魔女の1ダース―正義と常識に冷や水を浴びせる13章 (新潮文庫)

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (294ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101465227

作品紹介・あらすじ

私たちの常識では1ダースといえば12。ところが、魔女の世界では「13」が1ダースなんだそうな。そう、この広い世界には、あなたの常識を超えた別の常識がまだまだあるんです。異文化間の橋渡し役、通訳をなりわいとする米原女史が、そんな超・常識の世界への水先案内をつとめるのがこの本です。大笑いしつつ読むうちに、言葉や文化というものの不思議さ、奥深さがよーくわかりますよ。

感想・レビュー・書評

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  • 『サウジ・アラビアの王子様のひとりが日本を訪れ、たまたま目にした車に心底惚れこんでしまった。「豪華で華やかで気品があって威厳がある。これぞ余が捜し求めていた理想の車じゃ」というわけで、さっそく買い求め、今も国で愛用しているという。
    ・・でも、おそらく日本人には、この車を毎日乗り回す気は絶対起こらないだろうと思う。
    さて、この車は何でしょう? 』

    答えは・・・「霊柩車」。
    笑い話ではない。この本に登場するのは「ところ変われば品変わる」の様々な事例。
    国や地域が違えば文化も言語も習慣も違う。
    それと同じように何が正義で何が常識なのかも違う。
    マナーもルールも、ついでに理想も願望も違うのだ。絶対的価値など、無に等しい。

    モスクワには今も2万人の魔法使いがいるらしく、その魔法使いたちの「悪魔と魔女の辞典」によれば「ダース」は「13個ひと組をさす」のだという。
    もっともこの辞典には、こんな言葉も載っている。
    『思いやり=弱者に対しては示さず、強者に対して示す恭順の印
    謙遜=自慢したいことを他人に言わせるための一種の方法』
    笑える。この毒が、出来れば眼を背けたい真実を指しているようで、笑ってしまう。
    ということで、異文化、あるいは異端がこれでもかというほど紹介される。
    最初に載せたサウジ・アラビアの王子様の話もそのひとつだ。

    さすがはロシア語の同時通訳者としていくつもの修羅場をかいくぐった方だけのことはある。
    鋭い観察力と記憶力と、その描写力。
    もう何度吹きだして笑ったことか。
    「オリガ・モリソヴナの反語法」がとても良かったので手に取ったが、米原さんは小説だけじゃなくエッセイもとてもお上手。
    ただ困ったことに下ネタがとても多い。
    ひとつふたつなら笑える範囲だが、あまりに多いと辟易してくる。
    もうひとつ困った点は、自虐史観が過ぎること。
    素人の私でさえ気が付くほどの認識間違いが多くて、時々悲しくなってきた。
    そういった点が気にならないという方にはおすすめ。

  • 「常識」というある種の「先入観」に凝り固まった「大人」に思いっきり冷や水を浴びせかける軽妙なエッセイ「13」章。

    私たちの「常識」では1ダースといえば12。ところが、魔女の世界では「13」が1ダースなんだそうな。そう、この広い世界には、あなたの常識を超えた別の常識がまだまだあるんです。異文化間の橋渡し役、ロシア語通訳をなりわいとする米原女史が、そんな超・常識の世界への水先案内をつとめるのがこの本。

    全編を貫くのは、世の中に絶対というものはないという警鐘。いわゆる常識、先入観、思いこみがどれほど当てにならず誤解のもとになるか。例えば体型に関する意識調査では、80%もの日本人女性が自分の体型に不満という結果が。悲しいかなマスメディアもファッション誌もブティックのマネキン人形も、こぞって八頭身欧米人型体型を「理想」として日本人の脳味噌にインプットし続けた結果だと著者は喝破しています。その考えに触れるだけで、ふっと心が軽くなる。
    どんなお偉方も権威も、下ネタも、米原女史の手にかかれば相対的に描かれて唸ります。米原氏が師匠と慕う徳永晴美氏に言わせればそこは「宝石箱と汲み取り式便槽の中身を一挙にブチマケタような、おぞましい知の万華鏡の世界。だが、恐れてはならない」。飛び込めば、実に爽快な世界です。

  • ああ醒めやらぬ通訳熱。田丸公美子さんに続き、最強ロシア語同時通訳、米原万里さんの著書に突入です。1ダースといえばもちろん「12」ですが、「魔女の1ダース」とは「13」なのだそうな。異文化間のコミュニケーションを担う通訳の現場には、個人の「常識」の枠を超えた「超常識」に遭遇するエピソードが満載。目まぐるしいテーマ展開で、読者が「正義」や「常識」と思い込んでいるものを、コーナーを取られたオセロのごとく次々とひっくりかえしてしまうエッセイ集です。

