蔭桔梗 (新潮文庫 あ 23-4)

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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101445045

感想・レビュー・書評

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  • 今回はじっくり読ませてもらった。途中で次の日に持ち越さないよう、一編が完結するまで読んだのが功を奏した。

    率直な感想を云わせてもらえば全てが一級品の短編集だ。
    自伝的な短編、「増山雁金」、「簪」、「弱竹さんの字」。
    ラストに不意を打たれた「遺影」、大人の恋愛を感じさせる表題作や「絹針」、それに加えて自分なりのベストの二作品「くれまどう」と「色揚げ」。戦慄のラストの「竜田川」。
    寂寥感漂う「校舎惜別」に微笑ましい「十一月五日」。

    本統に素晴らしかった。

  • ひとつの出来事が様ざまに登場人物たちの遠い記憶(埋もれていた想い)をよびさます(よびおこす)。疎遠にあった関係がふたたび色めく話や、そのため隠されていた不穏の立ちのぼってくるものなど、物語は濃淡さまざまに哀しみをにじませた陰翳で彩られる。よい意味でも悪い意味でも技巧的な筆致が作品の味というか質に影響している。それはしかしミステリ作家としての性であろうから、著者(著作)の見るべき特徴(美質)として認められるべきものとは思う。人物たちのままならない人生を経てそして顧みられる情感が作品のよい余韻となっている。

  • 女の肩から音もなく着物が滑り落ちるような。そんなふうに、静かな熱を持って淡々と進む短編たち。
    どの話も尖るような勢いはないのに、いつの間にか指先に刺さった棘のようにじくじくと痛み出す。
    「弱竹さんの字」はラストに向けた展開が秀逸。
    「十一月五日」には創造者の情念。
    「竜田川」こういうミステリー、もっと読みたい。
    「校舎惜別」怖い。なぜか怖い。

  • 時代に残されていく職人達とそのすれ違いの恋愛ストーリ。切ない作品ばかり。職人達の衰退と上手く行かない恋愛。泡坂得意の美しい綺麗ではかない恋愛話。ただ、なぜこれが直木賞?とは思う。似たような美しいストーリは他にもあるし、泡坂らしいもっとユーモアのある作品やトリックの作品のほうが作者の恐ろしい力量が感じられるのだけど。

  • 紋章上絵師という職人の物語は、藤沢周平の伊之助シリーズを思い出させ、職人への憧れが増してしまった。直木賞受賞作。

  • 第103回直木賞。
    現代では珍しい紋章屋の短編小説。着物に家紋を入れる「生駒屋」の若主人が主役。銀座の老舗呉服店に、親の代以来久しぶりに出入りすることになったが、そこに淡い再会があった。
    作者・泡坂妻夫は紋章上絵師でもあるから、表題作「陰桔梗」の他にも本書には「増山雁金」「簪」といった、呉服や紋章を取り扱った作品が掲載されている。

  • 直木賞受賞作。下町職人世界と大人の男女の機微。しかし謎が明かされるというその構成はミステリ的な手法で有る。

  • 伝統職人の世界を舞台とした男女の機微を描いた作品集。
    と言うと、普通なら僕の興味範囲外の作品になるんですが、作者があの泡坂妻夫なので、手に取った次第です。
    で、どうだったかと言えば、大正解ですね。
    すごく面白かったです。上手いな〜と感動しきりです。
    伏線の張り方がさり気なく、情景説明のように書かれた一文が後で実を結ぶんですよ。
    だから泡坂ミステリのファンである身には堪らないですね。

  • 様々な職人が登場する11の短編集。紋章上絵師という職業も初めて知った。
    1990年の直木賞受賞作品だが既に絶版。中古本をAmazonで取り寄せて読んだ。この水準にある小説でさえ30年程度の寿命もないらしい‥‥厳しい世界だ。

  • 1990年の直木賞を受賞した表題作を含む11編の短編集。いずれも紋章屋が登場する。身近な話ではないが、1編1編が深みをもって書かれており、素晴らしい

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著者プロフィール

泡坂妻夫(あわさか つまお)
1933~2009年。小説家・奇術師。代表作に「亜愛一郎シリーズ」など。『乱れからくり』で第31回日本推理作家協会賞。『折鶴』で第16回泉鏡花文学賞。『蔭桔梗』で第103回直木賞。

「2020年 『秘文字』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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