小さき者へ (新潮文庫)

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (460ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101349183

作品紹介・あらすじ

お父さんが初めてビートルズを聴いたのは、今のおまえと同じ歳-十四歳、中学二年生の時だった。いつも爪を噛み、顔はにきびだらけで、わかったふりをするおとなが許せなかった。どうしてそれを忘れていたのだろう。お父さんがやるべきこと、やってはならないことの答えは、こんなに身近にあったのに…心を閉ざした息子に語りかける表題作ほか、「家族」と「父親」を問う全六篇。

感想・レビュー・書評

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  • R3.1.22 読了。

     「六編に出てくる人達は皆、誰かを応援している。父が娘を。父が息子を。監督が選手を。子どもが親を。友達が友達を。皆、何かを失って、負けて、がっくり肩を落として、カッコ悪い姿をさらけ出している。でも、寄り添って、応援している。」…(解説より)
     
     収録してある六篇の短編は全部良かったが、その中でも「海まで」「団旗はためくもとに」「青あざのトナカイ」が好きですね。
     「海まで」…父方のおばあちゃんとの関係がギクシャクしているカズキ君が、おばあちゃんの実家のお墓参りに行く途中にとった勇気ある行動に鼻の奥がツーンとして泣いてしまった。
     「団旗はためくもとに」…学生時代から応援団一筋のような父親と将来に向けて悩む高校生の娘。娘のこと、会社の上司のこと、学生時代の応援団仲間のことで父親は、必死に悩んでいる。事あるごとにエールをきる父親の一本気な姿勢に心を打たれた。またラストの娘の門出を祝う応援をしている姿に涙腺崩壊。一つの事にここまで打ち込めるものがあるのって、うらやましいと思う。
     「青あざのトナカイ」…脱サラして始めたピザ屋の店長が、店じまいして再生の道に一歩を踏み出すまでを描いた作品。はじめは曇天だったものが、店長が新しい一歩を踏み出してからはそれまでの雰囲気がガラッと変わり、晴天が見えた気がした。当たり前のことだけど、人は立ち直ることができる。誰かのために。

    ・「心配する気持ちと後ろめたさがないまぜになると、なぜだろう、いらだちや腹立たしさに変わってしまう。」
    ・「親孝行やら長生きしてやら、体裁のええこと言うても、正味の話は、自分らが困りとうないんよ。違うか?うちが元気で長生きせんと、あんたらが困るんじゃけえなあ。そうじゃろ?」
    ・「逃げながら耐えてるんじゃない。押してるんだ、引いてるんじゃなくて。口に出してああだこうだ言うんじゃなくて、黙って、忍んで、でも負けてない。それが『押忍』の心なんだ。」
    ・「人生には押して忍ばなきゃいけない場面がたくさんあるけど、いちばんたいせつなのは、なにかに後悔しそうになったときなんだ。後悔をグッと呑み込んで、自分の決めた道を黙々と進む、それが『押忍』なんだ、人生なんだ。決断には失敗もあるし、間違いもある。悔しいけど、自分のスジを曲げなきゃいけないときだってある。そういうときも『押忍』の心があれば、いいんだ。」
    ・「『押忍』の心は、言い訳をしない心なんだ。」
    ・「応援するっていうのは『がんばれ、がんばれ』って言うことだけじゃないの。『ここにオレたちがいるぞ、おまえは一人ぼっちじゃないぞ』って教えてあげることなの。」

  • 重松氏の主題でもある「家族」をテーマにした6編でした。
    やっぱり重松氏はいいなぁと心に響く作品集でした。。

  • お父さんが私のことをこう思ってたのかなって、
    伝えてもらってもいつもわからないままだ。
    愛があることだけには確信を持てるような関係でいられていることが今ならとてもよくわかる。

  • 表題作、小さき者へがとくに響いた。
    こういうことあっただろうな。
    私にどれくらいのお金と時間を使ったんだろう。

    そろそろ心配ばっかりかけてないで恩返ししたいんだけどな。

  • 六編の小説の中でも団旗を持つコワモテお父さんの話、ビートルズを初めて聴いた14歳の息子とお父さんの話が特に良かった。リボルバーはわたしも大好きなアルバムでますます身近に感じられたのかも。

  • この人はどうしてこんなにも家族や父親を書くのがうまいんだろう。うまく言葉にできない人の弱いところを書くのがうまいんだろう。胸がきゅぅと締め付けられて切なくなる。久々に読むとやっぱり重松清の小説はいいなと思った。2011/407

  • 父親目線で子どもと、そして家族に向き合う短編6作。

    「海まで」家族で故郷の母の元に一泊の帰省する。屈託のない次男と感情表現が不器用な長男。
    「フイッチのイッチ」転校生の山野朋美。両親の離婚で苗字が変ったばかり。片親ベテランの僕は今でも時々父に会うのだが。
    「小さき者へ」部屋に引き篭もりを始めた息子がビートルズのアルバムを買ってきた。父は宛てのない手紙を書き綴る。自分のビートルズの思い出とともに。
    「団旗はためくもとに」お父さんは応援団長。一所懸命頑張ってる者にしかエールは送らない。私は学校を辞めてどうしたいのだろう。
    「青あざのトナカイ」脱サラして商店街にピザ屋をオープンしたが、経営が行き詰まり閉店に。心が閉店するまでどれくらいかかるだろうか。
    「三月行進曲」少年野球の監督の僕が、卒業を目の前にした3人の子どもと甲子園へ向かう。

    結局結論の出ていない話が多いのだが、人生の実際はたいてい結論はでなくて区切りがあるだけ。抱えている問題が多ければ多いほど。
    またいつか読み返したい、そんな作品です。

  • 大人と小人、親と子供。子供は親の気持ちが分からない(分かっていたとしても素直にはなれない)、親も子供の気持ちを分かってあげられない。誰でも昔は子供だったのに。
    坂道のように不安定な人生が、そのまま語られている。答えを示さないところが、この小説のいいところかも。

  • 短編集
    色々なうまくいかなさを抱えた父親たちが、それでも何かを応援する話。
    大変なこともあるけど自分のことばっかりじゃなくて誰かを応援できる大人でありたいなあと思えた。
    とくに団旗はためくもとにが面白かったです押忍。

  • 「人間って2種類あると思う。野球とサッカーで言ったらグラウンドで試合する人と、スタンドからそれを見る人」

    「負けは負けでいいんですよ。人間誰だって負けることはあるんだから。でも、そこからじゃないですか、男の価値っていうか、真価が問われるのって」

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著者プロフィール

重松清
1963年岡山県生まれ。早稲田大学教育学部卒業。91年『ビフォア・ラン』でデビュー。99年『ナイフ』で坪田譲治文学賞、『エイジ』で山本周五郎賞、2001年『ビタミンF』で直木三十五賞、10年『十字架』で吉川英治文学賞を受賞。著書に『流星ワゴン』『疾走』『その日のまえに』『カシオペアの丘で』『とんび』『ステップ』『きみ去りしのち』『峠うどん物語』など多数。

「2023年 『カモナマイハウス』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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