日本の戦争力 (新潮文庫 お 74-1)

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  • Amazon.co.jp ・本 (381ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101372716

感想・レビュー・書評

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  • 本書は、ジャアナリスト坂本衛さんが、小川氏に一問一答形式で質問する体裁になつてゐます。話し言葉なので分かりやすい。

    第一章は「自衛隊の「戦争力」」。自衛隊が誕生した背景、そもそもの意義について解説します。敗戦国・日本が米国の占領下にあつた時、新憲法下で再軍備への道を開くには、交戦権は認めないが自衛権はあり、そのための組織であるといふ「解釈」が当初からあつたのですね。
    自衛隊の戦力は、一点豪華主義みたいなもので、バランスとしてはいびつな構造ださうです。総合的には他国を攻める力量(パワー・プロジェクションと呼称するとか)はない。なぜかといふと、それは米国が日本に求める役割を考へれば理解出来るやうです。中韓をはじめとして、アジア各国には日本の再軍備を警戒する一派がありますが、その点を日本が説明してこなかつたからだと小川氏は説明します。実は日本では政治家すらそれを理解してゐないのが現状だとか。それは日本には外交・安全保障について、国家としての戦略がなかつたからだと主張します。

    第二章は「アメリカへの「戦争力」=抜群の交渉力」。
    むろんアメリカと一戦交へやうといふ訳ではありません。米国の世界戦略を考へる上で、日本が如何に支へてゐるのかを解説します。日米安保の「片務性」(有事には米国は日本を助ける義務があるが、日本は米国を助けない)といふのがしばしば指摘されますが(トランプくんが以前よく言つてゐた)、それはおおいなる誤解ださうです。米国に対して卑屈になつたり、劣等感を抱く必要はまるでないと。

    第三章は「テロへの「戦争力」」。
    9.11依頼、世界はテロに対する認識が大きく変つたといはれてゐます。ところが日本では当事者意識はまるでなく、対岸の火事だと思つてゐます。平和主義を標榜するからこそ、テロ対策は本気になつて取り組まねばならぬと説きます。しかし対テロ政策を、日米同盟を基軸にすると、集団的自衛権の行使問題に首を突込むことになるので、アメリカとの関係を理由にしてはいけないとくぎを刺してゐます。ただし2014年には、安倍政権下で、武力の行使の「新三要件」なる概念が閣議決定されるなど、解釈はゆらゆら揺れてゐるみたいです。

    第四章は「イラク復興支援に見る日本の「戦争力」」。
    「大義なき戦争」などとも言はれたイラク戦争。小川氏は、いち早く米国支持を打ち出した日本政府は正しかつたと述べます。大量破壊兵器が結局出なかつたのもあくまで結果論で、開戦までのプロセスに瑕疵はないとの認識であります。ふうん。しかし、戦後の占領政策で大いに躓きました。これはこれで反省し、教訓として活かさねばならぬと説きます。
    でもイラクの混乱について「反米感情が払拭され、宗教対立が沈静化すれば収束に向かう」とは、ちと呑気過ぎませんか。

    第五章は「北朝鮮への「戦争力」」。
    北朝鮮に対する恐怖を騒ぐ人たちは、「北朝鮮の手先」なんださうです。特に専門家が恐怖を煽ると、当然素人は信じ込む。北としては、労せずして外交的に優位に立てる訳です。なるほど。では恐れる必要はないのでせうか。
    北朝鮮の脅威に対して、①「日米同盟」②「国連軍」の二つが暴走を防ぐシステムなんださうです。理詰めの解説ですが、果たしてあの国に通用するものかどうか......

    第六章は「日本国憲法の「戦争力」」。
    「前文」について、我が国と諸外国との間には解釈の相違があることが分かりました。現行憲法は解釈の幅が大きすぎるので、完成度を高める為にも改正は必要だと、小川氏は解説します。確かに、世界の情勢が刻々変化するのに、憲法を未来永劫変へぬといふ訳にはいかぬでせう。でも、現政権にはなぶつて欲しくないなあ。そんな力量があるとは思へません。「悪い自主憲法」よりも「良い押し付け憲法」の方がましかなと思ひます。

