あかんべえ(下) (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (346ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101369303

感想・レビュー・書評

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  • 宮部みゆきの長編時代小説。

    以下にネタバレがあるかもしれないので、いらんことを書いて間隔を空けておきます。

    宮部みゆき作品の「既読未レビュー」最後の1冊。

    ブクログを始める前から持っていた本は再読してレビューを書くという方針で実際の本棚と蔵書リストとしてのブクログの本棚の整理を、とてもゆっくりですが進めています。
    そんな中で「実際の本棚にあるけどブクログにレビューしてない」本を自分では「既読未レビュー」と呼んでいます。
    たくさんある実際の本棚の本を、作家一人ずつ、リストアップしてブクログの本棚に並べ、再読し、レビューもしていこうと、最初に手を付けたのが宮部みゆきで、その「既読未レビュー」がこの1冊でようやく終わりました。
    積読が多くある中、いちいち再読することにはじめはちょっと躊躇していましたが、初読からずいぶん時間が経っていることや、ストーリーの先が気になって斜め読みや飛ばし読みをする癖があることなどから、再読であってもほぼ初読と同じ新鮮な気持ちで楽しめています。

    既読未レビューの次はお馴染み「積読」の高い山が待ち構えています。この山を越えた先に、ようやく、読んだ覚えがあるのに手元に本が無い「既読未所持」、そして純然たる「未読」の本を大手を振って買うことができます。その買うべき未読すらなくなって、新刊を心待ちにしている状態を「追いついた」状態、だと思っています。

    宮部みゆきに「追いつく」までまだまだかかりそうですし、他の好きな作家に「追いつく」ことを考えると気が遠くなりそうです。

    と、これぐらい空けておけば大丈夫でしょうか。
    閑話休題。

    この「あかんべえ」、文庫では上下巻に分割されて刊行されています。
    上巻では主人公おりんのこと、おりんの両親が経営する料理屋ふねやに現れる「お化けさん」たちのこと、そして、そのおばけさんたちにふねやの最初の宴席が滅茶苦茶にされ、それを逆手に取ろうと企画された「お化けくらべ」の席での大騒動などが語られました。

    そして下巻。
    15年近く前に読んだものの再読ですが、印象的なエピソードをしっかり覚えていました。

    「お化けくらべ」の片割れ、白子屋のお静の父長兵衛が女中に手を付けて産ませた娘おゆう。母娘揃って白子屋を追われたことを恨み、「おばけくらべ」にちょっかいを出すべく、お静のふりをしてふねやを訪れます。「お化けくらべ」がさんざんな結果となった後は情夫に匿われていましたが、その情夫を手にかけて岡っ引きに捕らえられ、お調べの前にふねやに連れてこられます。

    まずはここまでがものすごく消化不良です。消化不良さを覚えていたのですw。

    おゆうの恨みはわかりますが、「お化けくらべ」をどうしたかったのか。
    ぶち壊しにして白子屋とお静に恥をかかせて留飲を下げたかったのかもしれませんし、金を引き出したかったのかもしれませんが、事前にお静のふりをしてふねやを見て回っただけで、特に「お化けくらべ」の邪魔にはなっていません。何かをネタにして白子屋を強請っているわけではありませんし、匿っていた情夫を手にかけてしまった動機も説明されていません。
    初読の時は自分の「先が気になって斜め読みをする」悪い癖が出たかと今回改めてじっくり読んでみましたが、相変わらずきちんとした説明はありません。

    このもやもやが15年越しで胸につかえていました。今回きちんと読んでも解決しなかったので、「もやもやするエピソードがある」本だとして記憶に刻むしかないようです。

    一方で、そんなおゆうが亡者と化した銀次を前にして、人間としての尊厳を守った振る舞いをしたところも、結構鮮明に覚えていました。自分たち母娘を打ち捨てて顧みなかった白子屋長兵衛に面罵され、腹違いの妹であるはずのお静に軽んじられ、番所に引っ立てられてその後死罪となるであろうことも十分に予想される。そんな、理不尽に何もかも奪われたおゆうであっても、亡者と化して恨みを晴らすのを思いとどまりました。
    死を目前にしながらも人間でなくなることを拒絶する強さ、「お前の取り分は残っていない」という言葉の悲しさ…。今になって初読の時の気持ちまで蘇ってくるようです。

