本所深川ふしぎ草紙 (新潮文庫)

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  • 本 ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101369150

感想・レビュー・書評

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  • 1.著者;宮部さんは、OL→法律事務所等勤務を経て小説家。23歳の時に、ワープロ購入をキッカケに本格的に小説を書き始めたそうです。サスペンス・ホラー・コメディータッチ小説の他に、時代小説を執筆。“10年に一人の逸材”と高く評価されています。「我らが隣人の犯罪」でデビュー。「理由」で直木賞、「火車」で山本周五郎賞、「名もなき毒」で吉川英治文学賞受賞。他の受賞を始め作品多数。
    2.本書;本所深川に伝わるという七不思議を題材にした短編小説。不思議と言いながら、本所一帯を預かる岡っ引き(茂七)が関わった事件を、ミステリー仕立てにした作品。(第一話)片葉の芦~「(第七話)消えずの行灯。解説より、「本書は巧妙で卓抜な物語構成、人生の真実を示す深い洞察力等、優れた時代小説の片鱗を見せる作品。山本周五郎や藤沢周平に並ぶ出来だ」。
    3.個別感想(印象的な記述を3点絞り込み、感想を付記);
    (1)『(第一話)片葉の芦』より、「藤兵衛おとっつぁんは、そういうやり方(“人から恵みを受けて生きる事を覚えちゃいけない”と、ある時払いの金を貸した)をするお人でした。商いも、生きていく事も、本当に厳しい事だって。だからこそ、人に恵んで貰って生きる事をしちゃいけねえって。“恵む事”と“助ける事”は違う。恵んだら、恵んだ者は良い気持ちかもしれないけれど、恵まれた方を駄目にするって」
    ●感想⇒“恵む事”と“助ける事”に関する経験談です。祖父曰く、「お貰いさんにお金をあげる時にはよく考えなさい。誰にでも恵むのではなくて、不自由な人だけしなさい。五体満足な人にお金をあげると、楽を覚え働かない。人生を踏み外す」と。もう一つ、始めてタイに出張した時に上司に言われました。空港から出る時に、ボーイ風の人が寄ってきて、「“1,000円、1,000円(くれ)”と連呼する事がよくある。あげてはいけない。楽して暮らそうと考え、人間を駄目にする」と。但し、人生には幸不幸があります。気の毒な人に救いの手を差し伸べるのは当然。それは経済面だけでなく、ボランティアでもいいでしょう。人間は支え合うべき、何事も「世の為人の為」。最後に、お貰いさんの話です。当時、私は子供のお貰いさんには心が痛み、お金をあげました。私は、「理屈よりも情を重んじたい」が本音です。
    (2)『第六話;足洗い屋敷』より、「他人様が楽しんでいる時に働かねばならない、というふうに考えてはいけないよ。働かせて頂いているのだ、と思いなさい」「図体が大きくなると、必ずどこかに手抜かりが出る。主人の目が隅々まで届かないほど店を広げてしまったら、きっといつかはその手抜かりの為に、興した時よりも店を縮めなければならない時がやってくる」
    ●感想⇒世の経営者に読ませたい文章です。最近の不祥事の例です。A社は、創業40年を超える大企業です。経営理念は「社会性・公益性・公共性の追求」です。売上を伸ばしたいが為に、守銭奴の言うままに巨額の金銭を渡した容疑です。社会への裏切り行為で代償は大きいでしょう。企業の存在意義の再考が望まれます。愚直に働く社員を慮り、働き甲斐のある会社に再生出来ると良いですね。会社には、経営理念があります。経営の再点検と活動の健全性を判断出来る仕組み作りをすべきです。そして、立場を利用して甘い汁を吸う人間は厳罰に処せられるべきです。
    (3)『第七話;消えずの行灯』より、「あの夫婦は、亡くした子供を二人で悼むのではなく、その傷をお互いに深くし合って生きて来たのではないか。そして、家の中に安らぎを得る事の出来ない喜兵衛は外に女をこさえ、お松はなおさら泥沼にはまり込む。だが、お松は決して狂っているわけではあるまい。おかしくなったふりをして、夫が汗水たらして築いた身代をへずらせ、おかしな噂が立たないように気を遣わせる事で、楽しんでいるのだ」
    ●感想⇒事故で行方不明の娘を発端に、仮面夫婦になる話です。家族にこうした不幸があると、夫婦関係は、2通りに分かれると思います。1つは、すれ違いです。本書では、亭主は外で女を囲います。女性として許し難い行為ですね。もう一つは、不幸の傷心を癒す為に絆が一層深まり、互いを思い遣るです。本書は、前者の形を書いています。後者が多い(期待を込めて)と思うので、反面教師にしたいものです。所で、離婚の原因は性格の不一致が多いそうです。コミュニケーションと不満を溜めこまない生活を心掛ける事。主婦(主夫)の大変さ(家事、子育て・・)を受止め感謝し、その気持ちを伝え、協力を惜しまない事。自戒の念を込めて。
    4.まとめ;7つの短編は、江戸時代の市井で起きた事件を題材にした、人情話です。江戸時代とはいえ現代でも十分通用する内容になっています。中でも、「第一話;片葉の芦」と「第七話;消えずの行灯」は、痛く心に響きました。その理由は、上記の「個別感想」に少し書きました。本書からは、解説にもあるように、「分かりあえないかもしれないが、いつかは気持ちの通じ合う事があるのではないかという熱い思い」が伝わってきます。世の中には理不尽な出来事が多く、絶望感に浸る事もあります。そんな時に再読したい宮部ワールドの世界。人間関係の肝は普段の良好なコミュニケーションに尽きると思います。(以上)

