植物のような日本人の魂はどこの世界に行くというと「根」の国へ行きます。「ね」は不動の処という意味です。
    そして「たね」から始まる。
    「た」はどういう意味でしょう。丹田の「た」。魂の「た」。…。
    一文字一文字が、歴史であり、音であり、動きであり、神である。
    それを教えてくれる格好の入門書です。
    日本語や言語に取り組んだりするような人は、苦労した人が多いですよね……といったエピソードが足立巻一の「やちまた」にあったように記憶していますが、この本に不思議な魅力やピンとくるものを感じる人は、やはり苦労をし、もしくは見てきた人なのでしょう。つまり、今を生きる人々すべてのピンとくる必読書ということです。

  • 父からのおすすめで読んだ本。
    今年はいろいろと忙しかった中西先生は万葉集の本でいろいろお世話になった。
    この本は普段使っている日本語のやまとことば的ルーツと、今の日本語になるまで取り入れてきた外の言葉たちとの融合の過程をいくつかの例と和歌を交えて解説している。
    考えてみれば「言葉」ということばも葉がつくのが不思議だし、「もの」ということばも物質を指すのに接頭的に「もの寂しい」となるとふわっとする役割になるのも不思議だ。
    いくつかの論はこじつけ?みたいに感じてピンとこなかったけど、日本に住んでいる人たちがどれだけ自然の中で言葉の種を見つけて風土と一緒に育んできたのかが伝わって面白い。
    私たちは言葉抜きに考えることはできない。

  •  碩学中西進。
     そう呼びたくなる本ですね。万葉集から漢字研究を突き詰めた白川静といい、万葉集から日本語を突き詰めた中西進といい、偉い人というものはいるものだと思っていたら、最近の中西進の元号解説には、ちょっと?こちらで蘊蓄垂れてます。どうぞ!
    https://plaza.rakuten.co.jp/simakumakun/diary/201904140003/

  • 以前、チンペイさん(谷村新司)のラジオで「人間にも植物にも『め』『はな』『は』がある」という話を聞いて、面白い!と思った覚えがある。そして、本書はまさにその話からスタート。以降同じように漢字を横に置いておいてひらがなで記すと、『咲く』『酒』『岬』が同じ根っこだということが見えてきたり、『ちから』は『ち』と『から』からできていたり…もう目から鱗のオンパレード。
    なかには根拠が弱くてこじつけのように思えるものもあるけれど、そこは日本語の持つファンタジー、という整理でいいと思う。このファンタジー、なかなか楽しいから。

  • やまとことばのおくぶかさよ。日本語をたいせつにすること。日本語に通じることで日本の学問の独自性が表れるのではないだろうか。

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著者プロフィール

中西 進(なかにし すすむ)
1929(昭和4)年東京生まれ。東京大学卒業、同大学院修了。文学博士。
筑波大学教授、国際日本文化研究センター教授、大阪女子大学学長、帝塚山学院学院長、京都市立芸術大学長などを歴任。全国大学国語国文学会会長、日本ペンクラブ副会長、奈良県立万葉文化館館長なども務める。
「万葉集」など古代文化の比較研究を主に、日本文化の全体像を視野におさめた研究・評論活動で知られる。読売文学賞、日本学士院賞、大佛次郎賞、和辻哲郎文化賞ほか受賞多数。
主な著書に、『万葉集全訳 注原文付』全五巻(講談社文庫)、『中西進 日本文化をよむ』全六巻(小沢書店)、『古代日本人・心の宇宙』(NHKライブラリー)、『中西進と歩く万葉の大和路』(ウェッジ)など。

「2022年 『万葉秀歌を旅する 令和改装版 CD全10巻』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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