とかげ (新潮文庫)

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (179ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101359120

感想・レビュー・書評

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  • 「時間」と「癒し」、「宿命」と「運命」をテーマにした、6つの短編が収められています。

    第1話「新婚」は、結婚して1か月になる28歳の男である「私」が仕事帰りの電車の中で、さまざまに姿を変える奇妙な人物と邂逅し、妻の待つ家へと帰る毎日通っている道筋から離脱する「可能性」に触れるという物語です。

    第2話は、29歳のカウンセラーである「私」と、その恋人の「とかげ」の物語。「私」は「とかげ」に、「結婚しようよ。引っ越して2人で住もう。」とプロポーズしますが、「とかげ」の返事は、「秘密があるの。」というものでした。「私」は「とかげ」が心に負った傷をを性急に解釈するのではなく、彼女が次の言葉を語りだすのを待つことを選びます。

    第3話「らせん」は、かつて恋人どうしだった男女の会話を綴っています。女は、明快に「わかるってすばらしいことだよ」と言ってしまうような人であり、男が彼女に魅力を見いだせなくなったのは、彼女が「分かってしまう」人だということが分かったからでした。しかし、女と再会した男は、彼女がこの世界のどの風景にも彼の痕跡を認めていたことを知ります。

    第4話「キムチの夢」は、不倫の末に、奥さんから恋人を奪い取って結婚した女性の物語。「不倫の末にきちんと結婚したという例はほとんど0です」という記事のような、自分の人生をパーセンテージで表わすような「一般化の処理」に抗っていた彼女は、あるときとつぜん、「彼に出会ったころ、私は人生のすべての味をかみしめるような気持ちでいつもいた」ことを思い出します。そして、冷蔵庫のアイスノンのにおいで、彼と同じキムチの夢を見てめざめた彼女は、自分と同じ人生の味わいを彼もまた噛みしめていることを知り、2人の新しい人生をともに享受していくと信じることができるようになります。

    第5話「血と水」は、小さな宗教団体に入信しいる両親のもとから離れ、東京で昭(あきら)という男性と恋に落ちた、一人の女性の物語。「どうやっても私は私で、他の両親に育てられた子にはなれない」という、自分の負った宿命を強く感じていた彼女は、昭からアクセサリーの試作品第1号を手渡されたときに、幼い頃からの呪縛から解き放たれることになります。つまりは、近代以降の日本文学が繰り返し扱ってきた、父との和解の物語です。著者がそうした伝統の厚みを突破してより深く問題を突きつめているとは思いませんが、現代的な意匠をまとってさりげなくこのテーマを再演してみせたところが、おもしろさを感じました。

    第6話「大川端奇譚」は、かつて乱脈な性行為を繰り返していた「私」の物語。「私」が幼い頃に、父が浮気をして母が実家に帰っていたことがあり、不安定な精神状態の母親が「私」を川に投げ落としてしまう事件がありました。おそらく、「私」が家族の「救いの天使」とされ、家族の中の歪みが「私」の内部に閉じ込められることで、この家族は健全さを繕うことができたのではないかと思われるのですが、そのために「私」は性的な逸脱行為へと走ることになります。その後、性的な逸脱行為を卒業し、婚約を決めた彼女の前に、Kという男の姿をとって「過去の亡霊」が現われます。Kは、かつて私がいっしょに過激なセックスを繰り返していた仲間の一人です。「私」と再会したKは、「私」の婚約相手のもとへリヴェンジ・ポルノ写真を送りつけてきます。しかし「私」の恋人は、そんな彼女を受け入れ、「私」は「世の中は私があれこれ考えているから動いているのではなく、おおきな渦巻きのなかに私もこの人も誰も彼もがいて、何も考えたり苦しんだりしなくてもただどんどん流れて正しい位置に注ぎ込まれていくのかもしれない」という感慨を抱きます。そんな彼女の心象風景が、彼の部屋の側を流れており、「私を無尽蔵に、ただとにかく許している」川によって象徴されています。

  • じんわり奥から癒されるような本でした。明るくはないけれど、ぐっとくる。心の本当の部分に触れる感じがします。
    変に明るかったり軽く元気をくれるありきたりな文章よりずっと印象に残る。生々しくて怖いくらいが、逆に大事な事を教えてくれました。

  • 吉本ばななは最近食傷したとか言って(勝手に)あんまり読まなくなっていたんですが、たまたま出先で手持ちの本を読んでしまったので薄くて軽いの、と思って適当に買ったら、これすごい好きな話でした。吉本ばなな読んで、こんなに良いと思ったの、初めて読んだ『キッチン』以来かも。なんていうかこう、ちゃんとしたカタルシスのある短編集です。これは良かった。

    ※収録作品
    新婚さん/とかげ/らせん/キムチの夢/血と水/大川端奇譚

  • 許されることの大切さを表現した六篇の短編集。
    どの物語も救いがあり、主人公が心穏やかに終わりました。
    表題作が一番良かったです。

  • 2015.4.24読了
    一つ一つがエネルギーの塊みたいな作品だった。感じたことそのままを書いてあるようなイメージだから、読みやすいって感じではなかったけどいろんなきっかけがあって何かしらの気づきを手に入れて現状を受け入れていくって感じ。諦めて流れに流されてゆくっていうか。

  • 昔読んだときはまったく意味がわからないものだらけでした。ここに書いてあることはすべて、「話したい、言葉にしたくない何もかものこと」だったからだと思います。
    すこしずつ、言葉にしないほうがきちんとわかる何もかものことを知って、はっきりはしていないけど、すきとかきらいとかいいとかわるいとかじゃないもっと大事なものの伝え方を教えてもらったような気持ちでした。
    血と水の中にあるお父さんの手紙、「どこにいても、あなたは許されていて、愛されています。私たちからだけではなく。」という言葉がだいすきです。宗教くさい、というけれど、親子とか家族、愛情というのはどれも少なからず宗教のような気がします。
    根拠はないけどすき、たいせつ、だから生きてゆける、だめになってもまた見つけるしすきになれるという気持ちはきっとなによりもつよい。

  • 吉本ばななさんの短編集である。
    当時としては、進んだ内容であったであろう。
    今読んだら、そんなに良いとは感じなかった。

  • 時間と癒し、宿命と運命、をテーマにした短編集。短い映画を集めたみたいな本です。

  • 吉本ばなな作品を初めて読む。ゆるい文体の短編集であるが男性と女性の感覚の違いなのか所々の表現に関してピンとこない箇所が少なからずあり、先に進みにくかった。女性が読めば腑に落ちるのかもしれないけれども男性のワタクシとしては残念ながらレトリックが合わないと感じた。

  • 初めて読んだ吉本ばなな。なまぬるーい感触の短編集。

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著者プロフィール

吉本ばなな(本名:吉本 真秀子 よしもと まほこ、旧筆名:よしもと ばなな)
1964年、東京都生まれの作家。日本大学芸術学部文芸学科卒業。卒業制作の「ムーンライト・シャドウ」が日大芸術学部長賞を受賞。また「キッチン」で第6回海燕新人文学賞を受賞、デビュー作となる。
1989年『TUGUMI』で山本周五郎賞を受賞。1996年イタリアのフェンディッシメ文学賞(35歳以下部門)、1999年イタリアのマスケラダルジェント賞文学部門を受賞。2000年『不倫と南米』でBunkamuraドゥマゴ文学賞を受賞。その他代表作に、映画化された『アルゼンチンババア』などがある。
海外での評価が高く、著作が多くの国で翻訳されてきた。

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