幻色江戸ごよみ (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
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本棚登録 : 3099
レビュー : 244
  • Amazon.co.jp ・本 (330ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101369198

感想・レビュー・書評

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  • 12編の短編を1月~12月の風物に事寄せた短編集。作者の時代物の書かれた順で言えば、「かまいたち」、「本所深川ふしぎ草紙」に次ぐ3冊目となるようです。

    収録作のうち、数本の突出した出来がまず目立ちます。「器量のぞみ」「神無月」のどちらかは、きっと多くの人が「この本で一番心に残った」一本にあげることでしょう。この二本に加え、自分は「紙吹雪」の凄みを推しておきたいと思います。これらはいずれも、内容ももちろんですが、それ以上に表現の力を感じます。読者が望んだ一言をラスト一行でポンと投げ出してみた「器量のぞみ」、現在形で書かれ疾走感(時代物に疾走感です!)を感じる「神無月」、そして聞き書き(インタビュー)と一人称でヒロインの行動を浮き彫りにした「紙吹雪」、いずれもこれまで読んだ最初期の作品を超える表現力だと感じました。

    もう一つ、この作品の前後で繰り返し作者に取り上げられているテーマが目に付きます。遠慮なく作者が好きなこと、書きたかったことを書いているようで、面白くなるのは当然です。
    「庄助の夜着」の恋心を物の怪に紛らわすさまは「送り提灯」を、「だるま猫」の猫頭巾所有者の末路は「猿の手」を思わせ、「小袖の手」の女の情念が纏わりつく小袖と袋物売りは「天狗風」の原型です。

    ただ、作品の傾向がバラバラなのはなぜだろうと思います。「幻色」なので全て怪異が扱われているのかと思ったら、「紅の玉」や「まひごのしるべ」など怪異のかけらもない作品も混じっています。また「こよみ」に関しても、「器量のぞみ」から「首吊りご本尊」にかけては季節色が薄く、風物も出てこないように思えます。怪異については「本所深川ふしぎ草紙」に、風物に関しては「初ものがたり」に引けをとっているように思えて、ちょっと残念です。

    以下、各話に一言ずつ。

    鬼子母火
    おっかさんの遺髪をお札と一緒に神棚に飾ってもらえば「お灯明も上げてもらえるし、お榊も飾ってもらえるし、お餅も供えてもらえるし」という発想がいじらしい。
    巻頭作のこの1本で、「暦+怪異+人情話」の12編で編まれた1冊、という印象を植え付けた、のだろうと思ったんだけど…。

    紅の玉
    他の11本と比べ、突出して救いの無い1本。怪異も登場しません。「余計な功名心で身を滅ぼす」展開が、作者の好きなホラーにあるのかとも思いましたが、そうでもなさそうです。
    せっかくの巻頭作で作った印象があいまいになってしまいました。

    春花秋燈
    一人称の語りが落語を聴いているかのよう。
    因果応報の話と本人たちには深刻で笑っちゃいけないけれどでもちょっと笑える艶笑話の2本が楽しめます。どちらも膨らませることができそうなネタなので、近作で読めるかも。

    器量のぞみ
    この1冊を読んだ人のほとんどが「これがよかった」にあげるであろう一編。読者が「こうなってほしい」「多分こうなるだろう」と考えるだろう結末どおりで意外性がまったく無いにもかかわらず、簡潔な表現で「落ち」になっているのが見事です。

    庄助の夜着
    物の怪に恋心を紛らせるのは「本所深川ふしぎ草紙」の「送り提灯」にもありました。
    世界の善きものをすべて集めたような「こういう男をつかまえて役立たずと呼ぶのなら、世の中は役立たずで足の踏み場もなくなってしまう」ような庄助は、どこから来てどこに行ったのか気になります。伏線があるわけではありませんが、昔五郎兵衛が助けた狐狸の類って言われたらしっくりくるような、そんな素朴さ善良さです。

    まひごのしるべ
    まひごのしるべ=迷子の標。迷子を「捜しています」「預かっています」が行き交う当時の掲示板です。
    自分が子を持って初めて子を亡くした親の思いが身に染みて想像できるようになりました。自分だったら耐えられない…。

    だるま猫
    プロットに違いはありますが、猫頭巾が人手から人手へ渡っていく様子に「猿の手」を思い出しました。
    「臆病な自分を認めよ、それから逃げてはいけない」のはそのとおりかもしれませんが、でもちょっと説教くさいかな。どちらかと言えばそれができずに破滅していくほうに共感してしまいます。

    小袖の手
    女の情念が宿った萌黄色の小袖と袋物売りはそっくり「天狗風」のプロットになっています。
    周囲が何と言おうと、三造にとってこの結末は本望だったんでしょう。「孤独は死に至る病」とはホロの台詞ですが、孤独は孤独から脱出して初めて孤独であることの辛さを痛感するものです。気ままだった頃の孤独に遠い憧れを抱きつつ、自分はもう二度とそこには戻れません。

    首吊り御本尊
    奉公辛い話。
    帰る家が無いと実感することは、幼い子供にとってどんなに辛かったろうと思います。

    神無月
    現在形で書かれた「疾走感のある時代物」。なかなか珍しいと思います。どうなったか結末が書かれていないのも疾走感を盛り上げます。
    でも、「器量のぞみ」同様、読者がこうなってほしいと思うラストが待っていることでしょう、きっと。
    事件の概要を聞いただけで真相に辿り着く飲み屋の親父は「初ものがたり」の稲荷寿司屋の親父を思わせます。あと、文庫の表紙はこの作品をモチーフにしているのでしょうけれど、一冊読み終わらないとわからない、というか読み終わってからでもこのイラストってどの作品なんだろう、ってよく考えないとわからない感じです。

