とかげ (新潮文庫)

著者 :
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  • Amazon.co.jp ・本 (179ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101359120

感想・レビュー・書評

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  • 今の自分と正直に向き合って、今生きているだけで十分幸せだと思えてくる。
    それは、心通わす人が側にいるから。
    この本は、そんな希望と優しさに満ち溢れています。

    特に「らせん」がよかった。
    お互いを写しあい、永遠に続くらせん。
    こんな愛情って、素敵ですね。

  • 吉本ばななさんは、
    大学時代『キッチン』を読んで強く印象に残った作家さんです。
    1回読んだだけでは、消化しきれなくって
    もっともっと理解したいのになかなか難しいです。
    でもなんとなく、登場人物が変化をするその過程を辿っているのかなと思いました。
    まだまだ吉本ばなな通にはなっていないので、
    感想はこのへんで。

  • とかげみたいな女って、いい表現だと思う。
    感想が陳腐になってしまうので具体的なことは書かないけど、吉本ばななさんの作品は登場人物の会話が変に情熱的じゃない所が好き。端的。それでいて人間味がある。

  • あとがきに「全部、『時間』と『癒し』、『宿命』と『運命』についての小説です」と書かれていたが、まさに小説全体からそのような空気を感じた。
    変化が起きる前の不安定さがありながらも、これから来るのは絶望ではなく希望だと分かる。
    そんな感じがした。
    自分が大きな流れの一部であるような感覚になった。

    好きな作品ばかりで、お気に入りの一冊となった。
    いくつか抜粋して感想を載せようと思う。


    『新婚さん』
    夜遅く、電車の中で主人公はホームレスの男性と出会い、不思議な体験をする。
    なぜ帰りたくないんだろう。
    その問いから、思考がだんだん深くなっていく。
    日々を過ごしている場所でも、「もう二度と訪れることがない場所」として見ると愛しく感じる。
    目の前の景色全てが胸に響く。
    その感覚は、分かる気がした。

    何だか分からないモヤモヤが心の中にあるとき、言葉にすることができると心が落ち着くときがある。
    この二人のような会話を、自分の心の中でやってみるのもいいかもしれない。


    『とかげ』
    とても好きな話だった。
    でも感じたことをうまく言葉にできない。
    じわじわと心に染み込んでいく感じがした。
    終わり方にグッときた。

    「自分たちはもういいんだそんなこと考えなくて。たくさん、たくさん、考えてきて仕事にした段階でもういいんだ。そう思おうよ。まだできることはたくさんあるよ。すこしずつ。はうようにでも、いい思いをしよう。できることを増やそう。でなければ生きているとは言えない。今はどんなに変な様子でも。」(P54)

    涙が出そうになった。
    私も、好きなことをしたり好きなものを見たりして、いい気持ちになりながら、少しずつでも生きていきたいと思った。


    『キムチの夢』
    不倫相手と結婚した主人公が知らず知らずのうちに抱えていた、「待つ」という重々しい時間や疲れ、すっきりと晴れない視界。
    それらがすっとなくなる瞬間が、不思議で気持ち良かった。
    同じ匂いを嗅いで同じ夢を見るというのは、「生」をともにしている感じがしていいなぁと思った。


    『血と水』
    そのときの自分にぴったり当てはまる言葉というものがあって、救いのような、目が覚めるような、そんな感じになるというのはすごくよく分かった。
    私にもそういう瞬間が過去にあった。
    そのときの「私」にしか当てはまらない言葉で、他の人が聞いたらなんでもない言葉かもしれないけれど、そのときの自分にとっては心に光が差したような心地になる。

    「自立とは、結婚とか独り暮らしとか、そういうことではないのだ。全然違う。結婚して家を出ていて子供がいても親の影を背負っている人を大勢見た。それが悪いということはないけれど、とにかく自立ではないのだと思う」(P116〜117)
    この言葉が印象的だった。

  • 吉本ばななワールド全開。とかげが好きでした。
    本全体からなんとも言えない雰囲気(言葉にできないのが悔しい)がでていて、それもばななさんらしさ。あと10年くらいしたら全てを感じとれるのかしら。

