よるのふくらみ (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
3.73
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本棚登録 : 1381
レビュー : 150
  • Amazon.co.jp ・本 (294ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101391441

作品紹介・あらすじ

同じ商店街で幼なじみとして育ったみひろと、圭祐、裕太の兄弟。圭祐と同棲しているみひろは、長い間セックスがないことに悩み、そんな自分に嫌悪感を抱いていた。みひろに惹かれている弟の裕太は、二人がうまくいっていないことに感づいていたが――。抑えきれない衝動、忘れられない記憶、断ち切れない恋情。交錯する三人の想いと、熱を孕んだ欲望とが溶け合う、究極の恋愛小説。

感想・レビュー・書評

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  • 2014年の発売当時から何度も買い変え読み直していてもなお、
    飽きることなく物語世界に浸れるから不思議だ。
    僕の場合、好き過ぎるモノについては冷静に見ることができないのか、
    レビューがうまく書けないことが多い。
    多くを語らずとも好きなものは好き。
    音楽も映画も小説も(人もか)
    肌に合うか合わないか。
    理屈ではないのだ。


    圭祐とのセックスレスに悩む保育士のみひろ。
    理想の家族を築く幻想にとらわれ、弱い自分と向き合えない圭祐。
    みひろへの恋ごころをひた隠しにする圭祐の弟の裕太。

    優等生な兄の圭祐、やんちゃな弟の裕太、
    クールで凛としたみひろ。
    商店街で商いをする店主の元に生まれた
    三人の子供たちの恋と青春が
    章ごとに語り手を変え綴られていく。

    ひとつの大きな家族みたいに仲が良い商店街に店を持つ面々を見てると、
    その鬱陶しくもあったかい関係に憧れる。
    家族というものを知らない僕だからこそ、
    昔から商店街のある町の活気やあたたかさに惹かれるのかもしれない。



    それにしてもなんと生々しく、リアルな物語なのだろう。
    自分勝手でズルくて打算的で
    どうしようもなく弱い三人なのだけど、
    読むたびに三人それぞれが抱える『痛み』や『あがき』が胸に迫ってきて
    どうにも切なくなる。

    そして僕がこの作品から感じ、
    この小説に強く惹かれた最大の理由は
    窪 美澄さんの文体に見え隠れする
    官能的なエロティシズムだ。
    もっと簡単に言えば、
    あからさまにではないのだけれど、
    小説に流れる空気感が『なんだかエロい』のである(笑)
    (皆川博子や小川洋子や川上弘美や服部まゆみの官能的なのに品がある文体に近い)

    カッコいい文体、お洒落な文体、軽妙洒脱な文体、硬派な文体、
    『文体こそ、人なり』とはよく言ったもんだが、
    窪さんが持つ、『色気のある文体』というのは
    それだけで粋だし、なかなか得難い魅力だと思う。
    (わずか290Pの短い小説ながらストーリーも構成も素晴らしいのだけど、僕なんかはこの、そこはかとなく香る文体の色気だけで何度も読み返したくなる)

    そしてもう一点、この作品に僕がハマった理由を挙げるなら
    脇役たちがどれもみな人間臭く、
    本当に魅力的なのである。

    『好きな人ができました』という書き置きを残し、
    ある日突然出ていった、みひろの母。

    裕太と恋に落ちるパチンコ中毒の小笠原さんと
    その息子のショウくん。

    圭祐と裕太の父の浮気相手だったマリアさん。

    圭祐が転勤先の大阪で出会う
    風俗店で働くミミ(京子)。

    ページを閉じたあとも
    彼ら彼女らの行く末を案じ
    想像せずにはいられない。


    程度の差こそあれ、
    誰もが自らの内に
    自分では『どうしようもできない野獣(抗えないモノ)』を飼っている。
    家族のような共同体の商店街の中も同じく。

    そして、大人になればなるほど
    しがらみが多くなり、
    ただ『好き』だけでは
    恋愛ができなくなってくる。
    (これは本当によく分かる)

