狂うひと :「死の棘」の妻・島尾ミホ (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (905ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101352824

作品紹介・あらすじ

「そのとき私は、けものになりました」情事が記された夫の日記に狂乱する妻。その修羅を描いた『死の棘』。だが膨大な未公開資料を徹底解読し、取材を重ねた著者が辿りついたのは、衝撃の真実だった。消された「愛人」の真相、「書く/書かれる」引き裂かれた関係。本当に狂っていたのは妻か夫か。痛みに満ちたミホの生涯を明らかにし、言葉と存在の相克に迫る文学評伝。読売文学賞他受賞。

感想・レビュー・書評

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  • 序章、冒頭で、いきなり86歳のミホさんが語っているのを読み、のっけからテンション爆上がり。島尾敏雄著『死の棘』の妻、あのミホさんが、目の前でしゃべってる! と一気に本書にのめり込んだ。

    興味深くて、心がいろんな方向に揺さぶられた905ページ、すごく楽しい、という表現が適切かどうかわからないけど、有意義で濃い読書時間だった。

    島尾敏雄とミホの、それぞれの誕生から死去まで、よくぞここまで調べて書いてくださった、本にしてくださったと、著者はもちろん、本書に携わった方々に感謝の気持ちでいっぱい。

    私は先に『死の棘』を読んでから本書を読んだので非常におもしろく読んだのだけど、同時に、本書の内容を知った上でもう一度『死の棘』を読みたいとも思っている。いろいろと細かい部分で、「これはそういうことだったんだ」という理解や気づき、また一度目とは違った感情を味わえそうだから。

    本書を読んだことで、この2人が戦時に出会って恋に落ちて結婚し、島尾が愛人を持ちミホが狂い、『死の棘』という文学作品が書かれ、さらにはこの『狂うひと』という本が生まれたことまで、すべてがこうなるべくしてこうなった、全員が何かに導かれて動かされ、こうなることになっていた、絶対的必然であったという思いを、確信と言ってもいいくらいに、今、強くしている。

    そして輪をかけて強く興味を引かれて興奮したのは、奄美大島の歴史と、西郷隆盛の奄美大島時代の妻、愛加那のこと、そして島尾がそうそうたる作家たちと交流があったこと。阿川弘之、庄野潤三、埴谷雄高、井上光晴、武田泰淳と百合子夫妻、遠藤周作、吉行淳之介、司馬遼太郎、福田恆存などなど、すごい人たちの名前がたくさん出てきて目が回りそうだった。島尾が心底文学者であったことがよくわかった。

    巻末の、著者と沢木耕太郎さんとの対談「奪っても、なお」がまたとても良かった。沢木さんが読者の思いをバッチリ語ってくださっていてうれしくなったし、ノンフィクション作家としての心持ちなどもかなり興味深い。今回読んだ『死の棘』&『狂うひと』のように、『火宅の人』&『檀』も読みたいと思った。

    • workmaさん
      Sachiさん
      はじめまして。

      書評、すばらしかったです。これは読まなきゃ!と思いました。本書の存在知ってましたが、不倫などの生々しい...
      Sachiさん
      はじめまして。

      書評、すばらしかったです。これは読まなきゃ!と思いました。本書の存在知ってましたが、不倫などの生々しいのが苦手…でも、梯久美子(硫黄島からの手紙)さんの評伝なら大丈夫そう…。
      2023/02/26
    • Sachiさん
      workmaさん、はじめまして。
      コメントありがとうございます。

      私の感想で「読まなきゃ」と思っていただけたなんて、めちゃうれしいです!
      ...
      workmaさん、はじめまして。
      コメントありがとうございます。

      私の感想で「読まなきゃ」と思っていただけたなんて、めちゃうれしいです!

      『死の棘』も『狂うひと』も、激しさはありますが、生々しさはそんなに感じませんでした。不倫そのものよりも、妻もしくは夫、子供たちとの関係の方に焦点が当てられているからかも。
      2023/02/26
    • workmaさん
      Sachiさん
      生々しくないようなので安心しました…_(^^;)ゞ近いうちに読みたいとおもいます。読書の背中を押していただきありがとうご...
      Sachiさん
      生々しくないようなので安心しました…_(^^;)ゞ近いうちに読みたいとおもいます。読書の背中を押していただきありがとうございました( ´ ▽ ` )ノ
      2023/02/26
  • 運命的な恋が一転、お互いを狂気へと引き摺り落としていく夫婦。虚構と虚飾にまみれた理想の夫婦の幻想。ミホさんのその執着は愛なのか憎しみなのか。島尾敏雄の非道さ薄気味悪さに背筋が寒くなる。わたしだったら一発ぶん殴って走って逃げるな…良著。

  • 島尾敏雄の妻である島尾ミホの伝記。『死の棘』で書かれた時期も含めて、加計呂麻島時代から逝去までを辿っている。これほどの内容を書いたこと、書くだけの資料が残されていたことが凄い。小説や日記、評論などの資料を綿密に突き合わせて読むことによって、夫婦の関係性やその時々の心理状態などを論理的・整合的に浮かび上がらせており、ノンフィクションの持つ力、人間の生の奇妙さと面白さが伝わってくる。