  •  91年刊行、宮部みゆきさん初期の時代小説です。全7話が「本所七不思議」を題材にした"人情もの"として描かれています。
     本所七不思議は、江戸時代から伝承される奇談・怪談で、典型的な都市伝説らしいのですが、古くから落語など噺のネタとして庶民に親しまれてきている背景があるようです。

     全話ともに岡っ引き(探偵役)・茂七が登場し、江戸時代の推理ものかと想像するも、違ってました。間違いなく人情ものですね。犯人探しや謎解き以上に、下町人情の側面が強く、とても味わい深い7篇になっていると思いました。

     慎ましく生きている者たちに降りかかる困難、これは江戸時代だろうと現代だろうと同じなんだと思えます。だからこそ、そこに描かれる人の感情の機微に共感し、哀愁漂う筆致に引き込まれます。
     個人的に一番印象に残ったのが「片葉の芦」でした。真の人を想う気持ちとは何なのか、人の印象の変化に驚きと奥深さを感じました。

     年末の人恋しい時、体調がすぐれない時に少しずつ読むのにフィットする作品で、病気や心の傷を優しく癒してくれる力を秘めている気がしました。
     本作は「回向院の茂七シリーズ」第1弾だったんですね。機会を見つけて、また宮部さんの時代・人情ものを読んでみたくなりました。

  • 本所深川七不思議を題材にした七編の短編集。

    本所深川一帯を仕切っている岡っ引き・回向院の茂七親分シリーズ第一弾。初登場とはいえ、岡っ引きとして既にベテランの域に達していて、本所深川の市井の人々から頼りにされていることが見て取れる。

    〇〇七不思議とはどこの地方でもよく聞く言葉。今回の七不思議もなんとなく聞いたことのあるような、ちょっと摩訶不思議な言い伝えのようなもの。
    「片葉の芦」「送り提灯」「置いてけ掘」「落葉なしの椎」「馬鹿囃子」「足洗い屋敷」「消えずの行灯」この七つの言葉を見るだけで内容を想像してわくわくしてしまう。

    そんな摩訶不思議な七不思議も、宮部さんが描くとしっとり切ないものとなり、お話の余韻がいつまでも後に残るものばかり。
    この時代の市井の人々の、日々の暮らしぶりや思い…嬉しいことも悔しいことも悲しいことも、全てひっくるめてさらけ出し、けれどそこに優しく温かい灯火を照らし救い出してくれる。茂七親分がいつもいいタイミングで手助けをしてくれるので安心できる。すっかり茂七親分のファンになった。親分が出てくるだけでほっとする。
    七編全てのラストが僅かな希望の持てるもので、読んでいてとても心地よい。

