魔術はささやく (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
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本棚登録 : 10428
レビュー : 831
  • Amazon.co.jp ・本 (476ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101369112

感想・レビュー・書評

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  • 第2回日本推理サスペンス大賞受賞作。ちなみに第1回は受賞作は無しで優秀賞で乃波アサ氏が、続く第3回は高村薫氏が受賞している。このメンバーを見ても解るように新潮社主催で行われていたこの新人賞は現在でも第一線で活躍する作家を多く輩出しており、たった七年という短命な賞であったがその功績は非常に意義高い。
    第1回では大賞無しという結果だったので、実質的に本作が大賞第1作目となるが、その栄誉に恥じない出来である。

    都内各所で起こる女性の3件の自殺事件。一見何の関係もないそれらの死には実はある関係が隠されていることをある女性は知っていた。そして次のターゲットが自分だということも。
    その3つの死の1つ、女性の飛び込み事故で加害者となったタクシー運転手の甥、日下守は微力ながら叔父を助けるべく、独自に事故の調査をしていくうちに真相に近づいていく。

    なんとも足が地についた小説だというのが第一の印象。通常新聞で三行記事として処理される瑣末な女性の自殺事件、そして交通事故。毎日洪水のように報道される数多の情報に埋没されてしまう事件はしかし、当事者には暗い翳を落とすのだ。たとえ事件が解決されても、適切に処理されても被害者、加害者の双方には一生消えない心の傷を残す。そんな誰もがいつ陥ってもおかしくない状況を一般市民の、当事者の視座から宮部氏はしっかりと描く。
    私が感心したのはこの書き方だった。本格ミステリでも事件が起きる。死人も出るし、魔法で成されたとしか思えない不可解な状況での死体も出る。そこに警察が介入し、登場人物は予定を変更され、警察に拘束された毎日を過ごすはめになる。しかしそれらはどこか絵空事の風景としてか捉えることがなく、現実味に乏しかった。なぜなら本格ミステリそのものが読者と作者との知的ゲーム合戦の色合いを持っているからだ。だから読者は「そのとき」が起こった後に及ぼす当事者の状況には忖度しない。犯人と殺害方法が判明し、警察が逮捕されて事件は解決、そこで物語が閉じられるのがほとんどだからだ。

    しかしこの小説は事件は普通によくある交通事故。その事故が及ぼす当事者達の生活への影響などを克明に書く。そのため、作中で起きている状況が読者の仮想体験として感じさせ、現実感が非常に色濃く出ているのだ。
    それに加え、主人公を務める日下守という少年の造形が素晴らしい。幼い頃に父親が失踪―昔流行った言葉で云うならば“蒸発”―し、その影響で亡くなった母親の姉に引き取られることになったという境遇にある。しかも父親は会社の金を持ち逃げしたという噂があり、周囲からは「泥棒の子供」だと揶揄されているという、なんともつらい生活を送っている少年なのだ。が、しかし彼はそんな状況にも負けないタフなハートを持っており、おまけに特殊な特技を持っている。
    ネタバレにならないのでここで書いてしまうが、それは開錠の技術である。「おじいちゃん」から小さい頃に教えてもらった技術だが、これが実に物語に有機的に働く。この技術が日下少年に他人とは違うという自信を持たせ、さらにこれらの不幸な境遇が周囲の子供らよりも一段大人びた性格を持つに至ったという人物設定は非常に頷けるところがあり、もうこの日下少年という主人公だけで、私の中では本書は傑作になると確信していた。

    が、しかしその後物語は私の思惑とは意外な方向に進む。サブリミナル効果はまだしも、催眠術という、眉唾物の技術が本書の大きく覆ってしまうのだ。
    ネタバレになるので詳しくは書かないが、この催眠術の登場で私の本書に対する価値観はぐらついた。前述したように非常に現実感を伴った内容にいきなり飛び込んできたこの異分子は一気に絵空事の領域に物語を持っていってしまったという感慨を抱かせてくれたのだ。
    このギャップが私の中ではとても気持ち悪く、それが故に本書は佳作という評価に落ち着いてしまった。

    確かに作者はこの突飛な技術を読者に納得させるように活用法に工夫を凝らし、詳細に説明を加えて、納得させようとしているが、物が物なだけになかなか現実感を伴って腑に落ちてこなかった。したがってクライマックスに訪れる日下少年の試練もまた深く心に浸透してこなかったのが非常に残念である。
    さて発表から30年近く経ち、科学の発展と共に色んなことが解明され、新事実も発見されているが、果たして今本書を読んで手放しで賞賛できるかといえばそうとは思えない。それはやはりこの小説が備えている前半の現実感と後半の非現実感の乖離ゆえに。

    ただしその一点は致命傷ではないようだ。なぜなら30年経った今なお、本書は版を重ねて出版され、しかも新装版まで出版されているくらいだからだ。つまりは単に好みの問題ということだ。
    『パーフェクト・ブルー』、『我らが隣人の犯罪』と比べてもその出来は数段よいことから、本書から宮部みゆきの今が始まったと云っても過言ではないだろう。

