谷間の百合 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (580ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784102005019

感想・レビュー・書評

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  •  ナタリーというこの作品では登場しない人間喜劇の人物に向けてフェリックスという男性が自分の半生を綴る物語。
     前3分の2のフェリックスが恋した人妻アンリエットとの仲良くなる過程は冗長に感じられたものの風景描写や感情の揺れ動きが丁寧に描かれ綺麗でそれを楽しむ作家かと勘違いしていた。後ろ3分の1になってようやく主人公のクズさが分かり恋敵のダドレー夫人が登場し物語が動いた時になって、この作者の会話の巧妙さを知った。ダドレー夫人との一件以降はアンリエットに対して言い訳ばかりする主人公がおり、そのことや後に続く死に対してのことを見るに、結局この主人公は寄宿舎時代やアンリエットに不意にキスしたときから根本的には何も変わっておらずマドレーヌやナタリーが言うように自分のことばかりで成長していなかったということが最後には分かった。アンリエットとの約束もついには守られなかったし。最後まで快く思っていなかったモルソフと最終的には主人公が同じ構造だと分かったところも面白かった。
     アンリエットの死の描写は言い方はあれだがとても繊細で衝撃を受けた。思うにこれはフェリックスの物語ではなくアンリエットの物語だった。ただ前3分の2が本当に長く何度も挫折しそうになった。読むのに十ヶ月ほど用し再び読み返そうとはもう思わない。最後の最後まで読むまでは星3だと思っていたが、意味は理解できたので四捨五入したら4になるくらいの点数だと思う。

  • 子供時代の不遇を何とかやり過ごし、フランスの片田舎に赴く。子供連れの既婚の夫人は、主人に理解されない谷間の百合のように思えたのだが、やがて都会に帰り、今度はコンプレックスにやられて、はねつけられる存在に苦しむ。愛情と同情の変化は、コントロール不能なのか…?

  • 主人公フェリックスは人妻モルソフ夫人に恋をしてしまう。ただ、相手は夫にも家庭にも何も不満を持っていない素晴らしい女性。いくらフェリックスが愛の言葉を伝えようとも、常に年上の人妻女性として彼と対応し、彼の母親であるかのように接してくる。というかフェリックスに恋しないように自分に言い聞かせているようである。

    フェリックスの一途な恋はすごいが、それを毎回ひらりとかわさなければならない夫人の苦労を考えると、ただ自分の本能に従って人妻に言い寄るフェリックスにイライラさえしてくる。

    最後の夫人の手紙が非常に良い。正直、読者なら気づいていたであろう夫人の本当の気持ちが美しい文体で表現されている。

  • アンリエットからフェリックスに宛てた最後の手紙、これを読むまでは、なぜアンリエットが悲しみのために死ななければならないのか、理解できなかった。自らプラトニックで肉親的な愛を求めておきながら、フェリックスの恋愛にショックを受けるいわれがないように思えたから。
    しかし死後に読んでくれと手渡した手紙により、アンリエットの心理も理解できた。
    原文を読めないのでなんとも言えないが、非常に緻密で練られた文章であることが、優れた翻訳からも伝わってくる。
    (2016.3)

  • やはり物語というものは悲劇であるべき。ハッピーエンドには美しさがない。個人的にはゴリオ爺さんの方が好み。

  • 高校の頃、一度読みました。
    最近は外国文学はあまり読まないのですが、急に思い立って購入。
    折り重なる言葉のひだの多さに圧倒される。
    最近読んでいた本とのあまりの違いに、同じ文章でこんなにも違うものかと。
    登場人物の手紙の長いことと言ったら・・・作者はフランス革命時代の人ですが、その時代には、教養ある人々は、こんな長い手紙を書いていたんでしょうか?
    人物の、揺れる心理描写もすごい。
    でも、これ、覚えある。
    日本文学にもある。
    それは源氏物語。
    特に、宇治十帖と・・・
    自分でも認めたくない嫉妬で弱って死んでいく紫の上、かな。
    男女の機微に洋の東西はないのかもしれない。

  • 純真な青年が貞淑な伯爵夫人に魅了され近づくが……。恋愛感情の機微と葛藤を描いた『人間喜劇』に連なる傑作。

    うーむ、これはツラい。伯爵夫人の捧げ尽くす愛は美しいが、非常にもどかしくもある。男性側としては、主人公を責められないのだが。二十歳そこそこの男子の性的衝動を軽く考えられてもな〜。後に明かされる夫人の本心を考えると、アンリエットとしての身勝手さ、モルソフ伯爵夫人としての貞淑さで二つに割れている彼女の心も悲劇の要因なわけで。マドレーヌさん、カンベンしてくださいよ……。
    しかし、ケチョンケチョンにこき下ろすナタリーの返事は、感傷に対する客観として、いっぱしの紳士となっているはずのフェリックスにはいい薬かも。男女の視点の違いが浮き彫りになる指摘など、皮肉的なラストではあるがどこかコミカルにもみえる。

  • 美しい翻訳は、充分たのしめる。
    内容は究極のマゾヒスト同士のストイックな恋愛に
    サディストガ乱入し、常人が退却宣言をするという物語。
    それぞれの心の逡巡がこれでもかと語られ、手紙に綴られ、ある意味自己主張のぶつけ合い試合の様相。
    こんなにくねくねものを考えられるのかと感心してしまった。
    古今の名作は、膨大な言葉を作家が使い倒して産まれると言うわけだ。
    言葉好きには欲求に答えてくれる。
    読み応えとはこのことと感じられる。
    バルザック、初めて読んだけれど
    まさにフランス人。
    昔の翻訳もなかなか。

  • カテゴリ:図書館企画展示
    2020年度第3回図書館企画展示
    「大学生に読んでほしい本」 第2弾!

     本学教員から本学学生の皆さんに「ぜひ学生時代に読んでほしい!」という図書の推薦に係る展示です。
     川津誠教授(日本語日本文学科)からのおすすめ図書を展示しています。
     展示中の図書は借りることができますので、どうぞお早めにご来館ください。

  • ドストルストイの御二大作品は
    キリスト教及び欧州歴史が成す知識を前提としているかんじで
    現在日本でのほほんとしている身には
    板書している言語はしれても
    その説明するところが皆目見当つかない心地だが
    同じ人間喜劇でもこちらは修辞が比較わかりやすい気がする
    訳者の手腕が並外れているだけかもしれないけれども
    日本語ででも音読したくなるような素敵な文

    恋愛とその周囲の夫婦や家族や宗教を題材にして
    人間とその関係を描いている作品は
    「教養」や「青春」というような「小説」の分類は
    小説(登場人物と筋書きの結構)だけが
    文による表現ではないことを思い出させてくれる
    詩歌による表現はおそらく「知識という前提」がないのでわかりづらいのであり
    ならば多彩な修辞であればわかりやすいのでもないのだ
    彫り削ぎ落として本質を得ることもまた表現の手段であるなら
    そのとき足元に散らばる削り屑も見えていないのでなくそこにあるのだ

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著者プロフィール

オノレ・ド・バルザック
1799-1850年。フランスの小説家。『幻滅』、『ゴリオ爺さん』、『谷間の百合』ほか91篇から成る「人間喜劇」を執筆。ジャーナリストとしても活動した。

「2014年 『ジャーナリストの生理学』 で使われていた紹介文から引用しています。」

バルザックの作品

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