両性具有の美 (新潮文庫)

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  • 新潮社
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レビュー : 41
  • Amazon.co.jp ・本 (203ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101379081

作品紹介・あらすじ

光源氏、西行、世阿弥、南方熊楠。歴史に名を残す天性の芸術家たちが結んだ「男女や主従を超えたところにある美しい愛のかたち」とは-。薩摩隼人の血を享け、女性でありながら男性性を併せ持ち、小林秀雄、青山二郎ら当代一流の男たちとの交流に生きた白洲正子。その性差を超越したまなざしが、日本文化を遡り、愛と芸術に身を捧げた「魂の先達」と交歓する、白洲エッセイの白眉。

感想・レビュー・書評

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  •  ちょうど歌舞伎を鑑賞する機会に恵まれた時だったので興味深く読んだ。

     衆道と呼ばれた美少年礼賛の日本における歴史は、戦国時代を扱った書物から古くは平安王朝の頃の話まで枚挙に暇ない。本書も、ヴァージニア・ウルフの「オルランドー」からはじまり、菊花の契り、新羅花郎、稚児之草子、天狗と稚児等々、日本文化、芸能の分野のみならず、現代よりもっと日常的にあった同性愛の世界を著者ならではの審美観を持って改めて再評価している。特に終盤、著者の得意分野である「能楽」における稚児愛を描きだすと筆は冴えわたりとどまることを知らない。

     なにより著者の博学ぶりには舌を巻く。文中よく出てくるのが、「こまかいことは省くが」とか、説明を「ここらへんで止めておきたい」とするあたり、その背後、著者の脳裏の中にもはもっと莫大な知識が詰め込まれていることを容易に予見させる。
     あるいは「ついでのことにいっておくと」や、自身を「ずぶの素人」と断りながら「せめてそのアウトラインだけでも述べておかないと」と、丁寧に理解に資する補足や、その話題(そこは南方熊楠の粘菌の話だった)について概略を語ってくれる。または「私にはその方面の学問もなく、知識も至って浅薄であるから」と興味のある方へ原典を謙虚に紹介するが、それは著者は当然その原典に当たって内容を理解した上で語っているという証左だし、ゆるぎない自信が見て取れる。。
     なんだろう、随所に垣間見れる余裕、この圧倒的な情報量は? かつて松岡正剛の著作を読んだ時に感じたような”知の巨人”の存在がそこにある。
     そして脳内に蓄積された情報を、話題に応じて縦横無尽に繰り出し組合わせる様は、単なるデータベースでしかないコンピュータには出来ない人としての所業と思わざるを得ない。その情報の取捨選択、見せ方に白洲正子という人間が良く出ていると感じた。

     内容は、著者自身、衆道盛んな薩摩隼人の流れを受けた女性として、男性性を併せ持ち合わせていることを認識しながら展開される。世の男どもと丁々発止を繰り広げてきたという自負(?)と、性差を越えた両性具有な視点で、日本古来から近世、現代に至る多くの史実文献芸術を渉猟し尽くした上で俎上に上げるのは、光源氏、西行、世阿弥、南方熊楠、折口信夫、小林秀雄、青山二郎、etc.etc.
     端的に言うと”両性具有”というタイトルから想像するより、中味はもっと直截に”男色”というカテゴリの話だ。
    ”両性具有といのは、あくまでも精神的な理想像であって、プラトンのいう「アンドロギュノス」と呼ぶのが適しているのだろう”
     とはいうものの、「西行は自由に生きた人間である。男女の間に差別はなかったであろう」ということで西行の中に「両性は同居していた」とし、博愛のキリストをルオーという画家は「キリストを両性具有者の一人と見ていたことは間違いない」と断じるのは、いささか強引というか、古典、芸能、あるは武家や平安王朝の歴史の多くの局面にBL臭を嗅ぎ付けるのはいかがなものか? 昨今その手の話題が好きな女性を”腐女子”と呼んだりするのだそうだが、選ぶ題材が高尚ということで、かろうじて”腐”の誹りを免れている気がしないでもない。

     いや題材だけの話ではないな、やはり著者の視点は高いし、視野は広い。

     洋の東西を問わず両性具有の思想を語りながら、西洋の説明過多で長口舌の物語と日本の俳句の伝統の差を、培われた風土、伝統の差とさらりと交し、現在(いま)西欧に向かっている日本人の意識に対しても、「強いことは必ずしも強くはない。か弱く、はかないものには、それなりの辛棒強さと、物事に耐える力」があることを示唆し警鐘を鳴らす。
     お軽いBL小説とはわけが違う(って、BL関連は何も読んでませんが、恐らく違うでしょう)。