    そんなジレンマに悩み、もがき続けた
    幼馴染三人の物語。

    生々しく官能的な描写から、
    甘い蒸気が立ち上がってくるような恋の匂いにクラクラするロマンティックなシーンや、
    日だまりの猫みたく思わずほっこりしてしまうエピソードなど、
    巧みな構成と繊細な筆致で
    読む人それぞれ、
    好きなシーンが挙がるだろう幸福な小説だと思うが、
    いかかだろうか(笑)
    (僕のたまらんシーンは、熱を出して寝込んだ小笠原さんを裕太が介抱する恋が生まれる瞬間を捉えたシーンと、物語後半、傷心の裕太が夜の商店街でみひろの後姿を見つけ再会するシーンかな。次点は物語のラストシーンの圭祐が下手な大阪弁で口説くシーン笑)

    余談だが、みひろに吉岡里帆、圭祐に松坂桃李、裕太に池松壮亮で
    映像化期待してます(笑)

  • あぁ人間臭いなぁ…と、まず感じた。
    基本的にはみんな自分が一番大事で、自分の気持ちに正直になることで誰かを傷つけたりして、そのくせ変に気を遣い合ったりもして。
    そして、女性の性欲というものにまっすぐ向き合っている作品というのはもしかしたら珍しいかもしれない、と思った。
    同じく窪さんの「ふがいない僕は空を見た」にもそういう要素はあるけれど、この小説ではもっとリアルに描かれている。

    同じ商店街で幼なじみとして育ったみひろと圭祐・裕太の兄弟。
    高校時代から付き合い始め圭祐と同棲しているみひろは、長い間圭祐との間にセックスがないことに悩み、そんなことで悩む自分に嫌悪感を抱いていた。
    昔からみひろに対する淡い想いを抱いていた裕太は、うまくいかなくなってきている2人の関係に感づき、そしてみひろは、同い年で気安く接することができる裕太に徐々に惹かれ始める。

    スタートが違っていたら、と考えるのは、鶏が先か卵が先か、という話になってしまうのだけど、物事のはじめが違っていたら遠回りしなくて済むこともたくさんあるんだろうな、とついつい思ってしまう。
    でもその遠回りの過程が人の関係性に影響をもたらすことも多々あるだろうから、そう思うと必要な無駄だったのだろうか、とも思う。

    シンプルな三角関係なのだけど、少女マンガ的な美しいものではなくて、だからと言ってドロドロもしていなくて、みんなが少しずつ諦めたり狡さがあったり見ないふりをして逃げたり、そういうところがリアル。
    本当はこうすれば良いのだろうと頭では分かっていても実際そんな風に行動することはできなくて思い悩んだり、好きな相手の幸せを願いつつも自分の欲望を捨てきることができなかったり。

    みひろが持つ、女の生理的な感情にドキっとさせられることも多々。これは男の人は見たくない側面なのかも。
    自分の彼氏や夫の性的な部分を、女って平気で友だちやら同僚やらに言っちゃったりするけど(この小説にもそういう場面が)男の人は絶対嫌だろうなと思う。
    私も出来れば友だちからそういう話は聞きたくないけど。笑

    心が繋がっていれば体なんて、という話って昔からあるけれど、そのふたつを切り離すのは無理がある、表裏一体のもの。体の面が原因で心が離れてしまうことも実はけっこう多いだろうから。
    でも大切に思うからこそ口には出せなくてすれ違うっていうのがまた厄介なところだったりして。

    窪さんの小説は相変わらず鈍い爪痕を残す、と思う。致命傷ではないものの長く残る傷痕のような。

  • なんていうか窪美澄のどろっとした生々しさの良いところが詰まってる気がして、とても好き。
    優しくなんてないし、この世は割とどうしようもなくて、悲しいことのが多くあって、それはだいたい避けようもない、誰も悪くないものだったりもするんだけど、最後は何故か笑って明日を迎えられるような気がする。窪美澄の小説を読むと、話は重いのに、何故か救われたような気持ちになる私がいて、それなのにしばらくは、その小説のことが私を支配していて、一週間は小説のシーンが頭の中で反芻されてる。

    三角関係、で済ませられるなら、どれだけ楽だろう。セックスレス、で済ませられるならどれだけ楽だろう。
    大人になればなるほど、余計なしがらみのようなものは増えていくように思うけど、それは逃れようがないのかも

