火車 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
3.82
  • (3417)
  • (3860)
  • (4395)
  • (439)
  • (99)
本棚登録 : 34087
感想 : 2943
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (590ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101369181

作品紹介・あらすじ

休職中の刑事、本間俊介は遠縁の男性に頼まれて彼の婚約者、関根彰子の行方を捜すことになった。自らの意思で失踪、しかも徹底的に足取りを消して-なぜ彰子はそこまでして自分の存在を消さねばならなかったのか?いったい彼女は何者なのか?謎を解く鍵は、カード会社の犠牲ともいうべき自己破産者の凄惨な人生に隠されていた。山本周五郎賞に輝いたミステリー史に残る傑作。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • ある女性が失踪。休職中の刑事・本間は遠縁の男性に頼まれ失踪した婚約者・関根彰子の行方を捜すことになる。聞き込みをしていく中で明らかになる事実と深まる謎。失踪と因果にある消費者金融地獄の実態も描かれた社会派ミステリ。

    初著者作品。
    小説読書とブクログデビューして間もなく1年10ヶ月を迎え、通読書も200冊を超えてからの宮部みゆき初体験。勿論読むなら世に名高い名作をと本作品を手に取った。

    本作品に限った技法なのか、著者特有の文体なのか、冒頭から独特の世界観に迎えられた。火車という表題名と反比例した何とも冷静沈着な刑事・本間目線の一人称による語り部によって進行していくのだが、登場人物に対する観察眼、心理描写などセリフ・地の文の節々に著者の哲学的な思想とポリシーを感じ惹かれた。

    そして、私のミステリ通読史上初であろう犯人と被害者が不在のまま「で、あろう」余韻を残して終える結末に漏れるため息。590ページの厚みも相まって読破に3日を要した。

    木を見て言うならば好感を、森を見て言うならば私の読解力では本作品の魅力を堪能しきれかった。

    途中、失踪した関根彰子が自己破産の依頼をした弁護士の説法が延々と、時に熱く語られるシーンがある。消費者金融の実態と債務者の性格的・心理的傾向から制度や行政延いては警察による保護の至らなさについて、こと細かに綴られている。私にとっては最大の見どころであり、このシーンと出会えたことに本作品を読み得た価値を感じた。

    この作品が産声を上げたのは今から30年前。当時はまだ貸金業法が整備されていなかった時代背景とのギャップはあったが、クレジットカードの利便性に潜む闇、キャッシングがもたらす錯覚、自己破産者や多重債務者に陥る過程は、法改正が行われた現状でも未だなお通ずる根深い問題だ。

    物語の中で弁護士は「金遣いの荒いだらしのない人間ばかりではない。むしろ生真面目な気の小さい人間だ」と自己破産者の心理面と実情を擁護しつつ、一方で金融業が経済を回していること、債務と債権の在り方に異議を唱えている。著者のあとがきで記されていたが、本作を執筆するにあたり相当な情報収集をされたことが十二分に伝わってきた。

    人生のデザインとお金のバランスによって、生き様は変わる。そのバランスが崩れたときの悲劇と警告が描かれた社会派小説と解釈することで、ストンと腑に落ちた作品であった。

    別の作品にも是非、触れてみたいと思う。

    • akodamさん
      megmilk999さん、こんばんは。
      コメントいただき嬉しいです。
      私の拙いレビューをご覧いただき恐縮です。

      本書が何故未だ多くの読者を...
      megmilk999さん、こんばんは。
      コメントいただき嬉しいです。
      私の拙いレビューをご覧いただき恐縮です。

