火車 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
3.80
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本棚登録 : 26474
レビュー : 2515
  • Amazon.co.jp ・本 (590ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101369181

作品紹介・あらすじ

休職中の刑事、本間俊介は遠縁の男性に頼まれて彼の婚約者、関根彰子の行方を捜すことになった。自らの意思で失踪、しかも徹底的に足取りを消して-なぜ彰子はそこまでして自分の存在を消さねばならなかったのか?いったい彼女は何者なのか?謎を解く鍵は、カード会社の犠牲ともいうべき自己破産者の凄惨な人生に隠されていた。山本周五郎賞に輝いたミステリー史に残る傑作。

感想・レビュー・書評

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  • ジョギングしながらイヤホンでオーディブルで聴く。
    風が強くて、三浦友和さんの声が風の音でかき消され、聞こえづらいところもあったが、負けないで聴いた。

    ひざを撃ち抜かれリハビリで休職中の刑事が、遠縁に頼まれて失踪した婚約者を探す。失踪した女性は過去にクレジットカードによる浪費で自己破産をしていた…という話。

    1992年発表とのことなので、もう30年前の小説になる。消費者金融全盛の頃。
    武富士ダンサーズのセクシーなダンスと「あなたの夢が動き出す」ってCMのセリフをふと思い出した。
    でも、“ご利用は計画的に”

    僕はバブル後に社会に出たので、現金以外で消費をすることは、とても怖かった。
    丸井とかのプラスティックのカードは便利だけど信じていなかった。

    だけど、今やキャッシュレス決済が当たり前。
    SuicaやPayPayが出てきてからは、現金を持ち歩きたくなくなった。
    コロナでステイホームで、Amazon使えばクレジット決済が不可欠になっていくし、飲み会なければ精算で現金出す機会もない。
    最近は財布の中身があまり動かなくなった。

    世の中が変わって、お金のあり方も変わっていく。


    「火車」は長い物語だけど、さすが宮部さん。
    圧倒的な筆致力で一気に読ませる。(というか、聴かせる)
    少し色褪せたかもしれないけど、まだまだ名作。 

  • 【感想】
    10年ほど前に一度読んだ小説。
    昔読んだときはあまり面白いと感じなかったが、再読してみるとめちゃくちゃ面白かった。
    物語は一人の女性の失踪から始まる。
    そしてその女性を追っていくにあたり、もう一人の女性が出てきて、その人の人生を見事にトレースしていく事で物語は進んでいく。
    最終的に、その女性をついに突き止め声を掛けるところで物語は終わるが、それも含めて本当に面白い1冊だった。

    そして、「火車」というタイトルが逸脱すぎる。
    いやー、本当に名作だった!!


    【あらすじ】
    休職中の刑事、本間俊介は遠縁の男性に頼まれて彼の婚約者、関根彰子の行方を捜すことになった。
    自らの意思で失踪、しかも徹底的に足取りを消して――なぜ彰子はそこまでして自分の存在を消さねばならなかったのか?
    いったい彼女は何者なのか?
    謎を解く鍵は、カード社会の犠牲ともいうべき自己破産者の凄惨な人生に隠されていた。
    山本周五郎賞に輝いたミステリー史に残る傑作。


    【引用】
    火車(かしゃ)
    火が燃えている車。生前に悪事をした亡者をのせて地獄に運ぶという。ひのくるま。


    p42
    若い女性の失踪は、それ自体は珍しいものではない。
    だが、若い女の単独での失踪に「自己破産」がからんでいるケースというのは、あまり耳にしたことがない。
    一家そろって夜逃げということならあり得るが、女が一人で、男からではなく借金から逃げるとは。

    いや違うか、と思い直した。
    関根彰子は自己破産しているのだから、借金は消えてなくなっているわけだ。
    それとも、破産しても借金は借金として残るんだろうか?


    p104
    「違います」
    ゆっくりとかぶりを振り、にわかにそれが汚いものに変わったとでもいうかのように、履歴書を本間の手に押し返しながら、弁護士は言った。
    「この女性は、私の知っている関根彰子さんではありません。会ったこともない。誰だか知らないが、この女性は関根彰子さんじゃありませんよ、別人です。あなたは別人の話をしている。」


    p158
    他人の戸籍。他人の両親。他人の身分。
    金で買い取ったのか。それとも…
    (なんらかの方法で乗っ取ったか)
    どちらにしろ、あの「関根彰子」は、周到な手を打って本物とすり変わったのだ。


    p201
    「火車の、今日は我が門(かど)を、遣り過ぎて、哀れ何処へ、巡りゆくらむ」
    巡り来る火の車。それは運命の車だったのかもしれない。関根彰子はそこから降りようとした。そして、一度は降りた。
    しかし、彼女に成り代わった女は、それと知らずにまたその車を呼び寄せたのだ。

