- 本 ・本 (576ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101369396
作品紹介・あらすじ
空想です――。弁護人・神原和彦は高らかに宣言する。大出俊次が柏木卓也を殺害した根拠は何もない、と。城東第三中学校は“問題児”というレッテルから空想を作り出し、彼をスケープゴートにしたのだ、と。対する検事・藤野涼子は事件の目撃者にして告発状の差出人、三宅樹理を証人出廷させる。あの日、クリスマスイヴの夜、屋上で何があったのか。白熱の裁判は、事件の核心に触れる。
感想・レビュー・書評
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【感想】
4巻のReviewも先程書き上げたのですが、Review書くよりも前に次巻である5巻を読了していました。笑
「ソロモンの偽証」、本当に中毒性がヤバイです。ページをめくる手が止まりません!
(ちなみに今は最終6巻の200ページ目くらいまで読んでいます)
関係者各位の証人尋問によって、各々の色んな本心がどんどん暴かれていき、それらが繋がって事件の真実へと一歩一歩近づいていく様を、手に汗を握りながら読んでいます。
(本筋からは少し逸れますが、美術教員の丹野が言っていた「絞首台の上のカササギ」の話は、かなり興味深かったです。)
読んでいて検事と弁護人、判事、陪審員の様子がとても面白いなと感じました。
普通の裁判とやや異なるのは、検事・弁護人とも、自身の勝利をあまり優先していない事ではないでしょうか?
何といえば良いのかよくわかりませんが、勝利よりも事件の真相を明らかにすること、また事件に至るまでの全貌を明らかにさせる事を裁判の目的としているような・・・
ただ、「本当に中学生か?」ってレベルの神原の余裕さと、神原のペースや戦略に振り回されてイライラしている藤野のやり取りは読んでいて痛快ですが(笑)
5巻目までを読み終えて尚、まだまだ明らかでない事、伏線が山積みです!
最終巻でどのような結末を迎えるのか、目が離せません!!!!
【あらすじ】
空想です―。
弁護人・神原和彦は高らかに宣言する。
大出俊次が柏木卓也を殺害した根拠は何もない、と。
城東第三中学校は“問題児”というレッテルから空想を作り出し、彼をスケープゴートにしたのだ、と。
対する検事・藤野涼子は事件の目撃者にして告発状の差出人、三宅樹理を証人出廷させる。
あの日、クリスマスイヴの夜、屋上で何があったのか。
白熱の裁判は、事件の核心に触れる。
【メモ】
p176
「何だその顔はよ?何が面白いんだよ」俊次の攻撃は証人に向かった。
柏木則之は証人席で立ち上がっている。
礼子の位置からは横顔しか見えないが、呆れているのか驚いているのか、もしかしたら思わず笑ってしまっているのかもしれない。
「笑うんじゃねえよ、クソ野郎!ぶっ殺すぞ!」
p200
・則之の証言
「あなたたちの学校は、残念ながら、臭いモノに蓋をするように、この告発を隠そうとしました。
残された私と家内は、そのことに苦しんでいます。大きく動揺しています。
そこまでして隠されるほどの何かが、卓也の死にあったのではないか?」
p251
・宏之の証言
「卓也は特別なんです。あいつは自分でもそう思ってた。何かこう…とにかく図抜けて優れた存在。並の子供じゃない、そもそも子供レベルじゃない。たみんな、なんとなくピンとこないかな?」
p340
・井口の証言
「俺は、聞いたから」
「何を聞いたんです?」
「大出君が言ってた」
「何と言っていたんですか?」
「柏木の葬式のあとに、言ってた」
井口充の息が荒くなった。
「やったって」
「何をやったんです?」
「自分が殺したんだって」
p380
・絞首台の上のカササギ
ブリューゲルがこの作品を描いた頃は、彼の母国で旧教新教問わず、キリスト教会の魔女狩りや異端審問が激しかった時代です。
宗教改革の真っ最中ですからね。
そしてカササギという鳥は、ヨーロッパでは“嘘つき”とか“密告者”になぞらえられる事があります。
つまりこの絵には、確たる根拠がなくただ悪意や恐怖だけに裏打ちされた嘘や密告で、多くの無辜の人々が無残に処刑されていった当時の世相が反映されていると、解釈できます。
p384
・美術 丹野教諭の証言
あのとき、彼はこう言ったんです。
人間は変わらないですねと。人間のやることは、だったかな。
ある体制を作ってしまって、そのなかで迫害したりされたりする。
