春の嵐 (新潮文庫)

  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784102001011

感想・レビュー・書評

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  • 不慮の事故で片足が不自由になってしまったクーンという男の話。不運を嘆きながらも、作曲の喜びに目覚め、人生を必死に切り拓いていこうとするクーン。また、彼と親友との間に現れた女性を巡っての複雑な人間関係も描かれている。“最も不幸なことを捨ててしまうことは楽しかったことを捨てることよりもつらい。避けがたい運命を甘受し、よいことも悪いことも味わいつくし、内的な本来の運命を獲得することが人間生活の肝要である”と冒頭で主人公は振り返っている。その言葉がとても重みをもつ、重厚な作品であった。

  • 春の美しい描写、切ない心を表す文体に惹かれました。
    愛は切なく苦しいものだと、改めて思わされました。

  • 結婚した人と、老いるときまでそばにいる人が必ずしも同じではない類の物語の結末。
    クーンが自らの青春との別れを悟ったシーンが印象的だった。

  • ヘッセと言えば「車輪の下」をおすすめ本として登場する。
    数冊しか読んでいない彼の作品中では、この本が最も素晴らしさを感じる。
    高橋健二訳!この方の訳しかないのではと。

    原題「ゲルムート」が一番しっくりくると思う。
    もっとも人生を四季でなぞらえると当作の思惟の乱流ぶりは真に「春の嵐」
    日本語が素晴らしいだけに、原文独語で読めたらと思うけど。

    様々な世代、性のレヴュ―を読むのは面白い。
    一本の道しか歩かなかった人、歩けなかった人、また、あえて歩くことを拒否った人、人は実に多様であり、「クーン」の在り様を俯瞰すること自体踏み石的に認識できるのもひそかに面白い

    音楽というある種独特の世界で繰り広げられた空間、そこにしか住めない人種が要れば、そこに安念を持つ人が多いのはよく見聞きするだけにムラトという生き物の薄さ、痛さもよく描かれているのが趣深い。

    クーンの父が亡きあと、母親の処遇を巡り従妹が絡んできて・・の下りはサイドストーリーとしていい味。老嬢の話し方、表情まで浮かび、日本にもあるあるの一コマだった。

  • 少年時代の淡い恋が、暴走した橇と共に過ぎ去ったとき、不具になったクーンは音楽に志した。魂の叫びを綴った彼の歌曲は、オペラの名歌手ムオトの眼にとまり、二人の間に不思議な友情が生まれる。やがて彼らの前に出現した永遠の女性ゲルトルートをムオトに奪われるが、彼は静かに諦観する境地に達する・・・。

    あとがきで、訳者が筆者のヘッセと出会ったときの様子が描かれており、個人的には本編よりもこちらの文章の方がが印象が強い。ヘッセの、温かな人柄に触れた訳者の感動が綴られている。

  • 1/13再読完了✅
    以前読んだときより楽しく読めました!

  • ■評価
    ★★★★✬

    ■感想
    いい! めちゃくちゃいい! ここ半年で読んだ小説の中では、ダントツで良い。 読み終わって冒頭の『自分の一生を外部から回顧してみると、特に幸福には見えない。しかし、迷いは多かったけど、不幸だったとは、なおさらいえない。』 が、めちゃくちゃ沁みる。 何度も再読したい作品だし、人に薦めたい作品。 文庫本の背表紙の要約が1文字も過不足なく、ネタバレ含むあらすじを網羅するのもすごいなーとも思った(´∀`=)

  • 何十年ぶりかで再読。実らぬ恋のものがたり、との記憶はとても浅いものだった。
    「自分の人生を幸か不幸かと問うのは愚かなことで、「私」には不幸な記憶こそ捨てられない」と言う趣旨の巻頭言に共感するのは老年になったからか。
    消えぬ恋情と戦いながら、不幸な結婚に心身を病む女性を節度を保ちながら労る「私」。敬愛する友人に傷つけられ、敵意を抱きながらも、憧れや敬意も蘇ってくる。その才ある友人も奔放な自身の性格に振り回されている。これらが寄せては返す波のように繰り返される。これが人生なんだよ、とばかり。
    アリアだけのオペラが無いように、緩徐楽章だけのシンフォニーはないように、幸も不幸も全て必要なことだったのだ、と我が半生を振り返る。静かに。

  •  数あるヘッセの著作の中で『知と愛』に続く、かなり上位の作品となった。
     主要なテーマの一つとして、「青春と老い」があったと認識しているが、かつての青春の暗さもやがては心の内に定まるところを見つけ、私は今のところ否定的な言い方しか出来ないのだが、つまり人間は青春に限らず全ての過去を美化することしか出来なくなってしまうのか、という結末だった。その点で青春のうちに、愉しいうちに死ぬことを選んだムオトは私にとって最も美しく真実味を帯びている人物だったのかもしれない。しかし、私がもう少し年齢を重ねて再読した時は、この本は私にとって過去を掬いあげてくれる、綺麗にまとめられたものとなるのだろう。
     私は主人公・クーンと感情の波や自分についての考え方(劣等感への遇し方など)が似ていると感じることがあったので、久しぶりに登場人物と自分を重ね合わせて、読後心が洗われたと思うような一冊だった。
     美や音楽が作品の通奏低音となっていた。私には登場人物が音楽をやっているということ自体が興味深く感じられた。かなりてんこ盛りな作品と言えるのだろう。

  • 一瞬の熱病のような恋がもたらした不幸な事故、そして不自由な身体を抱えるようになって出会った情熱的な友人と理想の女性。確かに惹かれながら、彼女を幸せにできるのは自分ではないという思い。何とか運命を受け入れようとする生き方。静かに燃えるような心を持ちながら、外面的には達観と諦念の人間にみえるクーンに食ってかかるムオトが印象的だった。ここにハッピーエンドはないけれど、青年期の悲喜入り混じった思いが吹き荒れて濁りがない。

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著者プロフィール

ドイツ生まれのスイスの作家。主に詩と小説によって知られる20世紀前半のドイツ文学を代表する文学者。南ドイツの風物のなかで、穏やかな人間の生き方を描いた作品が多い。また、風景や蝶々などの水彩画もよくしたため、自身の絵を添えた詩文集も刊行している。1946年に『ガラス玉演戯』などの作品が評価され、ノーベル文学賞を受賞した。

「2022年 『無伴奏男声合唱組曲 蒼穹の星』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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