      本書が何故未だ多くの読者を唸らせるのか、納得の一冊でした。特にお金に係る人間心理はどれだけ時代が流れても不変的ですよね。

      そしてお薦めもありがとうございます。
      どんちゃ…、いえ土瓶さんお薦めの【おそろし 三島屋変調百物語事始】は既に入手しておりまして、あとは気分の趣を待っております。これは歴史小説の類いに入るのでしょうか。私未経験なので、とても緊張しておりますがmegmilk999さんもお薦めとあらば、一先ずリラックスして臨もうと思います^ ^
      2022/06/13
    • 土瓶さん
      どんちゃん、でもなんでもいいですー(笑)
      「おそろし」は、歴史ものというよりは、大江戸ホラー?
      怖いだけでもない、いろいろな読後感が味わ...
      どんちゃん、でもなんでもいいですー(笑)
      「おそろし」は、歴史ものというよりは、大江戸ホラー?
      怖いだけでもない、いろいろな読後感が味わえる一冊です。
      するすると読みやすいので、構えず、お気軽にどうぞ♪
      2022/06/13
    • akodamさん
      どんちゃん、こんばんは(さらり)
      【おそろし】はホラーの類いなのですね!しかもいろんな読後感が味わえると聞いて楽しみになってきました。
      あり...
      どんちゃん、こんばんは(さらり)
      【おそろし】はホラーの類いなのですね!しかもいろんな読後感が味わえると聞いて楽しみになってきました。
      ありがとうございます^ ^
      2022/06/13
  • 社会派ミステリー。
    クレジットカードが普及し始めた頃の話。
    ある女性の失踪の謎。徐々に明らかになっていく真実。
    そこには自己破産者の凄惨な人生が隠されており…
    消費者金融の問題へと話は発展していく。
    テンポよい会話で展開され、物語に完全に引き込まれた。
    家族という逃れられない運命と、幸せになりたいという欲望。
    自己破産は本人が悪いのでも、カード会社が悪いわけでもないという。やるせない。
    時代を感じる作品だが、やはり名作だった。

  • 怪我で休職中の刑事の元へ、親戚の青年から(銀行員で態度悪し)婚約者失踪の相談が寄せられる。現役刑事が、その足取りを追うも、行方は掴めない。刑事は周囲の協力も得て、コツコツと彼女の残した痕跡をたどる。そして、戸籍をも操作したなりすましの事実を突き止める。
    平成初期の作品で、事件の発端となる主なテーマが、消費者金融であり、カード破産、ローン破産になっています。現在では、法定金利の引き下げや消費者金融への法整備等進み、社会問題としては少し古めかなあとは思いますが、昨今では投資型不動産の信用供与問題など根本的に同じ問題は続いていくのかもしれません。
    推理小説として充分読ませます。加えて、刑事の周辺の登場人物が、一人づつ人物像を丁重に書かれていて、彼の日常を豊かに描きます。
    最後に、失踪者である彼女が遂に姿を現し、そこで刑事と読み手の長い追跡の終焉となります。

  • ジョギングしながらイヤホンでオーディブルで聴く。
    風が強くて、三浦友和さんの声が風の音でかき消され、聞こえづらいところもあったが、負けないで聴いた。

    ひざを撃ち抜かれリハビリで休職中の刑事が、遠縁に頼まれて失踪した婚約者を探す。失踪した女性は過去にクレジットカードによる浪費で自己破産をしていた…という話。

    1992年発表とのことなので、もう30年前の小説になる。消費者金融全盛の頃。
    武富士ダンサーズのセクシーなダンスと「あなたの夢が動き出す」ってCMのセリフをふと思い出した。
    でも、“ご利用は計画的に”

    僕はバブル後に社会に出たので、現金以外で消費をすることは、とても怖かった。
    丸井とかのプラスティックのカードは便利だけど信じていなかった。

    だけど、今やキャッシュレス決済が当たり前。
    SuicaやPayPayが出てきてからは、現金を持ち歩きたくなくなった。
    コロナでステイホームで、Amazon使えばクレジット決済が不可欠になっていくし、飲み会なければ精算で現金出す機会もない。
    最近は財布の中身があまり動かなくなった。