    実は、印象に残りすぎてこれがエンディングだと思い込んでいました。正直なところ、再読後の今でも、大団円のはずの興願寺の住職のエピソードが霞んでしまうくらいだと思います。

    さて、おゆうを巡るエピソード以外の全体を通して言えば、ハッピーエンドっぷりがすごいと思います。
    たくさんある引き出しから取り出したキャラクターが生き生きと物語を紡いだ結果の大団円です。悪く取れば「お約束」ですが、この頃の宮部みゆきの作品に関しては「王道」の言葉が似合っているように思います。
    「お化けさん」たちの行く末はもちろん、「おつた」の処遇、島次の息があったこと、そしてヒネ勝の未来といった脇役たちの結末も、どれもこれ以外にはあり得ないと思えます。最初からこうなる以外の道はなかったと思わせるような舞台であり登場人物なのです。
    初期から中期にかけての作品をたくさん読んだ自分にとっては、だから宮部みゆきは「人情もの」の人。どんなキャラクターにも救いが用意され、読者はラストで心が温まる思いができる…。
    そんな甘っちょろい思いは、近作(といっても杉村三郎シリーズくらいしか読んでいませんが)がこの王道から一歩も二歩も踏み出しているのを読んでバラバラにされました。他の近作も読むのが楽しみです。

    加えてもう一つ言っておきたいことがあります。宮部みゆきの時代小説の読みやすさについてです。時代ものにありがちな読みにくさがまったくありません。

    文章が平易でわかりやすいというのももちろんですが、それ以外でも、例えば登場人物の名前が読みやすさに貢献していると思います。

    時代小説の登場人物って、官職付(掃部頭とか、筑前守とか)で幼名があったりするとすぐに誰が誰やら分からなくなりがちです。でも、本作の登場人物は、官職どころか苗字にすら縁の無い町人ばかりです。出てくる名前はおりんだったり七兵衛だったりと目に優しく頭に入りやすいものばかり。もっとも、本作には「お」で始まって全部で3文字の女性キャラが多く(おりん、おつた、おさき、おゆう、おたか、おみつ…)、これはこれで誰が誰やら状態だったりするのですが…。

    加えて、日常生活や価値観が現代に寄せられていること。登場人物は現代の人が大切にしているものを大切に考え、現代の人のように振舞います。
    説明されなくても登場人物の行動がすんなりと頭に入ってきます。
    尤も、犬の扱いだとか…首に縄を付けて「散歩」につれていく描写は冷静に考えると疑問符が付きますが、現代的な価値観の宮部江戸の中では、そんなもんかな、と読み流してしまえます…。見てきたような嘘のつき方が本当に上手です。


    さて、次に読む宮部作品からようやく積読崩しに入ります。
    「人情もの」に慣らされてしまった先入観を打ちのめされるのが楽しみで仕方がありません。

  • 上巻読み始めはなかなか物語に入っていけない感があった。しかし、それを越えてからのストーリーの内容と流れが素晴らしい。
    登場する人物もみな、人間くさい部分も含めて非常に魅力的でした!

    これまで読んだ本の中でも、トップクラスに気に入りました!

  • おもしろく、わかりやすく、緩急があって、勧善懲悪。伏線はきっちり回収され、もやもやが残らない。ぐいぐい引き込まれて、夢中で読みました。

    読み終えても残ったのはこのセリフ
    『どうしてあんたはお父とお母とに大事にされて、どうしてあたしは(中略)井戸にいなくちゃならなかった?』
    上巻にでてくる、犬張子を欲しがった女の子を思い出した。
    邪視の民間伝承は、世界の広範囲に分布する。
    「どうしてあの子は就職できて、私は駄目だった?」
    「どうしてあの子は子供ができて、私は駄目なの?」
    「どうしてあの子はご飯が残せて、私は飢えているの?」
    私達はうらやむことからも、うらやまれ(ともすれば憎まれる)ことからも、逃げられない。
    毒にまではせずに生きていきたい。

  • 面白かった。色々考えた。
    いい子というかいい人やなー
    とか〜やなって人をみていきたい。
    悪さをしてきたけどそれの罪滅ぼしだ
    って言っているところはなんだか希望が持てる。
    もう一度しっかりいい人生を歩んでいこうと思える作品でした。

  •  ふね屋に住む亡者たちの因縁に迫っていく下巻。

     下巻の前半から中盤にかけては、上巻で行われたふね屋での霊能力比べの際に起こった事件の真相を探っていく展開。

     関係者全員が集まっての大立ち回りは結構混乱もしましたが、(亡者は人によって見えたり見えなかったりするので生者と亡者が一堂に会すると誰が誰の声を聞いているのか、見えているのか非常に分かりづらいのです)
    そこで明らかになっていく人の業の深さ、感情の機微の書き分けの素晴らしさは相変わらずのクオリティの高さ!

