ソロモンの偽証: 第I部 事件 上巻 (新潮文庫)

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (515ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101369358

感想・レビュー・書評

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  • 祝・文庫化☆
    中学生の転落死を発端に描く大長編~宮部みゆきの話題作。
    現代ミステリは5年ぶり?
    さすがの描写力で、長さを感じさせません。

    雪が積もったクリスマスの朝、中学の裏庭で2年生の柏木卓也の遺体が発見された。
    屋上から転落死したらしい。
    一ヶ月前に不良グループ3人と揉めた後、不登校になっていた。
    大出俊次をリーダーとする不良グループのせいという噂も流れるが、卓也の親が自殺と認めるような発言をしたことから沈静化する。
    ところが、連鎖するように事件は起き続けて‥
    大出の父親は横暴なタイプで、世間に対してはむちゃくちゃな態度で息子をかばうが、家では暴君という。

    同級生の急死に女子は泣くが、クラス委員の藤野涼子の目は乾いていた。
    友達ではなくほとんど知らなかったためだが、自分が冷たいのかと内心悩む。
    剣道部でも活躍する文武両道の涼子のりりしさはすっきり輝いていて、親子関係も含めて、重い話の希望になっていますね。
    優等生(しかも美人)は嫉妬されることもあるけれど。

    柏木卓也が頭はいいが超然とした孤立しがちな性格だったので、教師達は家庭訪問を重ねてはいたが、あまり急いではいなかった。

    大出らにいじめられていた三宅樹理は、柏木が突き落とされるところを見たという告発文を作成、学校と、担任の森内恵美子と、藤野涼子に送りつけます。
    藤野の父・剛は警視庁の捜査一課の刑事で、娘に来た見るからに不審な手紙を開け、学校へ向かいます。

    森内はモリリンとあだ名される若い教師で、男子にアイドル的な人気はあった。
    校長らが生徒のことを考えて伏せたことも裏目に出て、学校側のことなかれ体質が批判を浴びることにも。
    相次ぐ事件が噂ばかりで解明されないことに憤りを感じた涼子は‥?

    一人々々がそこにいるかのようにありありと描写されていきます。
    それぞれの家にある思いがけない事情。
    親の影響を強く受け、意志は持ち始めていても上手く伝えるすべも知らない子供達。

    時代がバブル末期の1990年という設定なので、まず携帯が出てきません。
    他にどんな意味があるのだろうか‥?
    いじめの質やスクールカーストは違うのでしょうか。
    重い内容だけど、重苦しすぎることはなく、先が知りたくなるばかり。
    さすが宮部さんというか~最近のものでも、かなりいいほうですよね。

    それぞれの弱い面悪い面はしっかり出てくるけれど、そうなった理由もさりげなく描かれ、していない罪を噂される理不尽さからは解き放たれることに。
    最後まで筆裁きの密度は落ちませんよ!

  • 文庫本で全6巻。全部読み終わった。
    友人に勧められて手に取った本。
    長いし、裁判とか頭の悪い私には向かない…
    と正直乗り気じゃなかったけど、あっという間に
    引き込まれてしまった。

    長くて登場人物もすごい多いけど、
    これ誰だったっけ?みたいなこともなかった。
    全ての登場人物をうまく良いタイミングで出してくる。すごい。

    1人の中学生の死について周りの生徒が校内裁判をやる。
    読んでいて、現実には有り得なそうなのに有り得そうと思えるくらいリアリティがあった。
    ちゃんと中学生らしさも感じられるところがいい。

    個人的には、主人公とも言える男の子の正体?意図?と、ずっと引っかかってた出だしの1場面の謎が知りたくて読んでいたようなもんで、裁判の内容とかに差し掛かったら飽きてくるかなーと思ったけど、全然そんなことはなく、登場する生徒の心情やその親、周りの大人の描写にも惹き付けられたし、最後の方のある証人と弁護人のやり取りには涙が出た。

