終の住処 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
2.59
  • (6)
  • (28)
  • (62)
  • (60)
  • (28)
本棚登録 : 591
感想 : 78
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (128ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101390314

作品紹介・あらすじ

結婚すれば世の中のすべてが違って見えるかといえば、やはりそんなことはなかったのだ-。互いに二十代の長く続いた恋愛に敗れたあとで付き合いはじめ、三十を過ぎて結婚した男女。不安定で茫漠とした新婚生活を経て、あるときを境に十一年、妻は口を利かないままになる。遠く隔たったままの二人に歳月は容赦なく押し寄せた…。ベストセラーとなった芥川賞受賞作。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 文学とは何か、芥川賞の傾向は。

    これをよく研究し、敢えて改行を用いず、読解の難易度を修辞的、技巧的に付与したもので、小説世界とは別の「読み難さ」により、読書における肉体的疲労感を意図的に演出している打算が、合わない。深く沈みたい時には良いのだろうか。

    人生のイベントを自己目的化し、それを遂げる事を通過儀礼のように捉える。結婚をしても、家を建てても本質は変わらぬようだが、実際には、徐々に自分自身の感受性は変容し、いつからか別の人間になっている。やがて老い、後天的に獲得した形質や変化の方が肉体の中で市民権を得て、それに従うのが当然のような生活になる。自分にとっての「終の住処」とは、その纏わりつく肉体や精神の変遷の歴史である。

    素直に本作が読めない自分と対比し、タイトルを見て、そうぼんやりと考えた。

  • ⚫︎受け取ったメッセージ
    人生に起こる様々な出来事は
    時間と距離を持って俯瞰すると
    まとまった一つの風景として見える

    そしてその風景が
    近景しか見えないか、遠景しか見えないか、
    両方とも見えるのかは
    人それぞれ。


    ⚫︎あらすじ(本概要より転載)
    結婚すれば世の中のすべてが違って見えるかといえば、やはりそんなことはなかったのだ―。互いに二十代の長く続いた恋愛に敗れたあとで付き合いはじめ、三十を過ぎて結婚した男女。不安定で茫漠とした新婚生活を経て、あるときを境に十一年、妻は口を利かないままになる。遠く隔たったままの二人に歳月は容赦なく押し寄せた…。ベストセラーとなった芥川賞受賞作。

    ⚫︎あらすじ(ネタバレ)
    二人が結婚したことは二人のタイミングが合った偶然の上で成り立っており、「彼」の実力よりも、結婚したことが出世に結びつく。彼が浮気をし、離婚話を切り出そうとしたら、赤ん坊を授かっており、離婚回避。
    妻が何を考えているのかわからない。面と向かって問いただすこともしない。赤ん坊の娘も掴みどころがない。
    遊園地から帰ってきてから、11年間、妻は彼と口を聞かない。その間、彼は8人と浮気する。
    突然家を買うという宣言に、妻はそうね、そういう時期ねという。
    建築士に信服し、家のことを結果丸投げし、完成。
    彼はアメリカ滞在中仕事で成果をあげ、戻ってきたら、娘がアメリカへ行っていると初めて知る。
    最後は妻と向かい合い、目を見て、ここが終の住処であり、残り長くない人生を妻と過ごすのだ、と思う。

    ⚫︎感想
    なんといっても観覧車のところが名場面だと思う。
    観覧車の場面で、妻は県境の方までずっと続く遠くの方を見ている。彼はあれこれと不倫相手や自分の家が点で存在するのだということに気づく。そしてバラバラに見えていた遊具が、実は扇状に整然と配置されていたのだと気づく。
    このことからわかるのは、彼にとって、なぜ妻が何を考えているかわからないのか?ということだ。それは妻が人生を彼よりも俯瞰して見ているからだ。だから、妻は不倫のこともお見通しであり、諦観しているということを表しているのではないか。また、彼の方は、俯瞰して見ることができないので、妻のことはがんばっても理解できない。
    観覧車について、浮気相手に聞いたら、浮気相手はお金をもらっても絶対に乗りたくないという。これは彼女もまた、彼と同様、人生を俯瞰して見たくはないという隠喩だと思う。
    ただ、彼がたくさんの女と関係し、それを断ち切り、また仕事の上で成功してきたことは間違いない。妻はあたかもそれをはじめから知っていたように、読めた。それらをひっくるめて受け取る妻は、「いつでも別れようと思ったら、別れられるのよ」と言いながらも、別れなかったし、浮気にも気づいていただろうが、そのことを問いただすこともしなかった。

    妻は全てを諦観しているように見え、現在に不満を抱いてはいるものの、彼と向き合って、自分の思っていることを話そうとはしない。

    11年間におよぶ会話のない生活は、彼の「家を建てるぞ!」という一言で打開する。しかもそれは妻のことを慮ってのことではなく、「恋愛に取り憑かれた、延々と続く暗く長い螺旋階段を登り続けた彼の人生のひとつの時代が、この日ようやく終わった」という、彼の中で起こった変化であり、区切りであった。