    世の中が変わって、お金のあり方も変わっていく。


    「火車」は長い物語だけど、さすが宮部さん。
    圧倒的な筆致力で一気に読ませる。(というか、聴かせる)
    少し色褪せたかもしれないけど、まだまだ名作。 

  • 休職中の警官・本間俊介、彼の遠縁の和也から婚約相手が消えたと相談を受ける。名前は関根彰子。彼女の失踪を追うにつれ、消費者金融への問題に拡大する。さらに逃亡する理由と罪を重ねている可能性。1歩1歩関根彰子に近づく。クレジットカード地獄と家族の不条理。この本の幕の下ろし方が何とも秀逸!。小説の中で一番好きな本は何?という問いに「火車」と一切躊躇なく答えています。2016年頃かな?読書メーターを始めて最初に読んだこの本が一番好きな本でした。火車が自分の小説の基準になってしまったことがバイアスとなっています⑤↑↑

    • ポプラ並木さん
      自分は2016年頃から本格的に読書を始めました。最初に読んだのが火車で、十角館の殺人、容疑者Xに殺人、など完成度が高いものを読んでいったので...
      自分は2016年頃から本格的に読書を始めました。最初に読んだのが火車で、十角館の殺人、容疑者Xに殺人、など完成度が高いものを読んでいったので、基準が高くなってしまいました。

      宮部さん、蒲生邸事件、クロスファイア、レベル7が特に好きです。
      勿論、杉村三郎シリーズ、ソロモンの偽証、、、全部好きです。
      2022/06/05
    • 湖永さん
      良いですね〜。
      宮部さんは、なんというか重みがありますよねぇ。

      また、いろいろと参考にさせてもらいます‼︎
      良いですね〜。
      宮部さんは、なんというか重みがありますよねぇ。

      また、いろいろと参考にさせてもらいます‼︎
      2022/06/05
    • ポプラ並木さん
      こちらこそ!
      こちらこそ!
      2022/06/05
  • 長〜いが読みやすい。700頁弱。
    1998年?の頃の時代背景など振り返られる。
    主にクレジット関係、そして今より個人情報というワードも当たり前になってない時なのか。え??そんなことある?と恐くなる。

    宮部さんの他の何かを過去読んだ時に途中で挫折してしまい、、
    今回は1番ブクロク登録多いこちらを購入。

    会話メインで話が進んでいく構成。
    犯行は悪い事だが、人間の追い詰められたときの言動を思うと変に同情してしまうというか、、他のミステリーなら悪役に腹立ちまくるが、そんな気持ちにはなれなかった…。。。
    こゆ描き方が宮部さん上手だなあと、解説読んで納得。

    ちょいとお腹いっぱいなので、今日の休日は甲子園4試合見よう、関西大雨なりませんように。
    と言いつつ、午後から次の本読み始めるかも笑

    • koshoujiさん
      えー、ブクログ様から「YouTubeへの直リンクを張ったコメントは即刻削除せよ!!」との警告メールが届きましたので、前のコメントの指摘された...
      えー、ブクログ様から「YouTubeへの直リンクを張ったコメントは即刻削除せよ!!」との警告メールが届きましたので、前のコメントの指摘された部分を削除して書き直しました。ご了承ください。
      現在のブクログの担当者は、この10年間、私がどれほどブクログの普及に貢献してきたか知らないらしいです。
      まあ、makopapa77で検索すれば、私の真の姿が半分ほど分かりますが。

      初めまして。koshoujiと申します。
      亀レスになりますが、私のレビューに対して“いいね”ありがとうございました。
      フォローもさせて頂きました。
      私は数年前、ひたすらブクログにレビューを書き続ける毎日を送り、300本ほどレビューを書いたのですが、仕事が忙しくなり、最近は殆ど本も読めず、レビューも書いていません。そのうち、また面白いレビューを書くつもりですので、今後ともよろしくお願いいたします。
      2022/10/13
    • なんなんさん
      koshoujiさん、初めまして、おはようございます!
      10年間も!凄いっ!
      私まだ1年弱の初心者です。