    古今東西の歴史書や文学作品を自在に引用し、圧倒的な語彙量を縦横無尽に使いこなす。それこそ魔女のような著者の知性を讃え、徳永晴美氏が本書を「宝石箱と汲み取り式便槽の中身を一挙にブチマケタような、おぞましい知の万華鏡の世界」と表現したのは言い得て妙だと感心してしまいました。

    読書家の文章にはいつも感じ入るものがありますが、特に通訳の方々はもう別格です。そのお話の面白いこと、その語彙の豊富なこと、黒子に徹するとおっしゃりながら、その表現力の鮮やかなこと!米原さんは語彙が多いだけではなく、その使い方も面白いのです。例えば、海に千年山に千年、山を鋳海を煮る、父の恩は山より高く母の愛は海より深し、海のものとも山のものとも、などなど、山と海をセットで使う諺は多いですね。でも「たくさん」は「山ほど」としかいいません。それを米原さんは「この習性のおかげで成功している人は山ほどいる。もちろん失敗している人も海ほどいる。」というように、さらりとアレンジしてくれるのです。

    「何が根幹で何が枝葉末節かが分からないのに、快刀乱麻を断つなんてことはいうまでもなく不可能だ。」と四字熟語の連続技を繰り出してきたと思えば、「畳と女房は古くても畳と女房であり続けるが、情報は古くなると情報ではなくなる。」と諺を発展型にしてしまったり。

    「まず通訳をやってギャラを貰い、その内容のおいしい部分を雑誌に書く。それを元に単行本を出し、それが文庫本になる。一粒で四度おいしい。グリコも顔負け。」と徳永晴美氏のおっしゃる通訳という生業。こんなに奥が深い表現者の仕事を、十年前「英語が話せる人なんていくらでもいる」と見限ってしまったことが悔やまれてなりません。同じヤクシャでも役者を見て「台本を読んでいるだけだ」とは思わないように、通訳者を見て「他人の言葉を訳しているだけだ」と思うべきではなかったと、最近になって反省しています。今は、どんな仕事にもその人らしい表現があって、その表現方法を磨いていくのが面白いのではないかと思っています。

    本書で一番心に残ったのは「良い文章を書くには、良い文章を沢山読め」「モノを見る目を養うには、イイモノを沢山見よ」とのアドバイス。これは外国語学習にもあてはまる戒めで、つまり音韻的にも、語彙的にも、形態的にも、文法的にも正確なパターンを初期の段階で徹底的にインプットすることが、新たな言語を身につける基本なのです。努力次第で改善が見込める分野にはどんどん理想パターンを取り入れ、容貌とか年齢とか努力の余地のない分野にはゆめゆめ理想など描かないこと。これが米原式「幸せになるコツ」なのだそうです。

  • 少し昔の本ですが、筆者の米原万里さんの魅力的なこと。
    ロシア語の同時通訳として活躍された方で、様々な人々が共存していくことへの鋭い洞察力を感じます。
    既にお亡くなりとのこと、今の世を見たら、どんなことを語ってくださるのか、聞いてみたいものです。

    常識というのは、属する世間での勝利の方程式みたいなもので、世間が変われば、その方程式は通用しなくなるのでしょうね。いつの間にか、それを絶対視してしまうのは、愚かなだけでなく、恐ろしいことだと感じました。

  • 【本の内容】
    私たちの常識では1ダースといえば12。

    ところが、魔女の世界では「13」が1ダースなんだそうな。

    そう、この広い世界には、あなたの常識を超えた別の常識がまだまだあるんです。

    異文化間の橋渡し役、通訳をなりわいとする米原女史が、そんな超・常識の世界への水先案内をつとめるのがこの本です。

    大笑いしつつ読むうちに、言葉や文化というものの不思議さ、奥深さがよーくわかりますよ。

    [ 目次 ]


    [ POP ]
    人間界では12、でも魔女界では13が1ダース。

    常識だと思っていることも、時代や言語や文化が違えば、「経験則絶対化病」にしか過ぎないこともある。

    博覧強記の著者に、思い込みをひっくり返される快感がたまらない。

    自分を突き放して第三の目で見ることの大切さも身につく。

    [ おすすめ度 ]

