火車 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (590ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101369181

作品紹介・あらすじ

休職中の刑事、本間俊介は遠縁の男性に頼まれて彼の婚約者、関根彰子の行方を捜すことになった。自らの意思で失踪、しかも徹底的に足取りを消して-なぜ彰子はそこまでして自分の存在を消さねばならなかったのか?いったい彼女は何者なのか?謎を解く鍵は、カード会社の犠牲ともいうべき自己破産者の凄惨な人生に隠されていた。山本周五郎賞に輝いたミステリー史に残る傑作。

感想・レビュー・書評

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  • 【感想】
    10年ほど前に一度読んだ小説。
    昔読んだときはあまり面白いと感じなかったが、再読してみるとめちゃくちゃ面白かった。
    物語は一人の女性の失踪から始まる。
    そしてその女性を追っていくにあたり、もう一人の女性が出てきて、その人の人生を見事にトレースしていく事で物語は進んでいく。
    最終的に、その女性をついに突き止め声を掛けるところで物語は終わるが、それも含めて本当に面白い1冊だった。

    そして、「火車」というタイトルが逸脱すぎる。
    いやー、本当に名作だった!!


    【あらすじ】
    休職中の刑事、本間俊介は遠縁の男性に頼まれて彼の婚約者、関根彰子の行方を捜すことになった。
    自らの意思で失踪、しかも徹底的に足取りを消して――なぜ彰子はそこまでして自分の存在を消さねばならなかったのか?
    いったい彼女は何者なのか?
    謎を解く鍵は、カード社会の犠牲ともいうべき自己破産者の凄惨な人生に隠されていた。
    山本周五郎賞に輝いたミステリー史に残る傑作。


    【引用】
    火車(かしゃ)
    火が燃えている車。生前に悪事をした亡者をのせて地獄に運ぶという。ひのくるま。


    p42
    若い女性の失踪は、それ自体は珍しいものではない。
    だが、若い女の単独での失踪に「自己破産」がからんでいるケースというのは、あまり耳にしたことがない。
    一家そろって夜逃げということならあり得るが、女が一人で、男からではなく借金から逃げるとは。

    いや違うか、と思い直した。
    関根彰子は自己破産しているのだから、借金は消えてなくなっているわけだ。
    それとも、破産しても借金は借金として残るんだろうか?


    p104
    「違います」
    ゆっくりとかぶりを振り、にわかにそれが汚いものに変わったとでもいうかのように、履歴書を本間の手に押し返しながら、弁護士は言った。
    「この女性は、私の知っている関根彰子さんではありません。会ったこともない。誰だか知らないが、この女性は関根彰子さんじゃありませんよ、別人です。あなたは別人の話をしている。」


    p158
    他人の戸籍。他人の両親。他人の身分。
    金で買い取ったのか。それとも…
    (なんらかの方法で乗っ取ったか)
    どちらにしろ、あの「関根彰子」は、周到な手を打って本物とすり変わったのだ。


    p201
    「火車の、今日は我が門(かど)を、遣り過ぎて、哀れ何処へ、巡りゆくらむ」
    巡り来る火の車。それは運命の車だったのかもしれない。関根彰子はそこから降りようとした。そして、一度は降りた。
    しかし、彼女に成り代わった女は、それと知らずにまたその車を呼び寄せたのだ。

    今どこにいる?
    夜の闇の向こうに、心の内で、本間は問いかけた。
    彼女はどこにいる?
    そして、何者だったのだ?


    p231
    個人破産でも、持ち家などの資産があって、ある程度の配当を見込むことができる場合は、破産宣告がおりると、企業破産の時と同じように、裁判所の委託を受けた破産管財人が、債権者の調査・整理・配当の手配に取り掛かります。
    この間、破産者は、裁判所の許可なく引っ越したり旅行したりすることはできないし、郵便物も管財人のもとに転送される。

    悪質な資産隠しをしたり、破産申立ての準備をしながら債権者には嘘をついて借金を重ねるなどの詐欺行為をすると、免責不許可の原因となる。


    p238
    銀座四丁目の交差点のところで別れた。
    挨拶を交わしたあと、もう一度年を押すように、溝口弁護士は言った。
    「私の言ったことを、どうか忘れんでください。関根彰子さんは、何も特別にだらしのない女性ではなかった。彼女なりに、一所懸命に生活していました。彼女の身に起こったことは、ちょっと風向きが変われば、あなたや私の身にも起こり得ることだった。彼女を取り込んでいた状況を、いつも頭に入れておいてください。そうでないと、彼女も、彼女に成り代わっていた女性を探すこともできないですよ」


    p488
    「蛇が脱皮するの、どうしてだか知ってます?」
    「皮を脱いでいくでしょ?あれ、命懸けなんですってね。すごいエネルギーが要るんでしょう。それでも、そんなことやってる。どうしてだかわかります?」
    富美恵は笑った。

