草祭 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (358ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101351315

作品紹介・あらすじ

たとえば、苔むして古びた水路の先、住宅街にひしめく路地のつきあたり。理由も分らずたどりつく、この世界のひとつ奥にある美しい町"美奥"。母親から無理心中を強いられた少年、いじめの標的にされた少女、壮絶な結婚生活の終焉をむかえた女…。ふとした瞬間迷い込み、その土地に染みこんだ深い因果に触れた者だけが知る、生きる不思議、死ぬ不思議。神妙な命の流転を描く、圧倒的傑作。

感想・レビュー・書評

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  • 誰もが一度は、自然の美しさに恐怖を覚えた瞬間があるのではないでしょうか。
    一面の緑、遮るものが何も無い美しい風景。
    空の上の雲、濡れた土の匂い、そして静寂。
    隣には喧騒にまみれた日常が隣り合わせですぐそこにある筈なのに、ここ一体のみが別世界に感じ、まるで身体が浮遊しているような感覚。
    恐ろしくて堪らないのに、麗しい風景に魅了され一歩も動けず、ただただ立ち尽くしてしまう。

    そんなドラマチックで悍ましい「異界」を、脳内フルスクリーンで体験出来る本作品。
    舞台は〈この世界の一つ奥にある美しい町〉、「美奥」。
    現実とすぐ隣り合わせで存在するこの地を舞台とした五つの短編は、時空を飛び越え様々な姿を見せてくれます。
    次々と「美奥」の残酷で眩い姿と歴史を垣間見ていく内に、この不思議な世界観に身体がどんどん取り込まれ、〈魂ここに在らず〉そんな夢見心地な時間でした。
    何度、( ゚∀ ゚)ハッ! 魂=͟͟͞͞('◎' 吸)スッ を繰り返したことか。

    そんな自分はまるで、【天化の宿】にてクトキ「天化」を行った一人の少女の様。
    彼女が「天化」を行った直後に感じたあの凄まじいイマジネーションと同じ物を、
    恒川光太郎は読者に体験させているのですね。
    ....作品を読んでない方からしたらナンノコッチャですが、ナンノコッチャついでに
    地蔵になる準備としてとりあえず笠でも編みたいと思います。はい、自己満ですごめんなさい(*°∀、°*)ゲフゲフ
    ーーーーーーーー

    もし、現実に少し疲れたのなら、
    優しいだけの言葉では救われない程心が悲鳴をあげているのなら、
    美しくも残酷な「異世界」へ逃げましょう。
    豊かで美しい自然に彩られた現代の神話、現実に繋がったこの「境界」の世界で休みましょう。

    そんな貴方に、恒川ファンタジーへの招待状をココに置いておきます Fin..

  • 〈こちら〉の世界から少しだけはみ出した〈あちら〉の世界が存在する「美奥」。
    たとえば、苔むして古びた水路の先、住宅地にひしめく路地のつきあたり。たとえば、赤錆た黒い線路を外れた獣道に建つ民家。
    「美奥」のあちらこちらで世界の入り口はぽっかり口を開けているけれど、全ての人が思いのままに訪ねることはできない。
    その土地に招かれる者と招かれざる者の違い。もしかしたら、自分という器に魂がちゃんと収まっているか、収まっていないかの違いかもしれない……。ちょっぴり魂がはみ出した者だけが「美奥」の暗闇に招待される。
    魂の求めるままに流されるままに。あなたが、あなたでいなければならない苦しみや柵などなくなっていく。今の自分じゃなきゃいけない、そんな必要のない自由へと魂は生まれ変わる。

  • ずっと読みたくて、それでもなかなか出会えなくて縁がないのか・・・と半分諦めていたら、近所の古本屋さんにある日突然あらわれてくれた!

    4話からなる短編集で、全ての話が「美奥」という不思議な町を舞台としている。時代が違っても、登場人物が共通してあらわれたり、「これって…」とつながるところがあったり。
    得体のしれない感じとか、どこか靄がかかったような不透明な雰囲気とか・・・やっぱり好きな世界観!