  • 【配架場所、貸出状況はこちらから確認できます】
    https://libipu.iwate-pu.ac.jp/opac/volume/571444

  • 圧巻というほかない作品。「死の棘」は「地獄変」だったのだな、と。

  • 途中で脱落

  • 2022.06.01 図書館

  • 『火宅の人』の檀一雄の奥さんの証言を基にして、沢木耕太郎が奥さんに成り代わって書いた『壇』という小説を以前読んだ。細かい内容を忘れてしまったけれど、檀一雄は檀ふみのお父さんで、不倫して、それを題材に小説を書いて、石神井公園が出てきたことだけ覚えていた。
     
     『狂うひと』も作家が不倫して、それを題材にして小説を書いて、石神井公園が出てくるところは同じだが、こちらは『死の棘』を書いた島尾敏雄とその妻ミホの話。檀家は家庭崩壊くらいで済んでいるが、島尾家は家庭崩壊および夫婦それぞれ精神崩壊している。比べるものでもないだろうが、こちらのほうが、一度読んだら忘れようがないくらい壮絶。

     敏雄とミホ、二人の出会いは戦中、奄美群島にある加計呂麻島からはじまる。

     敏雄は戦争末期、特攻艇「震洋」の乗員をまとめる立場の隊長として(敏雄自身も特攻することを運命づけられた立場として)加計呂麻島に赴任した。ミホは島の有力者の家の子として育った。
     特攻することは決まっていたが、命令が下るまでは、これといった作戦もなく比較的のんびりした時間が加計呂麻島の隊にはあったようだ。ベニヤ板でつくったボートで特攻することの無力さを誰もが薄々感じていて、アメリカが攻めてきたら集団自決するしかない、と島民は考えている。集団自決用の墓穴まで自分たちで掘っているが、あまり悲壮感がない。あきらめきっていて、残り少ない人生を、穏やかに生きましょう、みたいな雰囲気だ。
     まあ、そんなものなのかもしれない。死への不安で皆が怯えている、というよりも、なぜだか腑に落ちる。

     敏雄とミホの恋愛は、死が必然の関係として熱くなる。心中と一緒だ。
     二人は夜の海岸で逢瀬を繰り返す。思いの丈を手紙に綴る。敏雄は作家として大成するから、文才があるのは当然として、ミホも負けず劣らずの深い教養で愛の言葉を紡ぎだす。
     このまま米軍が上陸してきて、二人とも命を散らしていたら、不謹慎な言い方ではあるが、戦時下の悲恋として物語は完結していた。

     しかし、米軍は加計呂麻島には上陸しないまま、終戦を迎えた。
      
     期せずして生き残った二人は、その後結婚するが、なにかぎくしゃくとしていた。うちなんちゅうとやまとんちゅうという関係も、周囲からは歓迎されなかった。

     そして数年後に事件は起こる。
     ある日、机の上に開かれたまま置かれていた夫の日記に、不倫の記述があることを発見してしまった妻のミホは、突如、発狂してしまう。
     私小説を書くために、敢えて妻に発見されるように敏雄が置きっぱなしにしたという見方もあるようだが、そうだとしても、ここまでミホが狂うとは思ってもいなかっただろう。

     その後の島尾家は凄絶そのもの。四六時中、夫の不貞を詰り続けるミホ、それに耐え続ける敏雄というのが基本的な構図だが、敏雄も精神的に参ってしまって、嘘かほんとか、自殺を仄めかす。自業自得と言えばそれまでだが、それを近くで見ていた娘も心を病んでしまい失語症になってしまった。想像するだけで、精神的にきつい。

    「死の棘」を読んだことがないけれど、この本を読む限り、読みたいとは思わない。この島尾敏雄という作家にあまり魅力を感じない。でもミホはすごい。キャラクターが強烈。彼女自身、のちに小説を書くようになり、芥川賞にノミネートされたこともあるらしい。紹介されている要約を読むだけでも強烈な作品を書いていたことがわかる。すごく読みたい。

     島尾敏雄は文壇で一時代を築いた人なのかもしれないけれど、その名前が今後も残るとすれば、それはほぼ島尾ミホという強烈なキャラのおかげだと言っていい。

     満島ひかりが島尾ミホ役で主演した映画があるのだが、レビューを見ると、どうも結婚前で話が終わっているらしい。なんじゃそりゃ?

     この「狂うひと」を演じられるのは満島ひかりしかいない!と思っていたのに、狂う前で終わらせてしまうとは、満島ひかりの無駄遣いだ!

     撮り直して欲しい。

  • やっと読了。かなりの読み応えがあって、幸せを感じた。死の棘の腑に落ちないところがストンと落ちてきた瞬間の心地よさとは別に、書くということの恐怖を感じた。全てを捧げたから、死の棘を評価してくれた人の思うような愛された女(巫女)でありたい。近くにいたら嫌だけど魅力的な人なんだろうなと思った。

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著者プロフィール

ノンフィクション作家。1961(昭和36)年、熊本市生まれ。北海道大学文学部卒業後、編集者を経て文筆業に。2005年のデビュー作『散るぞ悲しき 硫黄島総指揮官・栗林忠道』で大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。同書は米、英、仏、伊など世界8か国で翻訳出版されている。著書に『昭和二十年夏、僕は兵士だった』、『狂うひと 「死の棘」の妻・島尾ミホ』(読売文学賞、芸術選奨文部科学大臣賞、講談社ノンフィクション賞受賞)、『原民喜 死と愛と孤独の肖像』、『この父ありて 娘たちの歳月』などがある。

「2023年 『サガレン 樺太/サハリン 境界を旅する』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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