将軍たちの金庫番 (新潮文庫 さ 65-1)

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  • Amazon.co.jp ・本 (322ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101360515

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  • 江戸時代の幕府、特に将軍の浪費に苦慮した経済官僚たちが悪戦苦闘して考え出した政策(秘策?)を中心とした江戸時代の経済、とりわけ通貨や税、財政といった金融に関するよもやま話。
    著者は、これまで「大君の通貨」「薩摩藩経済官僚」「幕末住友役員会」「主殿の税」という歴史経済小説を書いてきたが、それらの小説で書ききれなかったことを、書き残しておきたいという思いから執筆したと言う。

    徳川家康は、天下統一とともに、全国の金銀鉱山を一手に押さえ、時あたかも日本はゴールドラッシュを迎え、莫大な資産を残した。
    三代将軍家光は、桁外れの浪費家と言っていいほど使いまくった。家光一代で5百万両は使ったらしい。(別途調べてみると江戸時代前~中期は1両で8~10万円程度のようである。)
    だがその頃を境として金銀の産出は目に見えて衰えていった。それでも四代将軍家綱には六百万両以上残したが、家綱が死んだ時には、遺産は百万両を切っていた。五代将軍綱吉の前半は、農政に力を入れ、税の増収に力を入れたが、一方で浪費は続いた。

    この家光・家綱・綱吉の浪費は、日本経済という観点から見れば、大いにプラスになったようで、この後の元禄文化が花開く種を撒く効果があった。
    ところが、綱吉の在位15年目の元禄七年頃(1694年)には、幕庫は空っぽになっており、幕府は財政難に七転八倒していた。

    綱吉は関係役人に「なんとかならぬのか」と何度も諮問した。この時に荻原重秀(勘定吟味役→勘定奉行)という男が「金を捻りだす愚案があります」と言った。「愚案」というのはウルトラC級の「貨幣の改鋳」だった。
    理由は、①金貨・銀貨は長く使っているので、擦り切れて軽くなっている。
    ②商品経済活動が活発化しているので、通貨の供給量を増やさなくてはならない。一方金銀の産出量は減っており、増量は期待できないので、従来のものを作りかえるしかない。という位科学的・合理的内容だった。

    しかし、荻原の狙いは別のところにあった。
    この時に、金貨・銀貨の品位を落とした。金貨を例にとると、慶長小判2枚で、新しい元禄小判3枚を作った。しかも交換比率は1:1。
    からくりが単純なだけに世間は直ぐに気がつき、悪評が乱れ飛ぶなかを、貨幣の改鋳を強行した。(この後何度も改鋳する第1回目である)
    結果、幕府は五百万両以上の益金を得たが、綱吉がそれをそっくり使い切ったことにより、世は好景気に沸き立った。詢爛豪華な元禄文化が花開いた。

    その後、家宣~家継が将軍になり、儒者の新井白石が政治をリードした。財政は綱吉時代からの勘定奉行の荻原重秀が取り仕切っていた。新井白石はこの荻原を目の敵にし、罷免を要求すること三度。そしてついに家宣の死後、遺命だとして荻原を罷免に追い込んだ。
    このときににわかに起こったのが、日本史上初の通貨論争である。幕府役人・旗本・御家人・銀座役人・両替屋・儒者などが入り乱れて論争した。
    この時に荻原重秀が言ったのは「通貨というものは、幕府の保証さえあれば、材質など、瓦礫でも紙でもどんなものでも良いのではないか(官府の印理論)」という意見だ。
    そんなするどい意見も出されたが、新井白石は聞く耳を持たなかった。強引に通貨を元の慶長の金銀に戻した。
    元禄8年の荻原の貨幣改鋳以来、混乱を続けていた通貨はようやく元の状態に戻った。つまり現在の経済用語でいう「デフレ」になった。