    お気に入りは、「屋根猩々」と「くさのゆめがたり」かな。
    「屋根猩々」は、町の【守り神】の話。【守り神】は任命されたらあらゆる欲が消えて、みんなのために動くことになる。【守り神】のタカヒロも良いキャラだなと思ったし、タカヒロに助けてもらった主人公が次の【守り神】にさせられてしまって物語が閉じるのもとても良い。
    「くさのゆめがたり」は、「美奥」がまだ「美奥」ではなかった頃の物語。死体を別のものに生まれ変わらせる【クサナギ】を作り出してしまうテン。【クサナギ】を村の井戸や酒樽に放り込む所業はゾッとするけど、村の人間がみんな動物になって、村が自然に還るのは美しく神秘的だなと思った。


    「考えてみれば今世に在るものも、みな多かれ少なかれあやふやなバランスに在るものなんじゃないかと思うよ。何か一つの要因をずらしたり、入れ替えたりしたら、ふっと消えてしまうものはたくさんあるんじゃない。」

  • 恒川さんの綴る「美奥」という土地をめぐる連作短編集。

    脳内に広がるのは、日本の原風景。そして幼い頃に少なからず想像に駆られた異界へ繋がっているかもしれない場所。

    「夜市」「秋の牢獄」に続き、どうしようもなくノスタルジーを感じる、恒川作品の虜です。

  • 恒川さんワールド全開の短編集で、本当に面白かった!
    ホラーというよりもファンタジー色が強く、不思議な世界に浸れました
    特に好きなのは、屋根猩猩。会話のテンポが面白く、皆仲直りでいい展開で終わるのかと思ったら、最後の展開に驚いた。背筋がゾクッとしました!

  • ヤバい。痛烈に彼岸を越えたい。もう越えているのかも。
    どちらが現実かわからなくなった。いや、どちらも当人には現実か。
    これは現実世界なのだ。実存。

  • 〈美奥〉という町のお話5つ。こちらも容赦無いけれど、暮らす世界からすぐ隣にあるような気がする不思議な世界でした。山深い森の奥にありそう。
    恒川さんのお話は時代ものの空気が強いのが特に好みかもしれない、と気づいた〈美奥〉のはじまりのお話「くさのゆめがたり」が好きです。春沢は廃れたけど、〈美奥〉として再生したんだろな。
    前に読んだときはたしか「天化の宿」で行われたカードゲーム「天化」がすごく気になりました。このお話の結末も好きでした。
    再生…同じ形のときもあれば違う生命だったり。クサナギ、動物になる人と化け物になる人となにか違いがあるのだろうか。。

  • こんなに読後感がいい本初めて読みました。
    満足感のある寂しさ。
    この先なんかいもよみかえすと思います。
    気持ちのいいため息。

  • この世界のひとつ奥にある
    美しい町"美奥"を中心に
    繰り広げられるダークファンタジー

    異世界とは
    そんな遠くにあるものじゃない
    残酷な人生に差し伸べられる手も
    身勝手な母親を喰らい尽くす闇も
    全て、普段目には見えない
    ”何か”なのかもしれない...

    恒川さんの作品は
    初めて行く場所や、奥の細道を
    少し迷えば辿り着きそうな
    どこか懐かしく、なぜか切ない
    心の故郷が描かれる事が多いです

    読み終わった後も
    もう一度あの町へ出掛けたくなる
    そんな世界観に魅了されてます。

  • 「夜市」を読んだのはずいぶん前のこと。
    あの、不思議な感覚は、その後、どの本とも一致することはなかった。

    〈美奥〉という場所での不思議な出来事を綴った、作者独特の5篇の連作短篇集。

    現実と幻想の境界が曖昧になるとき、“それ”は起こる……。
    でも、どの物語でも“それ”が起こるもとは、“ひと”の業……。

    夏の夜の生温く冷たい風のようなお話。

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著者プロフィール

1973年東京都生まれ。2005年、「夜市」で日本ホラー小説大賞を受賞してデビュー。直木賞候補となる。さらに『雷の季節の終わりに』『草祭』『金色の獣、彼方に向かう』(後に『異神千夜』に改題)は山本周五郎賞候補、『秋の牢獄』『金色機械』は吉川英治文学新人賞候補、『滅びの園』は山田風太郎賞候補となる。14年『金色機械』で日本推理作家協会賞を受賞。その他の作品に、『南の子供が夜いくところ』『月夜の島渡り』『スタープレイヤー』『ヘブンメイカー』『無貌の神』『白昼夢の森の少女』『真夜中のたずねびと』『化物園』など。

「2022年 『箱庭の巡礼者たち』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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