コンビニ兄弟―テンダネス門司港こがね村店― (新潮文庫nex)

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  • 新潮社
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レビュー : 61
  • Amazon.co.jp ・本 (352ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101801964

作品紹介・あらすじ

あなたの心、温めます。九州だけに展開するコンビニチェーン「テンダネス」。その名物店「門司港こがね村店」で働くパート店員の日々の楽しみは、勤勉なのに老若男女を意図せず籠絡してしまう魔性のフェロモン店長・志波三彦を観察すること。なぜなら今日もまた、彼の元には超個性的な常連客(兄含む)たちと、悩みを抱えた人がやってくるのだから……。コンビニを舞台に繰り広げられる心温まるお仕事小説。

感想・レビュー・書評

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  • 『慣れない土地に行くたびに思うけれど、コンビニって不思議な場所だ。どこの街であろうと、この中に入るだけでどこか親しみのわく懐かしい空間に変わる。同じような店内で、同じような商品が並んでいるからだろうけど、安心感のようなものを覚えてしまう』

    日本全国津々浦々まで広がったコンビニのネットワーク。様々なことがそこに行くだけで叶い、中には用の有無に関わらずそこに行くことが日課になっている、そんな風に私たちの生活には欠かせないものになってしまっているコンビニ。でも、あなたがそんなコンビニを訪れた時、店員さんを意識したことってあるでしょうか?いつも行くコンビニにどんな店員さんがいたかをパッと思い浮かべることができるでしょうか?

    『彼が甘く微笑んだ。その瞬間、耳を塞ぎたくなるような絶叫が店内に響き渡った』という店員。『百戦錬磨の熟女たちで構成されてい』るファンクラブを持っている店員。そして、もう一度会うと『わたしは底なし沼に落ちてしまうような気がする』と感じさせる店員。そんな店員が店長を務めるコンビニがここにあります。それが『門司港』にあるという『コンビニ「テンダネス門司港こがね村店」』。この作品は、そんなコンビニを訪れた人たちが何かを掴み、再び前を向いて歩いていく姿を見る物語です。

    『やあーん!あたしの方を見てよお!』、『やだ、わたしよ!』と『アイドルのコンサート会場のような悲鳴が巻き起こり、思わず』後ずさった『わたし』。『目の前で、蝶々みたいに華やかな女性たちがうつくしい花に吸いつこうと舞っている』という光景を目にして『え、ここ、普通のコンビニじゃなかったの?』と周囲を見回す『わたし』は『どうしてこのコンビニに寄ったのか、無意識に記憶を巻き戻し』ます。『車の免許を取って、中古の軽自動車を買』い、『ピピエンヌ号』と名付けた『わたし』。『自分の運転する車でドライブするのが長年の夢』だったという『わたし』は、『車を買って初めての連休』に『夢を叶えるべく』出かけました。当初、福岡を目指すも方針変更。『地図を探』ると『指先がひとつの地名に触れた』、それは『門司港…』。『聴き覚えのある地名だ』、『フィーリングが大事なのだ』と車を走らせ『二時間後、無事に門司港に着』きました。『キラキラした海に、レトロでかわいらしい建物たち』を見て『最高じゃん、ここ』と『ひたすらに歩き回って街を散策した』わたしは『お茶でも買おうと目についたコンビニに入』りました。『ペットボトルを』手にしてレジに向かうと『そこにはわたしが普段コンビニで目にしないような光景が広がっていた』という衝撃。『これから合コンでもあるのかなと思うくらいに綺麗に着飾ったお姉さんたち』、『レジカウンターの中にはひとりの男性がいて、彼に熱狂している』というその光景。『その男性はコンビニ店員とは思えないくらいイケメンで、『色気』と呼ぶべきものをぷんぷん匂わせていた』というその店員。『いつもありがとうございます。あ、今日は何だか印象が違いますね』、『えー!店長、私のことちゃんと見てくれてるのね…』、『店長、あたしも見て!あたしだって今日はネイルを変えてきたのよ』、『ああ、由宇子さん…食べてしまいそうに可愛い』と交わされる会話。そして『彼が甘く微笑んだ』瞬間『耳を塞ぎたくなるような絶叫が店内に響き渡った』という光景。『ここ、アイドルのコンサート会場なの』と戸惑いながらも違うレジで会計を済ませて店をあとにする『わたし』に『ありがとうございました』と声がかかりました。『あの男性店員が、わたしの方を見て微笑んでいた』のを見て『背中の奥、皮膚と肉の内側に守られた神経を直接撫でてくるような視線にぞくりとした』という『わたし』。そんな何かを秘めたイケメン店員が店長を務めるコンビニを舞台に、様々な人たちの人生のドラマが交錯しながら物語は展開していきます。