    今どこにいる?
    夜の闇の向こうに、心の内で、本間は問いかけた。
    彼女はどこにいる?
    そして、何者だったのだ?


    p231
    個人破産でも、持ち家などの資産があって、ある程度の配当を見込むことができる場合は、破産宣告がおりると、企業破産の時と同じように、裁判所の委託を受けた破産管財人が、債権者の調査・整理・配当の手配に取り掛かります。
    この間、破産者は、裁判所の許可なく引っ越したり旅行したりすることはできないし、郵便物も管財人のもとに転送される。

    悪質な資産隠しをしたり、破産申立ての準備をしながら債権者には嘘をついて借金を重ねるなどの詐欺行為をすると、免責不許可の原因となる。


    p238
    銀座四丁目の交差点のところで別れた。
    挨拶を交わしたあと、もう一度年を押すように、溝口弁護士は言った。
    「私の言ったことを、どうか忘れんでください。関根彰子さんは、何も特別にだらしのない女性ではなかった。彼女なりに、一所懸命に生活していました。彼女の身に起こったことは、ちょっと風向きが変われば、あなたや私の身にも起こり得ることだった。彼女を取り込んでいた状況を、いつも頭に入れておいてください。そうでないと、彼女も、彼女に成り代わっていた女性を探すこともできないですよ」


    p488
    「蛇が脱皮するの、どうしてだか知ってます?」
    「皮を脱いでいくでしょ?あれ、命懸けなんですってね。すごいエネルギーが要るんでしょう。それでも、そんなことやってる。どうしてだかわかります?」
    富美恵は笑った。

    「一所懸命、何度も何度も脱皮しているうちに、いつか足が生えてくるって信じてるからなんですってさ。今度こそ、今度こそ、ってね。」
    「足があるほうがいい、足があるほうが幸せだって。で、そこから先はあたしの説なんだけど、この世の中には足は欲しいけど、脱皮に疲れてしまったり、怠け者だったり、脱皮の仕方を知らない蛇はいっぱいいるわけよ。そういう蛇に、足があるように映る鏡を売りつける賢い蛇もいる。そして、借金してでもその鏡を欲しいと思う蛇もいるんですよ。」


    p518
    「喬子の家族は、昔、借金で一家離散してるんです」
    倉田は言った。かすかだが、声の調子が狂っていた。
    「住宅ローンが払えずに、一家で故郷の郡山を夜逃げしたんですよ。喬子が僕と離婚したのだって、そのせいです。」

    君たち二人は同類だった。
    本間が思ったのは、そのことだった。
    関根彰子と新城喬子。君たち二人は同じ苦労を背負っていた人間だった。
    同じ枷をかけられていた。同じものに追われていた。
    なんということだ。君らは共食いしたも同然だった。


    p537
    「喬子が図書館の机にかがみこんで、目を血走らせて官報のページをめくってるんです。お父さんに似た人間が死んでないか確かめるために。。。いや、そうじゃない。」
    倉田の声に、鞭で叩かれたかのような、苦痛の色が混ざった。
    「死んでてくれ、どうか死んでてくれ、お父さん。自分の親ですよ。それで、僕の中の堤防が崩れちまったんです。」

    彼女の肘のすぐそばで、新着図書の推理小説を読んでいた若い女性は、雑誌の暴露記事に目を丸くしていた老人は、そういう喬子の立場を理解できただろうか。
    肘の触れ合う距離に、声の届く範囲に、そういう生活があることを想像できたろうか。

    「自分の顔を見てみろよ、と言ってしまったんです。まるで鬼女だって」
    本間の想像は当たっていた。新城喬子は孤独だった。
    過酷なほどに独りぼっちで、骨を噛む冷たい風は、彼女にしか感じることのできないものだった。

    入籍後、わずか三ヶ月のことだ。これがのちに新城喬子が説明した結婚の正体だった。


    p594
    まともな生活をしたい。
    終われる不安から解放されたい。
    平凡に、幸せな結婚をしたい。
    求めるものは、ただそれだけだ。喬子はそう考えていたのだろう。
    そして、自分の身を守るためには、自分で闘うしかないと悟ってもいただろう。

    父親にも、母親にも、彼女を守ることはできなかった。
    法も守ってはくれない。
    頼れる人だと信じ、庇護を与えてくれると思っていた倉田康司も、彼の家の財力も、いざというときには彼女を見捨てた。