迫害への恐怖から、他人を犠牲にする。
実際、魔女狩りや異端審問の嵐が吹き荒れる中で暮らしていた当時の人々は、自分が密告されるのを恐れるあまりに先んじて他者を密告したり、密告で告発された人が無実だと知っていても、絶大な権力を持つ教会のやることに異を唱えれば、今度は自分が魔女や異端者として告発されてしまうと怯えて、口をつぐんでいるしかなかった。
そういう状況がですね、現在の学校教育の現場に似ていると、彼は言いたかったのだろうと思ったんです。
p475
いったん読み上げをやめて、藤野涼子は証人を見た。
「ここまでの供述に間違いはありませんか?」
「ありません」
三宅樹里が答えたとき、まり子のそばで、誰かが小さく「嘘よ」と呟いた。
山埜かなめだった。両手をよじり、くちびるを噛みしめて証人を見つめている。
p508
「三宅樹里さん。柏木君が殺害される現場を目撃したという、あなたの証言は真実ですか?」
「何…ですって?」
泣きじゃっくりのせいではなく、本当に言葉が喉につかえたのか、樹里は切れ切れに問い返した。
「何て、何て言ったの?」
「質問の意味がわかりませんか?」
口調は優しく、表情も穏やかだったけれど、神原和彦の目元にも頬にも、微笑の欠片もなかった。瞳は澄んでいた。
「三宅樹里さん、あなたは本当にあなたが体験した出来事について証言してるんですか?それとも、頭で作り上げたありもしない話をしてるんですか?どちらですか、お答え下さい」
p535
・橋田裕太郎の証言
「悪いのは大出君で、君は悪くない。少なくとも悪さの度合いは大出君よりも低い。そういうことですか?」
「大出君のせいじゃない」と、橋田裕太郎は言った。
「俺ら3人とも、何も考えてなかぅた。気分で何かやってた。悪いのは、3人とも悪かった」
p564
「ずっと気になって嫌だったから」
「君は何か行動を起こしたんですか?」
「本人に聞いた」と、証人は言った。「柏木と話したんだ」詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
「学校内裁判」は、夏休み遂に開廷され、傍聴人として、生徒、保護者等が集まってくる。中学3
年の判事、弁護士、検事達は、彼らの役目を果たしていく。
そして、この裁判の導因となった、大出を犯人とする告発状の差出人三宅樹里が、証人として出廷する。彼女は、他にどんな証言が出てきていても、あくまで、告発を真実のものとする。ここまできても、その主張を通すその真意は、根底からの憎悪なのかな。
流石に多少長すぎるかなあと思ってきた作品だけど、最後には、宮部さんが全ての子供達を救済したいのかだろうと予測する。
原田仁志 中3 陪審員
土橋雪子 中3 元1-C 弁護側証言
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柏木卓也の死の真相を探るため、有志による調査の末、学校内裁判が始まった。
抑圧と自由は表裏一体か。
少々出来すぎた中学生たちによる問答に感心する。裁判が始まってからというもの、会話などのテンポが良く、読んでいて気持ちがいい。よくもまぁ、ここまで整理された進行ができたもんだ。
勢いもそのままに最終巻へ続くわけだ。どうしても頭から離れない、隅っこの方で見えないけど感じる闇。この暗さは上巻からずっと頭の中にある。救いはなくても、この暗闇を晴らすことができれば、読者としてもありがたい。
以下、ネタバレ有り(備忘録)。
三宅、井口、橋田、津崎元校長、茂木記者、柏木則之と裕之。物語に登場する人物たちが証人として尋問を受けていく。決定的なものは未だないままだが、柏木卓也を取り巻く周囲の人間や、騒動に乗じる者たちが、法廷をかき回す様はドキドキする。
三宅樹里は目撃者として証言し、それを突き通した。松子の無念はどこか皆から遠いところにあるように感じた。
最後に垣内美奈絵が登場する。森内教諭に対する殺人未遂で手配されていたが、中学校に離婚協議中の夫と現れたのだ。どうやら出頭するために来たが、承認として法廷に立つことになった。いやいや出、頭を先延ばしすな!と言いたい。
この巻は読み終わるまでに長い期間があったので、正直うまく情報を記録できそうにない。仕方ない。
最終巻が楽しみだ。
読了。 -
やっと、裁判が始まった。
次々と出てくる証人の言葉に新事実が混ざり、いよいよ結論がわからなくなってしまう。
これまで匂わせてきた神原の隠していることは何なのか?