    「一所懸命、何度も何度も脱皮しているうちに、いつか足が生えてくるって信じてるからなんですってさ。今度こそ、今度こそ、ってね。」
    「足があるほうがいい、足があるほうが幸せだって。で、そこから先はあたしの説なんだけど、この世の中には足は欲しいけど、脱皮に疲れてしまったり、怠け者だったり、脱皮の仕方を知らない蛇はいっぱいいるわけよ。そういう蛇に、足があるように映る鏡を売りつける賢い蛇もいる。そして、借金してでもその鏡を欲しいと思う蛇もいるんですよ。」


    p518
    「喬子の家族は、昔、借金で一家離散してるんです」
    倉田は言った。かすかだが、声の調子が狂っていた。
    「住宅ローンが払えずに、一家で故郷の郡山を夜逃げしたんですよ。喬子が僕と離婚したのだって、そのせいです。」

    君たち二人は同類だった。
    本間が思ったのは、そのことだった。
    関根彰子と新城喬子。君たち二人は同じ苦労を背負っていた人間だった。
    同じ枷をかけられていた。同じものに追われていた。
    なんということだ。君らは共食いしたも同然だった。


    p537
    「喬子が図書館の机にかがみこんで、目を血走らせて官報のページをめくってるんです。お父さんに似た人間が死んでないか確かめるために。。。いや、そうじゃない。」
    倉田の声に、鞭で叩かれたかのような、苦痛の色が混ざった。
    「死んでてくれ、どうか死んでてくれ、お父さん。自分の親ですよ。それで、僕の中の堤防が崩れちまったんです。」

    彼女の肘のすぐそばで、新着図書の推理小説を読んでいた若い女性は、雑誌の暴露記事に目を丸くしていた老人は、そういう喬子の立場を理解できただろうか。
    肘の触れ合う距離に、声の届く範囲に、そういう生活があることを想像できたろうか。

    「自分の顔を見てみろよ、と言ってしまったんです。まるで鬼女だって」
    本間の想像は当たっていた。新城喬子は孤独だった。
    過酷なほどに独りぼっちで、骨を噛む冷たい風は、彼女にしか感じることのできないものだった。

    入籍後、わずか三ヶ月のことだ。これがのちに新城喬子が説明した結婚の正体だった。


    p594
    まともな生活をしたい。
    終われる不安から解放されたい。
    平凡に、幸せな結婚をしたい。
    求めるものは、ただそれだけだ。喬子はそう考えていたのだろう。
    そして、自分の身を守るためには、自分で闘うしかないと悟ってもいただろう。

    父親にも、母親にも、彼女を守ることはできなかった。
    法も守ってはくれない。
    頼れる人だと信じ、庇護を与えてくれると思っていた倉田康司も、彼の家の財力も、いざというときには彼女を見捨てた。

    彼女の存在は、社会にとってその程度のものなのだ。誰もすくい上げてはくれない。
    這い上がっていかないことには、生きる道はないのだ。


    p685
    やっと捜し当てた。そう思った。やっとたどり着いた。
    こっちから何を尋ねるかなどは問題じゃない。俺は、君に会ったら、君の話を聞きたいと思っていたのだった。
    これまで誰も聞いてくれなった話を。
    君がひとりで背負ってきた話を。
    逃げ惑ってきた月日に。隠れ暮らした月日に。
    君がひそかに積み上げてきた話を。

  • 20年ぶりの再読。
    1980年代後半から90年代にかけての懐かしい風景がよみがえってきた。まだ携帯電話が普及していない時代。人々のコミュニケーションの濃密さ、人間臭さに引き込まれていった。休職中の刑事、本間は、さほど仲のいいわけでもない従兄弟のため、私生活をなげうって失踪した「彼女」を探す。途中で知り合った保もまた、真相を突き止めたい強い思いから、本間に協力。さらに、本間の息子である智や、彼の面倒を見てくれる近所の夫妻、本間を助ける同僚の碇など、互いが互いのために動くのだ。(一体みんな、どこまでおせっかいなの?と言いたくなった。)