    侘助の花
    寂しい心に生き別れの家族という作り話がするっととり憑いてしまった囲われ者の話。
    彼女はどこへいってどうしているのか、知らないほうがいいに決まっていますがでも気になって仕方がありません。

    紙吹雪
    一人称の語りと聞き書きで事件を見事に浮き彫りにした作品。夕陽に照らされ、木枯らしに吹かれながら、屋根の上から紙吹雪を撒く姿に凄みを感じます。
    てか、これ時代物でなく現代ものでもまったく同じプロットで本が一冊書けますよね。…火車?

  • お江戸の町で幸せ不幸せな人生を日々必死に生きている人々の物語を奇譚風に綴った宮部みゆきさんの絶品時代短編集。『鬼子母火』安心して成仏してね、おっかさん。『紅の玉』最悪の魔が差したね。『春花秋燈』行灯の怪異譚。『器量のぞみ』素晴らしい安堵の結末。『庄助の夜着』庄助が今幸せだといいね。『まひごのしるべ』辛いけど最善の結末。『だるま猫』逃げて正解。『小袖の手』真っ白な腕。『首吊り御本尊』忍耐の大切さを教える神様。『神無月』実は鋭い居酒屋の親父。『侘助の花』気の毒な女。『紙吹雪』ぎんさん、あの世で家族とお幸せに。

  • 宮部さんの歴史小説は、引き算の美学とでもいいましょうか。書き過ぎず、説明し過ぎず。魅かれます。情景、人間関係、心情もあまり細々と読者を説得しようとせず、一定の距離をもって、さらりと書いているので、逆にこちらがあれこれと思いを巡らせて、豊かな時間を過ごせます。科学や技術で説明のつかないことが多かった時代、人の執念、怨念、業などがきっと形を変えて、こうした物語になったのだろうなとどこかに自分の気持ちを重ねられました。「神無月」は新潮文庫「親不孝長屋」で既読でした。

  • 20140617 短編だが内容の詰まった話。丁寧に書かれか本は読むだけで体力がいるので今の自分にはこの長さの話がちょうど良いと思った。

  • 宮部作品の時代物を続けて読んでいます。

  • 10/05/23
    解説(縄田一男)の「『鬼子母火』からはじまった本書は、『おっかさんはあたしを連れていきたがった。だけどあたしは生き残っちまった』という娘の復讐劇『紙吹雪』によって、見事な円環を示しながら幕となる。」(P.330)を読んではっとなった。
    やっぱり面白い。あと奥が深い。

    「紅の玉」「器量のぞみ」「首吊り御本尊」「神無月」「紙吹雪」がお気に入り。

  • 再々読・・。
    これも何度読んだかわかりません。
    何度読んでも深く心にしみます。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「深く心にしみます」
      昔の話ですが、NHKで遣っていたドラマをたまたま見てしまって、ハマリました。泣けて仕方無いです。
      「深く心にしみます」
      昔の話ですが、NHKで遣っていたドラマをたまたま見てしまって、ハマリました。泣けて仕方無いです。
      2012/09/06
    • 茶トラさん
      宮部さんの江戸物は、どれも良いですよね。
      この本はボロボロです。
      宮部さんの江戸物は、どれも良いですよね。
      この本はボロボロです。
      2012/09/06
    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「この本はボロボロです」
      判ります。
      私は数冊しか読んでないので、これから他も読む予定です。。。
      「この本はボロボロです」
      判ります。
      私は数冊しか読んでないので、これから他も読む予定です。。。
      2012/09/14
  • 宮部さまの時代ものは何を読んでもおもしろい

  • 2015/4/29に読んでいた。
    やっぱり読んだことあるよなーと思いながら最後まで読んでしまった。
    かまいたちと同時に読んでいたけど、なんか交錯してる?(読み返すのは面倒)

  • 怖そうだぞ!と身構えて読んだ、『かまいたち』と『本所深川ふしぎ草紙』がそうでもなかったので、油断して読んだらけっこう怖かった 笑
    怪談めいた話で妖とかが登場するのが怖いのは勿論ですが、人間の心の闇みたいなのも恐怖でした…
    やはり1番怖いのは人間ということか?!と思った一冊です。

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著者プロフィール

宮部 みゆき(みやべ みゆき)
1960年、東京都生まれ。1987年に「我らが隣人の犯罪」でオール讀物推理小説新人賞を受賞し、デビュー。1992年『龍は眠る』で日本推理作家協会賞、1999年には『理由』で直木賞、2002年『模倣犯』で司馬遼太郎賞、2007年『名もなき毒』で吉川英治文学賞など、数々の文学賞を受賞。大沢オフィス所属。日本推理作家協会会員。日本SF作家クラブ会員。直木賞、日本SF大賞、小説すばる新人賞、河合隼雄物語賞など多くの文学賞で選考委員を務める。『模倣犯』や『ブレイブ・ストーリー』など、多くの作品がドラマ化や映画化などメディア・ミックスされており、日本を代表するエンターテインメント作家として人気を博している。2019年7月10日『さよならの儀式』を刊行。

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