ふがいない僕は空を見た (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
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本棚登録 : 5893
レビュー : 711
  • Amazon.co.jp ・本 (318ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101391410

作品紹介・あらすじ

高校一年の斉藤くんは、年上の主婦と週に何度かセックスしている。やがて、彼女への気持ちが性欲だけではなくなってきたことに気づくのだが-。姑に不妊治療をせまられる女性。ぼけた祖母と二人で暮らす高校生。助産院を営みながら、女手一つで息子を育てる母親。それぞれが抱える生きることの痛みと喜びを鮮やかに写し取った連作長編。R‐18文学賞大賞、山本周五郎賞W受賞作。

感想・レビュー・書評

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  • とても感動しました。一気読み。

    導入の「ミクマリ」は、コスプレ主婦と不倫する高校生の過激な描写のエロ小説。割合あっさりと終わり、次の話「世界ヲ覆フ蜘蛛ノ糸」へ。「あれ、もう終わりなの?」と面食らっていると、途中でコスプレの主婦視点の話で、単なる短編集ではなく、繋がっていることに気付く。

    「ミクマリ」だけなら、若者が自由奔放な性生活の中でホンモノの愛を知り、ほんのり傷つきながら成長する話なのだけど、そうは問屋が下さなかった。
    「世界ヲ覆フ蜘蛛ノ糸」以降で、ストーカー、リベンジポルノ、新興宗教、自然災害、鬱、貧困、認知症、強制わいせつ…など重いテーマがてんこ盛りの恐ろしい話になっていく…
    文体が軽妙なのであっさりと読めるけど、なかなか骨太な連作短編集。ラストは晴々しい気分で読み終えられる。

    「ばかな恋愛したことない人なんて、この世にいるんすかね ー」って、みっちゃんの一言は救われるな。

    あと、「本当に伝えたいことはいつだってほんの少しで、しかも、大声でなくても、言葉でなくても伝わるのだ 」という部分、それが真理なのだとすれば、人生捨てたものじゃない。心が楽になる一文。

  • 人は「やっかいなもの」を抱えて生きていくしかないのです。そうか、そうなのか。そう一旦腹を括れば、何処かにホッとする自分がいました。
    解説で重松清さんは書いています。
    なぜって、‹やっかいなもの›のやっかいたる所以は、うまく捨てられないところにこそあるのだから。
    「やっかいなもの」は人各々だろうけど、このお話では、それは性欲であり、性の嗜好であり、生殖器官なんかのようです。他人には話しにくい部分ですよね。
    だけど、今回純粋に性とは生に繋がっているものなんだと思ったんですよね。だから、どきどきするような性の描写があっても辿り着く処には生への光が輝いているようで清々しいし力強いのです。例えその光が今にも消えそうな小さな灯火であったとしても、です。
    でもね、それは決して生きることが素晴らしいとか、この世は綺麗なもので溢れてるとか、そういうことではないのですよ。卓巳くんの周囲でも、彼に対する「やっかいなもの」への攻撃は容赦ないし(何故こんなにも赤の他人のことに一生懸命になる人間が多いのだろう)、複雑な想いに囚われて相手も自分も傷つけることしか出来ない奴もいる。一旦最悪なレッテルを貼られれば外すことは困難だし。結局「やっかいなもの」を抱えて生きていくことは、どう考えても楽しいことばかりではないのです。
    それでも読み終えたとき、ぽっと希望の光が胸に灯っているのです。どうしようもないほど涙が零れて仕方ありませんでした。
    どうぞ生きてください。窪さんの声がひっそりと呟いているようでした。そうすればいつかきっと。いつかきっと……と。

  • 性なんて別に興味ないよーみたいな顔して生きていて、仲良しの女友達とも下ネタなんて話さないし、訊かないし、開けっぴろげにすること自体ないんだけど。お互いに踏み込んではいけない領域と言いますか。たまにうっかり聞かされた他人のヘビーな性事情にうへぇ、となることはありますが、この「ミクマリ」の斉藤くんの初体験ほどじゃないね。

    年上の主婦と彼女の台本通りにアニメキャラのコスプレで…とか、しかもそれが隠し撮りされていて学校中にばら撒かれてしまうなんて。

    「世界ヲ覆フ蜘蛛ノ糸」はその斉藤くんのお相手(仮名:あんず)、「2035年のオーガズム」は斉藤くんの彼女だった松永さん、「セイタカアワダチソウの空」は斉藤くんの友人 福田くん、「花粉・受粉」では助産師をしてる斉藤くんの母へと視点が移ります。

    登場人物は全員どこか欠落したような環境に置かれていて、キワモノっぽい要素も多いんだけど、その分痛々しいほど生を意識させられます。

    子宝祈願や子孫繁栄ってきっと古来から普遍的に願われてきたもので、だから全国にそういうお寺や神社は星の数ほど存在して、男女のシンボルをご神体として掲げるところもあって。(八重垣神社とか)