    「終の住処」で、やっと真正面から向き合う彼と妻は
    諦観したような疲れたような、良く似た顔で、やっとお互いに向き合う。

    「妻」は「彼」よりも精神的に大人であるためか、人生の遠景を見ている。50になった「彼」に見られても目を逸らさず見返すところから、これから二人はやっと対等に、逃げずに向き合えるのではないかな、と思った。

  • 表題作『終の住処』に加え、『ペナント』の2編が収録。
    ともに、どこにでもありそうな風景から微妙に不気味さ、さみしさが滲みだしてきてその切ない世界に取り込まれてしまうような作品。
    段落や改行などの区切りが少なく、会話さえ地の文の中に埋め込まれている。
    そこから生まれるグルーブがクセになる。
    一気に読んだ。

  • 第141回芥川賞作品。
    漂うのは虚しい孤独感だが物語自体は主人公の一人称であり、彼の完全なる主観で語られているため歪みを感じる。
    現実は夫として父としての責務から逃げ続け、幾人もの女性と関係を持っているのに、それでも自己の正当性を失わない語りが気持ち悪い。

  • かなり好きだった。「次に妻が彼と話したのは、それから十一年後だった」がカッコよすぎる、それまでの澱みからこの跳躍。観覧車のゴンドラに最後もなにもない、どれもが最初であり最後でもありそしてやはりそのいずれでもない、そういう時系列のない壮大な循環のなかで一つ一つの出来事、そして人間が偶発的な成り立ちをしている。だから複数いた女は結局ひとつの人格でしかないともいえ、彼の発案した商品だって無数の可能性のなかでたまたま彼がその役を引き受けたに過ぎないし、妻の「いまに限って怒っているわけじゃない」という言葉もそこに収斂される。そしてそういったことを受け容れたときにようやく、家を建てる=場を固定するという決意に至る。それはある種の諦念にも近い。無限の拡がりのなかに固定させた直線的な時間の流れはあまりにも短く、だから死を思うしかないのだ。「ペナント」も概ね同じように読んだ。

  • 二十代の長く続いた恋愛の終わりを迎えた者同士が夫婦となり、不安定な関係のままある出来事を境に夫が妻に
    11年間口を聞かれなくなるというストーリー。
    あらすじからして感じが悪くかなり人を選びそうな題材ですが、如何様にもドロドロした愛憎乱れる悲喜劇のようなテイストに
    できそうなものを徹底して冷え冷えとしてかつ、引いた視点で物語が淡々と進んでいくのが余計居心地が悪いと感じます。
    登場人物の名前は一切出てこず、主人公の男視点で進むにも関わらず、3 人称の彼というフレーズが使われるくらい冷え切った文体です。
    不気味な読後感と抗いようもない時間の無常さにぐったりときました。
    好み別れる作風だと思いますが、個人的にはかなりハマった1冊です。
    蓮實重彦さんの解説も素晴らしかった。

  • カフカを思わせる様な本。虚しい孤独感、ニヒルでまるで充実した達成感なんぞまるでなし、腹が立って来る。まず三人称で書いて欲しくなかったな。妻、彼女達の心理描写が全くない。作者はそれが狙いなんだろうが、悪いけどつまらなかった。

  • 改行ならぬ非改行と句読点の使いかたが文芸ふうだが
    お話の素材が絵本とかにあるような寓話の
    現代家庭持つ夫版であるところの文芸てきなるところの分には負ける
    ヒロカネ先生というよりその奥様の作風に題材は近いと思うが
    文芸としての仕立て上げに隙がないのだから良い出来なのだろう



  • 二十代の恋愛に敗れ、互いに三十を過ぎて結婚した男女。
    疲れたような不安定な新婚生活を経て、ある時から十一年間、妻は口を利かなくなる...

    百ページに二編の薄い短編集であるが、非常に難解。いや、読みづらい。自分の読解力が乏しい為なのか、場面が唐突に変わりすぎるし、ダラダラ、フラフラ、もやもや。

    人生の虚無感を表現したのか、男という存在の浅ましさ、結婚の理想と現実を表現したかったのか。

    二編目の『ペナント』に関しては、もはや全く理解できない。なんだったんだ、あれ。

  • 未だに現役サラリーマンの芥川賞作家の芥川賞受賞作。
    我慢して我慢して、彼自身の言葉で、一つずつ繋いで文章にしていく。人間も彼の目線もしっかりと地に足がついている。面白い、サラリーマンとかその辺を書こうとすると愚痴っぽくて詰まらないけど、この人は人間見れてる。綿菓子の描写がいい。小説ってこういうもんだよなぁと思うと同時にそういうもんとしかか見れない、もっと違うものとして、再確認以上のものをこの作品から引き出せなかった、自分の力不足。おれはこの話もこの作者も嫌いじゃない。

全78件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

1965年生まれ。商社勤務の傍ら40歳を前に小説を書き始め、2007年に「肝心の子供」で第44回文藝賞受賞。2008年の「眼と太陽」(第139回芥川賞候補)、「世紀の発見」などを経て、2009年、「終の住処」で第141回芥川賞受賞。その他の著書に『赤の他人の瓜二つ』(講談社)がある。

「2011年 『小説家の饒舌 12のトーク・セッション』 で使われていた紹介文から引用しています。」

磯﨑憲一郎の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
フランツ・カフカ
宮部みゆき
村上 春樹
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×