- Amazon.co.jp ・本 (414ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101414171
感想・レビュー・書評
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慶次郎縁側日記シリーズ第四作。
表題作はシリーズでは珍しい中編。
薬売りとして初めて江戸に来た四方吉が、帰り道の碓氷峠で追剝に襲われ逆に谷底に突き落としてしまう。怖くなった四方吉は江戸に舞い戻り名前を変えて四年間暮らしたのだが、その名前を借りた男の妻が江戸にやってきて…というなんともハラハラドキドキのサスペンスタッチになっている。
しかしこの話のテーマはそこではない。前作に続き、この話でも『仏の慶次郎』の異名が独り歩きしている。
本来『仏の慶次郎』とは罪を犯させない、罪が起こる前にその種を摘み取る慶次郎の姿勢を指したものだったはず。
だがいつのまにか『仏の慶次郎』に頼めば罪を軽くしてくれる、運が良ければ罪をなかったことにしてくれるという、犯罪者にとっては都合のよい役人の意味にすり替わっている。
だから主人公おいとのように、どうして南町(現役当時慶次郎が所属)で出来ることが北町(慶次郎は手出しできない)で出来ないのか、慶次郎と吟味方与力が知り合いかどうかによって罪の重い軽いが変わるのかという理屈になり怒りを生んでいる。
更におつぎに至っては訴えを聞いてくれたのが唯一吉次だったがゆえに酷い目に遭い、その怒りと憎しみを四方吉とおいとに向けてしまう。
『責められるのは二人ではなく、二人があやまちを犯さねばならぬように仕組んだものではないか。二度とこんな真似はやめてくれと、慶次郎はその目に見えぬものに向かってわめきたくなった』
娘・三千代の悲劇のようにたまたま居合わせただけで起きてしまう事件があり、たまたま担当した同心が北町か南町かで変わってしまう裁きがあり、話を聞いてくれたのが慶次郎か吉次かで違う環境があり、罪を償ってもなお蝮の吉次に目を付けられるかどうかで変わっていくその後の人生がある。
事件は終わっても関わった者たちのその後がどうなるのか、なんとも苦い話だった。
その吉次、金が有り余っている人から強請るのならまだ良いが、やり過ぎてついに罪を擦り付けられるというピンチに。島中賢吾も吉次の十手を取り上げたいほどの怒りに駆られるが、吉次は北町同心が使っている岡っ引。手を出せないのがもどかしい。
だがこれで懲りることなくまたせっせと強請の種を探す吉次なのだろう。
晃之助は相変わらずモテている。モテすぎてストーカー事件まで発生。
やり過ぎた娘に追いつめられる晃之助。皆は狂言だろうと分かってくれたが、これがもし巧妙な計画を立てられていたらとゾッとする。
だが逆に『こんなきれいな男の人に嘘をついてもいいのだろうか』と後悔して罪を打ち明ける気になったという娘もいて、苦笑しつつも嬉しく感じる晃之助。
色男も大変だったり得をしたり。
後半は薄い話が多かった。慶次郎も名前だけの登場で勝手に解決していたり。
その分、同心・島中賢吾が十手を預ける太兵衛親分がよく出てきた。仕事になれば出来る人だし優しい、でも親としては心配性で慌てんぼうの父の顔があって人間っぽいのが良い。
辰吉が最近嵌まっているのが草双紙らしい。江戸では水滸伝が流行っているらしく、みな現実にはいないヒーローを求めているのかも知れない。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
それまでの慶次郎縁側日記シリーズと比べて、森口親子はあまり前面に出てきません。それが物足りないと感じる方もあるかも…ですが、シリーズを最初から読んでいると、森口親子の存在を背景に感じながら、市井の人達の物語を読むことになり、さらに深く共感できるように思いました。
誰の心にも魔がさすことがあるし、人生に躓くこともある。でも、生きている限り、否応なく人生は続く。人の業も深いが、人の情けも深く温かい。辛くても、前を向こうと思える一冊です。 -
「天下のまわりもの」が良かった。
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人の運命を考えさせられる。法が全て善ではない。短編は、「人攫い」が良かった。2016.8.14
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20130509 ドラマはどんなすき間にもある。気付くかどうか?才能なのでしょうか。
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再読了。
表題作は、登場人物も多く、筋もなんだかとっ散らかった印象が拭えませぬ。
北原さんの作品は、多くのものを削ぎ落したシンプルさにあると、わたしは信じていたりしますので・・。 -
なかなか面白い。
必ずハッピーエンドではないし必ず落ち着く所に落ち着かない。あとは想像に・・・で終わる。
慶次郎が活躍しないのも良い。ある人のちょっとした事件の一部にかかわる程度で、無理やり的な殺人が起きたり、酷い悪者があらわれたり、痛快に誰かをやっつけたりしなくて、現代と変わらず日常生活の中で起きるハプニングのかみ合わせを上手く書いている。 -
4 慶次郎縁側日記
蝶。慶次郎の出番はないが味のあるいい話。こんなダメ亭主いる!みたいな。 -
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