堪忍箱 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (244ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101369228

感想・レビュー・書評

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  • 沁み渡る一冊。 

    これまた珠玉の短編集。

    災禍に見舞われどそれぞれの日々を懸命に生きる市井の人々。 
    そんな最中、人の心にふとした瞬間、小さな闇の芽が顔を出す。

    その闇の掬い方描き方が心ざわつかせ、隅々まで言葉沁み渡るこの筆致は天下一品。

    そしてきっぱりと終わりを告げさせない余韻。

    まるでいつまでも足元でくるくる風が吹き、心に言葉にならないつむじ風をもたらす、ここに巧さとニクさを感じずにはいられない。

    親と子の秘めた苦しみがせつない「お墓の下まで」、一人の男の堪えきれない想いが絞り出された一言が沁み渡る「砂村新田」が好き。

  • 時代小説短編8作から成る1冊。

    善悪0か100かといった単純化された感情論に流されやすい世の中を空気を感じる今日この頃。
    「頑張れば報われる」果実が存在することが望ましいけれども、なかなか簡単にはいかないものだ。

    人の感情も他人との関係性も、厄介で複雑であり、首尾一貫もしていない。
    情念、執着、媚態、嫉妬、気後れ、罪悪感等々が混ざり込み、それは人との関係性によってもさらに変容する。
    そんな複雑な人の心が1冊に綴られる。

    ある日突然苦悩の表情で亡くなっていた長屋の差配人黒兵衛について、住人たちそれぞれが彼の人となりを語る『謀りごと』が好み。
    有吉佐和子さんの『悪女について』、貫井徳郎さんの『愚行録』のようなテイスト。

    好意を持っている人に対して取る想いの複雑さを描いた『てんびんばかり』と『砂村新田』は、読み手に委ねる終盤の余韻が心地よい。
    きょうだいのような身内同士の慈愛と嫉妬、男女間の思慕の形と形態は異なるが単純ではない想いの行き交いがさらりと描かれる。

    宮部さんの時代小説はいくつかのシリーズがあるけれど、『三島屋シリーズ』の続きがそろそろ待ち遠しい。
    『きたきた捕物帖』シリーズは5月とのことなので、もう少しかな。

  • 隠し事を心の奥に持っているからこその優しさが心にしみます。

  • 天才だよなぁ。

    辻村深月の本ひきづったまま読み始めたので、宮部みゆきのエッセイは是非読みたいと思ってしまうくらいに、たった15ページでこんなに読者を引きこんで泣かせて、あーもうなに!どうして!
    って思わせて終わらせて、さっさと次の話に移る、

    そして、また1ページ目で、速攻話に引き込まれて
    え?犯人だれだ!いや、こいつが怪しい!
    あーなんーだよーって思ってたら、また次の話。

    それまた1ページ目で即新しい話に入り込むんだよ。

    すごいよね。
    ホントすごい。

    短編でここまで引き込めるのは宮部みゆきくらいじゃなかろうか。

  • 1996年に刊行され、2001年に文庫化された宮部みゆきの時代小説短編集。
    「初ものがたり」のように連作だったり、「幻色江戸ごよみ」「本所深川ふしぎ草紙」のように風物にこと寄せたりしていたりするわけではなく、捕物帖でもなければ怪異も出てきません。さらに言えば、内容もこれまでの「お江戸人情もの」とは趣を異にする感じで、乱暴に一言でくくってしまうと、人間の「情」を通り越した「情念」を感じる短編集です。
    人と人との関係が、友情や恋愛感情を通り越して執着し、ストーカーになってしまうと途端に事件臭が漂ってくるように、行き過ぎた情が情念になってしまったさまが、時代物の力を借りてドラマチックに描かれます。炎をバックにした「堪忍箱」や「十六夜髑髏」のラストなどは外連味たっぷりで、歌舞伎でありそう。解説に時代物ドラマの脚本家を持ってきているように、ドラマに向いているのかもしれませんね。

    人の悪意を描くのに疲れて時代物ばかり書いていた時期があった、と著者のインタビューで読んだ記憶があるのですが、そうであるなら吹っ切れたということなのでしょう。読者としては、これまでの時代物短編集のつもりで手に取って「思ってたんと違う」と感じるのでは。

    以下、各話に一言ずつ。

    「堪忍箱」
    標題作。これを表題作に据えたあたり「ちょっと作風変えてみた」アピールを感じますw。
    ラストの解釈は人それぞれでしょうけれど、「お店のためを思って後ろ暗いことをしたその後悔の念を代々箱に封じてきた」ことを感じたお駒は、自分もおしゅうを火事で葬り、そのことを箱に封じることを決意したのか、そのようなことは自分で最後にしようと、箱とともに灰になろうと決意したのか…。
    みんなどう読んでいるんでしょうね。

    「かどわかし」
    家業の切り盛りに忙しい母ではなく世話をしてくれた乳母に懐いてしまった総領の一人息子。彼の行動は身代と引き換えに、貴重なリセットの機会を母に与えてくれました。
    ちょっと現代の価値観に近いお話で、舞台をそっくり現代に持ってきても成立するかも。
    読者としてはよかったよかったなのですが、当時の状況で母一人子一人で世間の荒波に揉まれて食っていくことができるのかが心配です。