      レビューこれからも楽しみにしてま...
      koshoujiさん、初めまして、おはようございます!
      10年間も!凄いっ!
      私まだ1年弱の初心者です。

      レビューこれからも楽しみにしてます^ ^
      宜しくお願いします♪
      2022/10/14
  • ブクログ参加時に登録した本はレビューを書いていないのですが、
    今話題のAIである"チャットGPT"に「宮部みゆきの「火車」のレビューを書いてください。」と送信してレビューを書いて貰いました。

    ---ここから---
    『火車』は、宮部みゆきの代表作で一つあり、1995年に発表された長編推理小説です。

    物語は、雪深い北海道の小さな駅で、同じ列車に乗っていた乗客たちが殺到していた事件ということから始まります。ある浜田由美子と共に、列車内での犯行を追及していきます。

    本作は、犯人探しのストーリーに加えて、登場人物たちの心理描写や過去のエピソードが丁寧に描かれており、読者を引き込む深みがあります。また、冬の北海道の雪景色が舞台設定として活かされていますされ、緊張感溢れるシチュエーションが次々と展開されます。

    さらに、事件解決の鍵となる伏線や、驚きの展開も多くあり、読者を翻弄させます。

    総合すると、『火車』は、ミステリー小説の名作の一つであり、推理小説ファンはもちろん、小説全般の愛好家にもおすすめできる作品です。
    ---ここまで---

    これが"チャットGPT"からの返信です。

    "感想"でなく"説明"になっていますが無難な内容でうまく出来ていると思います。
    質問を変化させていけば違った返答も得られるのでしょう。
    これをベースに自分の意見を加えて編集し直せば"自分のレビュー"に仕上げられそうです。

    学生が論文を書くのに使うツールになっているのも納得できる完成度です。
    世の中の進歩についていけなくなりそうです。
    AIが作った文章と、生身の人間が書いた文章の見分けがつかない時代に突入していることを実感しました。

    *「火車」なら多くの方が読まれていると思って"チャットGPT"のレビュー対象に選ばせて貰いました。

    • Kazuさん
      GoogleのチャットAI「Bard」が、本日5/11から日本語対応したので試してみたら…ほぼ完璧\(◎o◎)/!だったので紹介したくなりま...
      GoogleのチャットAI「Bard」が、本日5/11から日本語対応したので試してみたら…ほぼ完璧\(◎o◎)/!だったので紹介したくなりました。
      以前のChatGPTの答えは??だったので、改善されているか?もう一度聞いてみたが相変わらず残念(◞‸◟)だった。
      得手不得手はあるのだろうが、「Bard」スゴイ。
      フェイクニュースに騙されないようにすることが難しくなってきたと感じる。

      【私の問いかけ】
      宮部みゆきの「火車」のレビューを書いて。

      【「Bard」の返答】
      火車は、宮部みゆきによるミステリー小説です。1992年に双葉社から刊行され、第6回山本周五郎賞を受賞しました。
      本作は、足を負傷して休職中の刑事、本間俊介が、遠縁の男性から婚約者の行方を追うよう依頼されたことから始まります。本間は、婚約者である関根彰子が自己破産を申請した後、失踪したことを知ります。本間は彰子の足取りを追い、やがて彼女がカード会社から多額の借金を抱え、追い詰められていったことを知ります。
      本作は、借金や自己破産といった社会問題を題材にしたミステリー小説です。しかし、それだけではありません。本作は、借金や自己破産によって追い詰められた人々の悲劇を、人間の弱さや強さ、愛情や憎しみといった普遍的なテーマに昇華させた、傑作ミステリー小説です。
      本作の魅力は、まず、宮部みゆきの卓越した筆力です。宮部みゆきは、登場人物の心情を繊細に描写し、読者の心を揺さぶる文章を書く作家です。本作でも、借金や自己破産によって追い詰められた人々の悲しみや苦しみが、生々しく描かれています。
      また、本作は、ミステリー小説としても非常によくできています。謎が徐々に解き明かされていく過程は、スリリングで、最後まで読者の興味をひきつけます。そして、ラストシーンは、読者の予想を裏切る、衝撃的な展開となっています。
      火車は、借金や自己破産といった社会問題を、人間の弱さや強さ、愛情や憎しみといった普遍的なテーマに昇華させた、傑作ミステリー小説です。ミステリー小説が好きな人、そして、社会問題に興味のある人には、ぜひ読んでいただきたい作品です。

