かまいたち (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (274ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101369167

作品紹介・あらすじ

夜な夜な出没して江戸市中を騒がす正体不明の辻斬り"かまいたち"。人は斬っても懐中は狙わないだけに人々の恐怖はいよいよ募っていた。そんなある晩、町医者の娘おようは辻斬りの現場を目撃してしまう…。サスペンス色の強い表題作はじめ、純朴な夫婦に芽生えた欲望を描く「師走の客」、超能力をテーマにした「迷い鳩」「騒ぐ刀」を収録。宮部ワールドの原点を示す時代小説短編集。

感想・レビュー・書評

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  • 宮部みゆきの初期短編集。執筆自体はデビュー前というほど本当に初期の作品ながら、その後の多くの時代物にある「良さ」がすでに完成していて、近作と同じように楽しく、読みやすく読み終えることができました。

    何が良いかと言えば、まず嘘の上手さだと思うのです。今現代の読者が想像するような、何かで見たことがあるような花のお江戸の情景もそうですし、さらに、そこに持ち込まれた価値観が現代のものであることで、時代劇のドラマでも見るようにすんなりと読むことができます。
    どんな価値観かといえば、例えば登場する家族や子供の多くは一人っ子か二人兄弟で、夫婦だけか1~2名の子供が加わる核家族です。個人間の恋愛は自由に行われ、病んだ人は町医者を頼んだり小石川の養生所に入ることができる…見てきたような嘘ですが、物語の中では人命や個人の尊厳が今現代と同様尊重されているからこそ作者が描く物語を今の読者が楽しめると思うのです。

    その舞台で活躍する主人公の行動も、今の価値観から見て楽しいものです。

    収録4篇中3篇は勝気でお転婆な町娘が主人公です。この時点でもすでに面白くなりそうですが、この主人公たちの行動が読者の想像の上を行くのが良いところです。辻斬りを尾行してする(さらに短刀で斬りかかってみる)、蝋燭屋の屋敷に侵入してみる、天水桶を伝って屋根から下りようとする…読者はそんな危なっかしい行動から目が離せなくなってしまいます。テレビで時代劇にするとしたら誰に主人公を演じさせるか、想像するのも楽しいかもしれません。
    (ちなみに、NHKでドラマ化されたときは「かまいたち」のおようは水川あさみさん、「迷い鳩」のお初は沢松綾子さんだそうです。最近だと誰が向いているでしょうね)

    一方で、登場人物や舞台設定が使いまわしのレベルで似通っているのが困りものです。宮部みゆきという名前を知り、作品の面白さに触れてしばらくその作品を追っている中で、当然時代物も何冊か読んだのですが、実は途中で挫折した過去があります。どれがどれだか分からなくなったからです。タイトルを見て、文庫裏表紙のあらすじを読んでも、買ったことがあるのか、読んだことがあるのか判断がつかなくなってしまって、結局宮部みゆきの時代物は買うのをやめていました。

    勝気でお転婆な町娘が主人公、市井の人々、長屋で暮らすような人々の生活に根ざした謎、お助けヒーローの手を借りたラスト近くの大立ち回り、そして憧れ程度の淡い恋。筋を追うばかりでとにかく先へ先へと読み進むスタイルだった自分の雑な本の読み方が一番悪いのは間違いありませんが、そうは言っても似ている作品が多いように思えます。
    本当は「捕物帳」なりのシリーズものにしてしまえばこれは必ずしも欠点とは限りません。水戸黄門の例を挙げるまでもなく、様式美は時代劇とは気っても切れないものだと思います。
    でも、どうにもこうにもシリーズものがなかなか続かないということは宮部みゆきの欠点と言ってしまっていいと思います。

    「回向院の茂七」親分も、霊験お初も、1~2冊は続くもののそれで終わりで、新しい設定の物語が始まる、でもその新しい物語は読んだことがあるような気がする…というのは、初期の短編時代物が「茂七の事件簿 ふしぎ草紙」としてドラマシリーズ化されるときに、原作が「本所深川ふしぎ草紙」、本作品「かまいたち」、「幻色江戸ごよみ」、「初ものがたり」、「堪忍箱」と5冊にも及んでいることがなによりの証拠だと思います。この5冊はどれも混ぜこぜにして一連のドラマの原作にしても違和感がないほど似ているということだと思うのです。
    その後、時代物であっても長編であったり、シリーズが長期間継続したりしてどれがどれだか分からなくなることは少なくなりましたが、初期作品にはこんなことを感じてしまったと書きのこしておきます。


    以下、各話に一言ずつ。
    「かまいたち」
    おようの勝気(を通り越して無鉄砲になっている気がしますが)な振る舞いが胸のすくようなラストのカタルシスにつながります。躱されたとはいえ、新吉に一太刀浴びせるのはたいしたものです。
    ただ、お奉行~新吉ラインの問題処理の方法がイリーガルなのがちょっと気になります。上に書いた「今の価値観」とちょっと乖離しちゃってるんじゃないかな…。

    「師走の客」
    ちょっとトリックに懲りすぎ。
    「蛇を食べちゃう」という伏線は敷いてあるにせよ、匂いで食べられるものかそうでないものかを嗅ぎ分けられる犬は置物の蛇を食べたりしないんじゃないかなあ。あと、動機も子~辰までの本物の置物を準備して6年がかりで10両程度では、いくら同じような詐欺を同時に複数働いたとしても全然割が合わないんじゃなかろうか…。

