ゆんでめて しゃばけシリーズ 9 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (335ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101461298

作品紹介・あらすじ

屏風のぞきが行方不明になり、悲嘆にくれる若だんな。もしあの日、別の道を選んでいたら、こんな未来は訪れなかった? 上方から来た娘への淡い恋心も、妖たちの化け合戦で盛り上がる豪華なお花見も、雨の日に現れた強くて格好良い謎のおなごの存在も、すべて運命のいたずらが導いたことなのか――。一太郎が迷い込む、ちょっと不思議なもう一つの物語。「しゃばけ」シリーズ第9作。

感想・レビュー・書評

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  • 畠中恵「しゃばけシリーズ」9作目(2010年7月単行本、2012年12月文庫本)。短編5話が連なった1作の長編になっている。
    最初の序章でこの物語のスタートが書かれている。一太郎が行くべき道の分岐点で本来左方向に行くはずが、気になる何者かが見えてその後をつい追って右方向に行った為に起こる別の人生を背負うことになるのだが…

    描かれる物語は、4年後の①<ゆんでみて>、3年後の②<こいやこいや>、2年後の③<花の下にて合戦したる>、1年後の④<雨の日の客>、そして現在の⑤<始まりの日>と遡っていく形式になっている。
    なぜなら⑤で最初の序章の起こった事実が修正されるからだ。

    道を間違えたばかりに起きた①<ゆんでみて>の苦難を⑤<始まりの日>で道が修正され全部リセットされるという、誰もがあの時ああしなければと後悔する事をこの物語は実現させてくれるのだ。但し張本人の一太郎はそれを認識していないので、①②③④は無かったことになって、⑤から自分の未来を生きるだけのことで、違う未来なのか、同じ未来なのかはわからない。ただ一つ違うのは起こった火事が起こらず、火事で完全修復不可能になって行方不明になった屏風のぞきがいつもと変わらず一太郎の側にいることだった。

    本のタイトルが「ゆんでみて」となっていて、「弓手馬手」と書くようだ。弓手は左手、馬手は右手という意味という。即ち左に行くか右に行くかが人生の分岐点だということだ。その行く道を間違える原因を作ったのが、市杵島比売命(比売神)と言う神さまで、普通人の目には見えない。しかし一太郎に見られてしまったことから本来と違った一太郎の人生が始まったのだが、最終的にはどういうわけか比売神がへまをやる4年前の一太郎と遭遇する直前に生目神が現れ比売神をたしなめ諭して、道の分岐点で一太郎の目に入らないように身を隠す。こうして一太郎の未来が修正される。神さまは時間を超えることが出来るのだ。前作「ころころろ」で登場した生目神は一太郎の視力を奪った自己本位でそして間抜けな神さまと思っていたら、一太郎には感謝していたのであろう。今回は一太郎を救ってくれた。

    気になるのはリセットされた4年間だ。最初の火事はなかったことになって、屏風のぞきは無事だったが、その後の4年間の出来事は変わるのか、同じことが起きるのか気になってしょうがない。続けて“しゃばけシリーズ”を読まなくては…。

    ①<ゆんでめて>
    「長崎屋」の近くで火事があってから4年、一太郎が分家した松之助の小間物屋「青玉屋」に妻のお咲に子が出来たお祝いを持って行く道途中の分岐点で何か人ならぬ者を見てから4年経っていた。松之助の子は松太郎と名ずけられ4歳になっていた。
    その火事で焼けはしなかったが、火止めの打ち壊しで屏風のぞきの屏風が大きく損傷し、何度修理に出してもどの職人も救えなかった。そして最後に出した職人が亡くなり、職人の家で行方が判らなくなっていた。
    一太郎は必死で探したがとうとう見つからなかった。

    ②<こいやこいや>
    火事の日から3年、松太郎は3歳。一太郎は前々作の「いっちばん」の<いっぷく>で友達になった唐物屋「小乃屋」の七之助から頼まれて、上方からやって来る5人の娘から七之助の婚約相手「西海屋」の娘、千里を探し当てるのを手伝わせられる。
    一太郎は「一色屋」のお雛の協力で二人の女中をリジェクト、残り3人から「西海屋」姉妹ともう一人「奈倉屋」の娘、かなめを見極めて、近江から江戸へ来た本当の目的も突き止める。そして無事七之助と千里の婚約もまとまり、かなめの問題も解決して5人は近江に向かって江戸から旅立ちのだが、一太郎は<かなめ>に恋心を抱いたようだった。
    屏風のぞきは修理されても相変わらず元気がなかった。