    その後、デフレによる深刻な不況が続き、元文元年(1736年)「世上金銀不足」という理由で、金銀貨の改鋳を行った。渋る吉宗の尻を叩いて大岡忠相が実行に移させた。

    将軍の浪費する金を何とか捻出するためにではあるが、「官府の印理論」という凄い考え方が江戸時代に現れていたと言うのが驚きであった。

    だが、幕末になり、外国と通貨交渉をする際に、この「官府の印理論」が外国に理解されないで、混乱に陥いるという喜劇のような悲劇を生んでいる。

    この話は、全体の一部だが、現代の経済理論という切り口から見直すと、新しい江戸時代の財政政策が見えてくる。

  • かなりおもしろい本。天保一分銀という兌換通貨(金貨である一両と交換できる)を作り出したという独創性、現代のMMTを凌いでいるかもしれない。名もなき市井の人々や勘定方の役人が知恵を絞って生み出したものが、最先端すぎて逆に幕末に混乱を招くとは(ハリスにはそのロジックが伝わらなかった)皮肉なものである。
    税を払えるから通貨が機能するというMMTは、江戸時代においては成り立っていない。論破する証拠になるかもしれない。

    他にも長崎の貿易の仕組みや、薩摩藩の密貿易(密ではない)、小判改鋳に伴う発行差益などなどおもしろいテーマがたくさんあった。

  • 本書は、江戸時代の幕府や藩の税、通貨、財政等について綴った書。
    結構知らないことばかりだった。例えば、田沼意次は賄賂に血道を上げた汚れた政治家でも、経済政策に長けたテクノクラートでもなく、頼まれたことを着実にこなす実務家だったらしいこと、その功績が、将軍家治の日光参詣資金捻出であったこと、法則性のない恣意的な御手伝普請(治水工事等の公共事業を諸大名の負担で行わせること)が賄賂横行を招いたこと、江戸も中期になると「官府の印理論」(「瓦礫であろうと紙であろうと、官府の印を押せば通貨である」という荻原重秀の理論)に基づき金属の価値以上の価値を持つ通貨を発行・流通させていたこと、このような通貨の仕組みがアメリカを始めとする先進諸国に理解されず、不平等で歪んだ通商条約が結ばれてしまったこと等。

  • めちゃおもしろい

  • 義実家の本。
    ・家光の浪費こそが17C後半の経済の興隆をもたらした(p15)
    ・六代家宣の死後起こった通貨論争(通貨というものは政府の保証さえあれば、材質などどんなものでもいいのでは?)(p25)
    ・上方は銀、江戸は金が流通(p198)


    通貨そのものが金や銀を使っていることで価値を持つ(近代は政府が保証してるから通貨が価値を持つってなってるけど)、っていう時代の経済に興味があるので、面白く読んでる。

  • H20.10.1.初、並、帯なし
    2013.2.13.津BF

  • 経済の簡単入門

  • 将軍家を中心に主に金融から江戸時代を見ると、私たちが思っているような江戸とはまた違った風景が見える。
    著者の言う「官府の印理論」、官府が一両といえば金銀の含有量に関わらずすべて一両として取り扱うというものは今で言う管理通貨制度であり、世界史でこの制度が一般化するのが1900年代と考えると当時の日本社会がどれほど安定していたかをうかがわせる話。
    しかし、これが幕末の開国騒動時に大きな混乱を起こすことになったという話は、現在の金融をはじめとした経済政策にも繋がる話であり、もっと多くの日本人がこのことを知っていないとと個人的に強く思う。
    意外と知らない日本の歴史の一面を垣間見れる良い本です。

  • 徳川幕府の財政事情~通貨改鋳のからくり・・ と
    金の流れを描いた話

    江戸時代って 実はそんなに昔のことじゃないんですよね
    これを読むと江戸幕府時代もリアルに感じられる
    現実的な側面から書いてり 個人的には勉強になってよかった^^

  • この人の「大君の通貨」が幕末の外国との
    金銀為替関連の話で面白かったので購入。

    うーーーん。こねた知識によかったかな。

    エッセ風の江戸時代の経済説明書的な。。。

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著者プロフィール

佐藤 雅美(さとう・まさよし)
1941年兵庫県生まれ。早稲田大学法学部卒。デビュー作『大君の通貨』で第四回新田次郎文学賞を受賞。1994年『恵比寿屋喜兵衛手控え』で第110回直木賞を受賞する。著作に『御奉行の頭の火照り 物書同心居眠り紋蔵』『頼みある仲の酒宴かな 縮尻鏡三郎』『関所破り定次郎目籠のお練り 八州廻り桑山十兵衛』『知の巨人 荻生徂徠伝』などがある。2019年7月逝去。

「2021年 『恵比寿屋喜兵衛手控え 新装版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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