スキップ (新潮文庫)

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  • 新潮社
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本棚登録 : 4296
レビュー : 554
  • Amazon.co.jp ・本 (571ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101373218

感想・レビュー・書評

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  • 「───わたしは、百人の男と寝たい」

    これが書き出しだったら、綿矢りさでしょうが、そういう話ではない。
    いわゆるタイムスリップもの。
    この本が何故に書棚の奥に入っていたのか、未だに分からない。
    本を整理していたら、にっこり笑いながら顔を出してきた一冊。
    北村薫がかなりの年配で、しかも男だったというのを初めて知った。
    だが、読み始めたら面白い。止らなかった。
    昭和40年代初めに17歳だった女子高生が突然25年後の未来に飛んで、42歳の主婦に。
    そのうえ高校の国語の先生。
    しかも娘が17歳。
    その娘が帰宅すると、主人公が「教えてください。ここどなたのお宅なんですか?」と訊ねる。
    娘の返事は「ふざけてるの? ───お母さん」
    ですよね、もちろん。
    そんなことあり得ない。ジョーク? 記憶喪失?
    いずれにしても現実ではそう簡単に娘は信じないでしょうが、まあ、そこは小説だからと軽く受け流したい。
    この作品はそんな陳腐なタイムスリップめいたものがテーマではないはずだから。
    とにかく、一瞬にして昭和から平成に飛んでしまった一ノ瀬真理子。失われた25年の間、自分がどういう人生を歩んできたのか全く知らない。それでもその理不尽さと今の世界に正面から向き合い、生きていこうとする。そして、それを支える娘と夫。
    人の絆、人の優しさを随所に感じさせる温かい作品だ。
    登場人物が魅力的で誰もが生き生きと描かれ、しかも優しい。
    現実にはこんな人間ばかりいないけれど。でも、自分の周りがこれほど優しい人たちばかりだったら、人生はどれほど楽しいものだろう。
    バレーボールの試合。
    真理子さんが語るように、東京オリンピックの決勝「東洋の魔女対ソ連」の試合を彷彿させた。(私は生で見てないが、その後のニュースで何度も放映されたので、神永がヘーシンクに敗れ日本柔道の未来に暗雲が立ち込めた試合と同様、記憶の片隅にある)
    「金メダルポイントです!!」有名な台詞だ。
    手に汗握りながら、ニコリ島原さんを応援した。

    泣けました。泣きました。
    読了後すでに一週間以上経つので、どこで泣いたんだろう?と再びページをめくった。
    かつての友人との再会場面か。それともバレーボールの試合終了後か。或いはやはり、
    「お父さん、お母さん、わたしはもう二度とあなた方に会えません」だったか。
    遥か忘却の彼方へと遠のいた時代と決別し、現実を受け入れ、前向きに生きていこうと決意する真理子。
    映画「ALWAYS三丁目の夕日」のように、ああ人間って素晴らしいな、としみじみ心に響いてくる逸品でした。
    生きるのが辛いな、と感じたときに読むのがいいような。

  • 「時と人」三部作の1冊目。3作の中では圧倒的に本書がお気に入りです。

    17歳の少女が自宅でうたたねをして、目が覚めると42歳。同い年の子供と-見知らぬ夫が居る。

    怖い。この設定はホラーそのものだと思います。久しぶりに再読してみましたが、なまじ展開を覚えているだけに、昭和40年代の日常の何でもない描写が痛々しくてドキドキしました。

    タイムスリップものは巷に溢れかえっていますが、時代を飛んでみていちばんの衝撃が「夫がいる」だった、というのはある意味斬新で、でもよくよく考えてみると当然の反応です。この辺り、男性でありながら女性の心理描写がびっくりするほどリアルな北村作品の特長が良く出ていると思います。

    そして、飛んだ後の展開がまた秀逸。普通なら「なぜ飛んだのか」「どうやって戻るか」に主眼が置かれるところですが、主人公はそれどころではありません。"昨日"までとまるで違う今日を、そして恐らくはやって来る明日をどう生きるか。そこにこそ作品の力点が置かれます。登場人物が現実を受け入れすぎている、リアリティがない、という批評ももちろんあるでしょう。でも、目の前の現実に対峙し、乗り越え、そして受け入れていくこと、それこそが彼女にとってのリアリティだったのだと思います。

    幕引きはとても哀しく、でも前を向いて本を閉じることが出来る。出会えて良かった。また読めて良かった。そんな貴重な1冊です。


    補足1:設定を抜きにして、教育論としてもこの本、面白いですよね。学級日誌を読んでいると、高校教師だった頃の北村氏は人気があったのだろうなあと察せられます。

    補足2:単行本の刊行からなんと20年近くが経とうとしています。今書いたならば、やっぱり主人公が一番驚くのはスマホなのでしょうか。

  • やはり間違いない一冊。
    初めて読んだ時はまだ学生で、
    いつかこんな授業がしたいと思ったものです。

    今、国語の教員として教壇に立つようになり、
    何度読み返したかわかりませんが、
    読むたびに、
    主人公のしなやかな強さに励まされます。

    さぁ、また頑張ろう。

  • ――先生、新田君がいった。いつもの彼のようではない声だった。
    ――何、と答えた。
    ――やっぱりぼくでは駄目ですか、と新田君は聞いた。
    その言葉の底にある哀しみの深さに、わたしは動きを失った。

    新田君はいった。
    「――好きです」
    足元で光がはじけ、音楽が爆発した。





    ぜひ、ぜひ一読を。

    なんとも言いようがないくらい、繊細で、優しくて、眩しくて、きらきらした、一冊なのです。

    オススメ。かなり、すき。

  • 北村薫さんの小説は,この本が初めてです.読むきっかけとなったのは,演劇集団キャラメルボックスのお芝居として上演されることが決まったから.
    上演前に読みましたが,この小説の透明感にびっくりしました.これまで読まなかったのが不思議なくらい.
    キャラメルボックスの脚本家・成井豊さんがこの本をお芝居にしたいという気持ちがわかります.成井さんの読書量は半端ではなく,従って成井さんがお薦めする本は,ハズレがありません.
    スキップから始まるシリーズは,この本をきっかけにすべて読むことになりました.3冊のなかではやはりこの本が一番という気がします.

