男と点と線 (新潮文庫 や 69-1)

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  • Amazon.co.jp ・本 (237ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101383712

作品紹介・あらすじ

妻の離婚資金でクアラルンプールに暮す老夫婦、男友達と卒業旅行でパリへ行く女子大生、上海出張に戸惑う32歳の会社員、東京で水族館デートをする高校生カップル、幼馴染にNYに誘われた42歳の独身男、彼氏にドタキャンされた友人と世界最南端の町へ行く28歳の小説家-この瞬間にも男と女は出会い繋がっていく。ささやかな日常の中で、愛と友情を再発見する6つの軽やかな物語。

感想・レビュー・書評

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  • 違う国で起きた6つの物語集。
    なんだけど、国が違うことはあとがきを読んでから気付いた。笑

    外国を舞台にした話って妙に気取っていたり、優雅で羨ましいと思う反面、心がささくれだっている時は鼻で笑いたくなるような、若干の片腹痛さがあることが多い。
    けれども、ゆるやかに飾らない言葉で綴られたナオコーラさんの小説は、あまりにも身近だ。だからこそ、外国が遠い世界のお話ではないような錯覚に陥る。

    外国外国と言ってしまったが、6作品のうちのひとつ「膨張する話」は、唯一日本を舞台にした話で、そして私のいちばんのお気に入りだったりする。

    高校3年生。2年付き合っている恋人とは一度キスをしたことがあるだけという、可愛いふたりなのだが、性に対する男子の興味と、照れからぶっきらぼうになる女子が、また違った意味で可愛い。

    「なんか、顔が、…変だよ」(略)
    「ごめん。お腹が痛くなってきたんだよね」(略)
    「今日さ、久しぶりに海藤さんに会ったからさ、ずっと勃起してたんだよ」
    「は?」
    オレは面白いと思って言ったのに、海藤さんは真面目な顔をして聞いている。
    「でも我慢しなきゃ、と思っていたらさ、今、お腹が痛くなってきた」
    「そういうものなの?」
    (略)
    「もしセックスしたら、二人でもっと、いろんなことを話せるようになるよね」
    と、オレは、木を見上げたまま、眉間にシワを寄せて、しんみり言った。
    「いろんなこと?」
    と海藤さんは聞く。
    「ちんこの話とか」
    「そんな話、したくない」

    馬鹿げている。馬鹿馬鹿しくて素晴らしい。ああいいな。こういう会話、してるんだろうな、と思うと可愛い、高校生。


    表題作の「男と点と線」もすごく良かった。
    みんなが良いと思う相手を良いと思ってしまう自分がイヤで、斜に構えてムシしたりしていた男が、中年になり、ようやく純粋に相手を好きでいようと決意する話。

    相手を好きだと思うことは、自分を低くすることなのだ。相手に優しくする権利が自分にあるというだけで、嬉しいことなのだ。

    好きでいさせてくれるだけで、ありがたい。

    さおりには何も求めない。さおりの周りにいる人間を、全員尊重する。そして、こそっと好きでいるのだ。さおりが喜ぶようなことを、少しでもできるようにする。対等でなくていい。大事にされなくていい。カップルになれなくていい。愛したい。見上げたい。惚れ込みたい。応援したい。

    俺はこれからも、さおりと会う時はずっと、「あなたが大好きだ」という顔をして、一秒、一秒、見つめようと思っている。


    純粋に誰かを好きでいることは、素敵だなあ。相手にわかる方法で、好きな気持ちを伝えられたら、と思ったし、伝えてほしいと思った。

  • 繋がりそうで繋がらないもどかしさ。
    単純に恋愛として繋がりたいわけではないから、
    人と繋がることはむずかしい。

  • 「慧眼」の冒頭を読んだ時点で脱帽してしまった。
    山崎ナオコーラ、あなたはすごい人だ。
    目覚めた瞬間の、自分であって自分でない感覚。
    朝の気だるい空気と、次第に覚醒していく身体。
    寝起きの一幕をあんなに美しく表現している文章はないと思う。
    すばらしい、と同時に悔しい。
    あんな文章を書けるなんてずるい。
    もっともっと、読ませてほしい。

  • どんなときも、こんな風に待つだけで人生を過ごしてきたような気がする。曖昧で、かっこ悪く、子供の頃からずっと、自分のことを好きになれなかった。
    でもこれが私のやり方だ。待っているとき、私は辛くない。


