大本襲撃―出口すみとその時代 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (465ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101390062

作品紹介・あらすじ

「大本を地上から抹殺する」。昭和十年、特高は宗教団体・大本の教祖、出口王仁三郎とその妻で二代教主すみを不敬罪、治安維持法違反で逮捕。信者らを大量に検挙し、苛烈な拷問を加えた(第二次大本事件)。なぜ彼らは国家に狙われ、弾圧されなければならなかったのか。教団を支えたすみと王仁三郎夫婦の人物に迫りながら、知られざる昭和史の闇を抉り出す異色のノンフィクション。

感想・レビュー・書評

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  • 戦前の特高の苛烈な取り調べで、小林多喜二のように死ぬまではいかなかったが、幹部が廃人同然となる様子が描かれる。亀岡や綾部にあった教団施設も破壊することを強引に同意させられる。第2次弾圧は、毎日新聞が警察電話の混線?から察知し、スクープしていたことも紹介される。
    出口すみが主人公の本書であるが、出口王仁三郎が事件終了後に語った言葉が印象深い。「今度の大本事件は、今度の戦争には全然関係がなかったという証拠を神様がお残しになったことだ。戦争の時には戦争に協力し、平和の時には平和を説くというような矛盾した宗教団体では、世界平和の礎にならん」

  •  自宅の本棚を整理していたら、高橋和巳の『邪宗門』が出てきた。学生の頃、古本屋で見つけて買っておいたものだ。今じゃ古本価格もずいぶん高騰しているみたいだ。まあ、それはどうでもいい話だけれど、『邪宗門』は戦前の大本教弾圧をもとにした小説だ。

     この『大本襲撃』は昭和十年に発生した第二次大本事件を毎日新聞の元記者が取材した本だ。


     不敬罪、治安維持法違反容疑で教祖・出口王仁三郎とその妻すみ(二代教主)を逮捕され、側近や信徒も大量に検挙された。特高警察による苛烈な拷問により、信徒の多くは虚偽の自白を強要され、三代目教主の夫・日出麿は若かったため苛烈な拷問が集中し、発狂してしまう。
     大本の教団施設は悉く破壊され、教祖教主が獄中に繋がれたままという状況下で、教団は壊滅的な打撃を受ける。
     特高警察の目的は大本を懲らしめるといった程度のものではなく、抹殺だった。
     
     特高はなぜ、それほどまでに大本教を弾圧したのか、またこれほどの弾圧を受けながら、なぜ大本教は存続できたのか、読み進めるうちに次第に明らかになる。


     
     詳細は本を読んでいただければと思うので、以下は自分の感想。


     国家神道に非協力的な宗教団体は、戦前であれば全て弾圧の対象となったわけで、大本だけが弾圧されたわけではない。しかし、狙い撃ちされたのは確かだろう。その当時で公称百万人の信者がおり、目立つ存在だった。だから見せしめの意図もあったと思う。
     
     信教の自由は認められなければならない。特定の思想信念を持った者が、それを理由に国家権力から弾圧を受けることがあってはならない。国家権力による宗教弾圧の例として、大本弾圧の歴史は忘れてはいけないものだと思う。その経緯、構造を知る上では本書はためになると思う。
     しかし大本教って何?という疑問にはあまり答えてはくれていない。 
     
     大本の教えは教祖、教祖の発言や書から神の意を汲みとる「お告げ」がもとになっているようだ。部外者が読んでも、まるっきりわからない。教祖も教主も獄中生活でも明るさを失わず、ユーモアのセンスも抜群で、好々爺(婆)だと思うが、言ってみればそれだけだ。宗教はそもそも演繹的な方法をとるものだから、それをとやかく言っても仕方がないが、教祖の発言はオウム事件で話題になった言葉「ああ言えば上祐」的な場当たりの発言にしか聞こえない。(逆に言うと当意即妙と言えなくもなく、そこにユーモアが感じられる)


     この曖昧模糊とした思想が、特高にとってはいかようにも解釈できて、危険団体と睨まれた遠因になっていると思う。


     あと残念なのは、この著者は大本教から借りた資料をもとに書いているようなので、大本に都合の悪いことは基本的に書いていない。信憑性に欠ける。教団の史料だから教祖の悪口が書いてあるわけがない。とくに足りないと思われるのは、信徒がこのとき、どのように動揺したのか、または結束したのかがわからない。教団のてっぺんにいる人たちの証言は載っているが、教団の99%以上を占める信徒の証言がほとんどない。
     これではこの教団がどのようなものだったのか理解できようもない。
     
     著者は「結果的にだが、戦争に協力しなかった宗教団体は大本教だけ」と半ば賞讃している。しかし大本が戦争反対とか天皇制反対とか、国策に異を唱えていたような節はない。つまり戦争に反対して戦争に協力しなかったということではない。だから別にこれは賞讃には値しない。たまたまだ。
     
     特高の側に深謀遠慮が働いということでも、大本の思想が際立って危険だったということではなく、単純ともいえる要素で、この弾圧は起きている。
     
     人間には常に暴走の危険がつきまとう。 

  • 内容紹介
    昭和10年12月8日、国の威信をかけ、特高警察は遂に大本に踏み込んだ。第二次大本事件のはじまりである。
    二代教主すみはこの後、6年を超す獄中生活を余儀なくされる。
    夫で教祖の出口仁三郎にくらべ、一般に知られることの少なかったすみの生涯を追いながら、事件の核心に迫る大宅賞作家渾身の一作

  • 大正、昭和と2度の強制捜査を経験した宗教団体大本。
    その事実を双方からの情報を元に解き明かす。
    第二次大本事件の警察側の主人公である杭迫氏を主人公とした
    物語のような書き出しだったが、その実はその後は大本側からの視点が多く、
    どちらかというと、時代背景とも絡めて、宗教団体大本と、国家権力の暴走とを
    描いたノンフィクションだった。
    宗教というものは、現代の日本ではなかなか難しい扱いなのだが、この大本の成り立ちを読んでいると、きっと大部分の宗教はその教祖個人の魅力で成立し、その死後に解釈による混乱、権力闘争があって本来の意味を失っていくのだろうと感じた。
    オウム事件の時に、この大本事件が思い出されて発言を控えていた人も多かったのではないだろうか。

  • 単行本で既読。

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