      【ChatGPTの返答】
      「火車」は、宮部みゆきによるミステリー小説です。本作は、1984年に発表され、以来、多くの読者から高い評価を得てきました。
      物語は、主人公である元新聞記者の津田啓介が、自殺した友人の調査を依頼され、その友人が関わっていたとされる小さな町での事件に巻き込まれていくところから始まります。啓介は、事件の解決に向けて奔走するうちに、町に潜む不気味な空気や、事件の陰謀に巻き込まれた人々の複雑な心情を垣間見ることになります。
      本作は、宮部みゆき独特の緻密な描写と、キャラクターたちの深い心理描写が際立っています。事件の真相が徐々に明らかになっていく展開は、読者を引き込んで離しません。また、物語の舞台である小さな町の描写も細かく、リアルに描かれているため、読者はまるでその場にいるような感覚に陥ります。
      総合的に、宮部みゆきの「火車」は、緻密な描写と展開、深い心理描写など、ミステリー小説として非常に完成度が高く、読者を魅了する作品となっています。ミステリー小説のファンはもちろん、そうでない方にもおすすめできる一冊です。
      2023/05/11
    • 土瓶さん
      凄い!
      「Bard」さん、完璧じゃないですか~。
      それに比べて「ChatGPT」さんは……。出版された時期まで違うなんて。
      そのへん問...
      凄い!
      「Bard」さん、完璧じゃないですか~。
      それに比べて「ChatGPT」さんは……。出版された時期まで違うなんて。
      そのへん問い詰めたら「ChatGPT」さんはなんて答えるのかな?

      ふと思ったんだけど、こういうのの欠点は「知らないことを知らない」と言えないことじゃないだろうか、などど思ったりもした。
      2023/05/11
    • Kazuさん
      「知らないことを知らない」は正解だと思います。
      誤りを指摘すると謝罪しますが、再度自信満々で偽情報を返してきます。

      【私の問いかけ】...
      「知らないことを知らない」は正解だと思います。
      誤りを指摘すると謝罪しますが、再度自信満々で偽情報を返してきます。

      【私の問いかけ】
      出版された時期も物語の内容も違いますよ。

      【ChatGPTの再返答】
      申し訳ありません、誤った情報を提供してしまいました。私の知識が更新されていなかったため、間違いを犯しました。以下に正確なレビューを提供いたします。

      「火車」は、宮部みゆきによるミステリー小説であり、1987年に発表されました。物語は、夜行列車の中で起こる一連の殺人事件を描いています。

      物語の主人公は、夜行列車の客室乗務員である三島信介です。彼は、列車内で起こる連続殺人事件を追ううちに、犯人の存在と犯行の動機に迫っていきます。一方で、彼自身にも過去のトラウマがあることが明かされ、それが物語の中で重要な役割を果たします。

      宮部みゆきの描写は非常に緻密で、読者を物語に引き込みます。また、小説の舞台となる夜行列車の内部や、登場人物たちの心理描写など、細かい部分まで丁寧に描かれています。物語の展開もスリリングであり、犯人の正体や犯行の動機が明かされるまで、読者を緊張感のある状態に保ちます。

