中国という大難 (新潮文庫 と 26-1)

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (443ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101391212

作品紹介・あらすじ

「世界の工場」として、アメリカに次ぐ経済大国の地位に登りつめながら、凄まじい貧富の差や大気汚染、水不足など容易に解決できない難題を抱える現代中国。加えて、軍事費を増大させ、外洋進出まで図る人民解放軍を党中央がコントロールできているのかどうかも定かでない。無関心ではいられない「やっかいな隣人」のありのままの姿を、綿密な現地取材で明らかにした必読ルポ。

感想・レビュー・書評

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  • この本を読めば読むほど、中国との付き合い方の難しさ、そして空しさを感じる。

    環境汚染、汚職、そして格差。13億人中9億人もの貧困層という過剰な人口の過剰な欲望。それをもはや抑えきれない共産党政府。
    それらを共産党政府が放置している最も重要なポイントは、今経済発展のチャンスを逃せば、それこそ中国全体の死活問題となるからにほかならない。
    「ルールを守ることの出来る社会は、ルールを守っていれば最低限のものが手に入れられるという裏付けがなくては成立しない。中国にはこの範囲を超えた競争が存在する」
    そして中国共産党はソ連崩壊を反面教師として、未だに報道の自由を認めない。
    そこへ反日という火種を投げ込むと、貧困層の不満は一気に爆発するのも当然。
    もはや中国における大難は日本にとっても、かなりのレベルの災難となっている。

    また米国の東アジアへの驚くほどの無関心さと、中国の増々強力になる米国でのロビー活動。そして日本にとって最悪は親中国の米国民主党左派が政権を取った時・・・この本の初稿は民主党左派のオバマ誕生の前ですが・・・今は日本の取って最悪の時期か。

    日本でもっとも信頼できる中国ウオッチャーに、これだけ悪しき隣人の事を伝えられると、この先が思いやられ気が滅入るばかりです。

  • 本書は某ノンフィクション専門書評サイトで紹介された途端にAmazonで在庫切れになった話題の書籍です。

     文面は平易で判り易く、この手の書籍にありがちな難解な言葉使いや数字やグラフ等が沢山参照されている様な事は無く中国通のジャーナリストである著者が中国関係者とのインタビューを通じて知り得た情報を基に纏めた2007年当時の中国の大きな問題点について書かれた文庫版ですが今でも、でも恐らく同じ問題が横たわっているのだろうと想像出来ます。

     上海や北京・香港等は馴染みのある都市でメディアにも頻繁に登場し料理や観光・買い物等で身近な場所ではありますが、一方でそれだけ近隣である事は本書で綴られている水資源や水質汚染・空気汚染等の問題は西から東に風も海流も流れている環境で中国より東の国、日本ではもはや他人事ではなく深刻な国内問題となるのではないかと本当に無関心では居られない程に興味深く読まされた本でした。

  • 地下経済に続き、同著者の本を読破。
    やはり変化の早い中国においてはやや賞味期限が切れ気味かもしれないが、おそらく根っこに流れる部分は今でも変わらずにいるだろう。ウェブ上のコラム等で同著者の文章は読ませてもらっているが、非常に示唆に富み、フェアでバランスの取れた中国観察が為されれているように思える。

    P.17
    一般に香港の中国変換は九七年の七月とされているが、その実、経済を中心とした日常の”返還”は九〇年代半ばにはもうすっかり完了していた。香港の風景は何も変わっていなかったが、その街を流れているマネーという血液は、静かに中国の赤い資本に支配され、毛細血管の先までも真っ赤に染められていたのだった。

    P.26
    中国の権力者にとっても、人々をいかに満足させるかという問題はもうずいぶん前からかなり大きなウェイトを占めている。中国はすでに上が大号令をかけて社会を変革するという時代から、下からの声に為政者が応える時代となっている。

    P.49
    二〇〇三年夏、大阪で取材した廃家電を買い付けに来ていた中国人は、「普通に材料を買っていたのでは商売にならない。くず鉄や廃プラスチックを買い付けて材料費を浮かせないとコストが嵩む。ライバル企業との競争に勝てない」のだと語っていた。その口調から想像を絶する熾烈なサバイバルをしていることが感じられたが、そのうまでして戦っている者たちが、水のために儲けを圧縮するような行動を取るだろうか。悪気はなくても「豊になってから考える」という順番になるはずだ。そして水の汚染は止まらない。