    花も恥らう乙女としては当然赤面させられる訳ですが、まず健康な男女がその気にならなきゃ、人口なんて減る一方なんだよな…と考えれば、聖女のごとく性に無関心すぎるのも問題なのだよね。

    性と生と感情と。割り切るつもりが割り切れなかったり、大好きなのに欲情しなくなったり、ともあれ皆「やっかいなもの」を抱えて生きているのだろう。

  • 山本周五郎賞&本屋大賞2位の作品ということで読んでみた。
    自分の日常や過去の体験とはかけ離れている登場人物の生き様が重苦しく少し辛かった。
    最終章の最後の数ページでようやく気持ちが和らぎました。
    やっかいなものを一生かかえて生きていかなくてはならないが、ゆっくりとだけれども前向きに進んでいる姿が感じられたので。

  • どんな人でも失敗したり、心に影を抱えている。いい人が悪いこともするし、悪い人でも良い事をすることもある。この本はそんなふつうの人々を描きながら、最後はそれでも人は希望を持って生きていいんだなと思わせてくれる。

  • 「ふがいない僕」達による連作短編。
    この世の中、いかにちょっと冴えない「ふがいない」男女の多いことか。
    それはいじわるな神様の気まぐれないたずらなのかもしれない。

    窪さんは人が抱える寂しさや孤独を描くことが巧い人だとしみじみ思う。
    みんなほの暗く、途方もない「やっかいなもの」を抱えもがき、それでもちょっとずつ前へ進む前向きさも感じられる。
    そんな「ふがいない僕」達のことをやりきれない思いで読み進めながらも、嫌いになれず、むしろ愛おしくさえ思える私もいる。

    窪さんのデビュー作は私の心にいつまでも優しい余韻を残してくれた。
    読み終えた私も空を見上げる。
    僅かばかりの青空も曇り空の隙間から見えるはず…今まさに、そんな気分。

  • こんなにどストレートに人間を弱さを表現して、こんなにどの主人公もどうしようもなく表現されている本はなかった
    ただ脚色せずそのままの人間の弱さ、そこから立ち直る姿を丁寧に描き上げることで、すごく人間味のある作品だと思った

  • 三者三様、ふがいないひとたちが自分の人生を足掻きながら進んでいく連作小説。
    それぞれの主人公目線で綴られているので、各章の文の末尾が「〜した。」「〜た。」などに揃えられていて、独特のテンポがあり読みやすかった。
    期待以上の作品でした。

  • 窪さんの本は二冊目。この本は不思議な読み応えのある本です。
    連作の短編集のような構成で、とある高校生と、その高校生と不倫している女性のお話が前半、二人の話が終わった後は、友人や母親の話になります。
    斎藤くんとあんずの話が強烈だったので、その後のストーリーが展開されるのかと思いましたが、この小説で描こうとしているのは、解決ではなく、自分にとっては手が届からないこと、どうしようもないことに対して人が翻弄される姿です。
    翻弄といっても、登場人物たちは、出来事に対してもがくことはなく、過ぎ去るのを待つばかり。もちろん行動もしますが、問題を解決するための行動とは少し違います。
    時には感情が弾けてしまうこともあるけれど、積極的な行動に移ることはありません。
    どの話も暗さや陰湿さは感じられないけれど、冷静に考えてみるとどの話も大変な環境にいるのがわかります。
    不妊治療だとか、育児放棄だとか。
    それを淡々と描いて、必要以上に同情を誘わない描き方に好感が持てました。
    なんの解決もしていない話ばかりなのに、少し前向きになれました。
    おそらく、受け入れることがポイントなのかなと思います。
    立ち向かうのではなく、抗うことはなく、受け入れたり、過ぎるのを待つ。
    そうしていると、少しだけ展望も見えてくる。
    テーマがあるかはわかりませんが、時に出てくる言葉の中にハッとさせられる言葉もある。
    読む人にとっていろいろな意味を見出せるような、登場人物の多彩な姿も魅力的です。

  • 2011年山本周五郎賞受賞作品。
    性に関する描写にインパクトはあるが、登場人物がそれぞれのふがいなさ、やっかいなものに苛まれながらも生きる意味を教えてくれる。短編のように読める各章。重松清の選評以上はない。

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著者プロフィール

窪美澄(くぼ・みすみ)
1965年東京都稲城市生まれ。カリタス女子高等学校卒業。短大中退後、広告制作会社勤務を経て、出産後フリーランスの編集ライターとして働く。2009年「ミクマリ」で第8回R-18文学賞大賞を受賞し小説家デビュー。2011年、受賞作収録の『ふがいない僕は空を見た』(新潮社)で第24回山本周五郎賞受賞、第8回本屋大賞第2位。同作はタナダユキ監督により映画化され、第37回トロント国際映画祭に出品。2012年、『晴天の迷いクジラ』で第3回山田風太郎賞受賞。2018年『じっと手を見る』で直木賞初のノミネート。2019年『トリニティ』で第161回直木賞、二度目のノミネート。

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