      総合的に、宮部みゆきの「火車」は、巧みな筆致と緻密な描写によって、非常に興味深いミステリー小説となっています。読者は、犯人の正体を追う三島信介とともに、事件の真相を解き明かすためのクエストに飛び込むことができます。ミステリー小説のファンにとっては必読の一冊であり、小説を読むことが好きな方にもおすすめです。
      2023/05/12
  • 【感想】
    10年ほど前に一度読んだ小説。
    昔読んだときはあまり面白いと感じなかったが、再読してみるとめちゃくちゃ面白かった。
    物語は一人の女性の失踪から始まる。
    そしてその女性を追っていくにあたり、もう一人の女性が出てきて、その人の人生を見事にトレースしていく事で物語は進んでいく。
    最終的に、その女性をついに突き止め声を掛けるところで物語は終わるが、それも含めて本当に面白い1冊だった。

    そして、「火車」というタイトルが逸脱すぎる。
    いやー、本当に名作だった!!


    【あらすじ】
    休職中の刑事、本間俊介は遠縁の男性に頼まれて彼の婚約者、関根彰子の行方を捜すことになった。
    自らの意思で失踪、しかも徹底的に足取りを消して――なぜ彰子はそこまでして自分の存在を消さねばならなかったのか?
    いったい彼女は何者なのか?
    謎を解く鍵は、カード社会の犠牲ともいうべき自己破産者の凄惨な人生に隠されていた。
    山本周五郎賞に輝いたミステリー史に残る傑作。


    【引用】
    火車(かしゃ)
    火が燃えている車。生前に悪事をした亡者をのせて地獄に運ぶという。ひのくるま。


    p42
    若い女性の失踪は、それ自体は珍しいものではない。
    だが、若い女の単独での失踪に「自己破産」がからんでいるケースというのは、あまり耳にしたことがない。
    一家そろって夜逃げということならあり得るが、女が一人で、男からではなく借金から逃げるとは。

    いや違うか、と思い直した。
    関根彰子は自己破産しているのだから、借金は消えてなくなっているわけだ。
    それとも、破産しても借金は借金として残るんだろうか?


    p104
    「違います」
    ゆっくりとかぶりを振り、にわかにそれが汚いものに変わったとでもいうかのように、履歴書を本間の手に押し返しながら、弁護士は言った。
    「この女性は、私の知っている関根彰子さんではありません。会ったこともない。誰だか知らないが、この女性は関根彰子さんじゃありませんよ、別人です。あなたは別人の話をしている。」


    p158
    他人の戸籍。他人の両親。他人の身分。
    金で買い取ったのか。それとも…
    (なんらかの方法で乗っ取ったか)
    どちらにしろ、あの「関根彰子」は、周到な手を打って本物とすり変わったのだ。


    p201
    「火車の、今日は我が門(かど)を、遣り過ぎて、哀れ何処へ、巡りゆくらむ」
    巡り来る火の車。それは運命の車だったのかもしれない。関根彰子はそこから降りようとした。そして、一度は降りた。
    しかし、彼女に成り代わった女は、それと知らずにまたその車を呼び寄せたのだ。

    今どこにいる?
    夜の闇の向こうに、心の内で、本間は問いかけた。
    彼女はどこにいる?
    そして、何者だったのだ?


    p231
    個人破産でも、持ち家などの資産があって、ある程度の配当を見込むことができる場合は、破産宣告がおりると、企業破産の時と同じように、裁判所の委託を受けた破産管財人が、債権者の調査・整理・配当の手配に取り掛かります。
    この間、破産者は、裁判所の許可なく引っ越したり旅行したりすることはできないし、郵便物も管財人のもとに転送される。

    悪質な資産隠しをしたり、破産申立ての準備をしながら債権者には嘘をついて借金を重ねるなどの詐欺行為をすると、免責不許可の原因となる。


    p238
    銀座四丁目の交差点のところで別れた。
    挨拶を交わしたあと、もう一度年を押すように、溝口弁護士は言った。
    「私の言ったことを、どうか忘れんでください。関根彰子さんは、何も特別にだらしのない女性ではなかった。彼女なりに、一所懸命に生活していました。彼女の身に起こったことは、ちょっと風向きが変われば、あなたや私の身にも起こり得ることだった。彼女を取り込んでいた状況を、いつも頭に入れておいてください。そうでないと、彼女も、彼女に成り代わっていた女性を探すこともできないですよ」


    p488
    「蛇が脱皮するの、どうしてだか知ってます?」
    「皮を脱いでいくでしょ?あれ、命懸けなんですってね。すごいエネルギーが要るんでしょう。それでも、そんなことやってる。どうしてだかわかります?」
    富美恵は笑った。

