この国の空 (新潮文庫 た 18-3)

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  • Amazon.co.jp ・本 (335ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101374130

作品紹介・あらすじ

戦争末期の東京――空襲に怯え、明日をもしれぬ不安な日々を生きる十九歳の里子。母と伯母と女三人、杉並の家に暮らす彼女の前に、妻子を疎開させた隣人・市毛が現れる。切迫する時代の空の下、身の回りの世話をするうち、里子と市毛はやがて密やかに結ばれるが……。戦争の時代を生きる市井の人々の日常と一人の女性の成長を、端正な筆致で描き上げた長編文学作品。谷崎潤一郎賞受賞作。

感想・レビュー・書評

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  • 読み始め一見ありきたりな戦争文学だと思ったが、静かで丁寧な筆致、主人公である少女のイノセントな感性に段々心を動かされた。
    戦時下という特殊な環境でしか育まれないであろう妻子持ちの隣人市毛との関係、大人と子供で絶望的に乖離している孤独や恐怖、読みどころは沢山あり満足できた。
    シームレスに入る回想で少し迷子になるが、読後感も素晴らしい納得の谷崎賞受賞作。

  • 夏に読むべき本。といいつつ、長谷川博己様信者なので映画のビジュアルから入った不純な動機で読み始めました。
    戦争末期の物語というと悲惨さが際立つものが多いけれどこれは戦争末期をそれぞれの生き方で行き過ぎる人間模様を描いた小説だった。

    妻子を疎開させたアラフォー男子の市毛、母子家庭となり伯母と母の仲を取り持ちつつ生きる里子。裏表紙のあらすじにもある通り二人が通じあっちゃうわけなんだけれど、
    それがメインの不倫メロドラマというわけでもなく、ただ、昭和の男女関係という雰囲気は漂う。勝手ともいえず一途でもない。戦時下という特殊な状況でそれでも人の生きる力はすごい。

    この関係の捉え方が二人とも全然違って面白かった。
    当時の男性にとっての37才と女性にとっての19才は今とはずいぶん違うんだろうな。
    里子のこれからが気になった。余韻の残る本だった。

  • 戦時中の東京を舞台にした小説。
    少女から女性へと移りゆく主人公。
    戦時中の日常が実に鮮やかに書かれています。
    『戦争』と言われてもやはりピンとこない私の世代。
    解説に書いてあった通り、文献を読んだり小説で戦争のことに触れ“想像”する事が必要なんだろうなぁ。
    戦争小説であるのにもかかわらず、とても綺麗な印象を持った本でした。

  • 太平洋戦争末期の東京・杉並に暮らす19歳の里子の日常が、淡々と粛々と綴られる。すっかり最近(……というのは少なくとも平成)の作品かと思っていたんだけど、読むのも終盤になってから1983年に発表された作品だったことを知った。それがわかると何となく、小説らしい小説だなと思いながら読んでいたのの裏づけがとれたような気がする。
    「小説らしい小説」とは、三人称で書かれていること、情景や心情の描写が多く占めること、「 」(会話)が延々と続くことがないことといったところだろうか。悪く言い換えれば古くさい小説ということになってしまうだろうけど、きちんと練られたストーリーと書きぶりに、淡々・粛々としていながらあきたり退屈することなく、むしろすうっと物語の世界に誘われる。
    常々思っていることだが、戦時中でも笑顔はあったし愛も恋も憎しみも羨みもあったはず。とかく最近は、戦時下の人々が時局や軍部の言うがままにされるばかりの清廉で善良な被害者のように描かれがちな気がするけど、そんなこともなかったはず。
    と思っていながらも、この小説に出てくる主だった人たちの、ある意味でのみにくさ、ずるさは印象的だった。里子の伯母はもちろんのこと母親も互いにいがみ合うようなみにくさを見せるし、面倒を里子に押し付けているかのような言動がある。里子がひかれる隣家の市毛にしたって、ずいぶん勝手な人物だ。里子だって悶々としたあげく自ら市毛に挑んでいくような大胆さをもつ人物で、市毛にトマトを食べさせるくだりや伝えられた日に帰宅しない市毛を追って彼の職場に電話をかけるところとか恐ろしい。
    でも、みにくさと前述したけれど、いってみればたくましさでもある。そんなたくましさをちょこちょこ用いながら戦時下の不自由な毎日を渡っているともいえるんじゃないだろうか。そして物語は1945年8月10日を過ぎたところで終わるけど、まもなく控えている戦後のほうがより過酷な時代のはずで、そこを生き抜くときにもまた、このみにくさ、たくましさが役立つのだろう。
    そしてけっして、みんなみにくさとずるさばかりの人々ではない。正直で誠実で善良でお人好しなときもある。そういう両面が描かれることで、人物の厚みが感じられフィクションである小説としての現実感が担保される。上質な小説を読んだ読後感が得られる。
    作中で描かれる戦時下の不自由な生活。いろんな物事が制限されたり、お上でもない市井の人の間で自粛を強要するようなことがあったりする感じが、昨今のコロナ下と似ている感じ。