    『初めてのドライブ以来、大好きな観光地となった門司港の魅力をもっと多くの人に知ってもらいたい』と語る町田そのこさん。六つの短編がプロローグとエピローグに挟まれて、八つの章からなるこの作品。コンビニ『テンダネス門司港こがね村店』を舞台にした連作短編として構成されています。そして、このプロローグに登場する免許を取って初めてのドライブに赴く『わたし』とは町田そのこさんご本人という想定。もちろん、コンビニの部分は創作だと思いますが、作品に描かれるほどに『門司港』の街並みの印象が強く残られたのは事実なのだと思います。作品中でも『夜景の綺麗な所』として『和布刈公園で海を眺めてぼうっとしてた』という形で『門司港』の街の色んな場面がさりげなく、それでいて多数登場します。私は『門司港』には行ったことはないですが地元の方、もしくは行ったことのある方にはリアルな街なみをイメージしながら違う楽しみ方もでき、そして行ったことのない私にも”行ってみたい街”=『門司港』がインプットされました。

    そんなこの作品の舞台となるコンビニ・テンダネスは『九州だけで展開するコンビニチェーン』であり『「ひとにやさしい、あなたにやさしい」をモットーとし、その人気は他のコンビニチェーンに劣らない』となんだかとてもリアルな設定です。そして、そんなコンビニ『門司港こがね村店』を舞台にしたこの作品に象徴的に登場するのが『イケメン店長』の志波(しば)です。『フェロモンを泉の如く垂れ流している』とされる志波。しかし、その印象は、男女、年齢によってもかなり異なってきます。この作品はそんな様々な登場人物に視点がどんどん移っていく連作短編の形式をとっていますが、それが実に巧みに構成されています。まずは同じ店員の光莉(みつり)視点です。『目の前の男がコンビニエンスストアの店長だとは、どうしても思えなかった』という面接での出会い。『フェロモンを半永久的に垂れ流す源泉のような器官ができているに違いない』と思い、『志波ならばもっと他にも人心を鷲掴みにすることで利益を得るような仕事がある』のではとも考えます。そして、コンビニ店長という現在の姿が『才能ともいうべきフェロモンの無駄遣いであるといえる』と断じる一方で『志波の人気は、絶大だ。出勤するとしないとでは、売り上げが違うほど』と、その存在の大きさに一目置いています。しかし、視点が変わるとこの印象が少し崩れていきます。同じ女性でも高校生の梓(あずさ)視点だと『レジでは、近寄ると背筋が痒くなる男性 ー 店長が胡散臭い笑みを浮かべて立っていた』とフェロモンに影響されていない様子がうかがえます。『店長がレジに立っていると避けたいほどに変なオーラがむんむん立ち上っている』と、マイナス視点にまでなってしまうその見方。さらには65歳で定年退職した多喜二(たきじ)視点ではさらに辛辣です。『ああいう男は、平気で女を食い物にする』と警戒するその姿勢。『俺は何百何千という人間を見てきたし、使ってきた。だから分かるんだ。あれはろくでもない男に違いない』とまで言い切る多喜二。濃すぎるキャラは万人に受け入れられるわけではないという結果論ですが、その一方で各短編内では、志波目指して押し寄せる女性陣が一貫して描かれることもあって、読者としてはなんともシュールな光景を第三者的に見ることになる、そんな印象も受けました。