    わたしが知りたかった真実は、やっぱり!感と、その真意にもものすごく心撃たれることはなかったのに、最初は興味がわかなかった裁判の行く末がこんなにも自分の中に残ったのが衝撃。
    それだけ登場人物の描写が素晴らしいんだと感じた。

    私の中の今年の最高本トップ3ブックリストに入れた時はまだ4巻くらいまでしか読んでなかったけど、6巻まで読み終わった今でも間違いなくトップ3に入る作品だと思う。

  • 全部で三部に分かれており、各部が二冊で構成されている。全部読むと、六巻の物語を読むことになる。読み始めるには長さが気になる。
    しかし、読み始めたら、乗せられるようにぐいぐい読めてしまうのが宮部みゆきなのだろう。特にこの物語はそうである。的確でわかりやすく、かつ緻密な心理描写。リズム感のある文章。登場人物もいちいちキャラクターが立っている。
    物語はまだ1/6が進んだに過ぎない。しかもさまざまな人物の視点から語られる物語は、決して直線的ではない。いろいろなエピソードが絡まりながら、やがて一つの物語の軸に収れんされてゆくのだと思う。
    ここまで読んだだけでは、十分な感想は書けない。ただ、六巻からなる物語も、さほど長いとは感じなくなった。この先が楽しみだ。

  • 積読がまだあるのに、とうとう手を出してしまった宮部みゆき畢竟の大作(←誤用だって書いてありました。「畢生の大作」が正しいらしい)。年末年始は少し時間が取れそうなので気合を入れて大長編に手を出してみようか、と思って買ってみたのですが、いったんページを開いたらもう閉じられなくなって、2日間で全6巻を一気読みしてしまいました。
    その後、気を落ち着けて2回目を読んでから、これを書いています。




    以下、ネタバレあります。
    できるだけ興を削ぐようなことは書かないように気を付けます。でも例え粗筋であってもネタバレと感じる人はいると思いますので、ある程度はご容赦を…。




    とにかくもう圧倒的な筆力です。
    鼻面を取られてラストまで引きずり回されました。目を離すことができませんでした。「模倣犯」以来の経験です。
    サイコパスがいるわけでもなければ、密室事件が鮮やかに解き明かされていくわけでもないのに、ストーリーの牽引力に捕まって最後まで解放してもらえませんでした。

    そのストリーテリングの出力を全開にして、各巻500ページを超える文庫を6冊も使って語られたのは、クラスメイトの死にまつわる「真実」を解き明かすため、中学3年生たちが開いた「学校内裁判」の顛末です。

    初め、裏表紙の粗筋を見、amazonの紹介文を見ても、これがどんな話なのか、自分には全くピンときませんでした。同級生の死の真相を知るために、まではともかくとして、その後に続く言葉が「学校内裁判」。
    何で?同級生の死の真相を知るために探偵役の中学生が活躍するお話、じゃないの?どうしてそこで裁判??だいたい、学校での裁判って言葉で連想するのは、「〇〇君はいつも掃除中にさぼっていていけないと思います」っていう吊し上げか、「みんな目をつぶって。給食費を盗った者、怒らないから手を挙げなさい」っていう魔女狩りで、いずれにしてもいい印象は全くありません。

    でも、ラストまで読んで、なるほど、こりゃ「学校内裁判」と紹介したくなる、そう紹介するしかないな、とようやく腑に落ちました。

    まず、作者はなによりリーガルサスペンスが書きたかったのでしょう。作中での、野田健一の台詞の中に「裁判小説」として知られる大岡昇平の「事件」の名前が挙がっています。
    法廷ものを盛り上げるために、何としても日本の法廷に陪審制を登場させたい。そのためには「学校内裁判」は格好の舞台装置です。
    中学生の課外活動で「同級生の死」について模擬裁判をやる、という相当突飛な設定を、抜群の筆力と大部の頁数を使って丁寧に語ることで、そこに不自然さを感じさせずに真相が暴かれる過程にのみに目を向けさせるという離れ業を、作者はこなしています。
    時はバブル真っ盛り、場所は東京の下町。いずれも使い慣れたお得意の場面なので、舞台に説得力を持たせることに一役買っています。