  • 戦時中に東京が空襲を受ける中、中心から離れたところで過ごす母娘の話。徐々に周りの人が疎開していなくなる。戦時中の生活の一部を知ることができる。

  • 昭和20年、空襲下の東京で母と2人暮しの主人公、里子。動員逃れの意味もあって町会事務所に勤めている。焼け出された母の姉を迎え、ギクシャクした関係の中、里子は隣人で防空壕を貸してくれている銀行支店長、市毛を気にし始める。
    隣組、闇食料、疎開といった戦時下の日常と、逼迫する戦況に、九十九里浜への敵上陸、関東への侵攻を想像し怯える人々の心理を描いている。

  • 2017年、5冊目です。

    太平洋戦争末期の東京で暮らす一人の女性が、少女から大人になっていく様が、
    精緻な市井の暮らしぶりと共に描かれている作品です。

    戦争に影響を受けた人々の人生を描いた作品は、浅田次郎作品を、
    しばしば読みますが、市井の人々の暮らしを精緻に描いている作品は、
    初めて読んだ気がします。
    自宅の庭を畑にしトマトなど野菜を栽培しているところで、
    畑の土に家の下肥を自分で撒く様は、主人公が女性であるだけに、
    情景ばかりか、その時代の匂い空気を震わせてながら伝わってきそうです。

    主人公”里子”の心情が細密に、しかし誇張、虚飾されずに描かれており、
    人間としての成長と共に女性としての心情の揺らぎを感じることができます。

    20歳の女性と妻子が疎開して一人で暮らしている隣人の
    38歳の男性の間に生まれた恋。戦争が終わり、二人の関
    係はどうなるのか?そこは描かれずに終わっています。
    「この国の空」を見上げるように様々な思いを馳せるだけです。

    昭和58年作品。谷崎潤一郎賞受賞

    この本は、リサイクル本の店を回っていて、偶然出逢って手にした一冊です。
    いい作品に出逢えたと思っています。31年ほど前の作品ですが、戦時下を描いた作品であることも影響していると思いますが、作品に劣化を全く感じませんでした。

    おわり

  • P327
    谷崎潤一郎賞 受賞作品

  • 戦争が奪ったもの

  • 映画が印象的だったので、すっかりそのキャストで読む。
    主人公の二階堂ふみちゃん、素晴らしかった!!
    隣に住む男・市毛役は長谷川博己さんでしたが・・・ちょとやらしすぎですわ。別の人がよかったなー(笑)

    戦争末期の東京ー空襲に怯えながらの不安な思いと日々の暮らし。市井の人々には、戦争末期とかわからないですもんね・・・。
    19歳の健康な主人公の、自分は愛も知らずに空襲で死んでしまうのだろうかという、やり場のない思い。
    隣家には妻子を疎開させ、自分はいつ召集されて死ぬかと怯える38歳の銀行員の男。戦時下にありながら、いや戦時下だからこそ、その思いは切実だったんだろうなぁ・・・。

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