    ③<花の下にて合戦したる>
    火事の日から2年、松太郎は2歳。一太郎と「長崎屋」の妖達は総勢で飛鳥山まで花見に行く。
    ところがどういうわけか次から次へと今まで関係した妖達、狸の阿波六右衛門、信濃の大天狗の六鬼坊、管狐の黄唐、狐太夫の揚巻、巨大な狸の独楽なども花見宴会に加わって来て大騒ぎの宴会になる。おまけに光徳寺の寛朝や道真、日限の親分、七之助、栄吉まで参加している。その宴会に怪しい<禿妖の狢>が入り込み、術をかけて皆んなを迷路に誘い込み宴会を混乱させるが、一太郎は術のかかってない桜の木を利用して寛朝に策を進言、無事術を解き宴会は再開され、楽しいひと時を過ごすのであった。
    しかし途中でまたどういうわけか<生目神>が現れて、一太郎に問うた。「最近自分と親しい御仁と出会わなかったか」と。最近というのはどうも2年前のことらしいが、神と人の時間軸は違う。一太郎はそう言えば何か不思議な御仁に出くわしたような…と思ったが、分からなかった。生目神は今の一太郎に何か妙な感じを持っていた。この生目神の想いが一太郎を救うことになるのだ。

    ④<雨の日の客>
    火事の日から1年、松太郎が生まれて2ヶ月、江戸に大雨が降り掘りも川も水かさが増し、剣呑な状態になっていた。
    火事の延焼を防ぐために壊された離れの下敷きになって損傷した屏風のぞきを手当てするため本体の屏風は直しに出していたが、なかなか 元には戻らなかった。
    心配な一太郎は長く臥せっていて、鈴彦姫は本復を祈願して雨の中、稲荷神社へ百度参りをしていたが、暴漢に襲われる。それを助けたのが利根川の河童の親分、禰々子だ。鈴彦姫は禰々子を「長崎屋」に連れて行くが、不思議な珠を持っていて記憶をなくしていた禰々子はそれが何かわからなかた。
    川が氾濫し長崎屋も危なくなってきた時、神社の宮司達神職の男3人がやって来て珠を返せと言ってきた。その時一太郎は珠が龍神の目だと気付き、窓から珠を差し出すと雷と共に龍神が現れ、珠と共に消えた。雷のショックで記憶を取り戻した禰々子は水の中、利根川に帰って行く。
    佐助への別れの言葉に何故か顔を赤くする佐助、雨は止み始めていた。

    ⑤<始まりの日>
    時は現在、火事が起こる前、松太郎が生まれる8ヶ月前。一太郎が仁吉、佐助と一緒に松之助に子が出来たお祝いを持って行く道すがらの出来事の話だ。
    一太郎が道の分かれ道で比売神を見てしまう前に生目神が比売神をたしなめていた。そして見えぬように隠れたことで一太郎達は右方向(馬手)ではなく、本来行く方向だった左方向(弓手)に行くのだ。
    それによりこの日起こるはずだったことが起こることで、起こるはずだった火事が起こらなくなるのだ。
    弓手に行った途中で、一太郎達は“時売り屋”という奇妙な商売をする「八津屋」の勝兵衛と出会う。勝兵衛は若い絵師からの再度の“時売り”の依頼を断っている時に偶然一太郎に出会い、「長崎屋」に“時売り”を願い出て来たのだ。“時売り”とは望む身分等を期間限定で用意する商売だ。若い絵師は高名な老絵師の高弟の身分を買ったのだが、期間が終わった後に再度買いたいと言ってきて2度はないと勝兵衛に断れたのだ。
    その勝兵衛が「長崎屋」から買いたいと願い出たのは『長崎屋の親戚として店でしばらく過ごしたい』という内容だった。一太郎はその怪しい依頼を即座に断ったが、後日勝兵衛は番頭の佐右衛門を伴って「長崎屋」にやって来て、藤兵衛に願い出るがやはり断られる。何日もやって来るが断られ続ける。
    数日して勝兵衛が夜道堀へ突き落とされ、溺れかけるという事件が起きる。恨みを持つ者何人かが上がったが、実際の犯人は佐右衛門だった。
    佐右衛門は勝兵衛から「八津屋」の番頭の身分を買っていたが、店そのものを乗っ取ろうとしていた。勝兵衛は一太郎に助けを求め、一太郎は助けることにして助言をする。
    佐右衛門が町名主に証文の書き直しを願い出る前に勝兵衛が町名主に会って事情を説明をしなければならなかった。町名主は出掛けていて留守だった。焚き火の揉め事に呼ばれたらしい。一太郎はすぐにその場所を推理し、その場所へ勝兵衛と向かう。以前若い絵師が焚き火でボヤ騒ぎを起こした絵師の住む長屋近くの空き地だ。
    火事になりかけた焚き火はボヤで収まり、勝兵衛は店を乗っ取られずに済んだ。
    「長崎屋」の庭でほっとしていると生目神が比売神を連れて現れ、一太郎に話す。「これより先は、弓手の道」「始まるのは、知らぬ明日」と。そして最初から無かったかのように消えた。


