この国の空 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
3.17
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本棚登録 : 100
レビュー : 13
  • Amazon.co.jp ・本 (335ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101374130

作品紹介・あらすじ

戦争末期の東京――空襲に怯え、明日をもしれぬ不安な日々を生きる十九歳の里子。母と伯母と女三人、杉並の家に暮らす彼女の前に、妻子を疎開させた隣人・市毛が現れる。切迫する時代の空の下、身の回りの世話をするうち、里子と市毛はやがて密やかに結ばれるが……。戦争の時代を生きる市井の人々の日常と一人の女性の成長を、端正な筆致で描き上げた長編文学作品。谷崎潤一郎賞受賞作。

感想・レビュー・書評

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  • 戦時中の東京を舞台にした小説。
    少女から女性へと移りゆく主人公。
    戦時中の日常が実に鮮やかに書かれています。
    『戦争』と言われてもやはりピンとこない私の世代。
    解説に書いてあった通り、文献を読んだり小説で戦争のことに触れ“想像”する事が必要なんだろうなぁ。
    戦争小説であるのにもかかわらず、とても綺麗な印象を持った本でした。

  • 昭和20年、空襲下の東京で母と2人暮しの主人公、里子。動員逃れの意味もあって町会事務所に勤めている。焼け出された母の姉を迎え、ギクシャクした関係の中、里子は隣人で防空壕を貸してくれている銀行支店長、市毛を気にし始める。
    隣組、闇食料、疎開といった戦時下の日常と、逼迫する戦況に、九十九里浜への敵上陸、関東への侵攻を想像し怯える人々の心理を描いている。

  • 2017年、5冊目です。

    太平洋戦争末期の東京で暮らす一人の女性が、少女から大人になっていく様が、
    精緻な市井の暮らしぶりと共に描かれている作品です。

    戦争に影響を受けた人々の人生を描いた作品は、浅田次郎作品を、
    しばしば読みますが、市井の人々の暮らしを精緻に描いている作品は、
    初めて読んだ気がします。
    自宅の庭を畑にしトマトなど野菜を栽培しているところで、
    畑の土に家の下肥を自分で撒く様は、主人公が女性であるだけに、
    情景ばかりか、その時代の匂い空気を震わせてながら伝わってきそうです。

    主人公”里子”の心情が細密に、しかし誇張、虚飾されずに描かれており、
    人間としての成長と共に女性としての心情の揺らぎを感じることができます。

    20歳の女性と妻子が疎開して一人で暮らしている隣人の
    38歳の男性の間に生まれた恋。戦争が終わり、二人の関
    係はどうなるのか?そこは描かれずに終わっています。
    「この国の空」を見上げるように様々な思いを馳せるだけです。

    昭和58年作品。谷崎潤一郎賞受賞

    この本は、リサイクル本の店を回っていて、偶然出逢って手にした一冊です。
    いい作品に出逢えたと思っています。31年ほど前の作品ですが、戦時下を描いた作品であることも影響していると思いますが、作品に劣化を全く感じませんでした。

    おわり

  • P327
    谷崎潤一郎賞 受賞作品

  • 戦争が奪ったもの

  • 映画が印象的だったので、すっかりそのキャストで読む。
    主人公の二階堂ふみちゃん、素晴らしかった!!
    隣に住む男・市毛役は長谷川博己さんでしたが・・・ちょとやらしすぎですわ。別の人がよかったなー(笑)

    戦争末期の東京ー空襲に怯えながらの不安な思いと日々の暮らし。市井の人々には、戦争末期とかわからないですもんね・・・。
    19歳の健康な主人公の、自分は愛も知らずに空襲で死んでしまうのだろうかという、やり場のない思い。
    隣家には妻子を疎開させ、自分はいつ召集されて死ぬかと怯える38歳の銀行員の男。戦時下にありながら、いや戦時下だからこそ、その思いは切実だったんだろうなぁ・・・。

  • ■ 15134.
    〈読破期間〉
    2015/9/1~2015/9/9

  • 「渦中にいる」ということは、どういうことだろうか。
    それは、この先、自分にとって好ましい方に転ぶのか、それとも不都合な方に運ぶのか、見当がつかないということかもしれない。1つ1つの事柄の評価も定まらない。同じように右往左往している人々の言うことに翻弄され、時には捨て鉢になり、時には高揚感を覚える。自信満々に見える人も実のところ足下は確かではない。今日の価値が明日も同じかどうか、何の保証もない。