    捜査権はもちろん、ノウハウも持ち合わせない中学生がかなり踏み込んで事件の事情を調べることについては、主人公が「刑事の子」であるという設定を引っ張り出してつじつまを合わせています。
    ティーンズを主役級に据えるのが(たぶん)好きな宮部みゆきですが、日本のティーンズには「日常の謎」を超える事件を扱う能力が普通はありません。そこで、超能力だったり、ピッキングのような特殊能力だったり、猟銃のような武器を持っていたり、舞台が異世界だったりと、あれやこれやと力を与えようとするのですが、ご都合主義と紙一重に見えたり、逆に与えられた力が小さすぎて主人公は警察の捜査の進捗をただ聞くだけだったり、巻き込まれて右往左往するだけだったり、と、掛け値なしに大活躍できる主人公がなかなか出てきませんでした。
    今回の主人公が持たされている力は、親が警視庁の、それも捜査一課の刑事であること。
    藤野涼子はずいぶんと機密性が高そうな情報を父から仕入れるのにとどまらず、父の口添えで所轄署の刑事から事件の事実関係をまとめた書証を入手したり、その掲示を学校内裁判に証人として召喚したりしています。
    さすがに、ずいぶん口の軽い捜査一課の刑事さんや、お人よしの所轄署の刑事さんがいたもんだと思ってしまいますが、そのあたりまで読み進んだ頃には、作者の繰り出す筆力に折伏されて、それくらいのことは気にならなくなっています。

    さらに、学校を舞台にしたことは、参加者である中学生やその保護者といった「素人」に説明するという形をとって、法廷劇の読みどころが作中に解説されているという大変親切なリーガルサスペンスとなっています。
    検事がどういう意図で証人に質問し、陪審員にどういう印象を与えようとし、その意図を弁護側がどうやって覆そうとしたのかが作品中に説明されていることはなかなかないのではありますまいか。

    加えて、当然ながら主人公(はやっぱり藤野涼子、でいいですよね?)をはじめとした多くの登場人物が中学生であることで、この作品はジュブナイルになっています。不良、優等生、いじめられっ子、一人ひとりが丁寧に描写された上質のジュブナイルです。
    もっと言えば、その未熟で多くの問題を抱えた登場人物(中学生以外の人も)が、この裁判を通じ、心の裡を吐露し、言いたいことを言い、人の言い分を聞き、そして成長したり、一歩を踏み出したりする、群像劇にもなっています。

    これだけ多くの要素を盛り込みつつ、初期作品に多い「盛り込みすぎ」の印象が全くありません。作者52歳、デビュー25年の脂の乗りきった時期に書かれた、代表作でしょう。



    文庫1巻目は「第I部 事件」の上巻。
    主人公たちがまだ中学2年生のクリスマスイブの翌朝、2年A組の柏木卓也が死体で発見されるところから「事件」が始まります。
    卓也が事件前しばらく不登校だったこと、そして警察の捜査で不審な点が発見されなかったことから、いったんは自殺として処理された事件は、しかしこれだけでは終わりませんでした。不登校の直前に彼とトラブルがあった札付きの不良、大出俊次達3人が卓也を屋上から突き落としたとする「告発状」が届いたのです。

    単純な自殺かと思われた事件は、この後縺れに縺れていきます。
    卓也の死の真相以外は、読者がほぼすべての動きを知ることができる形で話が進んでいきます。登場人物達がそれぞれの思惑で事件に関わり、そのせいで糸が絡みに絡むのを手をつかねてみることしかできない立場から舞台の上を見せつけられることになります。

    さらに、登場人物たちはそれぞれに重たい事情を抱えています。
    弟を疎ましく思っていた柏木宏之、心を病んだ母と人生をリセットしたい父に挟み撃ちにされている野田健一、自分が自分であることに絶望している三宅樹里。気楽そうな倉田まり子でさえ、出来のいい弟との仲がうまくいっていません。