  • 宮部さんの長編処女作。もう構成から文体から、けれんに満ち溢れている。
    この頃の初期小説は否定できない。星も満点をつけざる負えない。フジのドラマでめちゃくちゃにされたから、とっても悔しい!!だから小説は満点つけてしまうよ。
    もう古典かもしれないけれど、ミステリとして、又少年の成長記としてこんなに素晴らしい小説はないとしか言えない。ラストの感動と爽やかさは今も忘れなれない。
    宮部さんは、『小暮写真館』で答えてくれたけど、個人的には、時代小説より現代小説をもっともっと読みたいです。特に初期の様な(この作品も)Sキングに触発された様なミステリを書いてほしいです。

  • 宮部みゆきさんの小説は起伏に富み読みやすいので、さくさく読めるが、本作も面白くて一気読みした。いろいろなキーワードも複合的に取り入れられていて野心作だったといえるだろう。少々文章に無理をして力みすぎる傾向があるが、若々しくもあり、そこがまた面白い。

  • 一見、何の関係もない3人の女性の自殺と、その真実を巡るストーリー…というあらすじ通りの話かと思いきや、3人目の女性を轢いてしまったタクシー運転手の甥の成長物語だった。
    謎を解き明かす過程はもちろん、本当の結末に至るまでに色々な伏線の回収があって、すごく面白かった。

  • さすが、日本推理サスペンス大賞受賞作ですね。
    最後の最後まで、先が読めない、そして読書を飽きさせない、素晴らしい作品です!
    魔術、催眠術、実際にかけられたら、ひとたまりもないなと思った(^_^;)

  • 会社の部下から紹介されて読んでみた。宮部みゆきの初期の作品。冒頭から自殺の新聞記事からは読み取れない第三者の視点が記されており、一気に惹きつけられた。その後も気を抜く箇所がないほどのスピード感あるミステリー。なぜ宮部みゆきが人気かがわかった。

  • 恋人商法絡みの殺人事件と、主人公の少年の父親の失踪が秘かにリンクしていく。
    最近、宮部みゆきにはまっているけれど、どれを読んでもハズレがない。
    すごい作家だ!!

  • 時に真実を知らない方が良いこともある。

    しかし、真実を知ってしまった以上、
    憎むべき相手を許すか許さないかの裁きには大きな決断と勇気がいる。


    少年を取り巻く家族や仲間の愛情に支えられながら、
    事件の真実を知ってしまった少年の葛藤と心の変化、そして最終決断を下していくまでの描写がお見事です。

    • まろんさん
      はじめまして。フォローしていただいて、ありがとうございます!まろんです。

      この本、宮部さんのかなり初期の作品ですが、大好きです♪
      全体を見...
      はじめまして。フォローしていただいて、ありがとうございます!まろんです。

      この本、宮部さんのかなり初期の作品ですが、大好きです♪
      全体を見晴るかすような「神の視点」で書かれた最近の作品も素晴らしいけれど
      胸が痛くなるくらい主人公の心に寄り添って描かれた、この頃の作品に惹かれます。
      事件の真相を知って、大人へと一歩近づく少年の味わうやるせない苦さも
      ちょこっとだけしか出てこない登場人物の言動にまで漂う、ほろっとするような温かさも
      胸に深く刻まれて、忘れられない作品です。

      文系の感性を内包した理系の頭脳、素敵ですね!
      偏りがちな私の本棚に新しい風を起こしてくれそうなbluebird-ryuryuさんのレビューを
      楽しみにしていますので、今後ともどうぞよろしくお願いします(*^_^*)
      2012/09/13
  • 再読です。タクシー運転手のおじが殺人を犯してしまう。でもおじはむこうが飛び込んできたという。事実は何なのか、何が起きているのか16歳の少年が探っていきます。個人的に宮部さんのクールな少年(少女)が好きなのでとても楽しめました。

  • 宮部みゆきの初期のミステリー
    トリックは当時話題となった疑似科学のようなものだが、トリックうんぬんよりも、主人公が謎を解き明かしていく様子や、内にある葛藤など、それ以外の部分が面白い。

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著者プロフィール

宮部 みゆき(みやべ みゆき)
1960年、東京都生まれ。1987年に「我らが隣人の犯罪」でオール讀物推理小説新人賞を受賞し、デビュー。1992年『龍は眠る』で日本推理作家協会賞、1999年には『理由』で直木賞、2002年『模倣犯』で司馬遼太郎賞、2007年『名もなき毒』で吉川英治文学賞など、数々の文学賞を受賞。大沢オフィス所属。日本推理作家協会会員。日本SF作家クラブ会員。直木賞、日本SF大賞、小説すばる新人賞、河合隼雄物語賞など多くの文学賞で選考委員を務める。『模倣犯』や『ブレイブ・ストーリー』など、多くの作品がドラマ化や映画化などメディア・ミックスされており、日本を代表するエンターテインメント作家として人気を博している。2019年7月10日『さよならの儀式』を刊行。

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