    本書の中心は、第三者になりすます女性、多重債務の問題である。物語は一貫して「喬子」を追う。遠い昔読んだ時は、最後に彼女がどのように姿を現すかに焦点を当てていたと思う。

    今回の読書では、作者、宮部みゆきさんの登場人物に向ける公平な眼差しに心が温かくなった。加害者、被害者の別なく、人間性に対して客観的、という意味である。

    再読のきっかけは同タイトルの韓国映画だった。映画を観ても遠い昔に読んだ本書を思い出せず、もどかしかったからだ。結果的には、内容を忘れていたからこそ、映画も、その後に読んだ物語も両方楽しめたのだと思う。

    あと20年もたてば本書の内容をかなり忘れているだろう。そのころ再読してみよう。時代の変遷をどのように感じることができるか、今から楽しみだ。

  • 韓国でリメイクされたのを観て面白くて、原作も読むことに。細かい設定、結末は映画とは違うものの大筋はあらかた同じで映画、原作と どちらもオリジナリティがあって楽しめた。

    カード、ことにクレジットカードって現金と違ってその場で札や小銭を出すものではないから、実際にはお金を使ってるんだけれど、使ってる意識がないというのは私も経験があって。
    自己破産はないけれど、カードの明細を見て、あっ!こんなに使ってたのか。。。ちょっと使いすぎたなぁ。と後悔した事は、何度かある。しかも、忘れた頃にカードの引き落としはやってくる。
    これが、クレジットカードの怖さかと思う。

    今でこそ自己破産という言葉、債務のご相談は〜なんていう弁護士事務所のCMも頻繁に耳にする。ただ、この物語の中ではそれがまだあまりメジャーじゃないようで、少しびっくりした。

    にしても、新城 喬子とは怖い女だ。彼女、出自が決して良いとは言えないし寧ろ、親のせいで自分の人生が狂ってしまったのは気の毒。気の毒だけれどだからって、そこまでするなんてあまりにもその犠牲になった人間が可哀想ではないだろうか。。。

  • 私はめったに、「この本読んだらいいよ」と人には勧めません。でも、この本を読んだことがない人は是非読んでみてください。単なる連続殺人や派手なトリックではなく、深く考えさせられます。
    感想を一言で言うと、「スゴイ!」です。もう、完全に脱帽です。一つ一つの文章自体はひねった比喩が使われているわけでもなく、淡々と書かれているのに、冒頭から引きこまれます。言葉の選び方にも彼女の洗練されたセンスが表れていますが、間の取り方や切り替えが絶妙なんです。
    ミステリーって、状況や登場人物を把握しないといけないですし、手がかりや伏線を見逃すまいと読むので、小説の最初の部分は面倒くさいのです。私が洋物ミステリーがあまり好きでない理由もここです。登場人物の慣れない横文字名を覚えていくだけで、疲れてしまいます。
    冒頭に大きな爆弾がドッカーンと落ちてそのままエンディングまで見逃せない、という東野圭吾さんのスタイルと、すーっとクレッシェンドがかかっていく宮部さんのスタイル。他人のアイデンティティを乗っ取る話は、東野さんの「幻夜」にもありました。二人とも、賢い悪女を描くのがお上手。東野さんが書く悪女は、得体の知れない女で、よく男が翻弄されてます(笑)。
    この本のテーマは「借金がいかに人生に影響するか」です。これから読む人のために詳しく書きませんが、印象に残った箇所は、自己破産が急増した背景には、昭和50年代後半のマイホームブームがあったという部分です。家を持つのが、一般市民であるサラリーマン達の一生をかけて実現する夢でした。これはまさにここ数年アメリカやイギリスが経験した不動産バブルと、払いきれなくなったローンが原因の破産を思い出させます。また、蛇がなぜ何度も脱皮するのか、という部分も面白かったです。今度こそ足が生えるはず、と思っていると。
    宮部さんがあとがきで、「大阪弁のチェックは東野圭吾さんに、大阪の街案内は高村薫さんにお世話になりました」とあり、私の大好きな作家達と付き合いがあることを知って嬉しくなりました。宮部さんは歴史小説も書かれているので、今度読んでみようと思います。

