晴天の迷いクジラ (新潮文庫)

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レビュー : 124
  • Amazon.co.jp ・本 (430ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101391427

感想・レビュー・書評

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  • 自ら死のうとしていた性別も年齢もバラバラの男女三人が出逢い、ひょんなことからある島の入り江に迷い込んだクジラを見に向かうという物語。
    三人はそれぞれ、いわゆる“毒親”の元に育ち、その影響もあって間違いを犯したり失敗したりして傷つき、ぼろぼろの状態で死のうとしていた。
    一人ずつのエピソード、そして三人が出逢った最終章。
    絶望から始まった物語に、光は見えるのか。
    それぞれのエピソードの章は胸が痛かったし、解る、と思うところがいくつかあった。
    きっとどんな人が読んでもそう思う瞬間があるのではないかと思う。

    窪さんの小説は、とても温かい。
    駄目でも、いろんなことがうまくいかない人生でも、「それでいいんだよ、あなたは悪くない」と言われてるような気持ちになる。
    そうして自分自身も、大切な人が苦しんでいるときに、理屈じゃなく「ただ生きていて欲しい」と言える強さを持ちたいと願う。

    けっこう何でも読むわりに「好きな作家は?」と訊かれると言葉に窮するかも、と最近なんとなく感じていて、でも今もし同じ質問をされたら窪美澄さんって答えると思う。他の既刊の小説をもっと読みたい。

  • 本って、本当に良いものだなと思った。

    本を読んでいると、この主人公のような体験をしてみたいと思うことがある。

    遊園地や水族館、花火大会、旅行、スカイダイビング・・・。

    本の中の世界に、良い意味で影響されることで、世界が広がってゆく。

    でも、時には、あまり体験したくない出来事が書かれていることもある。

    人は、簡単に壊れてしまう。死んでしまう。
    この本を読んで、改めて教えてもらった。

    大切な人の全てを受け入れて、何かを求めるんじゃなくて、ただ、自分の傍にいてくれる。それだけの事が、とてつもなく幸せなことなんだと。

    悲しい思いをするために生まれてくる人なんて一人もいない。みんな、幸せになって良いんだよと言っているような気がした、心が暖かくなる小説でした。

  • 「ふがいない僕は空を見た」につづき2冊目の窪美澄さん。この本も、どうしようもなく引き込まれて、むさぼるように読んだ。生きることに行きづまってしまった3人。それぞれの辛い事情がこれでもかこれでもかと描かれて、胸が痛くせつなくてたまらない。生きるって、難しい。
    この結末で、よかった。

  • 今年22冊目。「言わなくちゃ。死んでしまったら、何も話せないから。」
    帯に惹かれて読むことにしたのだけど、まさかの一気読みでした。
    誰もが、誰にも言えない絶望を抱えて生きていて、それでも、みんな何もないかのようにしてて。
    ふとしたきっかけでその絶望が溢れ出すのかもしれない。
    絶望の向こうに、光り輝く希望なんか、なかなか見つけられないけど。
    迷って苦しんで、それでも生きなくちゃ、言わなくちゃ、自分の人生を精一杯生きなくちゃ、と思いました。
    重いけど、素敵な小説でした。
    母の愛の在り方にも、いろんなかたちがあるなあ、というのも感想のひとつ。

  • 一気読みに近い。母親って何なんだろうと思った。三人のどの母親にもイライラした。

  • 往来堂書店「D坂文庫 2017夏」からの一冊。

    デザイン会社の激務と失恋が重なってうつになった由人(24)は死を意識し、そのデザイン会社の社長・野乃花(48)は、会社倒産に合わせて自分の命も絶とうと決める。そんな二人と出会った正子(16)は、過干渉の母親からただただ逃げ出したかった。この3人の登場人物に共通するのは絶望だ。
    4章から成るこの小説は、この3人それぞれが絶望に到るまでの経緯に1章ずつを割き、3人が出会ってクジラが迷い込んだ湾で共に過ごした時間を最終章として締めくくられる。もちろん、絶望に至る経緯はそれぞれなのだが、その描写が圧倒的なリアリティーを持って迫ってくるから、感情移入せずにはいられない。最終章の展開にも吸い込まれるが、この絶望への経緯がこの小説の肝だろう。
    人間は弱くて脆い存在なのだということを、胸が痛くなるほど突きつけられる。絶望しない方がおかしい。でも、その一方で、人間はそれに負けない強さも秘めている。そして、その強さがある小さなきっかけで表に顔を出して、生きることに向き合うようになったとき、人間の姿は美しく輝いてみえる。
    そんな詩的な思いを抱かせてくれる極上の小説。

  • すごくするすると文章が身体に入ってくる。
    私はそんなに壮絶な人生を生きてきたわけではない。
    だけど、するする入ってきた文章は、身体のうちから私の心に傷をつける。

