歴史を考えるヒント (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (222ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101356617

感想・レビュー・書評

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  • ことばから歴史を読み解き直した成果が満載の良書。目から鱗の出る話ばかり。

  • 意外な意味を持つ、または、思い込みによって誤って理解していることばを手がかりにして歴史を、そして、日本を正しく捉え直そうとする。「網野善彦の本はだいたい読んだほうがいい、というのがぼくのスタンスである」と松岡正剛が千夜千冊に書いている。『日本の歴史を読みなおす』も読んでみよう。

  • 日本中世史に新たな概念を持ち込んだ著者が、1997年に新潮社主催の『歴史の中の言葉』という連続講座で語った内容をもとに書かれたもの。
    網野史学について、「日本」、「関東・関西」、「百姓」、「職人」、「芸能」など、現在普通に使わる言葉がどのように生まれ、もともとはどのような意味だったのかという観点から語られている。
    現代に生きる多くの人々にとって、北海道から沖縄までが日本の範囲で、そこに住む人々を日本人と呼ぶことに大きな違和感を覚えることはないが、「日本」という言葉が現れたのは西暦700年頃で、その時点では東北以北や南九州以南は日本に含まれていなかったこと、更に時代が下っても、東国と西国には別の統治権が及んでいた(東国の鎌倉幕府と西国の朝廷のように)こと等を読むと、国家という概念、更には様々な既成の概念に囚われることへの危険を改めて感じる。
    また、網野史学の中心的題材である、中世の「職人」や「芸能」民など農民以外の非定住民の存在、中世から近世にかけての「百姓」は農業だけではなく商手工業にも従事していたこと等が述べられている。
    網野史学のエッセンスに触れることができる。
    (2012年10月了)

  • 百姓は庶民全般を指す言葉だったとのこと。明治以前は、商工業は未発達で世の中農民ばかり、というイメージ、実は間違いだったようだ。
    網野氏がスポットライトを当てる職能民、すなわち道道者、外才人、神人、供御人、寄人。「神人、供御人、寄人」は「神仏・天皇に直属する聖なる身分の人々」、「課税や交通税免除され」、「全国を自由に遍歴」して交易に携わっていたという。そういえば、隆慶一郎の「吉原御免状」もこのテーマを取り上げていたっけ。

  • わたしは日本史の何を知っているのだろうか。

    「日本」という国名がいつから使われているのか、考えたことがあっただろうか。「百姓」は農業をしているものだと、それ以外の可能性を考えたことがあっただろうか。

    歴史にはどうしても思想や政治が絡む。だから、注意深く、広く、色々な「歴史」を知りたいと思う。

    ことばの定義は特に大事。そのことばが何を示すのか。ことばが思考を作るのならば、ことばが歴史も決めてしまうのだ。

  • 日本を皮切りに、言葉の持つ意味をその時代の変遷と共に捉え、まさしく我々の目を開いてくれる啓蒙の書。平易な文章でわかりやすいが、この背景にどれだけの文献にあたったのだろうかと頭の下がる思いだ。

  • 義務教育や大学受験のための勉強を通じで教え込まれてきた歴史認識が、誤解を孕んだものである(可能性がある)、ということを著者の研究成果から導き出される推測をもとに解説されています。
    全体的に、へぇそうだったのか、と思わされる内容で、これが真実か否かについては、賛否両論ありうると思いますが、一つの仮説として、歴史観に関する知識の引き出しを増やせたような読後感があります。
    全体的に、「言葉」の成り立ちを軸に歴史の解読が進行していきます。

    <目次>
    Ⅰ 「日本」という国名
      歴史と言葉/国名が決まった時
      倭人と日本人/日出づるところ
    Ⅱ 列島の多様な地域
      日本国の範囲/すべての帝国は道を作る
      日本は孤立した島国ではない/平将門の新国家
    Ⅲ 地域名の誕生
      「関東」と「関西」/自立していく九州
      広域的地名と神仏/気づかれていない地域意識
    Ⅳ 「普通の人々」の呼称
      「人民」と「国民」/手垢にまみれない言葉
      柳田学と渋沢学/納税の義務を負う「平民」
      「土」が意味するもの
    Ⅴ 誤解された「百姓」
      「ひゃくしょう」と「ひゃくせい」
      さまざまな生業の「百姓」
      多様な人々を指す言葉/一変した江戸時代像
      誤解は江戸時代から/「農」の陰に隠れたもの
      農本主義と重商主義/貧困な歴史学の用語
    Ⅵ 不自由民と職能民
      古代・中世の不自由民/「奉公人」の出現
      博奕の道、好色の道/聖なるものの直属民
    Ⅶ 被差別民の呼称
      差別意識の東と西/ケガレにどう対処するか
      伝染するケガレ/ケガレのキヨメ
      非人・放免という職能民/死とのかかわり方
      ケガレから汚穢へ/差別される人々/今後の課題
    Ⅷ 商業用語について
      商業取引の高度な伝統/市はどこに立てられたか
      「手形」と「切符」の誕生/「手」は何を意味するか
      聖なる金融から、俗なる金融へ/「接待」と「談合」の歴史
    Ⅸ 日常用語の中から
      誰のものでもない「落とし物」/神の意思を集約した「落書」
      土の中は異界だった/「募る」の三つの意味
      「がいな」と「あたん」/中世における「自由」とは
      失われた日本語の豊かさ
    Ⅹ あとがき

  • 百姓とは、農民だけを指すのでなく、林業も漁業も諸々を指す。とか市庭の意味とか、私の頭をガッツんと殴られた。
    この本は、多くの人が読んで、ものの見方の多様性を、真実を知るのに、良いヒントとなる。

  • 日本という国名の起源は。百姓は農民ではない。語義から歴史の見方が変わる。関東と関西等、地域名の誕生の項がおもしろかった。かつて教養部の講義で中世の石合戦の話をされてたのが懐かしい。2014.7.25

  • ことばから歴史を考えていく本書。「自由」の元々の意味は西欧におけるフリーダムとは違うとか、百姓は農民じゃなかった、などなど。日本という国名がいつから使われたか知らないのに、建国記念の日を定めるのは反対とか、ん?と思う議論もあるけど、全体的に興味深い内容。特に西欧の翻訳語を選んでしまったために、日本での古来からの意味が失われてしまっていることへの嘆きは、初めて納得できた。日本の豊かなことば、というより、元々の意味が違ったんだよね。

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著者プロフィール

1928年、山梨県生まれ。1950年、東京大学文学部史学科卒業。日本常民文化研究所研究員、東京都立北園高校教諭、名古屋大学助教授、神奈川大学短期大学部教授を経て、神奈川大学経済学部特任教授。専攻、日本中世史、日本海民史。2004年、死去。主な著書:『中世荘園の様相』(塙書房、1966)、『蒙古襲来』(小学館、1974)、『無縁・公界・楽』(平凡社、1978)、『中世東寺と東寺領荘園』(東京大学出版会、1978)、『日本中世の民衆像』(岩波新書、1980)、『東と西の語る日本の歴史』(そしえて、1982)、『日本中世の非農業民と天皇』(岩波書店、1984)、『中世再考』(日本エディタースクール出版部、1986)、『異形の王権』(平凡社、1986)、『日本論の視座』(小学館、1990)、『日本中世土地制度史の研究』(塙書房、1991)、『日本社会再考』(小学館、1994)、『中世の非人と遊女』(明石書店、1994)。

「2013年 『悪党と海賊 〈新装版〉』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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