    これが甘い。この国は恋の生まれ易い土壌。言葉が親密なのだ。


    相手を好きだと思うことは、自分を低くすることなのだ。相手に優しくする権利が自分にあるというだけで、嬉しいことなのだ。

    あちらこちらでレディーファーストが起きている。
    すべての男が、すべての女に優しい。

    すべての男が、すべての女を、自分の恋人のように扱っている。(もしも、この女が自分の恋人だったら...)そういう想像力が、空間に満ちている。

  • パリの女の子。理由は違うけど私も男の人の方が付き合いやすくて、周りに多い。
    最後の4行が秀逸。
    「いつか男の人と大親友になれる、と私は信じていた。それが夢だった。みんなが仕事をして、男の子たちは結婚をしていって、それぞれに生活をしていき、年をとるごとに大親友になれる可能性がどんどん薄くなっていくなんてことは、想像だにしなかった。」

  • 短編集。気に入ったものは“スカートのすそを踏んで歩く女”と“膨張する話”。女はいくらあがいたって男と大親友にはなれやしない、仲良くなるには恋人になるしかないのだ。

  • ずっと気になっていた山崎ナオコーラの作品を初めてちゃんと読んだ。

    感性の人、という印象だったけれど読んでみてさらに一層強く思う。
    なんでこんな風に思い描けるんだろう。
    なんだか小説のようでいて小説でないような、絵画を見ているような、詩を詠んでいるような、不思議な感覚に陥る作品。

    きっとこの人はみんなと同じものを見ても同じようには感じないだろうな。


    愛と友情の6編。
    正直、特に面白い!と思ったわけではないのに、さらりと読めて、もう一度、二度、と読み返したくなる。
    なんだかよく分からない。だから今は★3。また読んでみる。

  • やっぱりこの人の書く小説が好きだ。
    どうやったらこういう感性で文章を生み出せるのか。

    よくわからないことも
    意味深なことも
    空気だけで伝わる気がする。


    『慧眼』より
    私たちは、いつか子どもができたら、と考えながら過ごしてきた。
    けれど、恵まれないまま、二人の生活が続いている。
    それでも、未来の子供たちとの日々よりも、今の妻との暮らしの方が、
    いつだって今の自分にとっては大事だ、そう考えて暮らしてきた。


    『スカートのすそをふんで歩く女』より(わたしはこの作品が一番好き)
    いつか男の人と大親友になれる、と私は信じていた。
    それが夢だった。
    みんなが仕事をして、男の子たちは結婚をしていって、
    それぞれに生活をしていき、
    年をとるごとに大親友になれる可能性がどんどん薄くなっていくなんてことは、
    想像だにしなかった。


    『膨張する話』
    オレたちは。一体いつまで仲が良いのだろう。
    大人になっても、ずっと仲が良い、なんていうことは、ありえないよ、たぶん。

    また暗闇の生活が始まる。
    ガケップチを手探りで進むんだ。
    年が若いと、死にそうになる。


    『男と線と点』
    相手を好きだと思うことは、自分を低くすることなのだ。
    相手に優しくする権利が自分にあるというだけで、嬉しいことなのだ。

    さおりのことを一所懸命考え抜いたせいで、
    俺には精神的な愛とは何かが、わかりかけている。
    一生、そっと好きでいるという選択肢があることを、
    俺はつかみとったのだ。
    早々と結婚した人には決して知ることのできない、この、
    苦くて高潔な愛を俺は知ることができた。
    新しい知識を手に入れたのだ。
    俺はこれからも、さおりと会うときはずっと、
    「あなたが大好きだ」という顔をして、
    一秒、一秒、見つめようと思っている。

  • あとがきにも書いてあった通り、この作家の書く物語、言葉選びのセンスはすごい。東京の話とか、名文製造機か?と思った。 フランス映画みたあとみたいな感じの読後感。あとを引く物語が多いなーと思う。
    この本じゃないけど、人のセックスを笑うなと一緒になってた虫歯の話とかも、折に触れて思い出すし。
    今回の短編も、とくに邂逅と、膨張の話はきっと今後も私の中に残り続けていく予感がしている。パリの話も良かった!

  • 久しぶりに読んだけど面白い小説。一つ一つ噛みしめるように読む。
    男と点と線、初めて読んだとき祝福を感じたが、今読んでも私はここに居ていいと思わせてくれるような文章だった。

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著者プロフィール

1978年生まれ。「人のセックスを笑うな」で2004年にデビュー。著書に『カツラ美容室別室』(河出書房新社)、『論理と感性は相反しない』(講談社)、『長い終わりが始まる』(講談社)、『この世は二人組ではできあがらない』(新潮社)、『昼田とハッコウ』(講談社)などがある。

「2019年 『ベランダ園芸で考えたこと』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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