    「敵持ち」
    小坂井様の傘か、の一言が印象的です。浪人者の傘貼りの内職をこんなに効果的に使うことができるなんて。

    「十六夜髑髏」
    呪いは呪われた者と呪われた者を想う者の心の奥底にしっかりとへばりつき、復讐を遂げました。
    プロットに、余計な予言を信じたばかりにそれが現実になってしまったオイディプスの悲劇を思い起こしました。

    「お墓の下まで」
    それぞれがそれぞれの情念をお墓の下まで背負って行こうとしています。重たいだろうな。
    お互い打ち明ける相手がいる藤太郎とゆきの兄妹はまだ幸せです。
    そして、背負いきれない人たちが後に「ペテロの葬列」で描かれます。

    「謀りごと」
    相手ごとに見せる貌が違った差配の黒兵衛。
    忍び込んで禁書を見つけたらどうするつもりだったんでしょう。通報したのか、強請ったのか…。

    「てんびんばかり」
    お美代の不義は、もしかして傾いてしまった秤を元に戻そうとする半ば意図的なものだったのでは、と思うとあわれ(小並感ですw。でも、他の言葉が浮かばない)です。望外な幸せを受け取りきれないお美代の身上、釣り合いを取ろうとしたのかもと想像しても受け入れられないお吉の気持ち、どちらも。

    「砂村新田」
    母が語る幼馴染との淡い恋。
    これも現代の価値観に近いお話。
    陽炎の立つ一本道を向こうからやってくる市太郎のビジュアルが印象的って解説に、頭の中で思い描いてみてなるほどと納得。

    収録作品一覧
    堪忍箱
    かどわかし
    敵持ち
    十六夜髑髏
    お墓の下まで
    謀りごと
    てんびんばかり
    砂村新田

  • 宮部さんの物語はどれも大好きですが、特に時代小説が大好きです。
    この本は短編7話で短いお話ですが、その中で描く人間模様がとても面白かったです。

  • 安定の宮部さんの時代物短編集、という感じでしょうか。総じて標準、という感じ。ただ、個人的には、「飛びぬけて凄い!」という作品が感じられなかったのは、ちょっと残念。安定してどれも楽しめるけど、基本的には想定内、という思い。

    「幻色江戸ごよみ」という短編集に、「神無月」という短編が収録されているのですが、それがちょっとね、途轍もなく素晴らしいんですよ。個人的には、アレが、宮部さんの短編作品の最高傑作ちゃうやろか?って思ってるんですが、この「堪忍箱」には、残念ながら、あの「神無月」に匹敵するほどの凄いキレを感じさせる作品は、無かったなあ~と。生意気言って、すみません、、、でもきっと、いつか、またいつか、「神無月」クラスのすげえ短編、読ませてくれるんちゃうかなあ~宮部さんなら、って、ずっと期待しちゃうんですよね。

    ・お墓の下まで
    一見ええ話、に思わせておいて、人にはそれぞれ事情がある、ってことを、見事にサラッと書いております。うむ、上手い。言わぬが花、という事ですよね。誰でも、決して誰にも言えない秘密を、抱えているものなのだよなあ。そしてそれは、決して、良くないことでは、ない。誰にも言えない、放り出したい記憶を、抱えて生きていく事。その大事さよ、ですよね。

    ・謀りごと
    最後の最後で、「先生」こと、香山又右衛門が、チョロッとだけ正体を現すところが、おもろいですね。一応のメインの事件が終わったところで、読者だけに、ヌラッと見せられる、ある種の不気味さ。うむ。面白い。なんと言いますか、この不気味さは、好きです。

    この二つの作品が、個人的には好きですねえ。うん。僕は、こんなんが、好きです。

  • 宮部みゆき著 「堪忍箱」

    宮部みゆきさんの時代小説にはまり込んでいる。
    ただ、拙い筆でどれだけ素敵な作品か、どんなに感動したか、その感想を書き込んでみなさんの目に触れてもご迷惑と思っていたのでずっと控えておりました。
    けれどこの8編の短編集には今までになく感動。市井の人々の想い、悲しみ、喜び、悲しみが胸に染み入る清らかと思える文章で描かれている。
    なので禁を破り感動したことだけでも知っていただきたく書き込んでしまいました。
    かつて「我らが隣人の犯罪」で出逢って以来宮部ワールドに惹かれ続けながらも諸事情により一時休憩。
    そして時代小説で再会してから、今まで感じていた宮部みゆきの魅力はほんの入り口に過ぎなかったのではないかと感じ始めていた。
    その魅力は上に書いたように私の拙い筆で書くよりも読んでいただいて知っていただければと思います。

  • 宮部さんの作品は、あらかた読んだつもりだったが見たことのない題名を本屋で見つけて購入。
    短編集だったので、気軽に読めた。

    「砂村新田」が、ゆっくりじわっときて一番良かった。

  • 時代小説八篇。
    ちょっと空恐ろしくなるものから、思わず涙ぐみそうになるものまで思いさまざま。

    宮部みゆきははずさない、という圧倒的安心感の中読めた。

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著者プロフィール

1960年東京都生まれ。87年『我らが隣人の犯罪』で、「オール讀物推理小説新人賞」を受賞し、デビュー。92年『龍は眠る』で「日本推理作家協会賞」、『本所深川ふしぎ草紙』で「吉川英治文学新人賞」を受賞。93年『火車』で「山本周五郎賞」、99年『理由』で「直木賞」を受賞する。その他著書に、『おそろし』『あんじゅう』『泣き童子』『三鬼』『あやかし草紙』『黒武御神火御殿』「三島屋」シリーズ等がある。

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