    しかし、そんな見かけの印象だけでは志波の本来の姿は見えてきません。物語では、志波は、全く違う外見で対照的な兄弟として登場するツギとともに、コンビニを訪れる人、そして彼らと関わった人の人生を変えていく起点の役割を果たしていきます。それは、直接という場合、もしくは場面の背景としてゆるやかに登場する場合の両方があります。強烈なキャラが、色んな人たちの人生の転機に、起点に関わっていく人物というと、柚木麻子さん「ランチのアッコちゃん」のアッコさん、古内一絵さん「マカン・マラン」のシャールさん、そして青木美智子さん「お探しものは図書室まで」の司書の小町さん等が思い浮かびます。彼女たちに共通するのはいずれも短編の各話に登場したり書名になっていたりはするものの、主人公は各話にそれぞれ別に登場し、あくまで彼女たちは脇役であるという点、そして、全員女性(シャールさんも一応、女性枠)であるということです。一方で、この作品ではそれが男性であるという点がまず異なります。ただし、普通の男性ではなく、特別な立ち位置とすることで他の作家さん同様の独自のカリスマ的立ち位置は確保しています。しかし、上記の通り人によって見え方は千差万別であり、この辺り、逆に志波もあくまで普通の人間であるという側面も同時に感じさせるなどとても上手い構成がなされていると思います。そして、この作品で一番大きいのは、最後の〈エピローグ〉で、志波自身に視点が移ることになる点だと思います。他の作家さんの上記した作品では、この特別な立ち位置の人物に視点が移ることはありません。何を考えているのだろう、本当はどういった人物なのだろう、ということは全て読者の想像に委ねられます。そこに、ある種のカリスマ性の高まりを感じさせるその演出。それに対して、まさかの志波視点が登場するこの作品。これはかなりの冒険であり、この作品の独自性を強く感じる部分だと思います。そして、そこで語られるのは、志波の内面、フェロモンの泉の根源。それは、『料理の仕上げは愛情だというけれど、接客の仕上げも愛情だと思う。ぼくはいつだって、いま目の前にいるひとへ愛を込めて微笑むことを意識している』という純粋なまでの志波の真実の姿。一切の打算なき真摯な一人の人間の姿。そんな志波の内面に触れることのできる〈エピローグ〉。見かけの派手な印象だけではない志波の真の魅力を感じさせてくれるとても上手い演出だと思いました。

    “漫画家になる夢を諦めないまま何となく生きる塾講師”、”仕事に邁進して家庭を顧みないまま定年退職して時間を持て余す初老の男性”、そして”閉塞感のある毎日を過ごす二人の女子高生”などが各短編にそれぞれ登場するこの作品。それぞれに思い悩み、前に進むきっかけを得られずに戸惑う日々を送ってきた彼ら。そんな彼らが利用するコンビニと、そこで店長として働く志波兄弟との運命の出会い。しかし、私たちがそうであるように、コンビニを訪れてもそれ自体が私たちに代わって何かを解決してくれることなどありません。私たちの人生はあくまで私たちそれぞれのものです。どんな悩みも最終的には、私たちそれぞれが立ち向かい、解決していくしかありません。しかし、そのためにはきっかけが必要です。前に進むための最初の一歩、それを掴むための起点となる場、それを与えてくれたのが、コンビニに集う人たちの人を思う力でした。そして、そんな人たちが集う原動力となっていたのが、店長の志波の存在でした。『誰かの人生の欠片でも、手助けできたら、いいよね』と語る志波。そんな志波が店長を務めるからこそ、そこに集まった人たち。そして、そこから繋がった、そこから動き出したそれぞれの人たちの未来。

    ああ、私もこのコンビニに行ってみたい。まずは『門司港』へと赴いてみたい、そんな風に感じた、とても爽やかな読後感に満たされる作品でした。

  • 舞台はコンビニ「テンダネス門司港こがね村店」の一冊。
    個性的な登場人物達がさりげなくちょっとした気づきを、言葉を添えてくれる物語は笑い有り、刺さる言葉多々あり。

    心の変化や友情、夫婦関係等には気がつけば涙が溢れていた。

    読みながらゆっくりほどよく温められていくようなこの感覚、やっぱり町田さんだ。良かったな。

    ここにくれば誰かがいる、さりげなく見ていてくれる安心感。

    一歩入れば心にもビタミンチャージ。

    こういう場所って誰しもが求めたくなるし、人には必要だと思う。

    ほどよく心もチン!をまた味わいたい。

  •  九州だけに展開するコンビニチェーン「テンダネス」の「門司港こがね村店」をめぐる6話。
     レジ前にはきれいに着飾ったお姉さん、おばさんたちが群がって、アイドルコンサートのような悲鳴をあげている。そしてその先には、「フェロモンを泉の如く垂れ流している」このコンビニの店長である志波の姿。
     「なんじゃそら。」と、はじめこそ思ったものの、どの話も心にしみて温かい気持ちになるものだった。
     コンビニのイートインスペースが人と人とを結び付けてくれる場所になったのも、志波の仕事への愛情から始まっている。「仕事」でなくてもいいが、自分はどんなことに喜びを感じるのか自分を見つめること。それがわかったら、いろいろな形を考えれば実現できる。それを始めるのはいつになっても遅くはない、と6話を通して思った。
     ぜひドラマ化してほしい。「フェロ店長」は絶対にオダギリジョーで。