    ☆☆☆☆☆☆☆ おすすめ度
    ☆☆☆☆☆☆☆ 文章
    ☆☆☆☆☆☆☆ ストーリー
    ☆☆☆☆☆☆☆ メッセージ性
    ☆☆☆☆☆☆☆ 冒険性
    ☆☆☆☆☆☆☆ 読後の個人的な満足度
    共感度(空振り三振・一部・参った!)
    読書の速度(時間がかかった・普通・一気に読んだ)

    [ 関連図書 ]


    [ 参考となる書評 ]

  • 言葉から発想する意味は、国によってそれぞれ違うのだと章を読むにつれて面白く理解しました。常識がなくなる世界が翻訳の世界なのだということも実感しました。違う目線にたつことが驚きと同時にひやひやものだということを知り、翻訳者のすごさを感じました。

  • 非常に面白かった。ところ変われば、である。読みやすいし、著者の言葉の豊かさに身が引き締まる。

  • 「豊か」ということを感じる。知識がひろく、懐が深く。異文化を知り、正義や常識は同一でも不変でもないことを知っていることにも拠るのだろうか。
    自分を知るためには、他者を知らなければならないのだな、と反省。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「正義や常識は同一でも不変でもないことを」
      判りきったコトだけど、普段は同じ範囲(結界と言っていいかも知れません)の中だけで生きていると忘れ...
      「正義や常識は同一でも不変でもないことを」
      判りきったコトだけど、普段は同じ範囲(結界と言っていいかも知れません)の中だけで生きていると忘れてしまう、痛い事実を突いていますよね。。。
      2013/03/13
  • 私たちの常識では1ダースといえば12。ところが、魔女の世界では「13」が1ダースなんだそうです。こういう話を皮切りに私たちが日ごろ思っている事を超えた別な常識があることをこの本では教えてくれます。

    故米原万里女史のエッセイです。彼女の綴る異文化論は下ネタも交えつつ、物事の本質を鋭くついてくるので、読んでいてアハハハハと笑いながら、最後にはしみじみと『そういうことなのか』とうなづく自分がおりました。

    例えばキルギスの中華料理はどれもこれも羊の脂まみれで閉口した米原女史が厨房に講義に行くといきまいたところで、食席をともにしていた大統領最高顧問は腹を抱えて笑いながらキルギスの銀行家と日本の中華料理店に入ったときチャーハンというのはもっとひたひたの脂の中に入っていなければならない、俺が今から厨房に抗議に言ってくる。とまったく同じことを言っていたときのエピソードや、

    「ロシアのベトナム人」という箇所では、空港で、たくさんの荷物を持ち込もうとしてロシア兵に後ろから首根っこを捕まれて引きずりまわされるベトナム人がいる中で、その隙間を別のベトナム人がすり抜けようとし、またロシア兵がそれを捕まえるという光景が空港中で繰り広げられ、まるでドリフのコントのような世界になっている中で一人のロシア人がそれを見ながら
    「イヤー、ベトナム人ってのは、大したもんだぜ。あれじゃ、アメリカが負けるわけだよなぁ」
    とつぶやき、米原女史がまず大笑いをし、それを同行している日本人のスタッフに通訳してあげると、彼らもたちまち笑いの渦に巻き込まれたのだそうです。

    こういう状況になっても、それを笑い飛ばせるのは、やはり強さがないとできないことなので、その辺は僕も見入ってしまいました。ここで取り上げているほかにも、言語の習得に関する考察や、彼女が通訳の傍らやっていた添乗員でオペラ劇場でのお話も非常に面白かったので、ぜひ一読をしていただけたら、と思っております。

  • この人の本ピカイチだなぁ。どの話も当たり前だと思っていたことを覆され、新しい視点から人間の本質を見ることができた。あと、本当に世界は広いし知らないことがたくさんだとも気づかされた。シンポジウムに参加した、日本、ロシア、アメリカの学者の話が1番のお気に入り。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「この人の本ピカイチだなぁ。」
      観察眼と記憶力に機転が利き、違いに動じないから「通訳」と言う介在役が出来るんだと納得しました。
      しかし早過ぎ...
      「この人の本ピカイチだなぁ。」
      観察眼と記憶力に機転が利き、違いに動じないから「通訳」と言う介在役が出来るんだと納得しました。
      しかし早過ぎましたね、もっと色々文字に起こして欲しかったです。。。
      2013/01/22
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著者プロフィール

1950年、東京生まれ。翻訳家、エッセイスト、小説家。『不実な美女か貞淑な醜女か』で読売文学賞、『?つきアーニャの真っ赤な真実』で大宅壮一ノンフィクション賞受賞。2006年没。

「2016年 『こんがり、パン おいしい文藝』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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