  • 人生は選択の繰り返し。
    選択によって出会う人、出会わない人が出てくる。
    今回は一年ごとに遡って話が進んでいくので、何度か前のページに戻って読み直したりしました。

  • 若だんながどんどん頼れる人に成長しているようなそうでもないような
    今この日々の中でほっと出来る小説

  • 弓手(ゆんで=左)馬手(めて=右)
    という題名。若だんなが4年前右に行ったばかりにいろんなことが起こる第9作。
    最初、お話の展開がわからず、2度繰り返して読みました。
    結局、何事も起こらなかったことになったらしく
    火事でいなくなった屏風のぞきも次回作ではちゃんといます(笑)
    ちょっと理解しにくいストーリー展開だったし
    せっかくの素敵なキャラ(今で言うなら宝塚の男役のような)の
    禰々子さんとも会ったことを忘れてしまうのですが
    一つ一つのお話は面白かったです。
    やはり、9作目ともなるといろんなことが起こりますね〜
    これからも楽しみです。

  • 解説に書かれていてやっと内容が理解できました。はじめが4年後、次3年後、2年後、1年後そして今というストーリーの流れでしたか。 屏風のぞきが黒焦げ、という話でなかが進んでいくとそうでもない、どうなってんのか思っていました。 確かに義理兄の子供が何歳とあるので、それで年代が変わっていることが分かるのですが。まあ、それにしてもストーリーが非常に凝っていて一話ずつでも結構味がある。
    今後の展開も面白そうです。

  • シリーズ9作目の本作は、いつも通りの短編5編の構成で、屏風のぞきの修復に関する話や上方からの嫁騒動、化け合い合戦で盛り上がるお花見、豪雨騒動に巻き込まれる話、時間を売る謎の商売する男との話とどれも若旦那と妖との良い掛けあいが、なかなか面白かったです!

  • 五つの話からなる短編集。
    屛風のぞき、カムバーック!(泣)初っ端から悲しい思いにとらわれた。読み進めていくうちに、なるほどそういう事かと、安心した。作者の飽きさせないストーリー仕掛けに感服する。

    「始まるのは、知らぬ明日」

  • いきなりの展開にシリーズ一冊読み飛ばしたのかと思いきや、時を遡っていく不思議なお話。
    いつもしゃばけシリーズの素敵なタイトルに惹かれるのですが、今回もゆんでめて=弓手、馬手という言葉を初めて知りワクワク。
    かなめにおね。別の道に迷い込んで出会う魅力的な人々。
    長い夢を見ているようなもうひとつの物語。
    シリーズの中で一番好きな一冊になりました。

  • 弓手(左)、馬手(右)。
    その日、とある妖しを見かけた若だんなは、そのあとを追って左の道を行くところを右へ行ってしまった。
    そこから始まる数年の物語。

    左右の選択の違いから、そのあとの運命ががらっと変わってくる。
    それぞれに災難もあるし、出会いもある。

    さあ、どちらの道を進む?

  • 最初のお話で、大好きな屏風のぞきに異変があって、いったいどうしたかと驚いて、続きが気になって気になって隙間時間に必死で読んでました!
    一番好きお話はこれまでも登場した数々の顔なじみも一同そろって、人も一緒に花見ができた「花の下にて合戦したる」! 読了後、花見がしたくなる素晴らしいお話でした。

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著者プロフィール

高知県生まれ。名古屋造形芸術短期大学卒。2001年『しゃばけ』で第13回日本ファンタジーノベル大賞優秀賞を受賞し、小説家デビュー。「しゃばけ」シリーズは、新しい妖怪時代小説として読者の支持を受け、一大人気シリーズに。16年、同シリーズで第1回吉川英治文庫賞を受賞。他に『つくもがみ笑います』『かわたれどき』『てんげんつう』『わが殿』などがある。

「2023年 『あしたの華姫』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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