最終章をゆっくり読んでいきたい。 -
いい子と悪い子の境界線はどこに引かれているのでしょうか。
友達に嘘をついてしまう。
宿題をやってこない。
買い食いする。
先生の言うことをきかない。
煙草を吸う。
飲酒する。
クラスメートをいじめる。
万引きする。
かつあげする。
殴る。蹴る。
いつからか「良い行い」と「悪い行い」の区別が刷り込まれていた。
「悪い行い」はしてはいけないと知っていた。
どうしてか?なんてあんまり深く考えなかった。
でも底の方には恐怖があったように思う。今もそれはこびりついている。
昔は怒られることが怖かったのかもしれない。
その後に自分がそれらの対象になることが怖くなって、それからさらに自分がその暗い闇のような世界に捕まるのが怖くなった。
悪い子は悪いことがしたくてするんだろうか?
違うんじゃないかと今は思う。
捕まってしまうんじゃないか。闇に。すっぽりと包まれて何も見えなくなってしまう。
自分の姿も周りも、逃げ道も。
どうしようもなくなっちゃうんじゃないか。
大出くんも井口くんも橋田くんも、三宅さんも、いつかの野田くんも。
悪い子だからじゃなくて、捕まってしまったから。
本当は助けを求めてて。必死で。
もしかしたらそういうことなんじゃないか。
子供も大人も変わりなくそうなんじゃないか。
じゃあ一度捕まってしまったらどう抜け出せばいい?
過去の悪い行いはなかったことには出来ない?
償いは出来る?救いはある?
この物語もあと1冊。学校内裁判ももうすぐ終わりでしょうか。
何があったのかが明らかになったら、これからの道も見えるようになるでしょうか? -
シリーズ5作目(第3部の上巻)。
遂に学校内裁判が開廷されるところから。
検事や弁護人と証人とのやりとり、法廷のざわめきなど臨場感たっぷりでドキドキした。
裁判には関わらないと言っていた橋田が弁護側の証人として出廷し、重要な証言をすると思われる直前で切られていて、下巻に続く。
このストーリーがどこに帰着するのか、続きが気になる。 -
「お家にいる」ことがこれほどもてはやされることになるとは。陰キャで非リア、お家大好きの自分にとっては降って湧いたような年末年始のお家時間に、今こそ長編のまとめ読みをすべき、とこの「ソロモンの偽証」の文庫本全6冊を抱えて書店から帰ってきた(他に山ほどある積読のことは考えないように気を付けながら)のは、11月のことでした。
いざ年末のお休みになって、1巻の表紙を開いたが最後、ページを捲る手がどうしても止まらず、結局翌日の深夜までのわずか2日間で文庫6冊を読了する羽目になってしまいました。
1冊500ページを超える文庫が全部で6冊という膨大な頁数を全く長く感じさせない圧倒的な筆力で綴られるのは、群像劇であったり、成長物語であったり、緊迫のリーガルサスペンスであったり、ジュブナイルであったりします。
宮部みゆきの作品からどれか一つを選ぶことになったら、間違いなくこれを推します。まさに代表作といってよいと思います。
以下、ネタバレあります。
気を付けるつもりですが、何をネタバレと感じるかは人それぞれです。ある程度はご容赦ください。
いよいよ学校内裁判が始まりました。
判事の井上康夫の説明の後、検事の藤野涼子、弁護人の神原和彦がそれぞれ冒頭陳述やらをして開廷です。
藤野涼子が落ち着き払い、胸を張って堂々と見解を主張するんだろうことは十分予想がついていましたが、神原和彦のイメージがここにきて豹変します。
多くの先生や父兄、そして生徒たちを前に堂々たる論陣を張った彼は、殺人自体が空想の産物であり、そのことはみんなも承知だろうと主張します。そのとおり、告発状とそれを鵜呑みにした茂木悦男が作成したHBSの報道番組以外、大出俊次の殺人という筋書きを本気にしている人はそもそも誰もいないのです。
でも、誰もお前が殺したのだろうと大出俊次を面罵する者がいないため、大出俊次もそれに反論することできっちりと身の証を立てることができないという構図になっています。今回、裁判は「どっちにしても弁護側の勝ち」とわかっていてあえて検事側に回らざるを得なかった藤野涼子としては、あくまでも三浦樹里を信じて大出俊次を弾劾し続けるしかありません。