  • 5年近く積みっぱなしだったけど、先日発表された平成の30冊にランクインしているとのことで読んだ。初の宮部みゆき。

    休職中の本間刑事のもとに遠縁の男が「失踪した婚約者(関根彰子)を探してほしい」とやってくるところから物語が始まる。

    結局失踪した婚約者は他人になりすまそうとしていた(と推測されている)。突き止めて声をかけるところで終わるので、あくまで本間刑事の推理ではあるけど、犯人の新城喬子は住宅ローンで一家離散し、結婚してもすぐに離婚することになった。人生をやり直すために関根彰子に手をかけなりすますが、本物の関根彰子もクレジットカードの多重債務によって自己破産しており、新たななりすまし先を求めてその近親者と本人に近づくのではないかー。

    ローンにしろクレジットカードにしろ、手元にお金がなくても買い物ができてしまう。自分の返済能力を超えていたとしても。その結果本人やその家族の人生がめちゃくちゃになってしまう。弁護士が「現代の公害」と言っていたけど、誰でも新城喬子や関根彰子のようになってしまう可能性があるということを感じた。

    現在は仮想通貨は出てくるし当時よりもさらに経済活動がヴァーチャル化している。スマホが普及して「なんとかペイ」がやたらと氾濫してるし。今このタイミングで読めて良かったと思える。
    お金って何だろう、とか幸せって何だろうとか考えさせられる。

    ミステリー小説ってあんまり読んだことがなかったけど、この作品はさすがに平成の30冊に選ばれるだけあって、ジャンルの枠を超えた奥深さがあった。

  • 人になり変わってでも生きようとする執念がすごい。回りでも何人かいたが、クレジットカード破産は誰でも起きることと感じた。追いかけるものと追われるもの。ラストの緊迫感はゾクゾクした。

  • 背景が哀しい
    人生を奪ったカードローン地獄
    生きるための哀しい手段

    最後、彼女は多分安堵するだろう
    ようやく逃げなくてもよいと、、、

  • 20年以上前になるが、この文庫版ではなくハードカバーで読んだ。始めて読んだ宮部みゆきさんの本だった。
    それまで母の影響で、海外ミステリーばかり読んでいたのだが、これはスゴイという評判に押され手に取ったのだったと思う。
    いや〜、本当にすごい。日本にこんなミステリーを書く人がいるんだ!!と寝不足で読んだことを思い出す。以来ミーハーながらみやべーファンである。

  • 3回目の読了。前回読んだのは6‐7年前だがストーリーはだいたい覚えてた。しかし、先がわかっていてもおもしろい。
    主人公である犯人自体は、最後の最後まで登場しないで話が展開していく。少しずつ、ちょっとしたことがきっかけで謎が解けていき、推理がいきずまってはまた進み、最後に犯人にたどりつく。

    昭和の終わりごろが時代背景なので少し古い感じがするが、自分としては同世代なので、かえってそこも共感ポイントとなる。

    個人的には宮部みゆき作品の中のNo.1、現代ミステリーの最高傑作だと思う。

    また、何年後かに読んでみたい。

  • 高校生(か中学生)の頃に読んだ本。
    のはずなのに、ほっとんど覚えていなかった。

    覚えていたのは、自己破産の女性がいたことのみ。
    そしてすごく面白かったという読後感。

    今回久しぶりに読んでもとても面白かった。
    時代の流れは感じたけれど、今も同じ問題はあるだろう。
    何よりも、先が読めなさそうで読めそうな、だけどやはり推理を外すこのドキドキ感は得難いものだ。
    ページが止まらない。

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著者プロフィール

宮部 みゆき(みやべ みゆき)
1960年、東京都生まれ。1987年に「我らが隣人の犯罪」でオール讀物推理小説新人賞を受賞し、デビュー。1992年『龍は眠る』で日本推理作家協会賞、1999年には『理由』で直木賞、2002年『模倣犯』で司馬遼太郎賞、2007年『名もなき毒』で吉川英治文学賞など、数々の文学賞を受賞。大沢オフィス所属。日本推理作家協会会員。日本SF作家クラブ会員。直木賞、日本SF大賞、小説すばる新人賞、河合隼雄物語賞など多くの文学賞で選考委員を務める。『模倣犯』や『ブレイブ・ストーリー』など、多くの作品がドラマ化や映画化などメディア・ミックスされており、日本を代表するエンターテインメント作家として人気を博している。2019年7月10日『さよならの儀式』を刊行。

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