    P.90(三峡ダムに関するメディア)
    通常、国運を掛けた大プロジェクトを批判する場合、中国ではメディアがよほどの決心をするか、または問題があまりに明らかで深刻であるかのどちらかのケースがほとんどである。日本とは違い党や政府の機関紙という事情に加え宣伝部という”基準”が存在するからである。

    P.120
    中国の政治家にとって行動の規範となりうるものは「保身」と「野心」である。順当にいくなら、慎重に「保身」をはかりながら「野心」を達成することとなるが、中央まで上りつめてきた実力者たちは、当然のことながら皆強い個性の持ち主でもある。

    P.135(国家の研究機関に属する研究員の言葉)
    いまの中国共産党の上層部には、腐敗の蔓延に対する強い警戒心があります。旧ソ連が崩壊に追い込まれた本当の理由が、この完了や政治家たちの腐敗にあったことを知っているからです。

    P.150
    とくに都市部の中間層以上の中国人の間には、腐敗を憎み撲滅しようという発送よりも、むしろ腐敗とうまく付き合ってゆこうとする気持ちが目立ってきていると感じられることだ。

    P.157
    中国においては官僚腐敗や汚職を摘発、抑止するための”武器”は、極めて心許ないのが現状だ。端的に言えば、厳罰と監察・警察力を振りかざして、場当たり的な対処ができるだけなのだ。
    中国が、ソ連の崩壊を反面教師として学び、社会主義一党独裁体制を延命させたことはすでに述べた。彼らは、そこから官僚腐敗がもたらす結果の深刻さを学習したが、同時にソ連末期におけるグラスノスチ、すなわち「情報公開」の失敗も学びとったのである。だからこそ、中国は、二十一世紀に入った今日に至っても、依然として、報道や言論の自由を規制し、メディアやインターネットをコントロールし続けているのである。
    このことで、確かに共産党は自らの権威を保ち続けることに成功したのかもしれない。だが、改革・開放によって経済が急発展する局面では、そここあら生み出される様々な弊害を助長させることを抑制できなかった。
    とくに自由な報道活動を許さずメディアの機能を奪ってしまったことで、汚職のような権力の犯罪に対する抑止力を失い、結果的に一部の政府機関による孤軍奮闘を余儀なくされることになった。これはたとえれば、予防という措置を講じないまま、ウィルスの増殖と戦っているような状態である。対症療法だけで腐敗にたちむかうのは、体制の欠陥と言うほかはない。

    P.161(犯罪を分析している国家の研究機関の研究者)
    二〇〇〇年代半ばを迎えて新たに持ち上がってきたのは、堕落著しい中国の腐敗官僚たちがさらにやっかいな勢力と交わり始めたことだ。
    「実は地元の黒社会(マフィア)との結合が顕著になってきているのです。中国では『黒白合流』とか『官匪一家』と呼んでいる現象です。(中略)
    党の幹部と警察のトップ、そして大金を動かす企業家とマフィアが地方で結びついてしまったとしたら、もう一般の人々には告発する場所も手段もありあせん。仮に命がけで告発しても、その後の捜査はほとんど期待できません。運良く起訴まで持ち込めたとしても、裁判で手心を加えられたらあっという間に出所してきます。犯罪者は悠々と戻ってきて、告発者はその社会では暮らしていけないという絶望的な状況に陥る危険性が高いのです。
    そんな現実を目の当たりにすれば、逆に進んで悪のサークルに加わろうとする者も出てくるでしょう。反発して損するより、少しでもおこぼれに与かる方が利口だとの考えに傾いても不思議ではないですから。(中略)」

    P.210
    様々な問題が内在する中国であっても「十人に一人が中流階級になれば日本に匹敵する市場になる」という考え方もある。だが、一億人の駐留が中国に生まれ、安定して存在し続けるためには、そこからドロップアウトした残りの十億人以上の人々が、その格差を”許容する”ことが大前提となる。