証人尋問が行われる直前、保護者と思われる傍聴人が不規則発言を続けて退廷を命じられ、最初の証人として冷笑的な態度で臨もうとした楠山先生は生徒に責められてたじたじとなり、こんな裁判は子供だましだという印象を植え付けるのに失敗します。
中学生の学校内裁判に緊迫感やリアリティを与える演出です。
そして、このあたりから解説が入ります。
検事役、弁護士役がどのような意図で発言をしたのか、親切にも作者が描きこんでくれているのです。
『検事は、(略)楠山教諭(略)が、柏木卓也の遺体発見直後から、その死を「自殺」と決めつけていた、という証言を引き出そうと責めた。彼が不登校の<問題児>柏木卓也に対して、とっさにその遺体をかき抱くなどの人間的な行動をとることがないほどに、冷酷なスタンスを取っていたということも匂わせようとした。
そして、弁護人はそれを妨げた。』(67ページ)
『「無残な姿でしたよね?」
質問ではない。藤野検事は法廷に向かって言っている。』(77ページ)
『「検事の反対尋問で、<柏木卓也がこっそり校内に入り込み、屋上の南京錠の状態を下見した可能性はない>という印象が引き出されてしまった。津崎がせっかく「私の知るかぎりにおいては」という留保をつけたのに、弁護側はそれを利用しなかった。』(112ページ)
などです。
リーガルサスペンス、特に陪審制のものなどほぼ初めて読むような自分にとってありがたく、また「これを書いた時の作者の気持ちを述べなさい」の問題の正解を作者が明かしている珍しい例だと思うのです。
楠山先生に続いて、死体の第一発見者として野田健一が証言に立ちます。
さらに、当時の校内管理、生徒指導の責任者だった津崎元校長が呼ばれます。卓也の死後、告発状の受領に始まった一連の騒動のある程度は、理由があったとはいえ校長が事柄を公にしないことを選んだことに一因があり、それを自覚して臨んだ法廷での態度は、見事の一語に尽きます。自分たちの生徒の課外活動を見て、誇りに胸を膨らませた先生の教師としての人生は、思わぬ辞職で終わりを告げたとはいえ、充実したものだったでしょう。
弁護側の「ファン」から思わぬ証言が飛び出した後、卓也の父柏木則之が証言に立ちます。
卓也を考え深く、世間と馴染み辛い「小さな仙人」と評し、死亡前の行動を証言した則之に、卓也の兄柏木宏之は、それが「虚像」だと食って掛かるのでした。宏之は済んでのところで毒牙から逃れたという点で、野田健一と共通します。午後の彼の証言は見所の一つです。
午前中最後の証人は、HBSの茂木悦男。
「涼子の声は、プリマドンナのようによく響いた。わたしこそが主旋律を歌うのだ、と。」
「傍聴席の中で、茂木悦男が胸を張って立ち上がった。あたかもプリマドンナと歌い交わすために颯爽と登場したテノールのように。」
これ、なかなか書けませんよねえ…(引き合いに出して作者に大変失礼ですが、何百冊本を読んでも自分には一生書けそうにありません…)。
まさに検事側の主張の根幹を述べると涼子は高らかに宣言したのであり、その筋書きに則って声を上げる、と茂木は立ち上がったのです。
しかし、「物証のない、証言のみに頼るこのような裁判ごっこに意味がない」との茂木の演説は神原弁護人に一瞬で完全論破されます。
「僕ら全員、茂木証人の演説の熱を冷ます必要がありそうです」との一言で本当に茂木演説の魔法を一瞬で解いてみせる弁護人は、まさに食えない男です。
休憩をはさんで午後、卓也の兄、柏木宏之が証言に立ちます。
父則之と「対決したい」と声を上げた彼は、もう一人の被害者です。誰のって、この事件の真犯人の。
彼は弟の卓也が自らの虚像を作り上げ、それを利用して他人を思うさまにコントロールしようとしていることに気が付いていました。しかし、卓也の思惑を告発しようとする彼の言葉は両親も含めた周囲の人に届かず、誤解を(彼の証言に対する傍聴人の「どうしても上の子に我慢させて、下の子のほうに甘くなっちゃう」という感懐がまさにその誤解です)招き、焦った彼は弟に手を上げた後に、間一髪、真犯人の魔の手から逃れることができたのでした。
