白河夜船 (新潮文庫)

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  • 新潮社
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レビュー : 303
  • Amazon.co.jp ・本 (194ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101359175

作品紹介・あらすじ

いつから私はひとりでいる時、こんなに眠るようになったのだろう-。植物状態の妻を持つ恋人との恋愛を続ける中で、最愛の親友しおりが死んだ。眠りはどんどん深く長くなり、うめられない淋しさが身にせまる。ぬけられない息苦しさを「夜」に投影し、生きて愛することのせつなさを、その歓びを描いた表題作「白河夜船」の他「夜と夜の旅人」「ある体験」の"眠り三部作"。定本決定版。

感想・レビュー・書評

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  • 奇しくも角田さんのエッセイに続き
    コレもまた夜をモチーフにした短編集(笑)

    表題作『白河夜船(しらかわよふね)』が
    大好きな安藤サクラ主演で映画化されたということで
    なんと25年ぶりに読み返してみたのだが、
    この頃のばなな節はやはり別格だし、心地が良い。

    果てなく甘く、どこまでも静謐で、
    まばゆいほどに煌めく感性は圧倒的な光を放つ。

    乱暴な言い方をすれば吉本ばななの小説は
    ウォン・カーウァイやソフィア・コッポラ監督の映画と同じく、もはやストーリーは二の次(笑)。
    ばななさんのほとばしる切ない感性ありきで、
    その卓越した比喩表現と美しい情景描写、
    そして儚き世界観にどっぷり浸ればいいのである。

    昔からばななさんの作品は別れと喪失を描きながらも
    人との出会いとたくさんの食べ物によって人間が再生していく姿を描くことがテーマともなっていたが、
    初期のこの短編集も停滞した暗闇から動けなくなった人たちが
    紆余曲折を経て光ある方へ、
    自分の足で歩き出すまでを描いている。

    文章の隅々から沸き立つ切実な想いと
    過ぎ去ってしまうからこその刹那な輝き。

    切なさの塊のような文体で綴られる、
    いつかは消えてしまうものへの憧憬と鎮魂。

    ばななさんの小説は
    死や別れというテーマを扱いながらも
    なぜか読んだ後には
    生きる気力が湧いてくるから不思議だ。


    親友の死の衝撃と、不倫による不安と淋しさが身にせまり、
    次第にコントロールできない「眠り」に支配されていく女性を描いた表題作
    『白河夜船』、

    兄を突然の事故で亡くした少女と
    兄の元彼女であったアメリカ人の留学生、
    そして兄と死の直前まで付き合っていた従姉の女性との不思議な絆を描いた
    『夜と夜の旅人』、

    異国で知らぬ間に逝ってしまった、かつての恋敵の女性に想いを馳せる
    『ある体験』、

    など、どの話も忘れがたい印象を残すけど、
    やはり表題作の『白河夜船』で描かれる
    孤独の闇の中、「夜の果て」をさ迷う寺子が切なくて、
    ラストの花火大会に込められた希望やイノセンスの美しさに、
    妙に涙腺を刺激された。
    (コレは25年前には分からなかった感情だ)

    そして愛する人の死によって、予想のつかないところへ来てしまった二人の女性の再生を描いた
    『夜と夜の旅人』の
    溢れ出る恋情も胸に染み入る。
    近しい人を亡くした経験のある人には本当に堪らないストーリーだろうし、激しく共感することだと思う。


    学生時代、僕が初めて読んだばななさんの本は
    「キッチン」だった。
    恋愛や別れを経験する中で
    口に出せなかった気持ちや、思春期に自分が見ていた景色や、言葉で表せないもどかしい感覚を、
    こんなにも見事に
    美しい『言葉』で表せる人がいたのかと本当に衝撃的だったけど、
    学生時代に受けたこの洗礼は
    今思うに正しかった。