    「一所懸命、何度も何度も脱皮しているうちに、いつか足が生えてくるって信じてるからなんですってさ。今度こそ、今度こそ、ってね。」
    「足があるほうがいい、足があるほうが幸せだって。で、そこから先はあたしの説なんだけど、この世の中には足は欲しいけど、脱皮に疲れてしまったり、怠け者だったり、脱皮の仕方を知らない蛇はいっぱいいるわけよ。そういう蛇に、足があるように映る鏡を売りつける賢い蛇もいる。そして、借金してでもその鏡を欲しいと思う蛇もいるんですよ。」


    p518
    「喬子の家族は、昔、借金で一家離散してるんです」
    倉田は言った。かすかだが、声の調子が狂っていた。
    「住宅ローンが払えずに、一家で故郷の郡山を夜逃げしたんですよ。喬子が僕と離婚したのだって、そのせいです。」

    君たち二人は同類だった。
    本間が思ったのは、そのことだった。
    関根彰子と新城喬子。君たち二人は同じ苦労を背負っていた人間だった。
    同じ枷をかけられていた。同じものに追われていた。
    なんということだ。君らは共食いしたも同然だった。


    p537
    「喬子が図書館の机にかがみこんで、目を血走らせて官報のページをめくってるんです。お父さんに似た人間が死んでないか確かめるために。。。いや、そうじゃない。」
    倉田の声に、鞭で叩かれたかのような、苦痛の色が混ざった。
    「死んでてくれ、どうか死んでてくれ、お父さん。自分の親ですよ。それで、僕の中の堤防が崩れちまったんです。」

    彼女の肘のすぐそばで、新着図書の推理小説を読んでいた若い女性は、雑誌の暴露記事に目を丸くしていた老人は、そういう喬子の立場を理解できただろうか。
    肘の触れ合う距離に、声の届く範囲に、そういう生活があることを想像できたろうか。

    「自分の顔を見てみろよ、と言ってしまったんです。まるで鬼女だって」
    本間の想像は当たっていた。新城喬子は孤独だった。
    過酷なほどに独りぼっちで、骨を噛む冷たい風は、彼女にしか感じることのできないものだった。

    入籍後、わずか三ヶ月のことだ。これがのちに新城喬子が説明した結婚の正体だった。


    p594
    まともな生活をしたい。
    終われる不安から解放されたい。
    平凡に、幸せな結婚をしたい。
    求めるものは、ただそれだけだ。喬子はそう考えていたのだろう。
    そして、自分の身を守るためには、自分で闘うしかないと悟ってもいただろう。

    父親にも、母親にも、彼女を守ることはできなかった。
    法も守ってはくれない。
    頼れる人だと信じ、庇護を与えてくれると思っていた倉田康司も、彼の家の財力も、いざというときには彼女を見捨てた。

    彼女の存在は、社会にとってその程度のものなのだ。誰もすくい上げてはくれない。
    這い上がっていかないことには、生きる道はないのだ。


    p685
    やっと捜し当てた。そう思った。やっとたどり着いた。
    こっちから何を尋ねるかなどは問題じゃない。俺は、君に会ったら、君の話を聞きたいと思っていたのだった。
    これまで誰も聞いてくれなった話を。
    君がひとりで背負ってきた話を。
    逃げ惑ってきた月日に。隠れ暮らした月日に。
    君がひそかに積み上げてきた話を。