そのことを訴えようとする彼の言葉は相変わらず誰にも届きません…いや、神原和彦には届いているのかもしれません。
2日目。
サプライズで井口充が証言します。
大出俊次の子分として三中の持て余し者だった彼は、同じく子分だった橋田祐太郎と諍いを起こし、もみ合ったあげくに校舎から転落して車いす生活です。
彼の証言は「大出俊次が、自分が卓也を殺したと自慢していた」というもの。証言自体、爆弾発言ではあるものの、考えなしの俊次による空威張りだろうという想像はつきます。
それよりも、俊次は彼らを友達だと思い、彼らはただの親分子分の関係だと思っていたということが透けて見える彼らの態度に、うすら寒さを感じるのです。
続いて、ユーレイのような美術の丹野先生。
彼の言葉を借りて卓也の内心が語られます。先生は昔の自分に、この世に、学校に馴染めない卓也を重ね合わせているのです。
「監視しながら同時に監視されている。密告――この場合は、先生に目をつけられたり、生徒同士の間でいじめの標的にされることを恐れて、本音を言うなんてとんでもない、本当の自分を見せることもできない、表面的な付き合いに調子を合わせて、恭順を装うしかない生活だと」
そんなところから「出ていこう」とする卓也に、「学校からは出て行っても、世界から出ていくのはまだ早い。世界のどこかには絞首台のない丘があるはずだと、彼に言いたかった」先生は、直感的に事件の真相を見抜いているのでした。
「自殺は、自分で自分を殺す行為にほかならないんですよ。違いますか」
願わくは、必ず一定数いるはずのユーレイのような生徒たちと言葉を交わせるよう、お辞めにならないでほしいと思います。
そして3日目。
傍聴人をシャットアウトした小法廷で、三宅樹里が証言に立ちます。
あくまで告発状を書いたのは浅井松子だとするストーリーの下、クリスマスイブの深夜に目撃したことを語る彼女。
ここまでで唯一の「偽証」です。
大出俊次を追放できる絶好の機会を利用しようとした彼女にとって、これは正義。
弁護人が彼女に向かって放った反対尋問は「あなたの証言は、真実ですか」でした。
「――真実です」との彼女の証言と、その直後の一節は、この巻いちのハイライトだと思います。
『その返答を聞いた瞬間、弁護人の肩から力が抜けるのを、まり子は見た。ほっとしたのではない、拍子抜けでもない。――がっかりしたんだ』
『それに、何て悲しそうな眼だろう。さっきと似てる。慰めてるの?
いや、違う。まり子は自分がわからなくなってきた。あたしヘンだ。おかしいんだ。どうかしてる。
だって、あの顔。ほんの一瞬だったけど、神原君の目。みんなも気づいたかな。
……ごめんね。
三宅樹里に謝っていた』
ハイライトであり、伏線でもありです。
橋田祐太郎が証言し、大出・井口・橋田の関係のうそ寒さをいっそう強調して、この巻は終わりです。
これまで積み重ねたキャラクターが、証言が、伏線が、一気に押し寄せて火花を散らす法廷。
「こんなことがなければ絶対に聞けない本音」を本人たちの口から、こんなにたっぷり聞くことができるなんて。リーガルサスペンスってフォーマットに作者の筆の冴えが両方そなわり最強に見えます。
それにしても、どうしてこんなに引き込まれるんでしょう。これを書くのに当たって確認したいことがあって、ちょっと5巻を開いて、そのままラストまで読んでしまいそうになりました。危ない危ない…。-
素晴らしいレビューいつも有難うございます。
あの長編の概略が、このレビュー1つで完璧になされていますね(^^)
非常に有難いです。
ちなみ...素晴らしいレビューいつも有難うございます。
あの長編の概略が、このレビュー1つで完璧になされていますね(^^)
非常に有難いです。
ちなみに僕もこの物語にハマり、一気に読んだ方だと自負してましたが、この量をわずか2日で読了するのは凄すぎますね!!!笑
ようやく今日6巻まで読了しましたが、仰る通り宮部みゆきの代表作といって過言ではない作品です!!