    そしてばななさんの小説には
    必ず人の気持ちを温めたり救ったりしてくれる、
    頭ではなく心に作用する「何か」が
    どの作品にも息づいている。

    言葉は時間と共にあり、時間の中にしかない。
    けれども「いい小説」は
    その「時間」さえも軽々と超えていくのではないだろうか。

    拭い去れない喪失感に苦悩したり、
    報われない愛の前で立ちすくむ
    すべての人たちへ。

  • よしもとばななの作品は僕の肺に冬の空気のように冷たくスーッと入ってくる。

    僕は一時期(いや今もかもしれない)
    とてもよく眠っていたからこの本がすごく好きだ。

    それぞれの物語がとても美しく儚い。

    あとがきにあった
    「自分の人生の時間を配分するのは自分だけ」
    という優しい言葉に救われた。

  • 「吉本ばななは、貪るように読んでいたんだ。中学くらいのときに」
    蛹はそう言って、懐かしそうに目を細めた。
    「読みすぎて、最後は飽きてね。それがこの本の途中だった」
    「それで、今ごろ続きを?」
    葉月の問いに、蛹は曖昧に頷いた。

    静かな冬の夜だった。風と、打ち寄せる波の音だけが、窓の外から低く響いていた。
    「今思うと、あの頃は何が面白かったんだろうね」
    「……? つまらないんですか、それ?」
    葉月は、テーブル越しに蛹の手元を除き込んだ。蛹は、笑った。
    「いや、とても好きだよ。静かで、真っ暗で」
    「たとえば、冬の夜みたいな?」
    「うん、今日みたいにね。実際、冬の夜の話なんだけど。……何が面白かったんだろう、と言ったのは、なんというか、この物語は、すごく奥まった場所にあるだろう?」
    「奥まったところ?」
    「喪失とか痛みとか、悲しみとか……そういう入りくんだ路地をいくつも抜けた先にある、静かで暗くて、落ち着いた雰囲気の小さな店のような、そういう場所で語られている物語だろう?」
    葉月は、控え目に頷いた。
    彼の言うことは、よく分かった。
    「どんな本でもそうですけれど、出会うべきときというのがありますよね」
    「うん。昔の自分が、吉本ばななの本をどう感じていたのか、いまいち思い出せないんだ。単に読みやすいから読んでいたのかな」
    「どうでしょう、何かしら感じるものはあったんじゃないですか」
    「さあね。あるいは、今読んで感じることができる孤独や失望や喪失感の、予兆のようなものは感じていたかもしれない。この先失うことになるものや、この先感じることになる痛みの片鱗のようなものを」
    そして蛹はふと口をつぐみ、苦笑した。
    「……つまらない話をしてしまった」
    それきり、蛹はいつものように黙り込んでしまった。それで、葉月もそれ以上は話しかけなかった。
    そうしてまた、静かな部屋に、風と波の音だけが響いていた。

  • すぐ内容は忘れてしまうと思う。どうしようか悩んでいることがあって、あんまり現実感のある本が読みたくないときだったので、ちょうどよかった。

  • 心の底に眠る真っ暗な感情もちゃんと息をしていたのだ、とこの本は教えてくれる。大切な人を突然失う体験、たとえば友人を亡くした喪失感はきっと、同じ体験をした者でなくてはわからない。気がつくと、夜の闇に引っ張られそうになっている自分を見つける。哀しみと向き合うというのはきっと、そういうことの繰り返しだ。

    すべてを理解し合うことなんて、どんな人間同士でも無理だろうけれど、それでも私たちは同じ感情を共有しようとする。楽しかったこと、嬉しかったこと、悲しかったこと。ぜんぶ分かり合えることよりも、ひとつでも何かわかり合えたことを喜びに感じる。人間はそういう非効率でまっすぐでどこまでも温かみのある生き物だ。よしもとばななの本は、そういう人生の余韻を私たちの心の中にいつも残していく。

  • 『しおりといると、人生の重みがずっしり来る時に、それが半分になるの。気持ちが楽になってね、別に何をしてくれるわけでもないのに、いくら気を許しあってもべたっとこなくてね、ちょうど良く優しい感じでね。』

    と、優しすぎることは冷たすぎること。が好みです。

  • ばななさんの作り出す世界観ほんと好きだなぁ。

    恋人・友達・家族といった、言葉は簡単に区別できるようになっているけど。ばななさんの作品は、そういったカテゴリーが伝わらない。主人公が登場人物に対して何かしら想っている雰囲気が心地いい。