    本作は、終戦間際の市井の人々を描く作品である。今夏、映画が公開されるということで知った。若い娘と妻子持ちの男の交情という点が、映画の少なくとも宣伝の部分ではクローズアップされていて、何となく安吾の『戦争と一人の女』と同じ匂いを感じて読んでみた。
    ある意味、不倫の物語なのだが、しかし、本作はそれだけにとどまらない。「その夏」の、悪い予感を抱えた、どっちつかずの、ささくれた、それでいてどこか絶望しきっているわけでもないような、鈍色の「空気」を丹念にすくい上げた作品であるように思える。「その夏」を知らない身ではあるのだが。

    安吾作品にあるような、魔術的で挑発的な姿勢はない。非常に吸引力があるともいいにくい。だが、その分の「リアリティ」がある。この作品が描く世界のどこかに、自分を置くことが可能に思える。状況がもし少し違っていれば、登場人物たちはどうしたか、思い描ける余地がある。緻密に描き込まれた風俗画のような本作には、そうした想像力を刺激するところが確かにある。

    主人公の里子は、19歳。母と杉並の家に暮らす。父は戦争とは関係なく、病で早逝した。遺産で何とか食べていける母子だったが、徴用を避けるため、里子は役所で仕事を得ていた。母はなるべく、里子を「二親揃った娘」のように育て上げたいとおもっている。
    近くに住む市毛は38歳。銀行に勤め、職務上、自らは東京を離れることは許されなかったが、妻子は田舎に疎開させていた。
    里子の家の防空壕が壊れたため、留守がちな市毛は自宅の防空壕を使うように申し出る。
    そんなこんなで平時ならば交わらなかったはずの二人の距離は縮んでいく。
    メインのストーリーは強いて言えば、そんな里子と市毛の物語なのだろうが、奥行きを深めているのは当時の東京の描写である。
    東京大空襲の後、人の心は目に見えてすさんだ。ちょっとしたことでも激しくくってかかり、権利を主張する人もいた。空襲の再来に怯えて、精神を病むとまではいかなくても、情緒不安定になる人も多かった。
    肉親の間でも感情の行き違いはままあった。ともに暮らすことを望みつつ、憎み合ってうまくいかなくなる例も多かった。
    食糧事情はよくはなかった。けれど闇の買い出しなどで、時折のご馳走もあった。軍需産業など羽振りのよい家であれば、かなりの贅沢も可能だった。
    焼け出されなければとりあえずは平穏に暮らせた。けれど、建物疎開の対象になれば、まだ住める建物でも平気で近所住民を総動員して取り壊された。
    敗戦色が濃くなっていく中、本土決戦となれば、丙種であろうが九十九里浜で蛸壺に潜んで敵兵を迎え撃たねばならないという噂もあった。
    田舎に疎開するのがよいのか、都会に残るべきか、人々は惑い、確信のないまま選んだ道をよろめきながら進んだ。

    物心ついた頃からずっと「戦時」にいた里子は、そんな中で少女から娘へ、そして女になっていく。
    別の時代にいれば、同年代の若者と普通に恋をして、普通に結婚して、普通に子供を産み、家庭を作ることを夢見ていたのかもしれなかった。
    しかし、それは叶わなかった。

    誰の身にも、多かれ少なかれ「取り返しのつかないこと」が起きた。
    空は青かったかもしれない。けれど、明日、いや、当夜、予測できぬ豪雨がある可能性は低くはなかった。そんな空の青さはどこか、不穏であったのかもしれない。
    危険は去った、と告げる声は突然だった。もう少し待っていれば、違う選択をした人は多かったかもしれない。しかし、それは確信を持ち得ないことだった。

    現代の空を見上げる。70年前の空を思う。
    青さが、目に染みる。

  • 谷崎潤一郎賞受賞作。
    太平洋戦争末期。
    子どもは疎開し、男子は出征し、町に残された人々は空襲に怯える毎日を送っていた。
    学校を出たばかりの里子は母と二人、杉並の家に残り不安な日々を過ごしていたが、隣家の市毛を頼るうち、異性として慕うようになる…。
    戦時下の東京の市民生活の様子がありありと分かる一冊。特殊な状況下だからこそ生まれたであろう里子の恋もいきいきとしていて、切迫した戦況とのコントラストが印象的だ。

  • 戦争末期、度重なる空襲におびえる里子と母、
    家族と家を失った伯母。そして隣家に住む妻子を疎開させた銀行員の男。
    伯母のふてぶてしさにむかつき、こんな戦時下で青春を送ることに不安をおぼえる里子と、いつ召集されて死ぬかおびえる市毛とのひそやかな関係は最後まで目が離せなかった。単なる安っぽい不倫ものとは一線を画している。映画では市毛が長谷川博己、伯母は富田靖子と聞いて妙に納得がいくキャストなので映画も見ておきたい。

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