    そしてあとがきがいい。
    「このような短編集を今の私はどうやってももう書くことができないけれど」というところ。

  • 短編集。
    最初の意外は読みやすかった気がする。
    静かで儚いという感じがした。

  • 最後のが一番強烈だったけれど、思いの外、後味が良かった。

    あとがきがやっぱりいい。
    「このような短編集を今の私はどうやってももう書くことができないけれど・・・」
    その時々に与えられる、極上の悲しみと喪失感、葛藤、閉塞感、孤独感。喜びやなんとでもなれと思う開放感。どれもこれも、その時にしか与えられていないのだから、もっと「今」を大事にしたいなと思わせてくれた。

  • 2年ぶり?くらいに読んだ。

    自分的に、これぞ吉本ばなな感がある。綺麗な言葉たち。ワードセンス。無邪気で繊細な文章。
    「希望」を前にした人たちの話。人間は、幸せになることに不安がある。幸せになることは実は不幸になることよりも勇気がいる。昔映画で見たそういう言葉を思い出した。世で言われる「幸せ」を前にした人間たちの不安定さが苦しい。けど吉本ばななの言葉のおかげでその弱さを愛しく感じる。


    「また会ってください。」
    私は言って、彼女の手を握った。
    どうしてもどうしてもさわりたくて、気が狂うほど、もういてもたってもいられなくて、彼女の手に触れることができたらもうなんでもする、神様。
    そう思った。そう思ってした。自然も不自然もない。せざるをえない。思い出した。本当はそうだった。何となく気があるふたりがいて、何となく約束して、夜になって、食べて飲んで、どうする?となって、今日あたりいけるとお互いが暗黙の打ち合わせをしてる、というものではなかった、本当はただたださわりたくて、キスしたくて、抱きたくて、少しでも近くに行きたくてたまらなくて一方的になんでも、涙がでるほどしたくて、今すぐ、その人とだけ、その人じゃなければ嫌だ。それが恋だった。思い出した。


    でもとにかくその日は、ずっとベッドに寝ころんで秋空の透明を見ていた。ほんとうにどこまでも透明で、どうしてだか、何だか裏切られているような感じがした。
    となりの子供が練習しているへたくそなバイオリンが泣かせた。


    昭と出会ってはじめて私は自分がひとりだというさみしいことの本当の意味を知ったということだった。……略……私は私のことを考え、それをしているのはこの世で私だけだということ、ぽっかりと私はここにいて、何もかもを決めていて、ここにしかいない。
    うまく言えない。
    私の家は私だけで、私のいるところがいつもここで、それでもまるですばらしく美しく青い夜明け前もすぐにまた別の美を宿す朝焼けになっていくように、何ひとつとどめることができない。そんなようなこと。


    私だって、あなたがすごく好きだった。


  • なんか、自分の奥底に眠っていて、まだ言葉になっていなかった色々が、言語化されてた…もしくは、自分が誰かからかけてもらいたかった言葉が、話されていた…そんな気にさせられる場面がたくさんあって、なんでわかったの?と怖い感じがした。
    自分の中のモヤモヤが言語化されているからと言って、読んでスッキリしたかと言われると、そうでもなくて、どちらかというとなんかもっとずっしり重みが増したような感じもある。
    でも、この短編集が嫌いかと聞かれると、全然そうではなくて、むしろまたすぐに読み直したい感じもするから好きなんだと思う。

  • 表紙のぽこぽこしてる感じ、私とても好きです。

    ばななさんの短くもずっしりとした大福のようなお話たち、大事にする

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著者プロフィール

1964年、東京生まれ。日本大学藝術学部文芸学科卒業。87年『キッチン』で第6回海燕新人文学賞を受賞しデビュー。88年『ムーンライト・シャドウ』で第16回泉鏡花文学賞、89年『キッチン』『うたかた/サンクチュアリ』で第39回芸術選奨文部大臣新人賞、同年『TUGUMI』で第2回山本周五郎賞、95年『アムリタ』で第5回紫式部文学賞、2000年『不倫と南米』で第10回ドゥマゴ文学賞(安野光雅・選)、2022年『ミトンとふびん』で第58回谷崎潤一郎賞を受賞。著作は30か国以上で翻訳出版されており、イタリアで93年スカンノ賞、96年フェンディッシメ文学賞<Under35>、99年マスケラダルジェント賞、2011年カプリ賞を受賞している。近著に『吹上奇譚 第四話 ミモザ』がある。noteにて配信中のメルマガ「どくだみちゃんとふしばな」をまとめた文庫本も発売中。

「2023年 『はーばーらいと』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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