(私個人としては、ギリギリ「模倣犯」派ですが…笑)
また、6巻末の藤野涼子・神原和彦のアフターエピソードがまた良かったですよね♪
それはまた、6巻のレビューにて。。。2021/05/10 -
きのPさん
コメントありがとうございます。
6巻読了お疲れさまでした。
「模倣犯」の5巻もこちらの6巻も、読んでいる間はどっぷり物語に...きのPさん
コメントありがとうございます。
6巻読了お疲れさまでした。
「模倣犯」の5巻もこちらの6巻も、読んでいる間はどっぷり物語に浸れました。僅差で模倣犯押しというお気持ちもよくわかります。
ラスト、神原元弁護人が幸せそうで安心できますよね。
実は自分は野田健一に肩入れしていたのでちょっと残念ではありましたが、お相手が神原君なら仕方ありませんw。
2021/05/10
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いよいよ開廷する。高校生らしさを残しながら物語の場所も体育館で、情景が鮮明に脳裏に表出させられた。
証人に対する主尋問と反対尋問が繰り返される。ただ本当の裁判と異なるのが、柏木卓也の学校での生活が生徒や先生から共有されていく。卓也の父から卓也の考え方も共有される。証人たちの言葉から卓也の考え方に対する私の思いは、少しずつ変化していった。この裁判の目的へ近づき始めている。
真実は何か?それは大出俊次の救いになるのか?そして三宅樹理の救いになるのか?
もう1人の重要な人を救うことができるのだろうか?
なぜ宮部みゆきさんは高校生を対象に描いたのかも見えてくる、と同時に学校へ一石を投じる作品だと思うのである。深く読むほどに大事なメッセージを感じてしまう。 -
いよいよ裁判の開廷となる第5巻
3巻、4巻で事件当夜についてのことについて結構出てきていたので、それの確認作業にあたる巻かな、と思っていたのですが、
そうした面もあるものの、それと並行して証言される自殺した柏木卓也の人物像がとても興味深いです。
これまで読んでくる中でも柏木卓也の厭世観なんかはなんとなく感じるところがあったのですが、こうして改めて各証言者の語りを読んでいると、作中の登場人物が語るように一種の哲学者でもあり、
言い換えれば重度の中二病でもあったんだな、と思いました。そういえば自分も昔こんな風に学校のことや大人のことを考えていたこともあったな、とも思いだしたりもしたり。
そして証言者自身のドラマも読みごたえがあります。大出俊次と共に告発状で名指しされた少年たちの事件後の思いなんかも非常にリアル。
そして無軌道に見えたその少年自身も自分自身について思うところがあったりと、この裁判をやらなければ見えなかったものが少しずつ見えてきているのも分かります。
ここで少し僕自身の話をすると、僕の通っていた中学校はどちらかというと荒れていて、大出俊次のような子も同学年に何人かいました。
中学三年の卒業間際、母がPTAか何かで先生へ送る花束を買う係となり、クラスからお金を集めてくるよう僕に言いました。そのクラスにはもちろん大出俊次に近いやんちゃな子もいます。
その子にはさんざん自分の滑舌の悪さや身体のことをからかわれた経験があり「いっそのこと彼の分は自分が肩代わりしようかな」と思いつつクラスメートに自作の花束についての協力の依頼のプリントを配っていると、
その子が「お前なにやってんねん」と絡んできて、プリントを一枚ひったくってそれを一瞥すると、カバンから財布を取り出してお金をすっと渡してくれました。
自分はあっけにとられながらも反射的に「ありがとう」と言ってお金を素早く受け取りました。
当時は「よかった、やっかいな手間が省けた」と思っただけでしたが、彼は彼なりに普段では見せない卒業式や先生への思いがあったんだろうな、
とその場面を読んでいてそんな当然なことを今更ながらに思いました。
さて話を戻しますと
5巻の中で個人的に印象的だったのは三宅樹里が出廷した時に、陪審員に、クラスが違ってもいじめられていた私の顔くらいわかるでしょ、と詰め寄るものの結局彼女は相手に認知されていなかった場面です。
このときこの場面の語り手は心の中で樹里にこう呼びかけます。
『あたしたち、自分で思うほど人に見られてなんかない。世界はあたしたちと関係のないところで回ってる。』
僕自身小・中学校と周りの目を気にしておどおどとしているところがあったので、(今考えるとこのおどおどがからかわれた原因かも知れません)この言葉が妙にひっかかりました。
あの頃の自分がこの本を読んでいたらもうちょっと楽だったのかな、と思うとあの頃の自分にこの本を読ませてあげたいな、と少し思いました。
読んでいてこれだけ自分の中学生時代を思い出すのが何とも不思議です。学校内裁判という特殊な状況ですが、
それでもそこで語られているのは決して自分とは無縁なことではなかったのだな、と読んでいて今更ながら気づかされます。
次巻で裁判もいよいよ結審。裁判はいったいどこへたどり着くのか。そして弁護人の神原の真意は? ワクワクが止まりません!
2013年版このミステリーがすごい!2位
2013年本屋大賞7位 -
法廷になると断然面白くなる!
著者プロフィール
宮部みゆきの作品





