全国アホ・バカ分布考―はるかなる言葉の旅路 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
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本棚登録 : 642
感想 : 69
  • Amazon.co.jp ・本 (582ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101441214

作品紹介・あらすじ

大阪はアホ。東京はバカ。境界線はどこ?人気TV番組に寄せられた小さな疑問が全ての発端だった。調査を経るうち、境界という問題を越え、全国のアホ・バカ表現の分布調査という壮大な試みへと発展。各市町村へのローラー作戦、古辞書類の渉猟、そして思索。ホンズナス、ホウケ、ダラ、ダボ…。それらの分布は一体何を意味するのか。知的興奮に満ちた傑作ノンフィクション。

感想・レビュー・書評

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  • テレビ番組「探偵!ナイトスクープ」に寄せられた一通の投書。
    ”大阪の人は「アホ」と言い、東京の人は「バカ」と言う。ならば、その境界は?”

    バカバカしくて面白い、という事で、調査開始。
    東京駅から東海道を西下し、「アホ」と「バカ」の境界線を探る。

    が、そこで予想外の出来事が起こる。
    名古屋駅前で第3の言葉「タワケ」が出現したのだ。
    また、番組出演者から九州では「バカ」を使うという証言も出る。

    「アホ」「バカ」の分布は東西で単純に二分割されるものではなく、もっと複雑らしい。
    番組自体も予想以上の反響があり、「アホ」「バカ」分布の調査はさらに大掛かりに。
    全国を対象にしたアンケートも実施した。

    その結果、見えてきたのは様々な種類の人を罵倒する(あるいは逆に親愛の情を示す)言葉の分布。
    そして、その様々な言葉は、京都を中心とした波紋のように、何重もの同心円状に分布していた。

    それは民俗学者の柳田國男が「蝸牛考」で提唱した「方言周圏論」そのものであったのだ。

    当初、番組の1企画であったものが、放送終了後も著者は、継続調査し、方言に関する学会で発表するまでになる。
    本書は、のべ3年にわたる「アホ」「バカ」調査の過程と結果をまとめたもの。

    カバーの裏に「全国アホ・バカ分布図」がついている。
    「アホ」「バカ」という言葉ひとつを取り上げただけでも、日本各地で様々な表現の仕方がある、というは本書で初めて知った。
    この分布図を見て、「アホ」「バカ」表現の様々な種類に思いを馳せたり、自分が住んでいた地域では、どんな言葉が使われていたのかを探すだけでも面白い。

    ただ、すべての言葉が「方言周圏論」で説明できるものではないだろう。
    言葉の種類によっては、ある場所(街道、川や山脈など)を境にキレイに分かれているものもあるかもしれない。

    例えば、言葉ではないが、うどんのつゆの関東風と関西風は関が原が境界らしい。
    関が原は中山道・北国街道・伊勢街道の交差する場所で、大軍が集まりやすい場所であったため、「天下分け目の戦い」の場所になったが、同時に物流の分岐点(もしくは交差点)でもあったためらしい。
    言葉の分布にも影響を与えていそうな気がする。

    「全国アホ・バカ分布図」は、そういう想像も広げさせる。


    ところで、全国各地の「アホ」「バカ」に相当する方言に共通するものは、直接、人を罵倒する表現ではなく、何かに例えるケースが多い、というもの。
    間抜けな(と考えられていた架空の)動物に例える、仏教の用語を用いて、中身の空虚さを表すなどの例がある。

    昔、新聞記事か何かで、恋人に会えない苦しい気持ちを着物の帯をきつくしてしまった事に例えた和歌を欧米の人に紹介したところ、「なぜ、直接、”苦しい”と言わないのか」という反応が返ってきた、という記事があったのを(おぼろげな記憶だが)思い出した。
    「婉曲的な表現」を好むのは日本人の国民性なのだろうか。
    他の国の「アホ」「バカ」表現と比較すると、文化の違いが明確になったりして、面白いことだろう。

    とにかく、こういう「庶民が普通に使う言葉」にこそ、お国柄が出てくるのだと思う。
    だが、このような言葉ほど、今回の調査のような事がない限り、注目されることもなく、使われなくなるとひっそりと消滅してしまう。