    彼女の存在は、社会にとってその程度のものなのだ。誰もすくい上げてはくれない。
    這い上がっていかないことには、生きる道はないのだ。


    p685
    やっと捜し当てた。そう思った。やっとたどり着いた。
    こっちから何を尋ねるかなどは問題じゃない。俺は、君に会ったら、君の話を聞きたいと思っていたのだった。
    これまで誰も聞いてくれなった話を。
    君がひとりで背負ってきた話を。
    逃げ惑ってきた月日に。隠れ暮らした月日に。
    君がひそかに積み上げてきた話を。

    • 八幡山書店さん
      職場のおじ様に紹介されて読みましたが、「20年以上前の作品だろ?現代人の感性には響かないぜ…」なんて思いながら読みましたが、期待を見事に裏切...
      職場のおじ様に紹介されて読みましたが、「20年以上前の作品だろ?現代人の感性には響かないぜ…」なんて思いながら読みましたが、期待を見事に裏切ってくれました笑
      クレジットカードの怖さが伝わる作品。子どもにも薦めたいですね。
      2021/02/22
    • きのPさん
      八幡山書店さん
      テーマや時代背景こそやや古いものの、「火車」は色褪せないイイ作品だと思います!
      当たりはずれの少ない宮部みゆきさんの作品...
      八幡山書店さん
      テーマや時代背景こそやや古いものの、「火車」は色褪せないイイ作品だと思います!
      当たりはずれの少ない宮部みゆきさんの作品の中でも、「火車」と「模倣犯」はレベチの作品だと個人的に思います!!
      2021/02/24
  • カードは、一括払いのみ。キャッシングはせずの主義なんで…
    カード会社に踊らされたら、ロクなことないって事やな。
    今の時代は、過払い請求とかで、サラ金とかは前ほど勢いはないとはいえ、今だに派手なCMしてるもんな。いっぱい借りたら、返せんという事分かってて…って感じやな。
    自己管理は当然必要やけど、貸す側も考えろや!
    そこから、逃れる為に、リセットしようとしても、なかなか厳しいやろね。ヘビのように何度も脱皮して、次こそは、足が生える。でも、現実は…
    600ページぐらいあるけど、なかなか楽しめた!ひとつずつ、コツコツと真実に迫っていくところも面白い。
    最後の「あれ?これで終わるん?」ってのも、個人的には好きな感じ。
    さすが!傑作って言われるだけはある!

  • 宮部みゆきさん『火車』

    テンポ ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️
    展開  ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️
    リアル ⭐️⭐️⭐️⭐️

    1.初 宮部みゆきさん
    初が「火車」です。
    ブクログや読了ツイートで評判が気になりました。
    「ミステリーとしての展開、引き込みが秀逸である。」と。

    2.『火車』読み始めて
    テレホンカード、ポケベル時代。
    そう、バブルはじけた1990年が舞台です。

    婚約者の彼女が失踪、行方不明に、、、。
    彼女を探すのは、休職中の刑事。

    彼女の勤務先に足を運び、履歴書を調べたら過去の勤務先は全て嘘の履歴、、、。
    そして、彼女は失踪の5年前には自己破産をしていることが明らかに、、、。

    物語はこれから中盤に、、、。

    3.中盤からいよいよ終盤に。
    行方不明に、行方不明が重なる展開、、、。
    え??? どうなるの? 
    ページをめくるスピードが加速します。

    4.読み終えて
    二日間、述べ6時間で一気読みでした。

    1992年、いまから約30年前の執筆です。
    宮部さん自身の後書きに、東野圭吾さんへのお礼が記述されていました。東野圭吾さん、好きなの作家さんのお一人ですので感慨深いです。

    ミステリー好きの方は是非!

    「買い替えのきくものに、ひとは根を下ろさない。」(火車277ページより)

    私たちにとって買い替えの効かないものは何なのか?何に根を下ろすのか?