    「迷い鳩」
    「霊験お初捕物控」シリーズのパイロット作品。少年ジャンプとかの「読切が好評だったので週刊連載を始めました」の読切にあたります。
    後の長編では、忍者を意識したような次兄直次は文弱な古沢右京之助に差し替えられますが、「見えないものが見える」能力者のお初が大活躍します。
    超能力者を時代物に放り込むのは、その能力を隠すという点、活かすという点両方から見てなかなかいいアイデアだったようで、「初物語」にもそんな能力をもった「長坊」がちょろっと出てきます。初物語では活かしきれなかった設定は、そんな能力を持ったお初を主人公に据えたことで大成功を収めました。だって、巻末解説にもあるように、いくら勝気で岡っ引きの妹であるとは言え、一介の町娘を捕物帳で活躍させるにはやっぱり超能力を持っているくらいのチート設定がないと難しいんじゃないかと思うのです。
    さらに、南町奉行根岸鎮衛と「耳袋」という実在の事物を下敷きにすることで、時代ものに超能力というちょっと突飛な設定がすんなり納得できました。
    お清の動機がいかにも現代的。

    「騒ぐ刀」
    思いがこめられた刀と犬の組み合わせで「運命の剣 のきばしら」に収められた「あかね転生」を思い出しました。
    体をのっとられた同心とお初が大立ち回りを演ずるラストは読み応えがありますが、実はシリーズの続き「震える岩」でも同じようなシーンがあります。この辺は上記のとおりシリーズを続けて様式美にしちゃえば良かったのにとちょっと残念に思います。



    収録作品一覧 初出
    かまいたち 歴史読本88年04月号 第12回歴史文学賞佳作
    師走の客 小説宝石89年01月増刊号
    迷い鳩 別冊歴史読本91年08月特別増刊号
    騒ぐ刀 第11回(1987)歴史文学賞候補作品を改稿

  • 初期の短編集。
    母のために図書館から借りてきた本をその本人より先に読了(爆)。

    『かまいたち』は読みながらドキドキした。
    ふたりの男の印象が途中でひっくり返るのが面白かった。
    途中あれだけドキドキさせられたのにハッピーエンドなところも好き。

    『師走の客』は、オチがめでたしめでたしで終わる感じが(途中はえらくブラックだが)
    落語を読んでるみたいな心持ちになった。
    旅籠のご夫婦をもう少し年配に設定し直して
    まんが日本昔ばなし辺りでアニメ化しても面白いかも。
    市原悦子さんと常田富士男さんの声を想像して読んでみても違和感がなかった(笑)。

    『迷い鳩』『騒ぐ刀』はキャラクターがしっかりしてるからかさすがの安定感。
    というかこっちの方が先だったんだと判って吃驚。
    お初の物語は読んだような読んでないような曖昧な印象なんだけど
    『ぼんくら』シリーズでも似た印象の話があった気がするので
    最初からあまり読後感と安定感が変わらないってことなんだろう。

    初期の作品集とは思えない読みやすさではあるが
    途中で唐突に後世の説明が入る辺りが初期の初々しさなのかな。
    何れにしても宮部さんは最初っから読ませる人だったんだなぁと再認識した。

  • 【2024年31冊目】
    時代物はあまり得意としていないのですが、大好きな作家である宮部みゆきさんの作品ということで拝読しました。

    ところどころに怪異が見え隠れする短編集で、どのお話も楽しめましたが、やはり表題作「かまいたち」が、一番好きかな。「師走の客」はちょっとあっけなく感じたので、もう少し引っ張って欲しくもありました。連作短編集である「迷い鳩」と「騒ぐ刀」は、「迷い鳩」の方が好みでした。怪異と謎が絡み合うハラハラ感が良かったです。

  • 霊験お初の直兄さん かっこいい。

  • かまいたちの新吉に惚れたのは私だけじゃないはず

  • 宮部みゆきさんの作品は読みやすい面白い。

  • 兎に角、読みたくなる。

  • 『初ものがたり』が面白かったと祖母に言ったら次はこれ!と渡された一冊。
    あらすじを読んで、怖そ〜と言っていたのですが読んでみたら案外そうでもなく楽しく読めました。

  •  宮部みゆきの時代小説を読みたいと手にした本です。再読です。再読ですが、やっぱり面白い。
     短編が4作収められてる本作。どれも初めて読んだときに衝撃を受けたのか、すべてオチを覚えていました。それでも楽しかったですし、描写が怖い。宮部みゆきさんの書く作品は頭の中にその現場を浮かべやすいため、ぞっとしました。 後半2作は「霊験お初捕物控シリーズ」のお初が初登場します。再読して思いましたが、自分はこういう話が好きなんだと再認識しました。夜に怖くなるくせに読みたがる・・・。
     このシリーズ、まだこの2作しか読んだことがないため、これから何作か読めると思うと楽しみで仕方ないです。

  • ドキドキ、ハラハラする展開で、情景も目に見えるようで迫力があって読みごたえがありました。

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著者プロフィール

1960年東京都生まれ。87年『我らが隣人の犯罪』で、「オール讀物推理小説新人賞」を受賞し、デビュー。92年『龍は眠る』で「日本推理作家協会賞」、『本所深川ふしぎ草紙』で「吉川英治文学新人賞」を受賞。93年『火車』で「山本周五郎賞」、99年『理由』で「直木賞」を受賞する。その他著書に、『おそろし』『あんじゅう』『泣き童子』『三鬼』『あやかし草紙』『黒武御神火御殿』「三島屋」シリーズ等がある。

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