働くことがイヤな人のための本 (新潮文庫)

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (223ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101467238

作品紹介・あらすじ

「仕事とは何だろうか?」「人はなぜ働かねばならないのか?」「生きることがそのまま仕事であることは可能か?」-引きこもりの留年生、三十過ぎの未婚OL、中年サラリーマン、元・哲学青年の会社経営者といった人物との架空対話を通して、人間が「よく生きること」の意味を探究する。仕事としっくりいかず、生きがいを見出せない人たちに贈る、哲学者からのメッセージ。

感想・レビュー・書評

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  • 何冊か読んだ著者の本の中で一番"まとも"。何千円もする翻訳書を買ってきて,最初の頁からノート取りながら勉強したら少しは賢くなる,こんな幻想は捨てろと説く。いまの仕事が嫌だから頑張って毎日文章書く練習して小説家を目指そうなんて,考えている以上に高いハードルが幾つもあるから止めろと説く。こんな説教じみた話のオンパレード。しかし一定の年になり,会社員やって毎日過ごしていると,これは真実だなと思えてくる。それは決して夢を捨てるとか,人生を諦めたとかいうこととは違う。あまりに若く幼いと,その違いが見えないわけだ。

    仕事で疲れることが多く思わず再読いっき読み!。本屋には仕事に関する本が山と積まれ,叱咤激励して成功へと誘う本,逆に成功だけが全てではないからあくせくするなと説く本,この二つに大別される。しかし人生とは思い通りにならないのが当たり前であり,ぼんやりしてても棚からぼたもちも有り得るし,品行方正にしてても罪を被ることもあるし,悪事を働きまくっても賞賛され賛美されることもある。社会に出て仕事をするとは,これら理不尽さを全て受け入れ,もがき,ため息をつくということ。だから尊いと説く。この哲学者が大好きになった一冊。

  • テーマはあまりそそられなかったが、斎藤美奈子氏が解説を書いていたので手に取った。構造的な問題には全く触れず、個の問いとして終始一貫、捏ね繰り回す...。金にならない仕事や著者の父親のエピソードは共感。それ以外は、たぶん捨てる。

  • ポジティブな本があふれる中で、この暗さは希少価値がある。

    30代前半でこの人の本を読んだとき、なんてネガティブなんだ、こんなふうにはなりたくない、私はちがう、と嫌悪感を抱いたが。15年以上を経て50に近づくとこの人に激しく共感するところ多し。

    処世術としてポジティブな考え方やふるまいは身に着けた。だけど私は知っている。

    人生は理不尽である。私にある種の才能がなく、誰かに才能があるのは理不尽である。誰かが偶然の理由によって機会を得て成果を出していくのを見るのはつらい。
    負けたくはない。みじめな気分を味わいたくはない。自分はやっぱりだめだということを認めたくはない。苦しい。なので逃げ出したい。

    ・・・という、心の奥底に確固として存在する消しきれない不安や不満。

    彼はそこだけを徹底的に見つめているように見える。それでいて、光も見出している。(不条理の中ででも、報われなかったとしても、自分が好きなことをやっていく、という光。)
    恋愛で傷ついている時に慰めてくれる友達や歌が必要であるように、仕事で傷ついて希望が持てないときに、この本は私のそばにいてくれる。

    働く限り苦しさは続くのかもしれない。でも、この人はそのことを誰よりも知っていて、その事実を一緒に受け入れる仲間である。

    希望を持つならば、私が持つ固有の才能、条件が、私をよりよい場所へ連れて行ってくれることを。そして今日も小さくあくせくともがく。

  • 読書メモを、感想にしてしまいました。。。

  • ★本書のメッセージ
    一言では言えないが、自分にとって、生きるとは、仕事とはどういうもなのか哲学し続けよう。自分にとっての真実を探しつづけるしかない。この世と社会は理不尽にまみれている。それと付き合いながら、哲学を続けるしかないのだ

    ★読んだきっかけ
    戸田氏の「働く理由」に引用されていた。タイトルが刺激的で興味をそそられた

    ★本の概要
    哲学博士である著者が、架空の人物4人との対話を通して、「働くとはどういうことなのか」「生きるとはどういうことなのか」議論を深めていく。著者自身は東大を出ながらも引きこもり経験があったりと、なかなかニヒルな感覚の持ち主。社会や人生は理不尽に満ち溢れていると考えており、その前提で議論が出発する。私も、いらないことをくよくよ考える内向的なタイプなので、こういったスタンスの著者は好き。