    30年前の宮部みゆきさんが投げかけたメッセージ。
    今の時代だからこそ余計に心に落ちてくる問いかけです。

    #宮部みゆき さん
    #読書好きなひとと繋がりたい

  • もちろんだが自己破産せざるを得ない事情を抱えている方は少数ながらいるとは思っているが、大多数は自分の責任能力の問題と思っていた。しかし、本書で鋭く指摘している「そもそも仕組みやルールの問題でもある」というくだり、なるほどと思わず膝を打った。
    私は一つの出来事に対して原因を決めつけてしまう傾向があるので、様々な角度から原因を分析していく大切さを知った。

  • 職場の読書仲間のおじ様から長年読んだ中で一番印象に残っていると勧められた書籍。
    かなり昔の作品のため、現代とのギャップを感じて途中で読むの諦めるんじゃないかと心配しましたが、その予想を裏切る時代を感じさせない文章力。
    失踪した婚約者とその真相に徐々に近づいてゆく展開に目が離せませんでした。
    と同時にカード社会の犠牲となった自己破産者に触れ、便利な世の中に恐怖感すら憶えました。
    そしてラストシーンの描写がとてもカッコよくて、多くを語らずその後を読者に想像させるような終わり方。
    とても良い作品に出会いました。

  • 怖くて途中から震えながら読んだ。
    ストーリー展開と、クレジットカードという名の"プラスチック"の恐ろしさに。
    子どもが生まれたら絶対に読ませる。むしろお金の教育なんてこれ一本でいいかもしれない。

    自分は貧乏くじをひかなかっただけなんだろうか…。

    この問題に飛び込んで目を逸らさずにいる宇都宮先生は尊敬しかない。一票じゃ足りない。

  • 著者の現代物小説の中で、断トツでお勧めしたい作品。仮想通貨やキャッシュレスが当たり前の昨今では一昔前の話題に感じるやもしれないが、いわゆる「カードローン」「自己破産」の物語である。

    一応ミステリの枠に入るので、俗に言う犯人当ても気になるところだが、それが分かった所で何度も読み返したくなる中毒性を持っている。自分を守ってくれない社会で生き抜いていくため、たった1人で足掻き続ける彼女に、妙な親近感を抱いてしまうからだろうか。
    追う側もまたしかり。現在ほど携帯が必需品ではなくネットも発達していない時代に、小さな手がかりを繋いで繋いで地道に真相に近づいていく主人公にも、ご都合主義がなく自然と感情移入できる。作中の誰もが、身近に有りうる存在なのだ。その代わり、決して他人事にはさせてくれない。

    突き放したラストには賛否両論あるだろうが、最後までリアリティの欠如を良しとせず、生温くまとめなかったあたりが清々しく好感が持てる。
    時代が移り変わっていったとしても、私もいつか、彼女が積み上げてきた話を聞きたいものだと思う。

  • 20年以上前になるが、この文庫版ではなくハードカバーで読んだ。始めて読んだ宮部みゆきさんの本だった。
    それまで母の影響で、海外ミステリーばかり読んでいたのだが、これはスゴイという評判に押され手に取ったのだったと思う。
    いや〜、本当にすごい。日本にこんなミステリーを書く人がいるんだ!!と寝不足で読んだことを思い出す。以来ミーハーながらみやべーファンである。

  • 宮部みゆきのファンでありながら、代表作の一つである本作はずっと読むのを避けてきた作品でもありました。
    避けてきた理由は、本作がクレジットカードの多重債務を扱った作品だったためです。読む前からなんとなく陰鬱な雰囲気を感じていました。
    なぜ、今これを読もうと思ったかというと、最近、経済のことを色々知って、本作を捉える視点が単なるミステリー小説ではなくなったからです。
    実際に読んでみると、やはり、現実と切り離された物語ではありませんでした。
    クレジットカードというものが、いかに現代の社会に不可欠なものとなっていること。
    それが時には暴走し、なんの罪もない人の人生を知らず知らずのうちに破滅に向かわせる過程がよくわかりました。
    もちろん、ミステリーとしても一級品で、犯人の実態が徐々に明らかになっていく構成が絶妙で、読み始めると止まりません。
    みんな、他人にあって自分にはないものを羨み、その「ないものねだり」を誤魔化すための鏡がクレジットカードという、作中の登場人物が語る例えが深く心に残りました。

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著者プロフィール

宮部 みゆき(みやべ みゆき)
1960年、東京都生まれ。1987年に「我らが隣人の犯罪」でオール讀物推理小説新人賞を受賞し、デビュー。1992年『龍は眠る』で日本推理作家協会賞、1999年には『理由』で直木賞、2002年『模倣犯』で司馬遼太郎賞、2007年『名もなき毒』で吉川英治文学賞など、数々の文学賞を受賞。大沢オフィス所属。日本推理作家協会会員。日本SF作家クラブ会員。直木賞、日本SF大賞、小説すばる新人賞、河合隼雄物語賞など多くの文学賞で選考委員を務める。『模倣犯』や『ブレイブ・ストーリー』など、多くの作品がドラマ化や映画化などメディア・ミックスされており、日本を代表するエンターテインメント作家として人気を博している。2019年7月10日『さよならの儀式』を刊行。

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