    • 八幡山書店さん
      職場のおじ様に紹介されて読みましたが、「20年以上前の作品だろ?現代人の感性には響かないぜ…」なんて思いながら読みましたが、期待を見事に裏切...
      職場のおじ様に紹介されて読みましたが、「20年以上前の作品だろ?現代人の感性には響かないぜ…」なんて思いながら読みましたが、期待を見事に裏切ってくれました笑
      クレジットカードの怖さが伝わる作品。子どもにも薦めたいですね。
      2021/02/22
    • きのPさん
      八幡山書店さん
      テーマや時代背景こそやや古いものの、「火車」は色褪せないイイ作品だと思います!
      当たりはずれの少ない宮部みゆきさんの作品...
      八幡山書店さん
      テーマや時代背景こそやや古いものの、「火車」は色褪せないイイ作品だと思います!
      当たりはずれの少ない宮部みゆきさんの作品の中でも、「火車」と「模倣犯」はレベチの作品だと個人的に思います!!
      2021/02/24
  • 再読。
    20年ぶりくらいだろうか。

    ブクログでレビューを見かけ読みたくなって、確か実家にあったはずと、立ち寄りついでに探すものの『レベル7』や『蒲生邸事件』はあるのだけれど、本書は見つからず結局図書館で借りる。
    あの頃は買って読んでいたはずなんだけどなぁ。

    いやぁ、面白い。
    間違いなく傑作。
    カード破産と戸籍乗っ取りの話だとはおぼろげに記憶していたけれど、真相は覚えていなかったので新鮮な気持ちで楽しめた。

    話の筋はたいして複雑ではなく、休職中の警察官である主人公本間の甥が婚約者に自己破産の過去があることを発見し、問いただしたところ失踪。
    足取りを追っていくとどうも戸籍上の本人ではなさそうだ。
    2人の女性は今どこに!?という話。
    このストーリーが、すっと馴染む文章で綴られる関係者の話や、エピソードで肉付け、深堀りされていき、次第に真相が見えてくる様に、とにかく没入させられる。

    宮部みゆき氏はエピソードで人物造形するのが本当に、本当にうまいと思う。
    直接的には登場しない、失踪女性の関根彰子に戸籍乗っ取りの嫌疑がかけられる中でどうにも付きまとう「しっくりこない感」。
    それでも明らかになっていく事実がもたらす「そうなのかも感」。
    最後、明文化されない事実を残しつつのエンディングはともすると肩透かしに感じられるところだが、それすらも良い余韻。

  • カードは、一括払いのみ。キャッシングはせずの主義なんで…
    カード会社に踊らされたら、ロクなことないって事やな。
    今の時代は、過払い請求とかで、サラ金とかは前ほど勢いはないとはいえ、今だに派手なCMしてるもんな。いっぱい借りたら、返せんという事分かってて…って感じやな。
    自己管理は当然必要やけど、貸す側も考えろや!
    そこから、逃れる為に、リセットしようとしても、なかなか厳しいやろね。ヘビのように何度も脱皮して、次こそは、足が生える。でも、現実は…
    600ページぐらいあるけど、なかなか楽しめた!ひとつずつ、コツコツと真実に迫っていくところも面白い。
    最後の「あれ?これで終わるん?」ってのも、個人的には好きな感じ。
    さすが!傑作って言われるだけはある!

全2943件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

1960年東京都生まれ。87年『我らが隣人の犯罪』で、「オール讀物推理小説新人賞」を受賞し、デビュー。92年『龍は眠る』で「日本推理作家協会賞」、『本所深川ふしぎ草紙』で「吉川英治文学新人賞」を受賞。93年『火車』で「山本周五郎賞」、99年『理由』で「直木賞」を受賞する。その他著書に、『おそろし』『あんじゅう』『泣き童子』『三鬼』『あやかし草紙』『黒武御神火御殿』「三島屋」シリーズ等がある。

宮部みゆきの作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
宮部 みゆき
東野 圭吾
宮部 みゆき
伊坂 幸太郎
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×