高く手を振る日 (新潮文庫 く 9-2)

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  • Amazon.co.jp ・本 (154ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101354026

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  • 七十代の恋。お互いに配偶者を亡くした、遠い遠い昔に大学のゼミで交流のあった男女。ああ、その年齢になっても、人は、誰かと愛を交わすことを求め続けるのだなあ。一人で過ごす時間に耐えきれないのかなあ。半世紀以上抑えに抑えていた思いがついに決壊して、年齢に相応した心身の限界内で互いを求め合うシーンを読みながら、人間って、ほんとうに愚かで悲しい生き物だなあ、とつくづく感じた。でも、人間が生きて死んでいくこととは、そういう、愚かで悲しい営みなのかもしれない。

  • 「歳月が美しく降り積もった」
    「昔の風貌の上に歳を重ねた面影を自然に浮かべている」
    気になる女性に再会し、動き出す心。

    70歳を過ぎても、人は心が動くと少年のように純粋で、
    青年のように生き生きとして、命が煌めくものなのだなぁ。
    美しい文章が、二人の佇まいを、一層美しく際立たせた。

    タイトルにあるシーンが胸のなかで輝く。

    映画化されたものを見たかったなぁ。

  • 初読であまり掴めないが、他の作品も俗な表現をするのか、文章に少し引っかかる

  • この作品との出会いは、大学入試センター試験の模試だった。
    冒頭が小説問題として取り上げられていた。
    雪の日のお寺の境内で、足を滑らせた女性を主人公が支え、そのままキスをする。
    そのシーンが印象的で、問題を解きながらも「なんて素敵な文章なんだろう」と考えていた。
    模試や過去問、問題集など受験で触れる小説は意外と多いが、印象に残る作品は少ない。
    だから模試が終わった後も気になってはいたものの、その頃は読書習慣があまりなく受験生でもあったために、すぐに読むことはしなかった。
    それから大学が決まって再び本屋に行くと、ハードカバーだけが置いてあった。
    まだ出版されたばかりで、文庫化されていないらしかった。
    結局、値段が高いのでその時も買わなかった。
    しかし、文庫化されたのを最近知り、やっと読むことができた。

    内容紹介--------------------------------------------------
    妻を看取って十余年、人生の行き止まりを意識し始めた嶺村浩平は、古いトランクからかつての大学のゼミ仲間・瀬戸重子の若々しい写真を見つける。そして甦る、重子と一度きりの接吻を交わした遠い思い出。思わぬ縁で再会した重子の勧めで、70代にさしかかり初めて携帯電話を手にした浩平は、秘めた想いをメイルに込めるが……。恋に揺れる、老いの日の戸惑いと華やぎを描く傑作小説。
    ----------------------------------------------------------

    年をとり「行き止まり」が見え始めてきた浩平が、重子と再会してから変わっていく。
    初めは閉塞感でいっぱいの文章も、後半には少し光が差すようだ。
    浩平が新しく何かを始めていく様子にはなんだか元気をもらえる。
    重子の「生きている途中で終りが来る」、「全部途中なんだ」という言葉のように考える方が気楽でいいのだろうと思う。
    まだ元気な私の祖父にも何か新しく始めることを勧めてみたい。

    しかしもう70代の二人だから、若者のようながつがつした恋愛はしない。
    どこか一線引いているような感じがする。
    でも、もう互いにパートナーのいない年寄りだからこそ、もっと積極的でもいいのにとも思う。
    浩平が学生時代の一件から心の奥底にわずかに持っていた感情は、きっと重子にもあった。
    一緒に暮らしてしまえばいいじゃないかと安易に思ってしまうのは、私がまだ若いからなんだろうなあ。

    受験生の時に感じたとおり、文章もよかった。
    複雑な感情をいいあてる比喩と、淡々とした地の文を味付けする美しい修飾は読み応えがある。
    ユニークな表現というよりも、わかりやすい言葉でさらっと表現してくる。

    表紙やタイトル、あらすじを見る限り、とても自分から手に取ることはなかったと思う。
    模試で読むことができて良かった。

  • 派手さはないが、しみじみとしているしみずみずしくもある。

  • ラスト、題名となる高く手を振る場面で、主人公は手を振らなかった。その余韻、2人の関係は続くのか続かないのか読者に委ねる感じが良かった。けど主人公の家での接吻行為は、若者だからか読んでてキツイものがあった。

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著者プロフィール

作家

「2023年 『ベスト・エッセイ2023』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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