    ★本の面白かった点、学びになった点
    p16...."あなた方を「救おう」としている。その手に乗ってはならない。あなた方の悩みはとても健全な悩みなのだから、それを大切にしなければならない。あなた方は悩みつづけなければならず、そこからごまかしのない固有の手応えをつかまねばならい。それには、辛抱強く自分の声を聴く訓練をしなければならない。そこからいったん脱して、何が自分にとって重要なことかとことん見る訓練をしなければならない
    →自分にしか分からない、仕事の悩みというのは存在する。だからこそ、周囲の人が簡単に説き伏せようとも、その声に屈してはならないのだ

    p40...社会に出て仕事をするとは、この全て(理不尽)を受け入れるということ。その中でもがくということ、その中でため息をつくということなのだ
    →やや悲観的すぎる気もするが...それほどまでに、社会に、絶望しきっているような人がいることには、なんだか安心を覚える

    ・世の中は理不尽である。しかし、それを見つめようとする人は少ない。なぜか。そうしなければ、理不尽さに耐えられないからだ。納得いかないことに、納得をしておくほうが、楽なのだ

    p60...以下の文と出会えただけでも、この本を読んだ価値があった

    きみはたいそう仕事に対して理想が高い。その基準をけっして落とそうとはしない。だから、必然的に現実にはなんの仕事も見いだせないことになるんだよ。それを知りながら、心の底では理想をあきらめることがない。これおは、それ自体としてとらえると悪いことではない。むしろ、きみをよい方向に導く要素になりうる。私は「身のほどを知れ!」というにおいを発するお説教は大嫌いである。たしかに、身の程をしれば、何らかの仕事が与えられるかもしれない。そこで妥協し、自分のうちから湧きあがる欲求をぐいと抑えつけ、考えないように考えないようにすれば、いずれその仕事がぴったり肌着のように合ってくるかもしれない。ただ金を貰うために働けばそれでいいと言い聞かせて、みずからをだまし抜くことにも成功するかもしれない。それも一つの人生だ。
     しかし、きみはそれで納得できないんじゃないかと思う。きみはそれほそ巧みに自分をだませないんじゃないかと思う。だまし抜いた一生を終えて、60歳になる自分を想像したとき、冷や汗が出るんじゃないかと思う。
     とすると、きみはみずからの欲求に耳をふさぐのではなく、逆にその声かわずかなヒントでも見出して、何をすべきかを徹底的に考えなければならない。あえて言おう。きみのような青年は、たとえ不幸になっても、「身のほどを知らない」生き方を熱心に探究すべきだと思う。たとえ、きみが不幸に陥り家族など周囲の者を不幸に陥れることになろうとも、その生き方を貫くよりほかしかたがないと思う。
    p64...せせこましいこだわり、醜いと思える弱点こそが、自分の強みとして生きることもある

    ・不遇な立場にいるものが泰然としていると、なまいきということになる
    ・近代以降は能力以外の不平等を認めない。才能や生まれに差はあるが、そこにおける差が決定的なものだとは考えない社会になっている

    p182...「生きることがそのまま仕事であるような、そうした仕事を求めるべきだということがわかるのではないか?」
    →ワークライフバランスとか、ワークアズライフとかいった言葉が流行る前から、こうした言葉が、本に登場しているのは、さすが

    ...「仕事」と聞いて、思い浮かべる光景は2つに分かれる。一つは賃労働としての仕事。もう一つは「人生それ自体を対象とする仕事」である

    ●本のイマイチな点、気になった点
    特にないが...。答えを提示するような本ではない。むしろ、働くということは理不尽な行為であり、それとどう付き合っていくかは、各々考えなければならないね、といったことを提示している本。軽い本ではない。ただ、人生に迷えば、働くことに悩むことが来れば、また読みたい本

    ●学んだことをどうアクションに生かすか
    自分の欲求に耳を傾け、自分が何をやりたいのか、何をしなければならないのか、徹底的に考え続けること。そのための苦労や労力をいとわないこと

  • こんなにも胸のモヤモヤを言語化してくれる本はなかったと思った
    仕事というものの意味ってなんだろう、しなくては生きていけないけど、命をかけるまでの意義を見いだせない、そういう人に読んでほしいと思った

    中島義道の本に出会ったのは大学の政治学の授業以来
    最近売れていて自分も読むのは、自分を癒やしをするけど、そこから立ち上がって、立ち向かえと奮い立たせるものは耳障りが悪いのかなかなか出会えなかった

