- Amazon.co.jp ・本 (193ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101377247
作品紹介・あらすじ
17歳の鴇谷春生は、自らの名に「鴇」の文字があることからトキへのシンパシーを感じている。俺の人生に大逆転劇を起こす!-ネットで武装し、暗い部屋を飛び出して、国の特別天然記念物トキをめぐる革命計画のシナリオを手に、春生は佐渡トキ保護センターを目指した。日本という「国家」の抱える矛盾をあぶりだし、研ぎ澄まされた知的企みと白熱する物語のスリルに充ちた画期的長篇。
感想・レビュー・書評
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斎藤環の解説があまりに混乱してて笑ってしまったけれど、天皇=父殺しがもはや成立しない時代の小説、という視点はとても納得がいく。というのも、最近大江健三郎について考えながら、わたしは大江における天皇制の問題をリアリティを持って受け止めているのではないなあ、一種のファンタジーとして受け止めているなあ、と感じていたからです。具体的現実的問題をうまく捉えられない、でも強まるばかりの閉塞感。閉塞感を突き詰めて突き詰めて、突き抜けてしまうカタルシスをわたしは好むのだけど、突き抜け具合はあと一歩ってかんじかなあ。大江のセブンティーンとの類似は納得。現代では大きな物語に埋没することで自己の矮小さを隠蔽するっていう構図すら直接的たりえない、っていうのが最後のシーンの意味でしょうか。とりあえず、こういうちゅうに相対化は常に行うべきだ。まちがいないや。
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装丁込みですな。電子書籍ではどうなんだろう
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主人公の妄想と現実との間隙が浮遊感を誘って、ワクワクするようなドライブ感があり、今までの阿部和重の作品と比べて読みやすい。妄想の強固さとそれ故のドライブ感は阿部和重を読む上で最も楽しい要素であり、それがよく反映された作品であった。
的外れな妄想の現実化が失敗に終わるのは当然であるが、その失敗が主人公にとっては妄想からの解放になる。クライマックスで作戦に失敗し、トキが逃げるのを見ていた主人公が感じた諦観は主人公の成長へと繋がるだろう。そもそも自己と同一視しているトキを殺すという考え自体が主人公をがんじがらめにしているのは明らかである。
警察が車に乗り込んで来た場面で挿入された洋楽の歌詞の効果で、その状況がスローモーションで想像され、映像的な面白さすらあった。
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感情移入する読み方はそぐわないと分かっているけれども、主人公の親や周囲の人たちがかわいそうと思ってしまい、前半は面白さに集中出来なかった。後半は、トキ殺しに向かってスピード感を持って展開するので、一気に読めた。
主人公が思考の果てにトキにアイデンティティを見出し、
”不当に生かされている”それを絶滅させることで、昭和を終わらせ、自身の過去を清算されたものとみす。そして、それこそが自分が生まれてきてやるべきこと、自分の存在を世の中に示すものであるという、トキへの謎の執着を描いている点が興味深かった。
とにかく、トキを主題にしているのが面白い。
トキ=日本=自分、日本死ねって感じでしょうか。
後味の悪い読後感ではあった。 -
神町サーガってことで、シンセミアとの関連を多少なり期待してたんだけど、全くの別物でした。ってか、直接的に”神町”って言葉、一度も出てきません。それはさておき、面白ければ何も文句はないんだけど、件の作品と比べると、やっぱりスケール感とか諸々で、どうしても見劣りしてしまう感じ。もちろん、こっちは短編だとか、色々原因は考えられるんだけど、だからこそ、シンセミアで出来上がった世界観を踏襲していれば…って思えてしまうんです。あと、終始主人公目線ってのも、ちょっと息苦しさを感じてしまう部分であったりします。それにしても、狂気の人間の描写は本作でも遺憾なく発揮されていて、さすがって感じでした。
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思い込みの激しい青年の冒険談。
自己中心的な愛のお話。とても読みやすい娯楽作品。 -
ひきこもり、に関する小説ではない、ことにこの著者の凄さを感じた。
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これはハマった。
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自分は鳥を食べるのは好きやけど生き物としての鳥は怖いから正直どうでもええ話やった。大きい鳥やカラフルな鳥は嫌い。鳩も嫌い。猛禽類は見るだけなら大丈夫。なので、トキが繁殖し過ぎて電線や公園や神社にウジャウジャしだしたら絶対に外出しません。 解説に書かれてる通り、自分も天皇制が裏テーマかなと思いました。皇室のみ側室制を続けてれば良かったのに。 主人公はアホです。でも、少し違ってれば愛すべきアホやったのに・・・。森見作品なら愛すべきアホな主人公に仕上がってた気がします。それぐらい紙一重やと思う。
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古本で購入。
主人公・鴇谷春生の妄想と偏執によって綴られる物語は、一人称と三人称の違いはあるけれど、どことなく町田康や森見登美彦を連想させる。
しかしそこにおかしみが全く感じられないのは、町田作品に漂う知性や森見作品の可愛いげがないからかも知れない。
要するに鴇谷春生は不愉快極まる。引きこもりのパラノイアというキャラ造形は、それはそれで秀逸だ。
そんな鴇谷春生が同じ名を持つトキ(鴇)を解放あるいは密殺するべく佐渡島へ渡るくだりから、少なからず物語のトーンが変わり、“あっけなく” 幕を閉じる。
下宿先のアパートに引きこもり、ネットを用いて物理的・理論的武装に励んでいるくだりとは異なる雰囲気。
そこに、たまたま佐渡での同行者となった瀬川文緒という少女はどんな「意味」を持っていたのだろう。
話は変わるが、解説の斎藤環によるカバー装幀の「読み解き」には驚いた。
非常にわかりやすい形で示された仕掛けだが、意外と見ていないものなんだなぁ。
初めて読んだ作家だったが、おもしろかった。
山形県にある神町を舞台にした「神町サーガ」に連なるものだそうで、他の作品も読んでみたくなった。