  • 表紙の耽美系のイケメンのイラストと、プロローグを読んだ印象で、今回の町田さんの作品は、ライト層向けかなと思ったが、読んでいくうちに、ああ、やっぱり町田さんの作品だと実感しました。

    他の作品でも書きたかったのですが、町田さんの作品を読むと、何か大切な事を思い出させてくれる気がして、自然と涙ぐむようになるのは何故なのかと思っていたのですが、どうやら私の場合、過去の自分と重ねていることが大きいと思われる。

    町田さんの作品のキャラの、本当はこうしたいのに、いろんな柵みや気遣い、傷付きたくない思いで行動出来ずにいたのが、やがて、出来るようになる。そこには、人の心の痛みを自分のことのように感じているから。それを見て、ああ、私も本当は、そのような行動をしたかったんだよなあ、でも、出来なかったことへの悔しさや情けなさのような。
    そんな真っ当な生き方をしている、堂々とした姿に涙するのかもしれない。

    特に出色だったのは、三話の「梓」と「那由多」の女子校生の話で、この年代特有の、視野の狭い仲間意識の格差社会に負けずに、自分の気持ちと素直に向き合って、勇気ある行動を取った梓には、本当に感情移入しました。しかも、巧いことに、二話の伏線があったので、感動は尚更で。行動をした後は、怖くて辛かっただろうけど、それに答えるような結末がまた良かった。

    他にも、好きなことを追い続ける素晴らしさを教えてくれた「良郎」と「ツギ」や、独りぼっちの男の子との交流から新たな気付きを促してくれた、「大塚多喜二」と「純子」の年配夫婦のエピソードまで、年代も幅広く網羅されていて、尚且つ、納得させられる物語の構成は素晴らしい。

    それから、単純にコンビニを舞台にした設定に臨場感があり、コーヒーやスイーツ、イートインスペース等、お客様のことを考える地域密着型のお仕事小説としても楽しめます。

    名物キャラも多数登場するし、やはり、町田さんの作品の中では、一番気軽に読める作品だと思います。もちろん、主人公の「みっちゃん」も、いい味出してるし、兄弟の謎もまだ残ってるから、続編もあるかもしれない。

    ただ、みっちゃんの設定は、あまりにロマンがあり過ぎるというか、異世界感というか。これも、一つの夢だよね。ただ、この設定を町田さんがしたのかと思うと、何だか奇妙な面白さもあります。

  • 面白かったです。

    こうした作品に救われることもありますね。

  • 読んでいると気づかないうちにこっちまで店長の魅力に持っていかれそうになった!それくらい魅力が自然に描かれていて、キラキライケメンの美しいお顔まで想像しながら読めた。各物語で登場する人物たちも年代性別バラバラで色々な立場から物語が味わえた。なんといってもどの物語にもコンビニがそっと寄り添っているから、ちょっと切なかったりほっとするような気持ちの物語を身近に感じて味わうことができた。

  • 明日への希望を持てるような...そんなコンビニストーリーでした!
    コンビニってもっと無機質な場所だと思っていました。でもテンダネス門司港こがね村店のように地域に寄り添った、お客様のことをしっかり考えてくれるような、そんなコンビニって素敵だなと思いました。

    今まで何とも思わない、ただ物品を買うだけだったコンビニですが、もっとコンビニを味わって利用したくなりました。

  • ホロっとくるお話もあったけど、全体には好みじゃなかった。残念!

  • なんかよくわからないけど、勢いがあって面白かったー。
    色々とツッコミ所満載だけど、夢があって面白かったなぁ。
    どのお話も読み応えがあって、気持ちがほっこりする。
    シリーズ化して欲しいな。

  • フェロモン店長!凄い!会ってみたくなる!
    でも、このコンビニに集まる人たちはみんな良い感じで、会ってみたいというよりここで暮らしたくなるというほうが正しいかも。

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著者プロフィール

町田そのこ

1980年生まれ。福岡県在住。「カルメーンの青い魚」で、第十五回「女による女のためのR-18文学賞」大賞を受賞。2017年に同作を含む『夜空に泳ぐチョコレートグラミー』でデビュ。他に『ぎょらん』(新潮社)、『うつくしが丘の不幸の家』(東京創元社)がある。

「2020年 『52ヘルツのクジラたち』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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