    仕事をする、ひいては生きることの虚無を考えることから、子供が生まれた、昇進した、という色々な出来事によって、これでいいのだと手を引いてしまうが、そこに向き合うことで生きては死んでいく虚無、善く生きることを考える必要があるという現実を突きつけてくる。
    しかし、考えているだけではダメで、また考えてないように見える社会に適応した人のことを下に見て生きていくのはあまりにも愚かだ、社会の理不尽に向き合ってこそ善く生きられるんだとこちらも現実をつきつめてくる。

    社会に出て人との軋轢や不条理に巻き込まれることはたしかに怖い、けれどそこに立ち向かっていかなければ、自分の生は空虚なものになってしまう。
    だから、理不尽を糧に自分の人生を生きていく決心をしろと言われていると思った。

    悔しいけれど、社会にもう一度向き合おうと思わせてくれたこの本に感謝したい

  • ひとつひとつのフレーズは結構好きだし、自分が考えていたことはくだらないことでは無いんだと思える作品。
    でも、全体を読み終わると結局何が言いたかったのだろう???という感想になる。

    いつかは、働かなければならない。そうでなくとも何かしらでお金を稼ぐか何かしないと、一般人としての生活は難しい。

    「なんで働かないといけないの?」
    という問いに対して、ひたすら哲学的に、その気持ちの根源はなになのか、その問いはどうして生じるのか。それを、ひたすら複数人で問い続けていく。

    架空の人物との対話形式ではあるが、筆者の一人一人の発言を否定するのではなく、なぜそう思うのかを掘り下げていく様子はすごく参考にしたいと思った。

  • 働く事に不安を抱き働きたくないと考える人は読むべき本。人が本当の意味で生きる時に、どうすべきかヒントが書かれている。生きる事は理不尽の連続だけれど、それも生きる醍醐味の一つだと感じられれば楽になるのではないか。働きたい人が読んでも楽しめる。

  • おすすめ本の交換イベントでやって来た本。2度と会うことはない方だけど、この本をなぜ求め、読んで何を思ったのか、なぜおすすめしようと思ったのか聞いてみたい。斎藤美奈子さんという方のグチャグチャした本という印象を語った解説、よく分からないというのは同感だけど、「何もなしとげたことがないと言えることがない人ほど死の不条理を味わい尽くせる」、「価値あることをなしとげたと評価されたとしても、せいぜい数百年や数千年しかもたない」という内容に生きていていいのだ、これでいいのだという気持ちに少しなれた。

  • 2022/05/06 16:43
    働くことが全面的に嫌なわけではないのだが、齢55にして、今の仕事は18年目なのにもう面白さというか意義というか、いやそれぞれそれらはあるし分かってはいるつもりなのだけど、そしてもう18年もやっているのだから性に合う合わないで言えば合っているのだと思うのだけれど、明日からもうできませんと言われても、それが生活できなくなることに繋がらないので有ればそれはそれで致し方ないかな、なんて思ってしまっている。もう今更何か違う仕事を探すにしても一からやってる時間はないように思えて、ここ2、3年は本当にモヤモヤしている毎日なんだよな。お金の問題はあるにしても、いっそのこと、目に見えて目の前に困っている人がいて、その人の困りごとを解消するための何かができるような仕事をしたいなとか、本当に正しいことをしたらいいんじゃないかとか漠然と考えているのだが、図らずもこの本には最後の方にそれに近いような考え方も書いてあって、割と性に合う本だったように思う。
    これから目指していくべきは、そのいずれかもしくはその両方なんだろうな。

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著者プロフィール

1946年生まれ. 東京大学法学部卒. 同大学院人文科学研究科修士課程修了. ウィーン大学基礎総合学部修了(哲学博士). 電気通信大学教授を経て, 現在は哲学塾主宰. 著書に, 『時間を哲学する──過去はどこへ行ったのか』(講談社現代新書),『哲学の教科書』(講談社学術文庫), 『時間論』(ちくま学芸文庫), 『死を哲学する』(岩波書店), 『過酷なるニーチェ』(河出文庫), 『生き生きした過去──大森荘蔵の時間論, その批判的解説』(河出書房新社), 『不在の哲学』(ちくま学芸文庫)『時間と死──不在と無のあいだで』(ぷねうま舎), 『明るく死ぬための哲学』(文藝春秋), 『晩年のカント』(講談社), 『てってい的にキルケゴール その一 絶望ってなんだ』, 『てってい的にキルケゴール その二 私が私であることの深淵に絶望』(ぷねうま舎)など.

「2023年 『その3 本気で、つまずくということ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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