    どんどん混迷の度を深める「事件」、思い詰めていく登場人物たち。第1巻を支配する空気は「不穏」さです。
    読者としては、野田健一の首根っこをつかんでこちらに引き戻したい、三宅樹里によい皮膚科を紹介してやりたい、垣内美奈絵にこんこんと説教をしてやりたい、そして大出勝・俊次に天罰が下ればいいのに…。そんなことを思いながら事態の推移を見守るしかないのです。

    そんな中、1巻のラストで、野田健一の前に光が差したかもしれません。「黄金の魔法」は消えてしまったのかもしれませんが、でももしかしたらこの出会いは彼にとって蜘蛛の糸なのかもしれない…と思いつつ2巻に続きます。


    なお、一度6巻まで読み終わってからすぐに読み返していますので、伏線や手掛かりを探しながらの再読となります。ミステリとしては「長い長い自白の物語」だったと思います。ミスリードを誘う仕掛けを見つけるのが楽しいですね。

  • シリーズ1作目。
    ティーンズコーナーにあったけど、これは大人向けだなぁ。中学校を舞台にしたストーリーで、ある生徒が学校で死亡しているのが発見されるところから始まる。スリリングだし、友人同士や家族同士の人間関係の模様もなかなかリアル。
    色々な事情のある家庭の生徒やその家族などが出てきて、これからどう展開するのだろう、と期待に胸膨らむ。

  • 全6巻、なこともあり手を出していませんでしたが
    宮部みゆき先生の本は初読みなので最高峰から。
    audibleの場合、読み手のパフォーマンスにかなり影響されるのですが
    淡々とねっとり語り尽くしていく朗読に
    じわじわ縄をかけられ締め上げられていくみたいで
    この序盤の展開具合にもいい感じです。
    映画も見ていないので
    ラスト知りませんし楽しみです。

  • 相変わらず、宮部みゆきのミステリー小説には引き込まれてしまう。全六巻に及ぶ大作の第一巻であるが、綿密に練られ、細部まで丁寧に描かれているように思う。しかし、まだ物語は始まったばかり。この先、どういう展開を見せてくれるのだろうか。

    クリスマスに発見された14歳の中学生の転落死体…様々な憶測と疑念が渦巻くものの、真相は見えて来ない。

  • 映画を観て心掴まれたので買いました。
    スラスラと読めて面白かったです。
    6部作もあるシリーズものは初めて読むので長い挑戦になりそうですが頑張ります。

  • 相変わらず、細かな心理描写が続く宮部みゆき節。
    皆がちょっとずつ邪悪なのが、人間。

  • 同級生の死から始まる事件の幕開け。全ては「自殺」で幕引きのはずだった。匿名の告発状。差出人は明らかだが、それが思いもよらない形で第三者の手に渡る。。。柏木卓也という少年はこちらの本音を見透かす鏡のように、彼の近くにいる者を惑わす。一部の自意識?が芽生え、心の葛藤や自問自答を繰り返し、些細な出来事で心が揺れ動く。それが彼らにとって全てであり世界だ。一巻はまだ人物紹介という感じだが、そんな中で生きる中学生たちの心情は分かりやすく伝わってくる。でも分からないのは柏木卓也の目線。彼は何を見ていたのか?

著者プロフィール

1960年東京都生まれ。87年『我らが隣人の犯罪』で、「オール讀物推理小説新人賞」を受賞し、デビュー。92年『龍は眠る』で「日本推理作家協会賞」、『本所深川ふしぎ草紙』で「吉川英治文学新人賞」を受賞。93年『火車』で「山本周五郎賞」、99年『理由』で「直木賞」を受賞する。その他著書に、『おそろし』『あんじゅう』『泣き童子』『三鬼』『あやかし草紙』『黒武御神火御殿』「三島屋」シリーズ等がある。

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