  • 同じ商店街の幼馴染、圭祐、裕太兄弟とみひろ。

    圭祐、裕太兄弟は幼い頃からみひろに恋心を抱くが、弟がみひろに気があることに気づいていた圭祐は、裕太より早くみひろに告白をし、同棲する。

    みひろは圭祐の同棲生活に長い間セックスが無いことに悩み、同時にそんな自分に嫌悪感も抱いていた。

    弟の裕太は、兄がみひろと同棲をを始めても、気持ちをなかなか断ち切れずにいた。
    そんな時、みひろが兄とうまくいっていないことに気がつく、、、


    どの登場人物の気持ちにものり移れるほど、その登場人物それぞれの気持ちが丁寧に描かれている。

    みひろ目線、裕太目線、圭祐目線、それぞれの方向から物語は綴られていくが、どこか切なく、しかしどこか救われる、一言では簡単には表現出来ないような物語がこの一冊に詰め込まれていた。

    まるでドラマか映画を見ているような、、、
    そんな気持ちになる一冊だった。

    恋愛小説はそれほど読まないが、これはそんな私にもなかなか良かったと思う。

  • 狭い社会というものは生きていくのが大変なのだなあと思った

  • みひろと圭祐と裕太。そしてそこに関わる人たちのいろんな思いがぶつかり合ったりすれ違ったり、男と女ってほんと難しくて一筋縄ではいかないなぁって思った。
    自分的には圭祐があまりにも不器用で見てられない感じで辛かったけど最後は幸せになれるのかなっていう終わりかたで良かった。
    窪さんの作品は男女の微妙な難しい心理を上手く表してるなぁと思った。

  • 再読。
    よかったという記憶だけで、ぼぼ失念してました。
    なので改めて良い読書時間をもてました。

    この作品大好きです。
    各章それぞれ語り手が変わるため、各人の気持ちがきちんと伝わる。そのおかげでその中の誰か贔屓になることなく、最後までフラットな気持ちで読めました。

    裕太とみひろはくっつくべくしてくっついた2人。
    でも、佳祐との時間も決して間違いではなかったはず。
    裕太にとっても里沙との時間は必要な時間だったはず。
    それぞれの思いやタイミングが微妙にズレたことの結果と思うとかなり切ないです。

    圭祐には今後きっと幸せな時間が巡ってくるでしょう。
    そして商店街では、噂を呼ぶとは思うけど、みひろはいいお母さんになると思います。

    最初から最後まで、裕太が魅力的でした。
    高校生のメロンパンをかじりながら片手をポケットに入れた裕太を想像してキュンとしていたおばさんです(笑)

  • こんな恋愛、本当にあるかもしれない。
    現実味を帯びているけど、でもなんとなく自分には起こりそうにも無いような。苦くて辛い恋愛小説だなと感じました。

    想いが微妙にすれ違って、でも本当に相手が好きで、でも上手くいかなくて、読んでいて切なくなりました。

    大人になって恋愛するってこういう感じなのかなぁ。

  • 好きという気持ちは抑えられない。
    でも好きというだけでは進めない。

  • 商店街で育った男女のお話。家庭の事情やらも商店街の人たちみんなが把握していることとか、すごくありそうな話だと感じた。
    なかなか自分の気持ちに素直になれないもどかしさを、それぞれの視点で描かれていて、読みやすかった。
    女性にも性欲はあるのだと、大好きな人に抱かれたいのだと、まざまざと感じさせられた。

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著者プロフィール

窪美澄(くぼ・みすみ)
1965年東京都稲城市生まれ。カリタス女子高等学校卒業。短大中退後、広告制作会社勤務を経て、出産後フリーランスの編集ライターとして働く。2009年「ミクマリ」で第8回R-18文学賞大賞を受賞し小説家デビュー。2011年、受賞作収録の『ふがいない僕は空を見た』(新潮社)で第24回山本周五郎賞受賞、第8回本屋大賞第2位。同作はタナダユキ監督により映画化され、第37回トロント国際映画祭に出品。2012年、『晴天の迷いクジラ』で第3回山田風太郎賞受賞。2018年『じっと手を見る』で直木賞初のノミネート。2019年『トリニティ』で第161回直木賞、二度目のノミネート。

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