    建築家ミース・ファン・デル・ローエは
    「神は細部に宿る」
    と言ったそうだが、
    「神は”どうでもいい事”に宿る」
    とも言えそうだ。

    あくまで「ときどき」ではあるが。

  • 相手を罵倒する時に「アホ」というか「バカ」というか。その地域差…どこが区切りになるか。そもそもアホとかバカとかの語源は何か。

    を、突き詰めて行く過程は非常に熱っぽく面白かった。

    が、結論はどうも承服しがたい(感覚的にだけど)。

  • これで、探偵ナイトスクープがブレークした、懐かしい話です。
    わたしが学生の頃なので20年以上前だよね。でも、今読んでも、おもしろいです。

    ただ、差別用語に対しては、単純に嫌悪感を表明しているのですが、もしかしたら、それらの言葉も、元々は、違った意味、柔らかい意味があったのではないかと感じました。
    はじめは、柔らかい意味であった言葉は、もしかすると使われていくうちにだんだんと、キツいイヤな意味を持って行ってしまう性質があるのかもしれません。

    そして、その言葉が、古く、キツくなった故に、また新しい言葉が 生み出されなければならなくなってくる。
    そのサイクルが、分布として残っているのではないかと思いました。

    そして、かなしいことに、関西の「アホ」も、このころに比べると、だいぶんキツい言葉になってきたのかな~。
    テレビで、聞くことも少なくなった気がします。
    ボクらは、バカと言われるとキツく感じたけど、今の子たちは、アホと言われるとそれと同じぐらいキツく感じるのかも。

    それは、今時の子どもの心が弱くなったとか、そういうこととは関係なしに。
    そしてまた、なにか新しい言葉がうまれてくるのかなぁ。

  • かなり真面目にやっておられますし、内容も面白いのですが、なんせ分厚い。
    途中で挫折しかけました。

  •  
    ── 松本 修《全国アホ・バカ分布考 ~ はるかなる言葉の旅路 1993 太田出版 19961129 新潮文庫》
    http://booklog.jp/users/awalibrary/archives/1/4101441219
     
     Matsumoto, Osamu 19491105 滋賀 /ABC プロデューサー
     
    (20230506)
     

  • 【配架場所、貸出状況はこちらから確認できます】
    https://libipu.iwate-pu.ac.jp/opac/volume/559276

  • アホ・バカのような普段使っている言葉ではあるものの、非常に根気強い調査によって導き出された結論が語られており、意義のある研究だと思う。それがまた面白く語られるので、飽きることなく読むことができた。京都出身の私には京都が文化の発信元であったことが誇らしくもあった。

  • 日本語特に方言に興味がある人は必読。

  • 謎の関西パトリオティスムが。
     若干、「ポリコレに基づいてフリムンと呼ばれるものが放送禁止用語になる」嘆かはしい状況を、ポリコレに基づいて言っていいと解釈する著者がうざい半分、他のホンジナシ、アヤ、タクラタは別にかすらないのでいいんだけど、なんか。
     バカ起源のいろいろが面白かった。

  • 書名とカバー絵に惹かれて購入。「探偵! ナイトスクープ」というTV番組を千葉に在住の自分は知らなかった。前半は番組制作の過程を中心に「アホ・バカ」分布をどうしたら視聴者に楽しんでもらえるかという熱い思いが伝わる筆致。そして後半は、一気に方言周圏論を中心にアカデミックな内容になっていく。それも視聴者を楽しませるがごとく、実に平易な書きぶりだ。それにしても言語学とは何と奥の深いものだろう。一つの言葉の語源を突き止めるには無数にある言語の同心円を辿らなくてはならないのだから。

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著者プロフィール

1950年生まれ。文学座の俳優を経て、演出家として演劇集団MODEを立ち上げる。独自の手法によるチェーホフや、カフカの舞台化などにより、高い評価を得る。現在、近畿大学文芸学部芸術学科教授。

「2018年 『ぼくの演劇ゼミナール』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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