    本書の内容に、一から十まで納得したとは申せませんが、国際情勢、就中軍事に関しての無知無関心を叱咤されたやうな気がして、中中意味のある一冊であると存じます。戦争や軍事ついて語るのはマニヤだけに任せてはいけません。我々庶民の方がより必要ですね。

    http://genjigawa.blog.fc2.com/blog-entry-824.html

  • 社会
    思索

  • 2017.12.21 『本を読む人だけが手にするもの』からの選書。

  • Q&Aの対話形式にしたのが裏目に出て上から目線のような感じがしてあまり好みの構成ではない。内容は特に目新しくもないが、物理的な安全保障よりも外交面を重視し過ぎているような点が多々あり、そこは如何なものかと思う。ソフトパワーはハードパワーがあって初めて機能するのではないだろうか。
    また、日本国憲法前文を
    「われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めている国際社会に於いて名誉ある地位を占めたいと思う。」
    「我等は、いずれの国家も自国のことのみに専念して他国を無視してはならない」
    「日本国民は国家の名誉にかけ、全力をあげてこの崇高な理想と目的を達成することを誓う」
    ってのを一番大事なポイントだと受け止めるのは外国人に多いとか言われてショックw
    そこ以外にどこが大事なのかと。
    この「憲法前文の精神」をベースにすれば、地球上のどこであろうとも、「専制と隷従を除去」するために国家の全力を挙げなきゃならないのよ!

  • 2009年(改訂前底本2005年)刊。イラク戦争前後における日本の自衛隊の現状をその成立経緯、日米外交を踏まえ、Q&A形式で解説。イラク戦争における大義名分を軽視していると見受けられる点、貸しを作るというのも外交戦略である点(イラク戦争支持と北朝鮮問題との対価関係)を軽視しているきらいはあるが、平和主義貫徹及びその構築のためのリアリズムという面では参考になる主張が多い。ただ、自衛隊の実力(米軍補完軍、アンバランスな能力)については割に既知情報だし、航空管制問題など米軍従属の行き過ぎを軽く見ている節も。
    兵站基地としての日本が米国の国際戦略に重要な位置づけである点は、もっと認識され、強調しても良いという点は同感で、沖縄問題の些か弱腰とも見える対米外交交渉にも資する指摘かと。他方、著者の憲法改正論(9条限定の議論なので狭すぎるが)は、自民党のそれとは少し異質なものに感じるのに、第一次安倍内閣で「国家安全保障に関する官邸機能強化会議」議員であったのが、まあご愛嬌か。PS.化学兵器・生物兵器に関する自衛隊の対応能力にも若干の言及があり、不充分との指摘には注目。
    なお、本書程度であれば、読書の基礎素養があれば十分に理解が可能であり、義務教育では、細かな議論を知るのではなく、汎用性と応用が可能な、基本的な読書能力を付けることに注力すれば足りよう。

  • 何か足りないのだ。

    みなきゃいけない全体像が見えにくいような。
    もうちょっと知識がないとだめかもしれない。

  • 日本の軍備に関しては、思うことの多い著者の考えを利き手がまとめた本。

    日本の平和主義だけだと、やっぱり平和はつかみとれないのかなと思うことも多いです。

    さっと読める良い本だと思います。

  • 何分古い本なので、防衛庁の組織について語っていたりと、情報鮮度が悪いですが、自衛隊や政府の構造は防衛省関連以外は当時とはさほど変わっていないのでとても勉強になります。
    ただ、「戦艦や巡洋艦を有していないので…」というなど、所々やや疑問が湧く内容もあります。

  • (欲しい!/文庫)

  • 自衛隊の存在意義。日米安保の重要性。憲法に謳った平和主義。
    今までよく分からなかった部分が見えてきます。事実とデータに基く論理展開で、説得力がありますね。これから日本がすべきことは何なのか、考える材料になりました。

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著者プロフィール

軍事アナリスト。1945年12月、熊本県生まれ。陸上自衛隊生徒教育隊・航空学校修了。同志社大学神学部中退。地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。外交・安全保障・危機管理(防災、テロ対策、重要インフラ防護など)の分野で政府の政策立案に関わり、国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、日本紛争予防センター理事、総務省消防庁消防審議会委員、内閣官房危機管理研究会主査、隊友会本部理事などを歴任。小渕内閣では情報収集衛星とドクター・ヘリ実現に中心的役割を果たした。2012年4月から、静岡県立大学特任教授として静岡県の危機管理体制の改善に取り組んでいる。著書に『「アマゾンおケイ」の肖像』(集英社インターナショナル)、『フテンマ戦記』(文藝春秋)、『アメリカ式 銃撃テロ対策ハンドブック』(近代消防社)、『日米同盟のリアリズム』(文春新書)、『危機管理の死角 狙われる企業、安全な企業』(東洋経済新報社)、『日本人が知らない集団的自衛権』(文春新書)、『中国の戦争力』(中央公論新社)ほか多数。

「2022年 『メディアが報じない戦争のリアル』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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