なるほどの対話 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (312ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101359519

作品紹介・あらすじ

吉本:「学校は自分をぐしゃぐしゃにした」という印象が強くあります。学校、つらかったですねえ…。河合:とにかく日本には、おせっかいが多い。それは、"創造する"作業にとって、ものすごくマイナスなんですよ。日本はクリエイティビティを表に出すのが、難しい社会です。-個性的な二人のホンネは、とてつもなく面白く、ふかい。対話の達人と言葉の名手が明かす生きるコツ。

感想・レビュー・書評

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  • 最初は自己紹介のようなセッションから、往復書簡を経て、最後ガンガン心の深い所に話しが入っていきます。尻上がりだと思うので、頑張って最後まで読みましょう。

    ・河合:コンピューターでバーッとやるというのは、イエスかノーかということでしょ。そっちの方が世界を制覇した。だけど人間というのは、はっきりしない方が本当なんじゃないかと思っているんだけど。
    吉本:時間の節約ということを考えたときに、はじめて出てきたんですね。
    河合:そうそう、能率。だから、そんなに能率よくするのが好きやったら、能率よく死ねと。うろうろ生きてないで。うろちょろするのが好きだから生きてるわけでしょ。

    ・ぼくらはだいたい時代精神に合わない人とばかり会っているわけじゃないですか。だから以前はそういう人たちが頑張って生きてるのを見てたら、時代精神に合ってスイスイやっている人を見ると腹が立っていたんです。「あいつは表面的だ」と。でも、よく考えると、表面的では無いんですよ。それは、その人に合っているだけのことで。
    …以前はなんとなく腹が立っていましたが、この頃はいいと思うようになりました。いま時代に合っている人たちも、戦国時代だったらむちゃくちゃになっていたかもしれんから。これは、しょうがない。運命ですよ。

    ・吉本:対談中、オフレコの部分でふと河合先生が「(男と女は)あんまり好きすぎたら一緒に暮らすのは難しい」というようなことをおっしゃったのですが、覚えていますか?ものすごく印象深い言葉でした(文学的見地から…)。それについて、何か思うところがあったら教えてください。
    河合:男女があまりにも好きになると、一体感への希求がやたらに高まり、何から何まで「ひとつ」でないと収まりがつかなくなります。そして、そのような生き方は、一緒に住んでいると長続きしないのです。残念ですが。

    ・吉本:小説を書く場合には、目的地意識みたいなものが間違っていなければ、だいたいちゃんと何かが起こって、うまくいきます。また、たとえば、誰かの相談を受ける場合だったら、「治すことを目的としない」ことがとても大切ですね。そういうのと同じで、小説の場合も、誰かを感動させようとか、そういうことを目的にしなければ、まず大丈夫。その小説が自分に対して求めていることにこたえられるか、という部分が合致すれば、絶対大丈夫。「こんなのを書いてやれ」なんて思ったら絶対だめですね。そうすると、何も偶然が起こらない。堅苦しい空間ができて、広がりがなくなってきちゃう。

    ・吉本:技術に関して言えることがあるとすると、技術は偶然にアクセスする最低限のものなんですよ。それがないと、結局偶然にさえアクセスできないと思います。…
    河合:それ、すごく面白い言い方ですね。それは、ぼくらの世界でも活かすことができる。技術とは何か。我々の世界では、技術とは何かが常に問題になるんですよ。それの片方の極はね、「人と人のころに、技術とはけしからん」と。「愛情があればいい」とか言う人がいるわけ。
    それは教育者に多いんです。「そんな、技術なんていう非人間的なことを言うのはけしからん」と。「人間が人間を愛するのが最高だ」とか言うやつに限って、ほんまはあんまり愛してない。

    ・河合:難しい人との時間というのは、なんというか、二人一緒に水の中をもぐっているようなものでしょ。こっちが息が切れて死ぬかというくらいのときに、フッとその人がよくなっていきますよ。「よくなってきました」って言われれば、こっちも「よかったですねえ」と言うでしょ。「それやったら今度、これしたらどうですか?」、「やってみます」。「たいへんやったねえ」、「先生のおかげです。先生がおられなかったら、もう私は死んでいたでしょう。先生のおかげで、ここまできました」。そうすると、こっちも嬉しくなってきてね。この調子で次のステップに進もうと思うわけ。で、その人が帰っていって、「ついにここまできたかあ」なんて思っていると夜中に電話がかかってきて、「河合、今日の態度はなんだ。ちょっと言うただけで、嬉しいなりやがって」。
    ちょっと、こっちが浮いてるんですよね。一緒に浮いてるのはいいけれど、向こうより浮いてはだめなんです。