    母に愛された記憶のない由人。兄が、妹が母に愛されても、自分はおばあちゃん組なのだと思う。
    おばあちゃんに申し訳ないから言えないけれど、本当は自分だってお母さん組に入りたかった。
    でも、母が由人の方を向くことはない。

    子どものころから絵の才能を褒められて育った野乃花。
    貧しくて生活は苦しくても、身体の弱い母親代わりに家のことをし、バイトをして生活の足しにし、母の看病をする毎日。
    ただ、絵を描いていられるのなら、そんな生活も苦ではなかったのに、たった一度の恋が人生を狂わせる。

    生後半年で病死した姉の代わりに、いい子でいることを強要される正子。
    だって、お母さんに心配をかけるわけにはいかないから。
    だけど、生活の全てを母の監視下に置かれ、母と自分と時々父だけの生活だった正子に、初めての友達ができた。

    普通の家庭で普通に育った私にも、彼らの痛みはひしひしと伝わってくる。
    「うん。わかる。わかる」なんて軽く言うことなど決してできない、必死の彼らのもがきが、喰いしばった歯から漏れる嗚咽が、どうして我がことのように感じられるのだろう。

    特に正子が親の束縛から逃れたくて、逃れられずにいることが不憫で不憫で。
    “自分の気持ちをのみこむたびに、自分がどんどん透けていく。自分が全部透けてしまったそのときには、仏壇の、お姉ちゃんの隣に、自分の写真が飾られるんじゃないかと思うとたまらなく怖かった。”

    大人の正論の前に子どもは無力だ。
    だけど、正論でがんじがらめにされてしまった子どもは、どうやって息をしたらいいのだろう。

    “「なーんも我慢することはなか。正子ちゃんのやりたいことすればよか。正子ちゃんはそんために生まれてきたとよ」”
    たまたま知り合った老婆に丸ごとの自分を受け入れられ、ゆるやかに死んでいた正子の体が少しずつ甦る。

    人は何かきっかけがあったら、簡単に死んでしまうこともある。
    だから死ぬまでは、生きろ。
    生きていける場所を探せ。
    クジラは生きていける場所を見つけることができただろうか。

  •  前半は読んでいて胸が苦しくなった。後半は、読んでいて気が付いたら泣いていた。生きているだけで、ここにいるだけでいいんだと、そう思わせてくれた。

     それぞれ異なった理由で3人の主人公たちが生きることをやめようとしていた。でも、やめることをやめた。

     いわゆる、「生きていればいいことがある」みたいな当たり障りのないものではなく、「ここにいればそれでいい」という最低限のもの。そう言ってくれる人がいるだけで、人は救われるんだなって感じた。

     私にはそういうひとは多分いない。もうやめてもいいのかもしれないけど、この本との出会いが私を止めようとしているのかもしれない…と感じたら、もう少し。と少しだけ思えた。

  • 以前読んだアニバーサリーはそんなに胸に来なかったけれど、この本はページを繰る手を止められない程一気に読んだ。年齢も性別も違うけれど、それぞれに深い絶望を抱いていた3人が死を選ぶ前に湾に迷い込んだクジラを見に行く。その3人のそれぞれの事情もきちんと描かれるのでこの3人が絶望を抱くに至った心境も理解できる。そして迷いクジラの陥っている状況と3人の心情がリンクしクジラが自力で何とか沖へと向かう姿にそれぞれが生きるということを見いだすラストには感動。

  • みんなそれぞれ生きることに必死で、疲れて、なにも希望も見いだせなくて、病んでいる。一人ひとりの違った痛みのさまがすごく魅力的だった。
    野乃花の高校生での妊娠、子供を置いて出ていくまでの壮絶な人生。
    正子の毒母に壊されていく思春期。娘を抑圧し管理する描写がすごくリアルで怖かった。
    最初から最後の一行までとても良い。
    要所要所で登場するフェルトのハートのおもちゃが可愛くて、作品のシンボルのようでとても印象に残りました。

著者プロフィール

窪美澄(くぼ・みすみ)
1965年東京都稲城市生まれ。カリタス女子高等学校卒業。短大中退後、広告制作会社勤務を経て、出産後フリーランスの編集ライターとして働く。2009年「ミクマリ」で第8回R-18文学賞大賞を受賞し小説家デビュー。2011年、受賞作収録の『ふがいない僕は空を見た』(新潮社)で第24回山本周五郎賞受賞、第8回本屋大賞第2位。同作はタナダユキ監督により映画化され、第37回トロント国際映画祭に出品。2012年、『晴天の迷いクジラ』で第3回山田風太郎賞受賞。2018年『じっと手を見る』で直木賞初のノミネート。2019年『トリニティ』で第161回直木賞、二度目のノミネート。

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