     生死の境を彷徨ったおりんを除いて生者が亡者を見るために必要な条件は、「亡者と生者が同じ境遇や心情を抱えているということ」例えば、親のいない子どもの霊が見えるのは同じように親のいない子どもだけという具合です。

     だからこそ亡者たちは生者たちに強く呼びかけます。
    それは「お前の気持ちはわかる。お前も一緒に堕ちよう」という悪魔のささやきであったり「お前はこうなるべきではない」という心からの叫びであったり、
    そうした叫びを通して人の在り方、業の深さを強く考えさせられました。

     クライマックスの霊たちの因縁が明らかになるところが中盤の大立ち回りと比較してあっさり気味に感じられたのが残念なところ…。もうあと100ページあっても全然文句はないのに(苦笑)。

     でも別れのシーンはやっぱりグッときました。特におりんとおりんに対してあかんべえばかりしていた、亡者のお梅が最後におりんにかけた言葉は悲しくも温かかったです。

  • 他の人とは異なり、自宅の料理屋「ふね屋」の幽霊全員を見ることができるおりん。
    そんな小さな女の子おりんがふね屋で彷徨っていた5人の幽霊との関わりから世の中の憂いも楽しさも義理も知っていく。

    他の幽霊を見ることができる人でも、ある人は小さい女の子だけ、ある人は料理人だけ、と特定の幽霊しか見えていないようだ、と次第に分かってくる。
    それは、
    「お化けとその人間のあいだに、似たようなものがある場合――それぞれに、似たような気持ちのしこりを抱えている場合」
    「大人はいろいろな思い出を持っている。生きていると、否応なしに色々の重いが溜まるものだから」

    「亡者は、それを見る人の心を映すものなんだ」
    ・・・・・・と。


    本の中のお化けや人物のしこりや暗い屈託を通して、自分の中のそれを眺めることができる。自分の中の暗いものを欲のままに押し通してしまったらどうなるのか、潔い・気持ちの良い生き方は何なのか、考えさせられた。

    話の重さと反比例に幽霊たちがお茶目だったり、おりんちゃんのかわいらしくまっすぐな気性も手伝って、気持ちよく読み進められた♪

  • 宮部みゆきワールド全開:お化けが次々と現れる.
    悪さをするお化けもいるが、基本的には心優しいお化けたち。表題の「あかんべえ」をするだけで,主人公と全く会話の無かった子どものお化けが,最後は全てを解決してしまう。又、全ての秘密が判明する。話しが飛躍しすぎるようなきもするが・・・

  • そんなに急展開でもないけど、
    いままでの あれやこれやが どんどんつながっていって
    あっさりと終わってしまった。

    お梅の最後が腑に落ちないかなー

  • 数ページ読んで「あれ?これなんか読んだことあるような…」と気付きました。
    確か数年前に図書館で借りて読んでた。
    今回は購入して読了。
    読んだ覚えはあるものの、展開自体はほぼ覚えてなかったので「はっ!」「えっ!!」て驚きながら楽しく読みました。笑

  •  この屋敷に関わる因縁は、30年前のできごとに端を発していた。多方面と緻密に繋がりなら、ここに辿り着いた。さすがは、宮部みゆき。またもや、してやられた。

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著者プロフィール

1960年東京都生まれ。87年『我らが隣人の犯罪』で、「オール讀物推理小説新人賞」を受賞し、デビュー。92年『龍は眠る』で「日本推理作家協会賞」、『本所深川ふしぎ草紙』で「吉川英治文学新人賞」を受賞。93年『火車』で「山本周五郎賞」、99年『理由』で「直木賞」を受賞する。その他著書に、『おそろし』『あんじゅう』『泣き童子』『三鬼』『あやかし草紙』『黒武御神火御殿』「三島屋」シリーズ等がある。

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