    いちばん大事なのは、「その人が本当に言いたいことはなんなのか」を知ることなんですよ。で、その人がいちばん言いたいことは、「このぐらいのことで、ウロウロするな」ということなの。こっちが、ちょっと失敗したと思うと、ウロウロってするでしょ。それが、その人の不安をかきたてるんですよ。よけいに不安になる。その不安を解消するためには、その人はむちゃくちゃ言うより仕方ないんですよ。

    ・河合:「自分のにおいがする」というノイローゼがあるんです。変な臭いがしてきて、もちろん本当はしていないんだけれど。で、その人ははじめ皮膚科に行ったりするわけ。ところが皮膚科の先生は、どこもおかしくないから、「カウンセラーのところに行きなさい」。で、ぼくのところに来る。ぼくのところに来て、はじめは「いやな臭いがするんです」と言うけれど、「はあ」って聞いておったら他の話しになってしまうんですよ、自分の心のなかの。「こんなとき、こんなやった」とか、「あんなことがあった」とか。「そうですか、また話しに来てください」。また来られて、そんな話になって、臭いの話しなんてなくなってしまうんですよ、ぜんぜん。ひたすら自分の心の問題の追跡に入っていって、そして、そのまま進んでいって、きれいによくなったらなくなってしまう。ところが、うまいこといってないと思っていたら、あるときにその方がパッと入ってきて、ぼくの鼻のところに自分の体をもってきて、「先生、臭いがするでしょう」と言うんです。そのときに、「臭いがする」と言ったら嘘でしょ。でも「しない」と言うと、ものすごく怒るわけ。自分では、してると思ってるから。「嘘つくな」とか、「勝手なお世辞言うな」。臭いが「する」と言ってもだめだし、「しない」と言ってもだめでしょ。そういうときに、「どっちにしようか」と思うのは間違いで、「そういうところに追い込まれているのはなぜか」と考えなければいけない。ものすごく切羽詰って、ぼくを追い込みに来ている。何かあると思ったら、その前の回のことを思い出してね。「前の時間、あなたに会ったすぐあと、講演に行こうと思ってたから、どうしても時間が気になって、終わりの10分は、ちょっと本音で聞けなかった」と言ったら、「ああ」って、ちゃんと座って、もうそのことは何もなし。臭いの事は消えて、普通の話しになる。すごく面白いのは、その人は、来て「先生、前の10分はちゃんと話し聞いてくれなかったでしょう」とは言えない。
    吉本:そう言ってくれればいいんだけど、言えないんですね。
    河合:言えない。そのうちに臭いがしてくるんですよ。そういう形で出てくる。で、考えてみたら、その人は「臭い」という通路を持っているわけ。それが人に対するいちばんいい通路になっている。「臭いがします」ということで訴えてくる。それは「助けてくれえー」といちばん言いやすいところでしょ。
    吉本:翻訳を間違えるとたいへんなことになる。
    河合:そのときに、そこの通路にこっちが入って、「する・しない」と言うと、答えがなくなるんですよ。

    だからそのときに、いちばんもとの、言いたいところにかえって、そこで会うかぎり絶対大丈夫という自信をもっていたら、よっぽどのことを言われても。それが「臭い」だったらいい方で。「死ぬ」とか「殺す」になってくるからね。

    ただ、ありがたいことに、ちょっとぐらい失敗しても向こうも辛抱して笑ってるから。もう、すっごい感受性やね。本当にあれには感心します。

    ・自分がわからなくなったときというのは、まだ自分のなかに、「ぼくが治そう」という気が残っているんですよ。「こうすれば」とか「ああすれば」とか「こうしてあげたら」とか、どこかにに凝っているんです。それを超えないといけないんです。

    ・自分で「生きたいです」なんて言うたら、あかんわけよ。「あ、そう。ほな、頑張って」ってなことで(笑)。その意を汲めば「生きたいということが、どんなに困難で、どんなにたいへんで、やっぱり死んだ方がいいというぐらいのところなんだ」ということになるのでしょうが、「死にたい」としか言いようがない。