     とにかく話題が尽きない。本書の知識を一度に理解、習得するのは困難だ。折に触れ(例えば、実際にお能を観に行く前に)本書に立ち返って復習、再読するのが良さそうだ。それほど情報量は多く、著者ですら勢いを制御できない。
     ついに最後は、”「両性具有の美」というご大層な題名で書きはじめたが、読者も私もそのうち忘れてしまったのではないかと思う”と、
    「いつまで書いても終わらないのでこの辺りで一旦筆をおくことにする」
     と言って書き足りない思いを満々にたたえて筆をおくのには笑ってしまった。

     学び多い一冊。

  • 日本の芸術とBLについての根源的な回答がここに。

  • 男勝りだった筆者と私の感性の似てること似てること(笑)僭越ながら。

    両性具有といいつつも、男性の両性具有についての本。
    男でも女でもなく美しく人ならざるものへの畏敬は興味深いテーマ。

  • 最初から最後までタイトル通りなわけでは無く(著者自身も最後にそう書いてます)かなり自由。基本的に能の話。でも、面白い。完全に主観から書かれてるから逆にすっきりしてます。

  • タイトルは両性具有だけど、内容はほぼ男同士の同性愛の話で両性具有どこいっちゃったの(苦笑)(と、作者自身も終盤で書かれてましたが)厳密には両性具有的であることと同性愛は別物だと思う。

    両性具有の話は最初のオルランド(映画のほう)とセラフィタの話くらいで、しかも映画オルランドの主演女優に色気がないとディスられてました(笑)えー私はティルダ・スウィントンのあの硬質で無性的な感じが好きなんだけどなー(たまたま最近読んだ記事で「ハリウッドで最もセクシーではない女優ランキングの常連」と書かれててウケました)

    とはいえ白洲正子の視点は面白い。基本的には古典文学、芸能、歴史など、どこにでもBL臭をかぎつけるあたりは昨今の腐女子と変わらない気がするけど(ごめんなさい)、やはり博学だし、年齢的に同時代の方のエピソードなんかも説得力がある。さらに年代のせいか、とても上品なのにたまに直裁で「たまたま折口さんはホモだったために直接行動に~」などとあっけらかんと書かれているのには笑ってしまった(※折口信夫が弟子を襲った件)

    ジュネの小説にコクトーの描いた挿絵を見て西欧のホモは日本と違う!と驚かれているのなどは微笑ましかったです。男色が美少年愛でる系、女性的・中性的=両性具有的であることが美しいとされた伝統は確かに日本って独特な気がするけれどしかし日本でもガチの人はマッチョ系が好きでしょう(笑)

    世阿弥や能の話はちょっと専門知識がないと難しかったけど、「源氏物語」に腐女子フィルターかけて読んじゃうくだりとか、ご自身の先祖が薩摩出身なので幕末オタク的にあちらの話も面白かったし、稚児うんぬんの話だと大抵の本に出てくる(足穂や熊楠)醍醐寺の絵巻のこととか(地元なので)いろいろと興味深かったです。

  • 「オルランドー」、「菊花の契り」、「賤のおだまき」、「新羅花郎」、「稚児之草子」、「稚児のものがたり」、「天狗と稚児」 、「龍女成仏」など男色についてのエッセイ

  • 文章の間からはんなり漂う上品さ。
    それから「安珍清姫」の「清姫」が、娘ではなくて、中年の婦人ではないかという説には膝を打った。
    確かに。竜に変化するほどの執着心には、年季が入った粘着質的なものを感じるというか……。

  • 作者の本を続けて読みすぎて、話も一部分がダブっていたりした気がする。お能の話は難しかった。

  • (「BOOK」データベースより)amazon
    光源氏、西行、世阿弥、南方熊楠。歴史に名を残す天性の芸術家たちが結んだ「男女や主従を超えたところにある美しい愛のかたち」とは―。薩摩隼人の血を享け、女性でありながら男性性を併せ持ち、小林秀雄、青山二郎ら当代一流の男たちとの交流に生きた白洲正子。その性差を超越したまなざしが、日本文化を遡り、愛と芸術に身を捧げた「魂の先達」と交歓する、白洲エッセイの白眉。

  • 筆者の白洲信子は、蛮勇演説で有名な樺山資紀の孫だった。樺山資紀は西郷隆盛と同郷の薩摩出身であるが、薩摩にはもともと男色文化が群をぬいているという。
    とりわけこの本の中でも印象に残ったのは、師匠と弟子、あるいは兄貴分と弟分の中で成立しえた「菊花の契り」に関する説明である。そこには単に妖艶な関係があったわけではなく、師匠から弟子への「契り」によって介された伝承があったこと、また兄貴分と弟分の切り離せない関係があり肉体的にも精神的にも不安定だった少年の成長を支えあう関係があったことを示唆する。
    また日本文化には本来「あいまいさ」があることをよしとしている点を指摘し、人間とそうでないものの関係(神や天狗)の曖昧さ、「現世」と「うつつ」の境界のあいまいさについても南方熊楠、「能」舞台や世阿弥の作品を通して論じる。

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