    P.220
    ソニーへの怒りをネット上に爆発された人々の書き込みを読んで、気づくことは一つしかない。
    それは彼らの勇ましい怒りの根っこにある被害者意識の存在だ。「中国人を騙す」、「二流品を持ち込む」、そして「(中国人を)尊敬しない」などの表現からもそれがうかがえるのだが、こうした思考を生み出す源泉は、戦後の中国人が持つ外国に対する懐疑とコンプレックスである。
    これについては、「暗黒の近代史における欧米列強や日本から受けた蹂躙の記憶から作り出された精神構造」と説明する中国人もいる。
    いずれにせよ中国人の中には、「外国人は隙あらば俺たちを欺こうとしている」といった強い警戒心を持つ者が少なくないと言う事情が作用しているのではないだろうか。

    P.239
    そもそも、中国の前途に横たわる難問は、見つけたり気付いたりすることが難しいのではない。逆に、誰にでも分かる問題でありながら誰にも解決できない問題がほとんどなのである。

    P.313
    一九六〇年代には、国民の大半が飢えに苦しんでいるのを尻目に原爆の開発に邁進し続け、六四年に核実験を成功に導いた。そして二〇世紀の終わりには、同じく国民の社会保障も未整備であるにもかかわらず宇宙開発に邁進して宇宙空間での軍事技術の高さを世界に向けアピールした。それが中国という国である。
    つまり中国は、どんな時代も先端の軍事技術で先進国と肩を並べることに恐ろしいほど執着してきた国なのだ。

    P.320
    国際社会で起きるさまざまな変化を受け、中国国内が敏感に揺れ動くという作用はもはや避けようのない時代である。ならば、中国地震が発信者となって世界にさまざまな問題が輸出されることも十分に考えられることだ。
    そう考えた時に真っ先に頭に浮かんだのが、国境を超えて広がる環境汚染やエネルギー争奪戦の問題。そして東アジアから東南アジアにおいて中国が軍事的なプレゼンスを増大させているといった問題だ。またその一方では、目に見えにくい問題も存在する。その典型例が、中国とかかわった国内政が、中国とどう向き合うかを巡って紛糾する「対立の輸出」という問題である。
    中国と聞けば即座に「親中」と「反中」に分かれて対立する現象は、かつての日本では永田町からメディアまで顕著に見られた。(中略)東南アジア諸国のように、南シナ海をめぐって中国の膨張を警戒する政治と、ビジネスへの影響を懸念する経済界が真っ二つになる現象はむしろ世界的な広がりを見せ始めているのだ。(中略)
    中国が輸出した対立は、常にそれぞれの国のナショナリズムと結びつき、両国関係の底流に国民感k上が入り込むという現象を作り出す。

    P.369(米経営産業カウンシル、アラン・トネルソン研究員)
    中国の軍拡には誰もが警戒心を持っていますが、多国籍企業は『経済と軍事は切り離すべき』という。そんな主張をもしIBMやボーイングがすれば、我田引水だと誰も耳を貸さない。しかし、CSISやブルックキングスがアカデミックなスタイルで発表すれば、人々は騙されます。シンクタンクに献金し、彼らの考えを研究員に書かせるやり方を私は、マネーロンダリングならぬ『アイディア(制作)ロンダリング』と呼び、警鐘を鳴らしています。

    P.391(鄭氏:仮名、武器商人)
    日本の自衛隊が米軍、台湾と組んで設立した民間会社に中国はいま注目している。社員は一応民間人を装っているが、すべては元軍人だ。目的は米日台の軍事的な連携強化だ。台湾海峡に介入するための拠点だろう。日本が台湾と手を組んでおこのある『明徳項目』には、とにかく中国は敏感なのだ。

  • 本書は、日本にとっての中国の脅威を、水不足・環境破壊、汚職、農村の貧困、人民解放軍の闇、反日、台湾問題から説き起こしている。

    何れも、そのおおもとには「過剰な人口による過剰な競争」が育んだ強かさと、虐げられてきた層の苛立ちがあるとのこと。「ルールを守ることのできる社会は、ルールを守っていれば最低限のモノが手に入れられるという裏つけがなくては成立しない。中国にはこの範囲を超えた競争が存在する。」という言葉が印象的。