    色んなカタチの愛情。切なくて、あたたかい。全部で三つの短編集なんだけど、どの話もじっくり味わって読めました(笑)あとがきもよかった。

    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

    【ふだんは敬語を交えないで話す彼がふいにそう言ってくれるその言い方があまりにも好きで、聞く度に世界がふっと閉じるように思う。シャッターが降りてくるように盲目になる。その響きと余韻を永遠のように味わう】

    【私はなにも変わらず、二人の状態もなにひとつ変わってはいないけれど、こんな小さな波をくり返しながら、ずっと彼といたいと思った。とりあえず今は、いちばんいやなところを通り過ぎたと思う。なにがそれなのか、はっきりとはわからないのに、そんな気がする。だから、今ならば他の人を好きになることさえできるかもしれない。―でも、多分しないだろう。私は、今、横に立つ背の高いこの人と、生き生きとした恋を取り戻したかった。大好きな人と。すべてをこの細い腕、弱い心のままでつなぎとめたかった。これからやってくるはずの雑多でおそろしいたくさんのことをなにもかも、私の不確かな全身でなんとか受けとめてみたかった。】

    【手元にはもうなにも残ってない、ただ前に進むだけの夜の底。なにから手をつけていいか、少しずつわかりはじめている、でも、なにもないの。あの人は、なんだったんだろう、いや、意味なんてない。そう思うと、少し落ち着いて眠ることができた。】

    【水男の中ではすべてが「時期」なのだろうか。私のことも、私といることも。】

    【あの安心、あの甘さ、あの切なさ、あの優しさ。よかったなあ、と私はライトに照らされた庭木の緑を見るごとに、あの柔らかな旋律のしっぽをかすかにきらりと思い出し、よい香りのようにくんくんと追い求めるだろう。そして少しも思い出せなくなり、やがて忘れてゆくのだ。】

  • 起きていることが困難なほど眠ってばかりいた頃この話を読んだので、なんだか自分の話のような気がして衝撃を受けました。

    ひとは眠り、夢を見ることで心の傷を癒すのだといいます。

    眠ることは怠惰のようでいて実はすごく体力を使ったりするんだけど。

    眠ることでしか回復できない傷もあるんだなと、思わせてくれる作品でした。

  • 中学生のときに読んでうっとりしたこの本を
    今日読み返しました。
    3つのストーリーが入っているけれど、
    わたしは表題作「白河夜船」がとても好きです。

    当時は「大人の世界だなぁ」と思っていたけれど、
    わたしはもう主人公の歳を越えてしまいました。

    「うっとりした」といったけれど、
    この本の主人公は無職で寝てばかりいて
    不倫相手からお金をもらって生活しているし
    不倫相手の奥さんは植物人間だし
    主人公の親友は自殺してしまったし
    設定はもうドロドロなのです。

    それなのになんでだろう。
    みんなとても人が良くて優しくて、真剣だからかな。
    そういうところがうそ臭くならないで
    読者に受け入れられるように書けるところが、
    よしもとばななって上手だなぁって思います。

    あと、よしもとばななってなんでこんなに、感覚を言葉で上手に表現できるのだろう。
    『私のこころの中の明るいところがあの子の背中についていってしまったような、がらんとした気分』
    という箇所なんか、「あぁ本当にそれピンとくるなぁ」と共感できます。

    25歳のわたしも、しっかりうっとりしていました。

  • よく眠る今の自分として、読むべき時に読んだ感じ。
    ある体験、好きだなあ。
    この本好き。

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著者プロフィール

吉本ばなな(本名:吉本 真秀子 よしもと まほこ、旧筆名:よしもと ばなな)
1964年、東京都生まれの作家。日本大学芸術学部文芸学科卒業。卒業制作の「ムーンライト・シャドウ」が日大芸術学部長賞を受賞。また「キッチン」で第6回海燕新人文学賞を受賞、デビュー作となる。
1989年『TUGUMI』で山本周五郎賞を受賞。1996年イタリアのフェンディッシメ文学賞(35歳以下部門)、1999年イタリアのマスケラダルジェント賞文学部門を受賞。2000年『不倫と南米』でBunkamuraドゥマゴ文学賞を受賞。その他代表作に、映画化された『アルゼンチンババア』などがある。
海外での評価が高く、著作が多くの国で翻訳されてきた。

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