  • この本を読むチャンスは4回与えられている。
    17歳。42歳。
    教師になったとき。母親になったとき。
    4回のチャンスのうち、1つはもう永遠に叶わないし、1つはあるかどうかわからない。でも、1つは実現する可能性が高いだろうし、そして1つは必ず私を待ってくれている。
    どうか、22年後の私の本棚に、この本がありますように。

  • 読後とても不思議な気持ちになりました。
    突拍子もない話なのに、どうしてこんなに心にしみるんだろう。ヒロイン真理子さんの言動や、高校生たちの姿がキラキラして、一瞬一瞬がかけがえのないものだと感じられる。何があっても、私たちは今を生きることしかできない。
    それにしても、北村薫さんの描く人物はなんで毎回、こんなに皆魅力的なんだろう。

  • 17歳の女子高生、一ノ瀬真理子が眼が覚めると知らない人の身体に魂が移っていた。しかもどうやら結婚して17歳の娘をもつ25年後の自分に。
    ギミックとして特に目新しいものではないのですが、授業で生徒たちに語りかける内容、娘や夫との会話、周囲の人たちへ注ぐ目線、他にも1つ1つのさりげないエピソードや描写が秀逸。優しい目線で捉えたものを、豊富な語彙と、繊細で美しい文章で綴ると、かくも素敵な作品になるものか。
    この良さを理解できるであろう知人に紹介し、お気に入りの表現や結末の解釈について語り合うのも楽しそうです。

  • 時をスキップしてしまった少女の話。
    いくら努力をしても、お金を払っても決して巻き戻せない今という時間。そういったものを実感した。
    父母がいて、兄弟や妻がいて、従兄弟がいて、大事な友人がいる。そんな今を大切にしなければならない、と当たり前のように思った。
    30歳を超えて歳を感じる。若さに憧れるし、ともするとその若さを味わいたいと思ってしまう。誰しもが通る道なのかもしれない。
    失ったものはとりもどせないが、それを羨むことなく、今をいきねば。
    今の自分には非常に重く、かつ軽く読める素晴らしい小説だった。進めたくれた子に感謝。

    昨日という日があったらしい。明日という日があるらしい。だが、わたしには今がある。

  • 高校生から突然25年の時をタイムスリップして、高校生の娘を持つおばさんになってしまった「一ノ瀬真理子」

    年下の男の子に恋する時、少なからず同じ感情があったのではないか?
    幸いにも私は25歳も年下の彼を好きになるにはまだ若過ぎるのだが。
    51―池ちゃん、あなたのいった通りよ。わたしは、あの時、お人形さんみたいだった。
    わたしは、―わたしは掛け値無しに可愛かった!
    (初めて鏡を見た時)
    134誰か、教えてください。時は、取り返すことが出来るのですか。
    (好きな男の子に会った時)
    243桜木さんの言葉
    286先生は、伝えたいことをちゃんと持って教室のドアから入って来るべきだと思うの。〜《話したいことがないのに話すというのは辛い》〜それを必ず持って来たいぇ思います。
    287(好きな言葉)自尊心
    343今日が、明日の、ただの通過点だったということのないような―そんなことが出来れば嬉しいと思います。
    380ゲーテの「ファウスト」鍵になるフレーズに、《時よ、停まれ。おまえは美しい》があった。
    401時間の階段を上れば自分の手に入る、と思ったものが、ただの幻にすぎないことはよくあるだろう。それどころか、失うもの、二度とできなくなることは、いやというほどある。
    406その言葉が唇からもれた瞬間、わたしの体の芯を、どうしようもなくせつないものが、流れ落ちるように素早く走り抜けた。
    ↑なぜか?
    491何か不満があるんだ。何か、他に解決できないことがあるんだ。若い時は、いや、若くなくったって、皆な、それがある。
    (お父さん、お母さん、わたしはもう二度とあなた方に会えません)
    (昨日という日があったらしい。明日という日があるらしい。だが、私には今がある)

    ほぼ引用で、取り留めなくなっちゃったけど、心に残る言葉がたくさんあったので書いておきました。
    中学生くらいの時に、NHKのスペシャルドラマで見て、一気に引き込まれたのを覚えてる。
    あれから15年経って、色々経験してもやはり面白いものはそのまま。
    一ノ瀬真理子さんがスキップしてしまった、最も輝く時間を生きてきたんだなと思う。

著者プロフィール

1949年埼玉県生まれ。高校教師を務めるかたわら、89年『空飛ぶ馬』で作家デビュー。91年『夜の蝉』で日本推理作家協会賞、09年『鷺と雪』で第141回直木賞、15年には第19回日本ミステリー文学大賞を受賞した。エッセイや評論、編集の分野でも活躍している。近著に『八月の六日間』『太宰治の辞書』『中野のお父さん』など。

「2019年 『覆面作家の夢の家 新装版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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