    茂七親分シリーズは、ますます追いかけていきたいシリーズとなった。

  • 余韻が残る、一冊。

    深川七不思議と下町人情、茂七親分の世界、味わい深く読めた。

    七編の中でも「片葉の芦」の七不思議と人の心の絡ませ方、誰も知らない一面の見せ方が印象的。

    そして絶妙な間合いでの茂七親分の数々の言葉が心に響いてくる。

    常に深川一帯を、誰もの人生を気にかけ見守ってくれているような眼差しがたまらない。

    そして個人的に茂七親分が何かを食してるシーンが好き。

    どの話も最後の一文が良かったな。心に優しいひと風を吹かせ、しっとりとした余韻が残る。

  •  人生の教訓めいたものに感じ入り、登場人物の心の機微がわかりやすかったです。
     江戸は深川を舞台に、そこで起きる不思議な事件とそれに関わる人々を描いた短編集。本所七不思議がそれぞれの作品で事件や人情を象徴しており、とくに『片葉の芦』という話はラストのシーンをより味わい深くしていて個人的に好きでした。
     サスペンスやホラーというよりは人情噺であり、生きることで起きる悲哀やそれに対する教訓が穏やかに流れる川のように描かれている感じがしました。

  • 本所深川に伝わる七不思議
    「片葉の芦」 「送り提灯」 「置いてけ堀」「落葉なしの椎」
    「馬鹿囃」「足洗い屋敷」「消えずの行灯」をモチーフにした
    短編7編

    七不思議で、江戸市井の人々の愛憎や悲哀をミステリーに仕上げる上手さ
    そして、そのミステリーを回向院の親分こと岡っ引きの茂七が巧みに解いて下手人を挙げていく
    茂七の人間の心の機微を知り尽くした手口が見事だし、情が厚いのにもほろりとさせられる

    「片葉の芦」 両国橋の北にある小さな堀留に生える芦の葉がなぜか片側にしか葉をつけない話を一途に思う気持ちも相手には届かず一人の心にしか残されていなかった
    切なさに繋げている

    昨今、江戸界隈で大評判の「藤兵衛寿司」、その日残った米は大川に捨ててしまうという手法
    父のこの奢ったやり方に反発し、陰で貧しい子に米を振る舞う娘のお美津
    藤兵衛を嫌い、お美津に共感しながら読んでいたが、藤兵衛のその意図を知って驚かされた
    何とそんな深い思いが込められていたのかと
    さすが宮部みゆきさん

    最終章の「消えずの行灯」にも驚かされた
    女の怨念にぞぞーっと怖くなった

    こんな一筋縄ではいかない事件を解決していく茂七親分
    がなかなか渋くてかっこよかった
    しかし、この本では茂七は、あくまでも脇役らしい
    茂七が主人公となって活躍するのは「初ものがたり」
    これも、また楽しみだ


  • 宮部みゆきさんの時代物、本当に大好きです。

    江戸庶民の暮らしの中にあるふしぎな出来事を通して、人々の義理と人情、喜び、哀しみが伝わってくる。

    茂七親分頼りになります!


  • 時々、宮部みゆきさんの昔の本。薄い本なので富田林に出張があった1日で読み終える。

    本所の七不思議を題材にとった7つの短編。
    江戸の下町風情、商家や町人の暮らしを背景に語られる話は、どれもが人間臭さや哀歓を帯びて味わい深い。
    ちょっとした事件が起こり、回向院の茂七という岡っ引きの親分が立ち回る。
    解決をみた時に、大店の主とその娘の本当の姿が現れ人生の皮肉さが浮き上がる「片葉の芦」と、夫婦の情念の深さが露わになる「消えずの行灯」が印象に残る。

  • 第七話 消えずの行灯、主人公が自分に似すぎていて。私って本当醒めているな…。そしてかなりエグめの話だった。

  • 宮部みゆきは本当に人間が好きなんだなと思う。あたたかい面も、憎悪も、全て大きな愛で包み込むように描く。じんわりとしつつ、苦味も効いた後味。
    『消えずの行灯』これこれ、この後味!切ない柔らかな火を想像してると、相手を焼き尽くさんばかりの炎に変わる。

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著者プロフィール

1960年東京都生まれ。87年『我らが隣人の犯罪』で、「オール讀物推理小説新人賞」を受賞し、デビュー。92年『龍は眠る』で「日本推理作家協会賞」、『本所深川ふしぎ草紙』で「吉川英治文学新人賞」を受賞。93年『火車』で「山本周五郎賞」、99年『理由』で「直木賞」を受賞する。その他著書に、『おそろし』『あんじゅう』『泣き童子』『三鬼』『あやかし草紙』『黒武御神火御殿』「三島屋」シリーズ等がある。

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