いっちばん しゃばけシリーズ 7 (新潮文庫)

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (343ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101461274

作品紹介・あらすじ

兄の松之助が長崎屋を出て所帯を持ち、親友の栄吉は菓子作りの修業へ。普段から病弱な若だんなは、さらに寂しそう。妖たちは若だんなを慰めようと、競って贈り物探しに出かけるが。長崎屋と商売がたきの品比べに、お雛をめぐる恋の鞘当て、果ては若だんなと大天狗の知恵比べ-さて勝負の行方はいかに?シリーズ第七弾は、一太郎の成長が微笑ましく、妖たちの暴走も痛快な全五編。

感想・レビュー・書評

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  • 若旦那が苦労したり、悩んだりする話が多く、ホッとする話だけでなく、若旦那の心情を考えさせることが多い一冊でした。

    修行に出された菓子屋の栄吉の話である「餡子は甘いか」が、一太郎と栄吉のお互いへの想いが感じられて良かった。

  • 今回は『じんわり』と来るものが多かったかな?
    何にしてもホッとできるシリーズ。

    ・いっちばん
    若だんな、日限の親分と江戸で横行してる掏摸を追う。
    小さい物語りの中でバラバラの物語りがスルスルと1つにまとまってく…楽しかったです。

    ・いっぷく
    長崎屋が『品比べ』に巻き込まれる。
    若だんなに新たな友ができる?

    ・天狗の使い魔
    若だんなが誘拐される!
    大人しく人質となっていない若だんな(笑)
    さて、どうなるか?

    ・餡子は甘いか
    若だんなの親友・栄吉の目線で書かれてる章。
    栄吉、がんばれ!

    ・ひなのちよがみ
    薄化粧のお雛さん。それはそれは美しく可愛らしい。
    お雛さん・許嫁の正三郎、そこに現れた秀二郎さんの三角関係…どうなるのか?

    ・高橋留美子×畠中恵 相思相愛対談❤︎

  • 畠中恵「しゃばけシリーズ」7作目(2008年7月単行本、2010年12月文庫本)。短編5作の短編集。
    次から次へと繰り出されれる一太郎の周りでの出来事、奇々怪界なことからほっこりするようなことまで、全て今までの6作から繋がっている。今回も色々思い出しながら楽しく読むことが出来た。

    ①一太郎が掏摸事件の謎を解く<いちばん>
    ②藤兵衛が品比べで本領を発揮し、一太郎が三途の川から一緒に現世に戻った冬吉と再会する<いっぷく>
    ③天狗に攫われた一太郎が逆に天狗を助ける<天狗の使い魔>
    ④餡子作りに自信をなくした栄吉が再び自分を取り戻す<餡子は甘いか>
    ⑤一色屋の再建を一太郎に相談したお雛が許婚の正三郎との危機を乗り越える<ひなのちよがみ>

    ①<いっちばん>
    通町で連続して起きている掏摸事件を一太郎が日限の親分を手伝って見事解決する話だが、それとは別に長崎屋の妖達全員が寂しそうな一太郎を元気づけるために、目的別に3チームに分かれて奔走する。それが最後に交差して、偶然にも一箇所に全員集合して事件解決するのが如何にも物語だと思いながらも面白い。
    親友の栄吉が菓子の修行で日本橋の北の菓子司「安野屋」に行ってしまうし、兄の松之助は嫁を娶って家を出てしまうし、一太郎は寂しかった。長崎屋の妖達は一太郎を元気づけようとあれこれ策を練る。
    屛風のぞきとおしろと蛇骨婆は寛朝に春画を貰いに上野広徳寺へ向かう。鳴家は菓子を求めて栄吉の修行先の日本橋北の「安野屋」へ仁吉と向かう。鈴彦姫と野寺坊と獺は荒寺の床下で見つけた金子を紙入れに入れて持ち、珍しい根付を買い求めて日本橋を歩いていたところ、犬に金子の入った紙入れを取られてその犬を追いかけていた。
    一方通町で大店の主人や金持ちだけを狙う掏摸が横行していた。日限の親分は打物屋「黒川屋」の次男坊の富治郎と飴売りのおすまが共謀していると見ていたが証拠がない。逆に大店の次男坊だけに奉行所の方に苦情が入って、同心からお咎めが入っただけでなく、場合によっては岡っ引きを辞めざるを得ないかもしれなかった。
    日限の親分まで居なくなっては寂しさに耐えられない一太郎は、親分を助ける決心をして佐助を連れて日本橋近くの川岸まで聞き込みに来たところで、次々と皆んなに出くわす。偶然にもおすまも現れて、持っていた香りの良い御守りから、一太郎は掏摸事件の盗んだ金子の受け渡しの謎を解くのだ。