    ・私の頭のなかにある空想を、ただ書いているだけだったら誰も面白くなんかないはずだから。みんなの持っている深いところへ一緒に降りていかないといけない。

  • 対談集。話を忘れると最初から読む。なかなか読み終われなかった一冊。

  • 今、立ち止まって悩む以外に何も手のつかない人におすすめしたい本だった。
    吉本さんも、河合さんも、現実との折り合いをつけられずに悩む若者たちに心を寄せて、何かの役に立たなければ生きていてはいけないのではないか、という焦燥感に身を焼かれている彼らに、立ち止まってもいい、起き上がれなくてもいい、と、ただ、肯定の言葉をくれる。
    このことが、私にとって、本当に生きる希望になった。
    特に印象に残っているのは、眠りについてのお二人の言葉。
    吉本さんは、高校時代は3年間、ほとんど眠って過ごされたそう。
    とにかくたくさん眠ってしまう、強烈な眠気に襲われている、若い人たちがいることに関して、河合さんが、その人の内界で起こっていることと、外界で起こっているかけ離れているため拒絶するより仕方がないため、と話していた。
    自分が普段考えていることと、世間の大きな差には、いまだに悩まされて続け、折り合いがつけられずにいるため、とても親近感があった。
    また、そうした気持ちでいる人たちが他にもたくさんいる、と知ることは、何より、自分の抱える孤独感を、ふと、緩ませるきっかけになる。
    当事者同士が生身で繋がることはなかなかハードルが高く、難しくとも、理解者たちの本を通じて、その存在を知ることができ、とても、嬉しかった。

  • 吉本ばななが、私たちのモヤモヤを言語化してくれて、河合隼雄にそれを受け止めてもらえたような、ホッとした感じがあった。
    河合隼雄の話すことが、普段精神科で働く私に、ヒントや勇気を与えてくれた気がした。
    またゆっくり読み直したい。
    そして、次は『いのちの輝き』、『不倫と南米』、『アムリタ』読みたくなった。早く読みたい。

  • 昔から河合隼雄先生の本が好きだった

    いつも聞き役の河合先生が
    吉本ばななさん相手によくお話されているのが
    よかった

    所々の思春期の子どもの話が心に残る

    私も聴ける人になりたい

  • 吉本ばななさんによる最後のコメント「二人でにこにこしながら餅を焼いて、熱い熱いと言いながら食べた思い出は、私の一生の宝です。」が、この対談の全てが凝縮されていてすごく良かった♪吉本ばななさん、実を言うと中学生の頃に「キッチン」を読んだだけなんですが(笑)、やっぱり言葉選びのセンスがありますし、ものすごくピュアな感受性を持った魅力的な方だなと思いました。

    村上春樹さんとの対談もそうだったけど、河合隼雄さんとの対談って、どの人も自らが感じている事や過去の体験を恥ずかしげも無くさらしていて、それがすごく好き♪やっぱり、人が本音と本音で心を開いて話し合う(別に答えを探すとかそういうんじゃなくて、その時の思いであったり考えを共感し合うって感じかな??)ってのは素敵だな~☆

  • 小説やエッセイでは知ることのできない、吉本ばななさん自身の苦しみ(学生時代のこと、日本での作家という職業についてetc)が河合先生によって引き出されている。

  • 【きっかけ】
    河合隼雄

    【気づき】
    習い事続けたい
    フルートならっててよかった
    三年寝太郎もアリ
    一体になりたい希求が高まりすぎると男女の関係はうまくいかなくなる

    【コメント】
    この本から、
    吉本ばななのN.P
    村上春樹、河合隼雄に会いに行く
    村上春樹のねじまき鳥クロニクル
    河合隼雄の講義
    京都大学教授の最終講義
    へと興味が広がった

  • よしもとさんと河合さんはこんな感じの大人なんだなーとゆるゆる、時にはドキッと鋭く進む二人の対話記録。お二人とも素敵な大人ですね。わたしは好きなタイプの大人です。

    お二人の共通点は、感受性というか、どこかがとっても過剰に鋭くて大変な思いをしている人と向き合っていること。よしもとさんはそれを小説という形にして、読む人を元気づける。河合先生は面と向かって話す形で安心させる。だからなのか、お二人とも実にグサッと刺すような表現、話題が尽きない。
    お二人のファンであれば読むとグっと来るでしょうし、「誰やコイツ」という方であっても「なかなかええ事言うてるやないか」と思えるのではないでしょうか。

  • 既に仙人の次元に入ってるお二人。本当に癒されるとしかいいようのない対談集。

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