    兎に角厄介な国だなぁ。

  • 21世紀は、水資源を取り合う争いが、世界で起こると予測される。特に水量の乏しい中国は、近年の近代化により水資源の枯渇が、大問題になっているらしい、少女たちが朝シャン(自由経済振興地域の女性たち)している場合じゃないほど、緊迫している。

    合わせて、利益優先の工業化により、全国的に環境汚染は、取り返しのつかない状態なのだとか、そして所得格差が広がることで、内陸の農民の暴発はいつ起こるともしれない。他、日本政府の対中国外交が、あまりの体たらくであるなど・・・昨今の中国情勢を詳細に知ることができる。

  • 日本の中国ウォッチャー富坂聰氏の著作。
    厚いベールに包まれた中国という国で、外からは見えずに燻っている火種は何か。
    格差、環境などの中国の国内問題が、日本の国内問題になってしまう時代の到来。まさに大難。
    NHKの歴史番組で、歴史学者の磯田道史氏が、停滞即ち新政府の威信の失墜に繋がるため拙速でも政策を打ち出し続けなければならなかった明治日本を評して、常に回転し続けなければ転がってしまうコマだといったことがあったが、周りを押しのけながら回り続けなければ立っていられず、かといって回転が緩めば周りを巻き込みながら転倒する、この中国こそ、現代ではその例えにふさわしい。

  • 本著者は中国ウォッチャーの中では良質。理由は➀現地でのインタビュー・調査を励行、②党派に拠らない批判(特に、民主党でなく、自民党政権の外交失策への批判が手厳しい。またプラグマティズムの点で十分な説明のない中曽根靖国参拝への批判)、③単純な二項対立で分析しておらず、事実に即して中国の問題点を解読し批判する点、④中国の問題点を安易な日本礼賛に結び付けない叙述態度(中国の問題と日本の美徳とは本来無関係)、⑤中国で苦闘する貧困民衆への暖かな目線など。なるほど記述内容は新奇ではないが、一読に如くはない価値あり。

    2013年(加筆前の底本2007年)刊行。

     なお、中国の問題は日本の国内問題に直結する(特に環境、エネルギー、在日中国人の増大)点は、中国が輸出二位(2012年までは一位)、輸入一位の貿易相手国である点から見ても、なるほどの感。

  • 数字で

  • 急激な経済発展とその代償を抱え、近隣国にも影響を及ぼす。中国ばかりでないが大国だけに厄介だ。内政問題を党がやらないのでなく、仕切れないというのもよくわかった。中国だけでなく、北方領土に対するロシアも同じなのかもしれない。15.8.30

  • 中国ウォッチャー富坂聰氏のによる、水問題、汚職、所得格差、ジャパンバッシング、軍事、外交といった日本にも大きく関係する諸問題の中国レポート。広い国土に多くの人口、急激な経済発展で、矛盾が出るのは当たり前。07年の単行本版から問題の質はあまり変わっておらず。政治の動きなど昨年の文庫化の際に加筆修正されていますが。

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著者プロフィール

1964年愛知県生まれ。北京大学中文系に留学した後、
週刊誌記者などを経てフリージャーナリストに。
94年『「龍の伝人」たち』(小学館)で、21世紀国際ノンフィクション大賞
(現・小学館ノンフィクション大賞)優秀賞を受賞。
新聞・雑誌への執筆、テレビコメンテーターとしても活躍。
2014年より拓殖大学海外事情研究所教授。
『反中亡国論』『中国がいつまでたっても崩壊しない7つの理由』
『「米中対立」のはざまで沈む日本の国難』(以上、ビジネス社)、
『感情的になる前に知らないと恥ずかしい中国・韓国・北朝鮮Q&A』(講談社)、
『トランプVS習近平 そして激変を勝ち抜く日本』『風水師が食い尽くす中国共産党』(以上、KADOKAWA)など著書多数。

「2023年 『それでも習近平政権が崩壊しない4つの理由』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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