    ②<いっぷく>
    「長崎屋」の競合相手となる近江の唐物屋「西岡屋」と「小乃屋」が江戸に店を出した。小乃屋は近江の「乃勢屋」の分家だ。両店は長崎屋に3店の品比べの催しを提案してくる。藤兵衛は断るが西岡屋の大番頭の定之助の巧みな推しに折れて応じる。
    江戸の武家や金持ちお大尽中心の招待客が3店出品の品々に投票して優劣を争い、結果は西岡屋の圧勝に終わる。江戸でのいい宣伝になると西岡屋は踏んでいたが、藤兵衛の考えは違っていた。 西岡屋の出品物は派手な品物ばかりで受けはいいが、江戸の商売は違っていた。江戸の商売を熟知していた藤兵衛は売れる品物中心で、実際この場で商売出来た金額は長崎屋が圧倒していた。そして藤兵衛のすご腕商売の話が中心の物語かと思ったら違っていた。
    江戸で妖のことを探している者がいるという噂があった。それも人には見えない筈の鳴家を具体的な寸法を示して探しているというのだ。そして「小乃屋」の主人辰治郎の息子、七之助が長崎屋の鳴家を風呂敷に包んで一太郎を訪ねてきた。
    小乃屋は「乃勢屋」の分家ということで私はピンときてしまった。前作の「ちんぷんかん」の<鬼と小鬼>で三途の川の手前から現世に一緒に帰ったのが乃勢屋冬吉と名乗っていたからだ。
    冬吉は七之助の弟で三途の川で一太郎と一緒にいた鳴家のことを七之助に話していた。三途の川の話など親も親戚も誰も信じなかったが、七之助だけは信じて弟のために鳴家を探していたのだ。一太郎は冬吉の命の恩人だと七之助は思っていた。一太郎に新たな友達が出来る物語でもあった。

    ③<天狗の使い魔>
    寝ているところを一太郎は天狗に攫われた。空を飛び、広い場所に建つお寺の屋根の上に降り立った。天狗は信濃山六鬼坊と名乗り、親しかった山伏が山神から授かった妖の管狐(黄唐)を王子稲荷神社から貰い受けるための人質だという。
    山伏は人間なのでもう天寿を全うしこの世にはいない。六鬼坊は黄唐とも親しくなっていたのでまた一緒に酒を飲み、話をしたかったが、主人が死んだ菅狐は二度と別の主人に仕えることが出来ず、王子稲荷神社に留まることになっているらしい。
    六鬼坊は狐と交渉したが埒があかず、箱根の天狗を通して狐達を従える大妖皮衣の口添えを願い出た。しかし断られた為、皮衣の孫の一太郎を人質にして王子稲荷神社の狐に黄唐との交換を持ち掛けていたのだ。
    ややこしいことにもう一人(もう一匹)一太郎を攫って狐と取引しようとしているものが現れる。とある神社を守っている狛犬だ。狛犬はその神社の守りの立ち位置で神使狐と揉めていた。今回の六鬼坊と狐の交渉でのやり取りで、狐にとって一太郎はかなり重要な人質だと認識した狛犬が、己も一太郎を攫って人質として神使狐と交渉しようとしていたのだ。
    狛犬は六鬼坊から葉団扇を奪い、神使狐を脅して神社の立ち位置の交渉をしたが断られ、葉団扇を使い王子付近で火事を起こしていた。一太郎は六鬼坊と王子の狐に会い、双方に協力を持ち掛け、葉団扇を取り戻すのに狐が協力し、六鬼坊が火事を消す。
    一太郎は黄唐にも王子稲荷神社で六鬼坊と酒を酌み交わす案を提案して、狐達も許諾するのであった。
    そして神使狐にも己の身を狛犬に置き換えてみたことを想像するように説得する。仁吉と佐助の神使狐への圧力も加わり、神使狐は納得して狛犬の怒りの件も一太郎は解決してしまう。

    ④<餡子は甘いか>
    栄吉が菓子作りに挫折し、止めようとするが再び自分を取り戻し菓子作りを続ける決心をする話。
    栄吉が菓子作りの修行で奉公している「安野屋」に泥棒が入り栄吉が捕らえるが、主人の虎三郎は菓子に入っている砂糖の味利きが出来るその泥棒八助を安野屋に奉公させる。
    器用な八助は栄吉よりも重宝され、栄吉は板場から外される。腐った栄吉は菓子作りを止める決心をし、一太郎に己の弱い本心を打ち明ける。一太郎は安野屋で栄吉と八助の喧嘩に出くわしていたが、一緒にいた八助の友という彦丸に妙な感じを抱き、それとなく栄吉に言うのだが、泣いている栄吉の言葉を黙って聞いているだけにしていた。
    止めるつもりで安野屋に戻った栄吉は大量の砂糖を盗み出そうとしている八助を見つけ、取っ組み合いになったところで虎三郎他安野屋の皆んなに止められるが、八助は栄吉の指示で砂糖を移動させただけだと言い張る。しかし栄吉は一太郎の言っていたことを思い出し、栄吉の必死の主張で八助の嘘は見破られ、八助は番所に引き渡される。
    しかし既に大量の砂糖が盗み出されていた。発句の会のための菓子用に必要な大量の上質な砂糖が間に合わない。栄吉は一太郎に頼んで即座に搬入してもらい間に合わせる。
    栄吉は虎三郎から「やり続けることが出来るという才がある」と言われ、胸を熱くし涙する。やはり己は菓子作りが好きなんだと菓子作りは止められないと安野屋で修業を続けることを一太郎に言うのであった。

    ⑤<ひなのちよがみ>
    紅白粉問屋「一色屋」の跡取り孫娘のお雛が火事の後の店の再建に試行錯誤する。そして許婚の材木問屋「中屋」主人の弟、正三郎も恋敵が現れ嫉妬で醜態を晒すが、一太郎に策を練られ店の再建に奮起させられる話。
    お雛が塗り壁のような有名な厚化粧を取った薄化粧で「長崎屋」一太郎を訪ねて来た。あまりにも可愛い娘に誰もわからず騒ぎになっていたが、一太郎は一目見てわかったようだ。
    お雛は火事の後の「一色屋」の再建の策として白粉を綺麗な千代紙の袋に入れて売ることを考えたが、仕入先がなかった。一太郎に相談すると藤兵衛が錦絵屋の「志乃屋」を紹介、商売はうまく行き始めた。しかしその店の次男坊の秀二郎がお雛に横恋慕し、正三郎は何を勘違いしたのか一太郎に文句を言いに来る。
    一計を案じた一太郎は後日、正三郎と秀二郎を長崎屋に呼び、二人に別々の課題を出す。策は見事功を奏して秀二郎はお雛を諦め、秀二郎はお雛の信頼を得ることが出来るのであった。この策に協力したおたえの茶目っ気ぶりにきっと藤兵衛の目尻が下がったであろうことが目に浮かぶ。
    3作前の「おまけのこ」の<畳紙>でのお雛と正三郎の立場から今回は逆転しているのが面白い。これも一太郎の屏風のぞきを使った助言の結果であろうから、これからもこの二人の人生に一太郎は関わっていくのか、先がまた楽しみだ。

  • 安定のしゃばけシリーズ。若旦那と妖怪たちが、江戸市中で起こるさまざまな「事件」を微笑ましく解決する。第7巻はどの話も罪のない平穏無事なもので、大作の後に読むにはとても楽だった。旅のお供に、ちょっとした休憩時間にぴったりの一冊。

  • しゃばけシリーズは読んでいてほっと出来る。
    病弱なのに気持ちは元気な若だんなと仲良しな妖達、関わる人達、疲れた時に読むと心が和みます。

  • シリーズを最初からこつこつ読みはじめ、この七弾の一冊が、とても好き。
    好きな人の喜ぶ顔がみたい、話がしたい、会いたい、認めてほしいという想いをまっすぐで。ちょっと照れくさい感情がはっきり表現されてるときは、読んでるこっちがおもはゆいというか、かゆくもなるけれども。
    読み終えた後で、登場人物たちひとりひとりを振り返って、じんわり想いに浸れる。
    とってもとっても好き!

  • 良い。読後感が良い。
    ずっとこの世界観に浸っていたい。

  • シリーズ7作目。5編の短編集。友達である栄吉は他店に修行へ、兄・松之助も長崎屋を出る。若旦那はなかなか長崎屋から出られないが、彼は彼で少しずつ成長していく。見守る2人の手代の眼差しは暖かい。本作は長崎屋に所縁のある妖も人間もたくさん出てきて騒がしくも楽しい。特に『いっちばん』『天狗の使い魔』が面白い。新参の狐に嫉妬し疎む狛犬、友である管狐に会いたい天狗がお気に入り。ほっこりした。『餡子は甘いか』では全く菓子の才がない栄吉の努力話。まだまだ苦労しそうだが、芯があるなら通すのみ。

  • 五つの話からなる短編集。
    『いっぷく』では若だんながある人物と再会し、こちらまで嬉しくなった。
    『餡子は甘いか』では、栄吉の菓子作りに対する苦悩が窺え、また、人の気質はそう簡単に変わるものではないのだなと思った。
    『ひなのちよがみ』では、紅白粉問屋一色屋のお雛さんの、その後を知ることができてよかった。

    「何事に付け、やり続ける事が出来ると言うのも、確かに才の一つに違いないんだ。」(『餡子は甘いか』より)

  • 今回もほのぼのと1日で読めました。
    シリーズもので7作目ともなるとなかなか飛び抜けて面白い、記憶に残る7作目とまでは行きませんがとても好きな作品です。

    お雛ちゃんが白塗りをとるお話、栄吉の修行の話が今回の作品の中では好きなお話かな。

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著者プロフィール

高知県生まれ。名古屋造形芸術短期大学卒。2001年『しゃばけ』で第13回日本ファンタジーノベル大賞優秀賞を受賞し、小説家デビュー。「しゃばけ」シリーズは、新しい妖怪時代小説として読者の支持を受け、一大人気シリーズに。16年、同シリーズで第1回吉川英治文庫賞を受賞。他に『つくもがみ笑います』『かわたれどき』『てんげんつう』『わが殿』などがある。

「2023年 『あしたの華姫』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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